リアクション
* ダライアスがレイディスを連れ、歩いて行った雪の道に、一人の犬型の獣人。 「雪が強くなってまいりましたわね。 この辺りに、村がある筈……」 前回得た情報をもとに、奥地へと更なる調査に向かっている、ネル・ライト(ねる・らいと)だ。 この近辺には、黒羊軍のやり方を快く思っていない連中が住む村があるという。ほとんどが獣人であり、同じく獣人であるネルならちょうど、話も聞いてもらいやすいだろう。 「どうした、嬢ちゃん。この辺の者ではないな?」 「はっ。……あなた方は?」 ネルは身構えるが、彼らが付近に住まう獣人のようであった。 ネルは、その村へと迎え入れられた。 「では、そなたの主・月島殿らが?」 「ええ、悠さん達が、ハルモニア方面の教導団の全指揮権を持って、ハルモニア解放軍に協力していますわ。 今も、ハルモニア城奪還すべく、その足場となる砦攻めをしているところなのです」 「教導団か……」 軍事的なことを好まないのだろう。黒羊軍と同じで、教導団に対してもあまりいいイメージは持っていないようであった。だが、彼らは皆、ハルモニアの領民。自分達の領土を侵攻してのが黒羊軍であり、その解放に教導団が協力してくれていることは理解できる。彼らは、共に戦うことを申し出てくれた。 それから、更に…… 「ハルモニアから、敵を追い出して後のことだ。 かつて戦のあった時代に、ハルモニアがその裏手より黒羊郷を攻めた道。それがこの東の奥地から通じている。険しい山道だ。しかし、正面から行ってどれだけあるか知れない関所を抜けるよりは……」 * 何処……へ…… レイディスは半ば意識のないようなままに、ダライアスの後ろに随従していく。 ダライアスの足が止まった。 「……ダライアス……?」 周囲を、獣人の戦士達が取り囲んでいる。 「誰だ? このような奥地を雪の中、どこへ向かおうとしている? ここは我々の領土だぞ」 「ハルモニアの獣戦士、ですか。なかなかに手強そうな……ちょうどいい」 ダライアスの瞳が光った。 「黒羊の手の者だと言ったら? ほほう、このようなところにも、まだ生き残っている村があったとは……」 「何」「黒羊の……」「どうするつもりだ。ここにも攻めてくるのか」 「残念ながら、我等を生きて返せば、軍に報告しなければなりませんね。そうなれば……」 獣人達は、無言で剣を抜いた。 「密やかに辺境の部族の信仰の地であればよかったものを、何故侵略に乗り出した? 気には入らんが、教導団とて、他所の信仰までを侵そうとはしなかった筈だぞ。 何故、従わない民を、我々のようにひっそりと暮らす部族までを脅かす?」 「教導団……どうなのでしょうね。我は、知り得ない」 獣人は斬りかかってきた。その頭を跳ね上げる。ダライアスの腕にはすでに七首が装着されている。 「血の匂い……この手応え」 「く」 次々に、斬りかかってくる獣人ら。 レイディスにも、敵の刃が襲いかかる。 「レイディス。剣を取るのです」 「ひっ」 レイディスの目の下を、剣がかすめた。とっさに避ける。再び、襲い来る相手。「レイディス!」 ダライアスの声に、思わず剣を抜くと、相手の首を刎ねていた。 ニタリ。ダライアスは笑った。 「レイディス、右だ」 ダライアスの命のままに、敵を斬り付ける。すでに二人殺した。 レイディスの意識は尚、どこかぼんやりしたままだったが、手に、嫌な感触がはっきりと残る。 「それで最後ですね?」 「ま、待て。殺すな!」 ぴくり、と剣を止めるレイディス。手負の獣人は、すぐに逃げ出した。 「おや。……まあ、仕方ありません。しかし、これで貴方も。 斬らねば、斬られていたわけですからね」 「……だけど、さっきのは……」 「いや、だけどまだまだこんなものは。たかが獣人の戦士に過ぎません。もっと……」 ダライアスは、聞いていないように独りごちた。血肉の感触を、その手に刻ませましょうと。そしてまた、微笑した。 「こうなった以上……そうですね。黒羊の側に行ってみるのもいいかも知れません。 ハルモニアの戦いはもう終わる。戦の匂いから、わかる。 このまま行けば、黒羊郷へ着きます。あそこもいずれ、戦いになる。そうなれば、もっと歯応えのある敵を相手にできますよ、ふふふ」 |
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