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うそ

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うそ

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「なんだか、変身できそうな気がする……」
「なんだぁ、それはぁ。それにしてもぉ、外が騒がしいねぇ」
 突然つぶやいたフリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)に、ゴルゴルマイアル 雪霞(ごるごるまいある・ゆきか)が突っ込んだ。
 枝から外に出たとたん、なんだか生暖かいピンクの光につつまれた気がする。
「うそですがなにか」
「うわ、なんだ、この馬鹿でかい鳥は!?」
 突然目の前に現れた等身大の鷽を見て、フリードリッヒ・常磐が叫んだ。
「生物部としては、これはぜひお友達にならないといけないな。そうだろ、雪霞。雪霞? なんだい、その姿は、コスプレか!?」
 パートナーに同意を求めようとしたフリードリッヒ・常磐は、ゴルゴルマイアル 雪霞(ごるごるまいある・ゆきか)の姿を見て、あんぐりと口を開けた。身体が、ポンポン蒸気船型になってしまっている。ちょうど、お腹のあたりに煙突だ。そして、甲板に穴を開けたかのように、少女の顔がぽっかりと出ていた。さらに、左右には、複葉機の翼がにょっきりと突き出ている。
「なんで、お腹に煙突があるんだ?」
「反対だったら、顔が水面下になって窒息しちゃうだろぉ」
 それは嫌だと、ゴルゴルマイアル雪霞が答えた。
「よし、僕も変身できるかもしれない。見ていてくれたまえ、お友達の鳥君。いくぞ、うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 フリードリッヒ・常磐が、気合を込めた。
「うそですがなにか?」
 鷽が、興味深そうにフリードリッヒ・常磐を見つめた。
 金色のパワーオーラが、フリードリッヒ・常磐の全身をつつみ込む。全身の毛が輝いて逆立ち、瞳が宝石のように青く透き通っていった。
「うおぉぉぉぉぉ。なんだ、俺の全身を駆け巡るこのパワーは」
「ええと、出力過多みたいだねぇ」
 ちょっと困ったように、ゴルゴルマイアル雪霞が言って後ろに下がった。
「いや、謎の巨大鳥とつきあうには、これぐらいのパワーが必要。なあ、そうだろうが」
 フリードリッヒ・常磐は、ずいと鷽に詰め寄った。さすがに、鷽がバタバタと羽ばたいて後退る。
「む、男を前に逃げるとは何事だ。仲良く、拳で語り合おうではないか!」
 有無をも言わせず、フリードリッヒ・常磐は今日はパンチを鷽にむかって突き出した。だが、鳥である鷽は拳など持っていない。ひらりと、鷽がパンチを躱した。
「俺の挨拶を無視するとは、許せん! こい、雪霞!」
「ええっ、嫌だよぉ」
 後ろに隠れていたゴルゴルマイアル雪霞が拒否した。
「いいからこい」
 有無をも言わせずゴルゴルマイアル雪霞を引き倒すと、まるでサーフボードか何かのように、フリードリッヒ・常磐はその上に飛び乗った。
「むぎゅう」
 顔を踏んづけられて、ゴルゴルマイアル雪霞が悲鳴をあげる。
「ケットシーの髭セット!」
 フリードリッヒ・常磐が、ケットシーの髭をゴルゴルマイアル雪霞の顔に突き刺した。
「いたぁい」
 血が滲んでいる気がする。
「うそですがなにか……」
 危険を感じた鷽が、すすすすーっと平行移動しながら、残像を残して牽制する。
「燦めけ、ときわぎのらでんちけむりじゅうもんじつるぎ!」
 フリードリッヒ・常磐が、どこからか輝く剣を取り出した。
「必殺、めいふのトワイライトレクイエムイリュージョン!!」
