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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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 6.迷いの森・魔術師討伐隊

「迷いの森」の手前で、一行は思いがけない人物を味方につけた。
 レアルのパートナー、ガオである。
「パートナーをタスケたい。テをクまないか?」

 ガオの参入により、一行は彼の契約者――レアルの情報に期待した。
 レアルは町長に蝋人形化されたアイナ・クラリアスの後をつけていたがため、「町長の行動の一部始終を監視していた」と思われる人物だからである。
 だが詳細はやはり知らないとのこと。
 おまけにレアルは「スキル」を使って尾行していたのだ。
 だから――。
「『アイテム』や『スキル』を、モリでツカッてダメなら、ツカってハイればイイんジャないカ?」
 というのが、ガオが一行にもたらしたアドバイスだった。
「安全な森の道の作り方」については――。
「スマんガ、ミチはミチだ。ガ、オナじキョウグウのヤツが、シッてるかモナ」
 煩悩だらけのレアルは、道筋は忘れてしまったのだという。
 
「ということは、私の契約者に聞いてみた方がよいかもしれないな」
 シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)は、自身の契約者たるマッシュの顔を思い浮かべた。
「マッシュはアイナをたぶらかした諜報人だ」
 それに、と続ける。
「主たる私を、このような危険に晒す責任は重い」
 シャノンは蝋人形化による疲れも見せず、淡々と作業に入ろうとする。
 本気らしい。
 赤羽 美央(あかばね・みお)は目を丸くして、彼女に目を向けた。
「正直、あなたが私達に、ここまで協力してくれるとは思ってもいなかったわ」
「利害が一致したまでのことだ。他意はない」
 裏切ることはないから、安心しろ、シャノンは言い放つ。
 確かに敵に回った彼女は怖いが、味方になればこれ以上心強い仲間はない。
「そうね、信じることにするわ。メニエスさんという、面倒な人もこの件に目をつけていることだしね」
「ではマッシュと交信する。邪魔はしないで頂きたい」
 シャノンは両目を閉じて意識を集中する。
 
「マッシュ、マッシュ、聞こえるか?」
(あ……あれ? シャノンさん?)
 マッシュのばつの悪そうな声が聞こえる。
(えー、俺、何もしてないです……)
「ああ、何もしないで『蝋人形化』し、私に多大な迷惑をかけた。この責任は貴様の体が元に戻り、私が復調してから問うことにしよう」
 スッと息を吸って、シャノンはマッシュに呼び掛ける。
「町長がどうやって森を抜けているのか? その方法を知りたい。分かるな?」

 マッシュの回答は実に明解だった――「知らない」。
「ただ、やはり『光精の指輪』と『竪琴』を携帯していたそうだ」
 そのことから推察して、とつなげる。
「『光精の指輪』と『竪琴』が必要であり、それは誰のものであってもよい、というのが私の回答だな」
「『ルミーナさんの持っていたもの』に限定されないってことね」
 それだけでも分かれば、と橘 舞は考える。
「とにかく、竪琴と指輪を持って森に入って行けばいい、てことよね?」
「けど、問題はその使い方よね?」
 疑問を投げかけたのは、星宮 梓(ほしみや・あずさ)
「森を抜けるには『指輪』と『音楽』がいる。指輪は多分『光精の指輪』なんだと思う。それから『竪琴』で、何か曲を弾くと森で迷わなくなる……?」
 ハアッと額に手を当てて、息をつく。
「音楽は、特定のものなのかしら? 曲目も分からないし……。オルフェウスの演奏を録音したものとか無いのかしらね?」
「いっそのこと諦めて、狐さんに頼りませんか?」
 ルールルルーッと、美央は油揚げを取り出して、狐を呼び出そうとする。
「なかなか来ませんねえ……」
「お腹が一杯なのかもしれませんよ?」
 言いながら、舞はブリジットを振り返る。
 こんな時いつもなら頼りになるはずの彼女は、森を眺めてボウッとしている。
「しかし、町長や町長夫人が通り抜けられたということは。曲が決まっていても、難しいものではないんだろうな」
 言ったのは、七尾 蒼也(ななお・そうや)
 影野 陽太(かげの・ようた)は「光精の指輪」を指にはめて見せるが。
「持っているだけじゃ、駄目らしいですね」
「うーん、悩んでいても始まらないし。使ってみるか?」
 蒼也は苦し紛れに自分の「光精の指輪」を取り出し、掲げてみた。
 指輪が光り始め、やがて眩い一条の光は「迷いの森」を照らす。
 と。
 
