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リアクション
「……うえ、マズ。やっぱ料理下手な俺が、いきなり上手い物作れる訳ないよなー」
自ら作製したジュースを口にした城定 英希(じょうじょう・えいき)が、しかめっ面をして中身を吐き出す。
「あら〜、とっても身体によさそうですね〜。これにもう一工夫加えれば、きっと美味しくなりますよ〜」
やって来たミリアが、英希の作ったジュースを口にしても平然と笑みを浮かべたまま、英希にアドバイスを行う。
(ほぅ……彼女の助言を取り入れれば、無難な料理に一工夫加えられるやも知れぬな。どれ、お手並み拝見といこう)
隣で準備をしていたジゼル・フォスター(じぜる・ふぉすたー)が見守る中、ジュースに改良が加えられていく。
【黄→柑橘類を適当に混ぜたジュース】
「オレンジとグレープフルーツをベースにして、香りをつけるようにレモンを少量垂らしてみましょう〜」
「……おっ、これは普通に美味い」
【白→レタス、ハナタケツケバナ、ユキノシタ等と牛乳を混ぜた】
「甘みをつけてみましょう〜。花の方は飾りとして使う方がいいかもしれませんね」
「……うん、大分飲めるようになったかも」
【水→素敵なラベンダーの香りのする何か】
「ラベンダー繋がりでシソにお酢を加えて、香りにラベンダーを加えましょう〜」
「……これ、酢が入ってるの? 全然感じないや」
【金→ゴボウとミント類……だけだと地味だったので金粉も混ぜた】
「ゴボウはしっかりとアク抜きをしてミキサーにかけて、ミントと金粉で彩りましょう〜」
「……下ごしらえって大切なんだね」
【緑→カエデ、アーモンド、チャービルにバジルで香りをつけました】
「身体に良いからって入れ過ぎはいけませんよ〜」
「……こんなちょっとでいいんだね」
【茶→大麦ジュース】
「柔らかくしたいのですが、時間がかかるのでこちらで用意しました〜」
「……い、いつの間に!?」
【赤→THE☆唐辛子】
「……このままでいきましょう〜」
「いいの!? それでいいの、先生!?」
そんなこんなで、無事に七色のジュースが完成したところで、ウィルネストが英希をからかいにやってくる。
「おまえは何作ってんだ……お、料理下手なおまえにしちゃ美味そうなもん出来てんじゃん」
「まあね、これくらいどうってことないさ」
「どうせミリアさんに手取り足取り教えてもらったんだろー? こんな美人に教えてもらえるなんて、羨ましいヤツだな、このっ!」
ウィルネストが英希を小突きながら、赤い液体の入ったコップを手に取る。
「俺は紅蓮の魔術師、そんな俺に似合うのは赤!!」
そんなことを呟きながら、ウィルネストが中の液体を一気に飲み干す。喉が鳴り、液体が食道から胃へ落ちていく――。
「俺がファイアーストームぅぅぅぅぅ!!」
直後、全身を真っ赤にしたウィルネストが訳の分からない言葉をのたまい、炎を吐く怪獣のように暴れ回る。
「あーもー!! とりあえず凍ってなさいよ!!」
いい加減付き合いきれなくなったカヤノの一撃で、見事な氷像が出来上がった。
「あら〜、ちょっと刺激が強すぎました〜」
「いや、いいんじゃないかな? 俺としては満足な出来だよ」
いつもヒドイ目に合わされているウィルネストに『一杯食わせた』英希は、満足気に頷いてジュースの量産に取り掛かる。
(…………どうやら、無難がよさそうだ)
その隣で一部始終を見ていたジゼルは、溜息をついて普段の無難な料理に取り掛かるのであった。
「すっきりしてて飲みやすいです。甘い物を食べた後なのでぴったりです」
英希の背後で、紫色っぽい液体を口にした少女が頷いて、次の人のところへ向かっていく。
「ミレイユ殿、ルナちゃんまともな食べ物が欲しいであります。ウィル殿が作るモノは、全部食べ物には思えない匂いがするであります。豆撒きの時の納豆は酷かったであります」
「ミーツェさんは……食べれる物なら何でも食べるですー」
(う〜ん、楽しみにしててくれるのは嬉しいけど……ちょっとだけ大人しくしてくれた方が助かるかも……)
