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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第3回/全3回)

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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第3回/全3回)

リアクション

 パッフェルを前に、辺りを見回す。交戦中の生徒たちや、地に倒れている生徒たちを見て−−− 拳を握りしめた。
「ヴァルキリーちゃんだけじゃなく、みんなまで…」
「…… 邪魔をする…… な!!」
 パッフェルは瞳を震わせて、は拳を震わせて。
「これ以上、好きにはさせないっ!」
 ランチャーが向けられる、飛空艇が急降する。
 宙を滑り駆けるの飛空艇を追いながらパッフェルは波動の弾を放ちゆくが、これをフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が放った氷術が当たり防いだ。
「ようは、あの娘を殺れば良いのだろ?」
「黒子ちゃん、殺すなんて言っちゃうのはダメですよ」
「葵に牙剥く者も、我の前に立つ者も皆、敵だ!」
「ありがとう、黒子。行くよっ!」
 黒子と呼ばれた『無銘祭祀書』と共に飛空艇を翻し、上昇し向かった。
 パッフェルが拡散する波動の弾を放つ、これに光術と氷術が迎え打つ。
 ぶつかり合う衝撃音と爆煙が辺りに響き拡がった。
「しっかりして下さい!」
 ヒールを唱えながら、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は倒れ横たわるシルヴィオに呼びかけた。呻きながらも上体を起こそうとするシルヴィオメイベルは制止をかけた。
「ダメですぅ! 動かないでください」
「しかし、ミルザム様が…」
「安心して下さい、彼女を護る方たちは健在です、それに、私たちと一緒に来た人たちがパッフェルと戦っています。だから、安心して下さい」
 優しく、そしていつも以上に落ち着いた声で伝えた事がシルヴィオに安堵の想を生じさせた。シルヴィオの頬が少し緩んだのを見て、メイベルはヒールを唱えるを続けた。
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は横たわるアイシスの横に座り、また少しに離れて横たわるミィルに視線を向けると、唇端を噛んだ。
「女性にまで、こんな… こんな怪我を負わせるなんて…」
 今掴むべきは、帯刀している高周波ブレードではない! フィリッパは何度も自分に言い聞かせながら、アイシスを抱えてメイベルの元へと運んだ。ヒールを唱えてもらう必要がある、それでもフィリッパはヒールを唱えるが出来なかった。
「よく我慢したですぅね」
「… 今は… 彼女たちを助ける事が先ですわ」
「任せて下さいですぅ」
 アイシスを降ろし横たえたフィリッパは、ミィルの元へと歩みを始めた。そこにはフィリッパの横で上体を起こし、片手で頭を押さえると、の顔を覗き込むセシリア・ライト(せしりあ・らいと)の姿があっった。
「オレの事は良い、ミィルと… レイオールを先に頼む」
 は横たわる巨体、レイオールを指さした。レイオールの機晶の体を見たセシリアは慌てて手を振った。
「機晶姫は… アーティフィサーの勉強はしてないから、直せないよっ」
「こっちも… 頼む…」
 首だけを起こしながら、神野は目でザイエンデを示し指した。
「ザイエンデもやられてる… 直してやってくれ…」
「ヒールで構わないんだ、頼む」
 パートナーを想う気持ちは同じだった。強硬な身体を装して無茶をしている、それ故に傷もダメージも大きい事を彼らは知っているのだ。セシリアは傷の深いレイオールからヒールを唱え始めた。
 メイベルの視界の端に、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)に駆け寄るレオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)の姿が映り込んできた。必死に呼びかけながらヒールを唱える彼女の姿に、メイベルは同意の悲想を覚えた。同時に、パートナーの治療が済んだなら治療を手伝って貰えないだろうかと打診したいとも考えていた。
 パッフェルのランチャーに撃たれ横たわる生徒が多くいる、毒性の症状は誰にも見られないようだが、一人一人のダメージは大きかった。三槍蠍の毒と戦う人も村の中には居る、と思えたのだが、とにかくは目の前の倒れた人たちを助けなくては。