 ズズ――ン……ッ。
 
 何と! 森が光に沿って割け、道が切り開かれて行くではないかっ!
「ビンゴッ! てことだよな?」
 蒼也は不思議そうに小首を傾げつつも、森の中に足を踏み入れた。
 彼の後を、総勢33名の仲間達が続く……。
 
 ■
 
「光精の指輪」の光によって、森の中に光が届く範囲まで道が切り開かれてゆく。
 エル・ウィンド(える・うぃんど)の助言により、一行は光の反応を見つつ、時に指輪の角度を変え、道が出来て行く方向を探りながら進む。
「で、後はこの竪琴かあー」
 言って、蒼也は空いている方の手を眺めた。
 そこには、コハクから預かったオルフェウスの「竪琴」がある。
「オラがレアルからキいたジョウホウだと、ウタがイイんジャないカ? って」
 言ったのは、ガオだ。
 スッと息を吸い込み、アカペラで伝え聞いた歌を歌い始めた。
 けれどその歌は、トレント達の歌のようだがどこか違っていて。
 
 サア、エモノがきタ! タノしくイこう。ダレかガッキをタノむ!

「うーん、違うんじゃないのかあ?」
 蒼也は首を傾げたが、取りあえずトレント達が襲ってこないので、そのままにした。
「レアルから、他には何か聞いてないのか?」
「そうダ! 2つのアイテムは、ベツベツにツカうって。イッてたぞ!」
「別々ねえー……」
「『別の使用目的に使う』とか?」
 陽太は、すでに「眠りの竪琴」を携帯していた。
「身につけているくらいじゃ駄目、てことですよね?」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)を呼び寄せる。
「レアルは『スキル』や『アイテム』を使って、町長をつけてたんですよね? で、その町長も『アイテム』を使っています。ということは、結局危険を冒してでも『スキル』や『アイテム』を使用しなければ、森を抜けることは出来ない、て。そういうことなんじゃないんですかね?」
 推測を基に、ノーンにリュートを弾かせてみる。
「『竪琴=楽器演奏』、ていう解釈も出来ますよね?」
 まあ、適当に演奏させるだけだから「アイテム」使用ってことにはならないかもしれないけど。
 陽太は半信半疑で時を待つ。
 ノーンは陽気な曲に合わせて、これまた適当に歌を歌う。
 
 さあ、獲物がキタあーっ! 楽しく歌おう。誰か踊りを頼む!
 
 けれど陽太の予想に反して、森は急にざわつき始めた。
「これで、一気に館まで繋がると思いましたが……!」
「ああ、ヤッカイなのがキた!」
 ノーンの演奏をやめさせて、ガオが歌う。
 しかしざわめきは収まらない。
「光精の指輪」が示す道の先に、赤黒い複数の目。
「トレントかっ!」
「まだ、策はある!」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は「眠りの竪琴」を取り出し、トレント達に掲げた。
 陽太はノーンを背にかばい、同様にして「眠りの竪琴」を見せる。
 効果はない。
 闇の向こうから、疾風の如くトレント達の腕が伸びてくる。
「『竪琴』だ!」
 エルが叫んだ。
「蒼也! ノーンに『竪琴』を弾かせるんだ、早く!」
「え? ……て、ルミーナの?」
「そうだ、早く!」
 蒼也は慌てて「竪琴」をノーンに渡す。
「えーん、蝋人形なんてごめんだわ!」
 ノーンは適当に弦を奏でる。
 慌てた所為で、曲にすらならなかったのだが。
 
 ポロン……ッ。
 
 と。
 たったそれだけで、トレント達の攻撃は止んだ。
「やっぱりな」
 エルは満足そうに頷いた。
「『光精の指輪』は道で、『竪琴』はトレント対策だ。町長さんはそれを、ボク達に教えたかったんだろうな」