 そう叫ぶなり、トンとゴルゴルマイアル雪霞の身体を蹴って発進させる。
 弾かれるようにして、二人が飛び出した。
 ケットシーの髭が長くのびて、鞭のように立ち塞がる鷽の幻影を薙ぎ払った。
 そのまま一気に進んで鷽に激突する。なんのことはない、ただの体当たり技だ。
「う、うそです……がくっ」
 そのまま壁に激突し、押し潰された鷽がボンと煙をあげて消滅した。
「うおおお、身体の節々が痛い」
「痛いのぉー」
 一気に反動が来た二人は、元の姿に戻って、そのまま枝の上で転げ回った。
 
    ★    ★    ★
 
「さあ、私たち魔法少女隊敏感ういっちーずが鷽を捕まえるのよ。みんな、いっくよ〜!」(V)
 一匹の鷽を追い詰めた久世 沙幸(くぜ・さゆき)が叫んだ。
「うん、分かりましたです。ショータイムの幕開けですー」(V)
 一緒に鷽を追ってきた桐生 ひな(きりゅう・ひな)がうなずく。
「沙幸さん、変身よ」
「変身じゃのう」
 なぜか、ゆる族なみに怪しい謎生物の着ぐるみを着た藍玉 美海(あいだま・みうみ)ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が、すかさず後ろから二人の胸をわしづかみにした。
「ひゃう」(V)
 最近敏感な久世沙幸が、思わず声をあげた。たっゆ〜んな胸が、さらにワンサイズ大きくなる。
「チャージ完了。変身!」
 久世沙幸が、ハーフムーンロッドを振り回した。くるくると、クレセントムーン型の光がロッドから飛び出し、二人の周りをとりまいた。並んだ二人がハーフムーン型の光につつまれ、それが二つ合わさってフルムーンになる。光の中で、二人の着ていた服が色とりどりの水玉になって弾け飛んだ。
「おおっ」
 藍玉美海とナリュキ・オジョカンが目を凝らしたが、どこからともなく現れたリボンが、0.03秒で二人の全裸を覆い隠してしまった。
「動体視力を養うんだった……」
 御褒美をもらえなかった着ぐるみの二人が、がっくりと床に両手をつく。
 その間にも、変身中の二人をつつんだリボンが、ポンと弾けてマイクロミニスカートと、フリルのついたノースリーブのドレスに変化していく。踊るように二人が身体を動かす度に、ブーツや腕カバーやポシェットなどが現れる。最後に、マニキュアに彩られた指先で唇をなでると、鮮やかなルージュが二人を魔法少女に変えた。
「敏感ういっちーず、きちゃったわよん」
「悪い子は、仲良く潰してあげますねー」(V)
 白いコスチュームの久世沙幸と黒いコスチュームの桐生ひながポーズをとる。
「さあ、鷽さん。私たちと一緒に、蒼空学園に参りましょう」
 じりじりと近づきながら、久世沙幸が言った。
「うそにゅー」
 だが、鷽はイヤイヤをして逃げようとする。
「逃がしはしません」
 桐生ひなが、光条兵器である光る分銅を振り回した。
「ううっ、うそにゅー」
 必死に、鷽が逃げ回った。
「観念しなさい。背中ががら空きだよ」(V)
 久世沙幸が、ハーフムーンロッドから、星を噴き出させて攻撃する。手裏剣のように、星が床にカカカッと突き刺さった。さらに、分銅があたるを幸いに周囲を破壊していく。
「だめだわ、私たちの力だけじゃ鷽に勝てない……」
 ぜいぜいと肩で息をしながら、久世沙幸が言った。思ったよりも、鷽の動きが素早くて、ことごとく攻撃を躱していく。
「私がいるわよぉ〜!!」
 突然、誰かの声が響き渡った。逆光の中に誰かが立っている。
「とおぉぉん!」
 クルリと、一回転して、望月 あかり(もちづき・あかり)が、久世沙幸たちの前に現れた。
「私が三人目よ。手伝ってあげるから、後で力を貸して」
「どういうこと?」
 予想外の展開に、桐生ひなが戸惑う。
「エリザベート校長の命によって、蒼空学園に迷惑をかけたアーデルハイトにお仕置きをするのよぉ。協力してくれるのなら、力を貸しますよぉ」
