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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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8-04 キャバクラ

 さて、黒羊郷の地下から、地上に移ってみよう。ここには……地上の楽園があった。
 第3章でも登場した、ヴァリアの酒場……いや、今やその店の名は゛わるきゅーれ゛。
 立派なキャバクラであった。
 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)(クラス:経営者)だ。
 この男はとうとうすでに、キャバクラを完成させるに至ったのである。思い起こせば、長かった。序章(前回)のときには、屋台からのスタートだったのだ。その苦労を思い出し、涙するハインリヒ(「はい、はいよかったですわね……」クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)(クラス:マダム)。あの日のハインリヒは、こう誓ったのだった――「フーゾク王に、オレはなるッ!」(「はいはい、もういいですわ……」))。
 こんな、辺境の土地に、キャバクラ。
 そこはすぐに、兵士達で賑わった。
 しかし、こんな異端宗教の聖地に……いいのだろうか。だが、よかった。
「ふん、信徒兵が戦に駆り出された。俺達、一般兵は、お払い箱だろうさ」
「そうなの?」
 キャバクラ嬢天津 亜衣(あまつ・あい)が聞く。
 黒羊兵の多くは、もとからのこの土地を守る兵ではなかったのだ。
 彼らは、鏖殺寺院から送り込まれた兵であった。
「こんな辺境に送り込まれてな……」
 そういう本音も、聞かれた。
 そうであったか。ハインリヒは、亜衣らキャバクラ嬢に、兵の語ったことを聞いた。ハインリヒには、色んなことが見えてきた。この土地に長く根付く信仰を、戦争に利用しようとしたわけだ。鏖殺寺院は、異端達の信仰の中心地・黒羊郷を利用し、教導団を攻めさせようとしたのだ。同じこのヒラニプラ領内にある黒羊郷、上手く利用すれば、相手の喉元に容易に届く刃となる。しかも、信仰の力を利用すれば。
 恐ろしい、そして汚い奴らだ、やはり。
 今や、土地の多くの民が教導団を憎み、そして意のままに操られるという信徒兵。死も厭わない。やがて、教導団との決戦に投入されるだろうと言う。
 キャバクラには更に、黒羊軍の幹部クラスも訪れるようになった。
 ハインリヒは、信徒兵に関する情報を入手することに成功した。
 地下で作られた信徒兵は、地下神殿に入れられる。
 そこで、戦いのときまでは、眠らされるのだという。必要なときまでは、一ヶ月でも二ヶ月でも、眠る。それを意のままに操れるような状態にしてあるのだという。何せ彼らは、すでに我というものを失っているのだ。そして、戦いのときになれば、眠りも疲れも知らず、死ぬまで戦い続けることができのだ、と。
 そんな話を、ある幹部は酔っ払ってキャバクラ嬢に聞かせたのだった。なので、あくまで真相はわからない。
 しかし……もし、本当であれば。
 ハインリヒは考え込む。
 地下神殿に、眠り続ける兵か……それが一度戦に駆り出されれば。先の幹部の言うことだと、すでに実験的に投入が開始されており、その戦い振りは殺戮マシーンのようであり、これなら、教導団も……と笑って話したというのだ。
「へぇ。俺としては、楽しみだがな。何より、そういう戦こそ俺の出番さ」
「ケーニッヒ」
「おう」
 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)も、この店を訪れている。前回の情報を、本営に渡してきた。
「では、また情報を持ち帰ってもらいましょうか?」
「……俺は、戦いたいのだが。腕が鈍る」
「戦わずして勝てる方策が見つかれば、最もよいのでございますけどね」
「……ちっ」
「まあ、この゛わるきゅーれ゛で、少しは疲れを癒していくといいでしょう。いい女の子がいますよ?」
「俺にはいらん」
 面白くなさそうなケーニッヒ。ハインリヒは、じーっとケーニッヒを見る。
「(珍しい。ファウストは女に興味がないのか。
 もしかしてザルーガと? ファウストにはそういう……)」
「……お、おい! 戦にしか興味がないのかとか、せめてそう言えよ!
 言っておくが、俺はザルーガとは何もないぞ」
「兄貴。行こうか」
 アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)はケーニッヒと離れ離れになり、ブトレバに行った後、ブトレバ特産の酒や食材を購入し、ハインリヒの酒場と行き来して密入国ルートを作り上げていたのだった。帰りの船便には、黒羊郷の特産品を積んで、荷の中に密書や、場合によっては人を忍ばせる。
「兄貴。無事に再会できてよかったよ」
「あ、ああ」「……ほう」
「? そうだ。忘れるところだったぜ。ジーベックのとこの、桐島 麗子(きりしま・れいこ)からの報告書だ。第四師団の現状はこれで知ることができる。
 それから、」ザルーガは、衣服から宝石を取り出す。
「ヴェーゼルヘ。これも桐島麗子からの預かり物だ。ジーベックは、これを資金に情報収集活動を続けてくれと」
「おお、こ、これは……」ハインリヒは宝石類をさっと懐にしまった。
「ジーベック殿に礼を伝えてくださいませ。これでこのキャバクラ゛わるきゅーれ゛は次回にはきっと……むふふふ、うふふふ」
 ケーニッヒ、ザルーガは再び、東河を小船で下る。
「しかし、信徒兵か。兄貴」
「おう。腕が鳴るぜ、ザルーガ。戦いもまだまだ面白くなってきそうじゃないか」