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リアクション
終章
ガーネットは五機精の一人だった。
それは、地下二階で傀儡師と戦った者達が真っ先に知った事実だ。
「それで、どうすんだ? あたいをぶっ壊すか?」
半分は冗談のつもりだろう。だが、自分が危険な存在だと、彼女自身自覚はあるようだ。
「つっても三割程度しか力が使えねーんだけどな。今のあたいじゃせいぜいさっきの機械を八体くらいしか倒せねー」
彼女の話によれば、五機精はその力故に封印される際に能力を本来の三割しか発揮出来ないように調整されているらしい。
「そんでも他の四人は三割でも酷いもんだ。あたいが一番この制約の影響をモロに食らっちまってる」
それでも機甲化兵の銃撃を受け止めて無傷だったのだから、ガーネットも大概だ。
「とりあえず、あの傀儡師の事もあります。しばらくはPASDに身を寄せた方がいいのではないでしょうか?」
エメが彼女に提案する。
「ま、あいつの力はあたいには防ぎようがねーからな。しばらくはそうさせてもらう事にするか」
もし、ガーネットを危険な兵器と判断する者が多かったら、このような流れは成立しなかっただろう。
『娘達を救ってくれ』
PASDには、その言葉を前向きに受け止めた。兵器として造られた彼女達を哀れみ死をもって救いとするのではなく。一人の人間として導く方向へと。
それが最も発揮されたのが、最深部でのジャスパー・ズィーベンだ。彼女は僅かながら人間だった頃の記憶をも取り戻していた。
彼女から話を聞けるようになれば、ワーズワースの真意に近付く事が出来るようになるかもしれない。
***
「みんな、無事か!?」
遺跡の入口に、ツァンダで調査を行っていた面々がやってきた。
「生きてはいる、って感じですね」
リヴァルトはそうはぐらかすしかなかった。
PASDの本隊は、確かに全員生きている。だが、先遣隊は一人を除いて全滅した。その一人も、人命救助のために率先して遺跡を進む人がいなければ、治療が間に合わずに命を落としていたところだったのだ。
「リヴァルト」
満面の笑みを浮かべて、エミカが彼に近付いていった。
「どういう事があったか、後で詳しく聞かせてね。く・わ・し・く・ね!」
どうやら傀儡師との一件を黙ってた事に対して憤っているようだ。
「……はい」
リヴァルトもエミカには頭が上がらないらしい。
しばらくして、PASDのメンバーが全員揃った。地下三階組も合流し、そこで何があったのかを知る。
ワーズワースの遺したものが少しずつ明らかになる一方、新たな謎もまた生まれている。
傀儡師は誰の依頼で、ワーズワースの遺産を手に入れようとしているのか。
なぜ彼はそれに詳しいのか。
芹沢 鴨はなぜここに来たのか。彼が言っていた旦那とは誰なのか。
これだけで、外部に二つの勢力がある事が明らかになった。
その背後が実は同一か、あるいは本当に別々なのか。
リヴァルト・ノーツはなぜ狙われているのか。彼以外にも、排除対象になっている者はいるのか。
銀髪の魔女と黒ドレスの女の存在。彼女達は、かつて『研究所』にいた二人なのか。
回りだした歯車が、わずかに狂い始めている事を知る者はいない。
――2020年4月某日 PASD調査報告
今回の調査について報告するには、まず同時期にツァンダで起きていた機晶機械の暴走事件について言及しなければならないだろう。
結論から言えば、それは『傀儡師』なる請負人による犯行であると判明した。『マスター・オブ・パペッツ』というのが、通り名なのか、それとも特異な能力を発揮する、女王器のような道具の事なのかは定かではない。その人物は機晶石を特定の波長の電波で操っていると推測される。だが、その能力の詳細については何も判明していない。これは確証がない情報だが、機晶姫の意識をそのまま乗っ取る事すらあるという。さらに、人前に現れる時は常に身代わりの人形であるらしい。
その傀儡師が遺跡調査の先遣隊に入り込み、隊員を殺害。生存者は一名となった。先遣隊を全滅させたのは、PASD本隊を呼びだすためだったのだろう。ワーズワースの遺産に関わろうとする者の排除、それが依頼内容だという事だからである。
だが、疑問が残る。
今回、その本隊にリヴァルト・ノーツが居合わせていたのは偶然だろうか。そして後述するが、五機精の一人、ガーネット・ツヴァイもまた彼と共にいた。
なおー傀儡師がツァンダで事件を起こしていたのは、五機精をあぶり出すためだったという事だ。それはすなわち、五機精の一人がツァンダにいると確信してない限り辻褄が合わない。
ここで一つの仮説を立てる。PASD内部に、情報を外へ流している人間が存在するのではないか。
しかもその人物がジェネシス・ワーズワースと何らかの関わりを持っている可能性は高い。そうでなければ、ガーネット・ツヴァイの正体など知りようがないからである。今後、内部の人間にも警戒を強める事とする。
ワーズワースと関係がありそうな人物として、英霊芹沢 鴨もこちらで言及しておこう。遺跡に突然やってきた彼の目的は不明。ただし、今後に備え警戒しておかなければいけない人物である事に変わりはないであろう。今後、何らかの形で接触があるかもしれない。
遺跡の調査結果に入ろう。
今回、第一次計画で人工機晶石が生み出されていた事が判明した。機甲化兵の量産機はこれで動くらしい。また、これは第二次計画でも使用されていた。魔力のブースターとしてである。
そして、五機精と有機型機晶姫に関する情報も手に入った。失敗作は感情に偏りが生じているのが最大の要因であるとされる。今回発見されたジャスパー・ズィーベンの特性は狂気であった。『研究所』には「冷静」と「無垢」がいたため、残りは二体である。五機精は、人格的には何の問題もないという。ただ、その強さ故に封印される時に、能力を抑制されたとされている。
資料室で発見された文献とガーネットの証言から、名称が明らかになった。
エメラルド・アイン
ガーネット・ツヴァイ
アンバー・ドライ
クリスタル・フィーア
サファイア・フュンフ
それぞれの能力特性は、現時点で不明なフィーアを除き、上から『再生』『強化』『操作』『破壊』である。ドライの特化が雷電でないのは、それが能力特性の一つに過ぎないからである。なお、不明なフィーアは唯一の「完成体」となっている。これについてはさらなる情報が求められる。
アンバー・ドライについてはシャンバラのどこかを放浪している可能性が高い。が、現在のところ被害報告はないため、危害を加えるような事はしていないようだ。彼女の行方を追うとともに、他の五機精が封印されていると思しき遺跡を次の調査対象とする。
以上。
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