「乗った!」
 久世沙幸がアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)にぺったんこにされた恨みを思い出して、藍玉美海が叫んだ。
「分かりましたあ。エリザベート様、自分にお力を〜」
 望月あかりが、なぜかミカンを高く掲げて叫んだ。ぷしゅーっと、ミカンが潰れて、輝く果汁がドーム状に飛び散って望月あかりをつつんだ。爽やかな香りの中で、望月あかりを何枚もの半透明の布がつつんでいく。
「やっぱり見えない……」
 着ぐるみの二人が、またもがっくりと両手をついた。
「魔法少女、ライジング!」
 オレンジ色の千早を翻して、巫女のような姿の望月あかりが叫んだ。手には、謎のスコップが握られている。
「鷽はどこ?」
 廃墟となりつつある周囲を、魔法少女たちは見回した。
「うそですよー」
 なんだか肥大化したような鷽が、バタバタと物陰から物陰へ走っていく。
「いたぁ! グランドフォール!!」
 すかさず、望月あかりが床にスコップを突き立てた。
 ぽっこりと、鷽の前に落とし穴が口を開ける。
「う、うそぉー」
 落ちはしなかったものの、鷽が足をとられてずってんと転んだ。
「いたあーい」
 鷽の着ぐるみを着てみんなを混乱させていた銀枝 深雪(ぎんえだ・みゆき)が、思わず悲鳴をあげた。
「偽物ですって!?」
 望月あかりが唖然とする。
「あーあ、ばれちゃった。しょうがないわねえ」
 アンゼリカ・シルヴァン(あんぜりか・しるう゛ぁん)が、隠れていた物陰で溜め息をついた。
「それは、本当の鷽ですよー」
 手に持っていたマイクにむかって、アンゼリカ・シルヴァンが叫んだ。
「えっ、でも、これは着ぐるみ……」
 どこをどう見ても偽物だと、桐生ひなが言った。
「本物です」
「でも」
「本物です!!」
「うん、本物だわ。捕まえなきゃ」
 繰り返し力説するアンゼリカ・シルヴァンの嘘が、鷽時空で力を発する。
「待てー、鷽ー」
「ひーん」
 魔法少女たちに容赦なく追いたてられて、銀枝深雪が泣きながら逃げ回った。
「頑張るのよ。本物の鷽を確保するために、あなたが犠牲になるのよ。さて、本物はどこに……」
 なむなむと、アンゼリカ・シルヴァンが口先だけ銀枝深雪を応援する。
「ああ、鷽が二匹に……」
 久世沙幸が叫んだ。いつの間にか、逃げ回る銀枝深雪の隣を、本物の鷽が併走している。
「ああ、それじゃ意味がないじゃない!」
 アンゼリカ・シルヴァンが頭をかかえた。
「そんなこと言ったってぇ」
 ひーんと、銀枝深雪が泣きながら叫ぶ。
「いったいどうしたら捕まえられるの?」
 困ったように、久世沙幸がつぶやく。
「決まっていますわ。後ろからだきすくめて、こうわきわきと……」
 藍玉美海の言葉に、ナリュキ・オジョカンがうんうんとうなずく。
「こうなったら、自分の力を使ってぇ〜」
「分かったですー」
 望月あかりの言葉に、桐生ひながうなずいた。輝く分銅を振り回すと、望月あかりの身体に巻きつける。
「えっ!?」
「一撃でづばーんと粉砕してあげるのですよー。いっけえです!」(V)
 桐生ひなが、思いっきり光条兵器を振り回した。
「あわわわわわわ」
 巨大な重り代わりに振り回された望月あかりが、逃げ回る二匹の鷽めがけて飛んでいく。
「うきゃあ」
「むぎゅう」
「うそにゅにゅ〜!」
 ごったになった望月あかりと銀枝深雪に押し潰されて、鷽が消滅した。
「きゃあ」
「きゃっ♪」
 鷽時空が突然消滅したことによって、あっけなく久世沙幸たちの変身が解けた。コスチュームがあっけなく消滅して、すっぽんぽんになる。
 当然、片方は久世沙幸たち二人(一人気絶中)の悲鳴で、もう片方は藍玉美海たち二人の歓喜の声であった。