 パッフェルの凶弾に倒れる生徒たちは、まだまだに居るのだから。
「むっ、これは!!」
 大げさに、いや、本人は至って真面目に声を挙げて、神代 正義(かみしろ・まさよし)は負傷者の元へ、しゃがみ込んだ。
 横たわる詩穂呂布は、他の負傷者たちとは症状が異なるように見えた。2人は全身を微少に震わせており、身動きの一つも取れないようである。大神 愛(おおかみ・あい)詩穂の全身へと瞳を向けた。動けなくなる直前に、何か嬉しい事でもあったのだろうか、笑みを浮かべたままの表情を見て、一瞬たじろいでしまった。
「神経系の毒でしょうか」
「痙攣か… トカール村で感染したヴァルキリーにも痙攣を起こす症状はあったが、それとは… 違うのか?」
 それよりも痙攣が小さい。時間が経ったから、または症状が軽いから、いや重いからとも考えられるが… とにかくここは−−−!!!。
「うおぉうっ!!」
 正義の足元へ波動の弾が撃ち落ちて来た。上空ではたちがパッフェルの弾をどうにかに避けながら接近する機会を窺っていた。故に、その弾が流れてくる危険性は十分に察せられた。
「アイちゃん!! ここはこのシャンバランが責任を持って−−−ってってっおぉぅっ!!」
 言い終える前に、流れて落ち来た。それでも、とっさに爆炎波で迎撃するあたりは流石と言った所であろうか。本人は最後まで言わせろと騒いでいたが。
 お約束が繰り広げられる中、上空では戦闘が激化の一途を辿っていた。
 キュアポイゾンを唱えるの身体が小さく跳ねた。大砲が放たれた音、そして地を砕く音が響き渡ったからであったが、真理奈は、今まさに、ここに好機を見つけて、スナイパーライフルを構えた。
「あれだけ注意が逸れてれば!」
 飛び回るグリフォンの軌道を捕捉して、真理奈パッフェルのランチャーを狙いて掃射した。
 これにが飛び込んだ。
 グリフォンが大きく飛び回っていた為に視捉が遅れた。とにかくパッフェルの前に身を投げてからだ、と飛び込み、そこから迎撃を成した。
「−−−つっ!」
 数弾はこれまで通り銃弾で撃ち落としたが、一弾を星輝銃の銃身で受け、もう一弾は左耳を擦り焼いて過ぎた。
「奇襲は好きだけど、されるのは嫌いだよ」
「右に同じ、です」
 エレンディラが放った氷術がパッフェルに向かう!
 間に合わない! 思うのと同時には、その身を投げ出した。
「っっっう゛っ!」
 パッフェルの目の前で。
 魔女の帽子が飛び、の緑色の髪が舞い拡がった。パッフェルの瞳が見開くよりも先に、ミネルバは瞬きに硬直した。
「円っ!!」
「そなたも、邪魔だ!」
 間合いを詰めたフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)ミネルバの肩に触れると、一気に雷術を流し込んだ。
「がっ!」
 緑に続いて赤い髪が、舞い拡く。
 狭い視界の中に現れた背と髪は、次々に伐たれ、消えていった。それがこれまで自分の傍で共に居たミネルバだと認識できたのは、2人が倒れ墜ちてゆく姿をみた時であったが、パッフェルはそれが瞳の膜に微かに触れる、に留めてしまっているかのように、動くを止めてしまっていた。
 この機を見逃すは戦人にあらず。3人が同時に飛び出した。
「ふっ!」
 フォンは雷術を叩き込もうとパッフェルに腕を伸ばしたが−−−
 斬られる−−−!!
 トライブが振り下ろした雅刀の一閃を、フォンは瞬時に避けた。
「姫さんに近付くんじゃねぇよ!」
 フォンが鋭い剣撃を辛うじて避ける横で、氷術を放っていたはずのエレンディラは、氷術を避けていた。
 避けつつ、同じく氷術をぶつけて堪えている。氷術を放つベルナデットに、は高周波ブレードを握り、斬りかかった。
「エレン! 大丈夫っ?」
「葵ちゃんっ!」
「一緒にっ!」
「えぇ!」
 星のメイスで受けざるを得なかった。敵が2人になった事でベルナデットは顔を歪めさせられた。
 その瞬間と時を同じくして、真理奈がライフルをパッフェルに向けたのだが−−−
「あんたは寝てな!」
「!!!」
 オリヴィアの手の平が目の前に現れ、真理奈は吸精幻夜をまともに受けてしまった。
 確実にしとめようと近付いたが為に… 真理奈はその場に、力なく崩れていった。
 円… ミネルバ…。
 2人が倒れた元凶を、オリヴィアは歯に力を込めたままに空を見上げた。
「あの娘っ!………………!!!」
 2人が盾となって護った、それ故に。今は憎いとさえ思えたパッフェルは、空中に居なかった。
 地上の、それも横たわるミネルバの傍に立ち、力無く、首だけを傾けて見下ろしていた。