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リアクション
第3章 古代戦艦修復計画・後編
一方、こちらは艦橋(ブリッジ)である。
各種通信装置と艦内の制御系が並んでおり、正面には大きなモニターが設置してある。
通信士席に腰を下ろし休憩を取るユーフォリアは、何気なく甲板の方を眺めた。
遥たちが旗を作ってるさらに奥のほう、舳先の辺りで作業している人影が見えた。なんでか知らないが、やけに襟の高いマントとサンマ傷シールと眼帯を装着し、その人物は宇宙海賊的なものを気取ってる。
妙に着こなしているとこるから察するに、ララ サーズデイのようだ。
「ラムアタックは海戦の美学。突撃! そして白兵戦! う〜ん、燃えるな」
そんな風に独り呟きながら、彼女は船首を鉄板で補強している。
「皆さん、頑張っておられるようですわね……」
「……ああ、わかるぜ。仲間っていいもんだよな」
不意に声をかけられ、彼女は振り返った。
「あんたがユーフォリア……だろ? うん、かわいいじゃん」
そう言って、鈴木 周(すずき・しゅう)は口笛を吹いた。水素よりも軽そうなノリである。
「よし、今すぐ俺とデートしよう! 俺は美人をすべからく愛してる! ……って、そうじゃねぇよ!」
「あの……、どなたか存じ上げませんが、お医者さんを及びしましょうか?」
頭を掻きむしる周を心配して、ユーフォリアが声をかけた。
「大丈夫、医者の手には負えないから」
そう言うと、彼はユーフォリアの手を握った。
「実はお願いがあってここに来たんだ。俺、ヨサークのおっさんをいい奴だと思っててさ。信じてるんだけど、何故か馬鹿なことやってて……、だから、止めたいんだ。そのために協力させてくれよ」
それを聞いて、ユーフォリアはその手を握り返した。
「よろしくお願いしますね。あなたの勇気に感謝を……」
「へへへっ……」
美人に褒められると嬉しい。鼻の下をこすりながら、鼻の下を伸ばしていると、何か邪な想いが込み上げてきた。
「(……それにしてもフリューネと言いユーフォリアと言い、良い乳してるよなー)」
もし、もみもみする事が出来たら幸せになれるかもしれない。
そんな好奇心に突き動かされ、勝手に手が動き出してしまった。
「い、いや……、ダメだ!」
すんでのところで理性が勝った。
気が付けば、ユーフォリアがそっと手に触れているのに気が付いた。周の指先に触れている。
「あ、いや、その……、じょ、冗談だよ!」
「……冗談だったのですね。ああ、驚いてしまいました。わたくしの胸に手が伸びたものですから」
笑って誤摩化しながら手を引っ込める、しかし、内心穏やかではない。
「(なんか、俺の爪を剥がそうしてなかったかな……、気のせいだよな……)
ゴホンと咳払いし、ひとつ気になっている事を訊いてみた。
「……白虎牙だっけ、あれ、やっぱり大切なんだよな? 返って来たら嬉しいか? 喜んで笑ってくれたりしちゃうか?」
「ええ、アムリアナ陛下から授かったものですから、わたくしにとっては宝物です」
「そうか……」と言うと、頷きながら、周は外に出ていった。
入れ替わるように、今度はユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)が入ってきた。
「あの……、さっきの人、何かあったんですか?」
「どうかしたのですか?」
「なんだかすごく気合いが入った様子で走ってましたけど……」
「殿方にはそんな気分になる時もあるのですよ、きっと」
ユリは納得したようなしてないような、妙な顔で空いている席に座った。リリやララに付いて来たものの、なんの技術も持ってないので暇なのである。こんなところでも役立たずだと、ちょっと悲しくなってくる。
暇つぶしに、ユリは『十二星華プロファイル』を読み始めた。
「まあ、セイニィさんってプリーストだったのですか……」
驚愕の表情で思わずユリは呟いた。
「ヒールも出来ないプリーストが居るなんて……。帰ったら特訓なのです」
……えーっと、色々あって今ではモンクです。なんか使えない技とかあるけど。