土鍋に研いだ米、アーデルハイトから譲り受けたキノコを煮詰めて作った煮汁を入れ、アク抜きをした筍を入れてフタをし、火にかけたミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が、無邪気に料理の出来を待つルナール・フラーム(るなーる・ふらーむ)とミーツェ・ヴァイトリング(みーつぇ・う゛ぁいとりんぐ)の扱いに少々手を焼いていた。二人とも積極的に手伝いをしようとしてくれるのだが、ルナールはせっかく研いだ米を尻尾でたたき落としてしまったり、ミーツェはミーツェでアク抜きのために用意した塩水の中に胡椒やら唐辛子やらを無造作に投下しようとしたりで、余計な手間が増えるばかりであった。
「あっ、アーデルハイト様、キノコどうもありがとうございました」
「よいよい。ところで、煮汁を取ったキノコはどこにやったのじゃ?」
「えっ? それでしたらここにありますけど……」
通りかかったアーデルハイトにキノコの礼を述べたミレイユは、アーデルハイトにキノコの絞り滓の所在を聞かれて首を傾げながら答える。
「これは、食材としては価値はないんじゃが、私には使い道があるでの。もらっても構わんかの?」
「はい、いいですけど……」
嬉々としてキノコを回収していくアーデルハイトが、去り際にミレイユへ振り向いて告げる。
「このキノコから取った煮汁はの、素晴らしく味の凝縮された代物じゃ。余計な調味料など加えるでないぞ」
「は、はい……」
ウィンクを残して立ち去っていくアーデルハイトに、ミレイユは、
(アーデルハイト様、おかしなキノコでも食べたのかな……?)
と思わずにはいられなかった。
「ミレイユ殿、鍋がカタカタ震えてるであります」
「あっ、いけない。ありがとうルナールさん」
鍋の様子を見ていたルナールに指摘されて、慌ててミレイユが火加減を調節する。ルナールが役に立ったのはこれが初めてであった。
「美味しくできたらいいね。みんなに美味しく食べてもらいたいもんね」
今頃場所取りをしてくれているであろう『レン兄』ことレン、その他ここに集まった仲良しの者たちの美味しそうに食べる顔を想像して、ミレイユが微笑む。
「大丈夫であります。とってもいい香りがするであります。ルナちゃんの鼻は確かなのであります」
「くんくん……ミーツェさんにはよく分からないですー」
「ミーツェ殿は何でも関係なく食べるから、嗅いでも意味ないのであります」
「そんなことないですー。食べれる物しか食べないですー」
二人のそんなやり取りを微笑ましく見守りながら、ミレイユは鍋が煮えるのを待つ。
「お鍋がまだだったからキノコ持って来ちゃったけど、食べて大丈夫なのかな……?」
ミレイユの背後で、キノコを手に少女が首を傾げながら、思案する――。
「よし、準備の方はこれで一段落だな。後は料理を待つだけだ。手伝ってもらって済まないな」
「いえ、どういたしまして♪ それじゃ私、お母さんのところに戻りますね」
レンに礼を言われて、微笑んだミーミルが羽ばたいてカフェテリアへと戻っていく。レンと、メンバーから『食べる』担当を言い渡されてしまったケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)が残されたその場所は、無数の枝葉が伸びるイルミンスールで、そこだけぽっかりと空間が空き、その中心には一本だけ、見事な花を咲かせる桜の樹がそびえ立っていた。
(この桜も、ここでイルミンスールの生徒たちを見守っているのかもしれないな……)
ふと、風が吹き抜け、二人をそして桜の枝を揺らす。春を迎えたとはいえ、まだ冷たさの残る風は身を引き締めさせるには十分であった。
「ん……?」
敷かれたビニールシートに置かれた手に温もりを感じてレンが振り向けば、そこにはほんのりと湯気を立てるお茶が置かれていた。隣に座るケイラも同じものを持っていることから全てを察したレンが、ありがとう、と短く呟いてそれを口にする。
二人が待つ中、果たして料理は無事に完成するだろうか――。
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