「……あ、ユーフォリアさんに聞きたい事があったのです」
「わたくしに答えられる事なら、なんでもお答えしますよ」
外を眺めていたユーフォリアは、ユリにニッコリ笑いかけた。
「ユーフォリアさんは白虎牙を使えるのですよね。五獣の女王器は十二星華しか使えないのかと思っていたのです。白虎牙を使用する条件ってなんなのでしょう。例えば、ワタシでも白虎牙を使えるのでしょうか?」
「『五獣の女王器』を使える条件は、女王の血を引いているという事ですわ」
「ああ、そうなのですか。では、ワタシは使えないのですね、残念です」
悲しそうに言うと、またユリはプロファイルを読み始めた。
何か今、とてつもなく重要な事を言われたのだが、残念ながら彼女はそれに気付く事はなかった。
そして、この重要な事実が、明日、ユーフォリアの身に危険を及ぼす事になる。
◇◇◇
そして、最期にご紹介するのは格納子である。
ここで作業しているのは白砂 司(しらすな・つかさ)と、パートナーのサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)だ。
後部甲板から出入りしやすいように、船室の一部を広げて部屋を作っている。完成すればここは『ペガサス・ドック』になる予定だ。ペガサス用の馬小屋と予備の『ハルバード』置場を併設した、フリューネ専用の補給施設である。
「これぐらい広さを確保すれば問題ないな。サクラコ、資材の搬入を」
設計図を手にした司は、ちらりと相棒を一瞥し、作業を促す。
生まれたての子鹿のように足をガクガクさせながら、サクラコは数十本のハルバードを床に下ろした。
「女の子に……、それも年上にやらせるってどんな男ですか。恥を知りなさい恥を……!」
司が設計担当、サクラコが実働担当なのである。
「すまないが、俺は男女差別をするような人間ではない」
「……むぅ。フリューネにばっかり優しくしてないで、貧乳はステータスだと認めなさい」
「お……、俺がいつフリューネに優しくした?」
鉄仮面の司だが、わずかに動揺を露にした。
「こんな部屋作ってるのに、優しくないわけないじゃないですか。なんですか、司くんは。男女差別はしないけど、胸になんかよくわからないおおきな物の付いている人と、私を差別するのですか」
司はズリ落ちた眼鏡を押し上げ、言い聞かせるように話し始める。
「……フリューネは機動力はペガサスに、その攻撃力は武器に頼っているだろう」
そう言いながら、設計図をぱんぱんと叩いた。
「劣勢のときはそれらが損傷を受ける可能性があり、一旦崩れると立て続けにダメージを受ける可能性がある。傷付いたペガサスや予備のハルバードを、早急に格納し治療、交換するための基地が必要なんだ」
「……で、司くんは巨乳が好きなんですか。そこをはっきりして頂きたい」
司は重く口を閉ざし、「うぜーな、コイツ」と目で訴えかけた。
とそこに、茅野菫のパートナーの閻魔王の 閻魔帳(えんまおうの・えんまちょう)がやって来た。
彼女は主計係として資材の管理と作業の進捗状況をチェックしているのである。
「あら、閻魔帳さん、いらっしゃい。作業状況の報告時間ですね?」
「あ、はい……、そうです」
サクラコが報告を行っている間、閻魔帳はどこか上の空だった。
彼女は気付いてしまったのだ、この船の抱える恐るべき致命的な欠陥に。食料、水、武器弾薬など、艦内に関する全てを把握する彼女が、気付かないでいられるわけがなかったのだ。賢明なる読者諸兄もなんなら気付いていいはずである。
「顔色が悪いですけど、どうかしたんですか?」
「とんでもない事に気が付いてしまったのです……、菫さんの感じた違和感の正体がわかりました……」
そう言えば、初日にそんな事を言っていた。
「ああ、隠しておけるならどれだけ楽か……、みなさんに報告するのが気が重い……」
どんな些細な嘘も一切つくことができない、その性が今では酷く恨めしく感じられる。
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