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「暗き森のラビリンス」毒草に捕らわれし妖精

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「暗き森のラビリンス」毒草に捕らわれし妖精

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第2章 その身を切り裂く棘

「ここにもワープ装置がありますわ」
 玲とイルマが起動させた装置を、ローザが見つける。
「別のフロアに行けるかもしれないな、乗ってみよう」
 入ってきた場所とは違うフロアに行けるかもしれないと、一輝たちはワープ装置に乗る。
「なるほど・・・違う装置に乗れば、別の場所に降りることが出来るのか」
 再び1階へ降り黒牌を探す。
「物音を立てないように進まないといけないようだが・・・」
 床を蠢く棘を見下ろし慎重に歩く。
「一歩ずつ進まないといけないなんて・・・」
 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)の身体を支えながらゆっくりと進む。
「羽純、これを被ってろ。間違っても前に出るなよ?」
 ブラックコートを脱ぎ、ブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)は羽純に羽織らせる。
「参った・・・身体に力が入らない・・・。話には聞いていたが・・・これがウイルスか?」
 ウイルスに感染してしまった羽純は、足をふらつかせながら歩く。
「ああ、歌菜、んな顔するな。・・・立ち止まってる暇などないだろ?」
 心配そうな顔をする歌菜に、大丈夫だという態度をとる。
「いざとなったら俺が背負ってやる」
「子供じゃあるまいし、そんな必要はない!」
「その言葉が言えるうちは、まだまだ元気だということだな」
 強がる羽純を見て、ブラッドレイは可笑しそうに笑う。
 ザザザッザワザワッ。
 彼らの足音に反応し、地面の棘が蠢く。
「剣山を踏みつけるよりヤバそうだ・・・」
 蠢く棘を見下ろしながら一輝は小さな声音で呟く。
「最初に2階へ上がる間に見つからなかったから、別のワープ装置を使って降りて来たが。どこかの部屋に隠されているわけじゃなさそうだな」
「フロア内の棘の中にあるかもしれないということですわね」
「あぁ、そういうことになるな」
 まさかと眉を潜めるローザの方へ顔を向けて頷く。
「黒牌を回収した後、棘が襲ってくる・・・ということなのだな?」
 ユリウスは一番後ろを歩く羽純の後ろを見ながら言う。
「(棘の動きが活発になってきたようだ。後ろを狙われては厄介なのだよ)」
 棘の動きを見ながら羽純が棘に狙われないか警戒する。
「あれが黒牌でしょうか?」
「棘が絡まっていてよく見えませんわね」
 歌菜が指差す方をローザが見る。
「狙いやすいように目印をつけるか」
 一輝はハンドガンにペイント弾を装填し、棘に赤色の目印をつける。
「棘を焼いてしまいましょう」
 黒い塊に絡み付いている棘に向かって、歌菜がファイアストームを放ち、バタタッと棘が焼け落ちる。
「これがそうなんでしょうか?」
 地面に落ちた黒い塊を拾い、ローザと一輝に見せる。
「牌・・・というか、ただの塊ですわね」
「ただの石みたいだな」
「うーん・・・残念」
「動き出してしまったようなのだよ」
 しょんぼりと石を見つめる歌菜に襲いかかる棘を、ユリウスがタワーシールドで防ぐ。
「十天君のやつら・・・無傷で探させるつもりはないようだ」
 ブラッドレイは羽純の身体を抱えて地面へ転び、星輝銃で棘を撃ち落とす。
「何するんだ!?むぐっ」
 トリガーを引こうとするブラッドレイの手をユリウスが止める。
「大人しくするのだ・・・」
 相手の口を片手で塞ぐと、棘の先が彼の眼前で止まり、静まり返ったフロア内の棘はまったく動かなくなった。
「こいつらは物音に反応するのだ。目的の物を見つけるまで、やたら反撃しないほうがいい」
 そう言うとユリウスは彼から離れる。
「棘が道を塞いでいるな」
 ブラッドレイは道を塞ぐ化け物の尾のような棘を睨む。
「ふむ、またげばなんとか通れそうなのだよ」
「まず俺が先に通るか」
「では私も」
 一輝が先に棘を飛び越え、続けてローザが通る。
「刺さったら終わりっぽいな・・・」
「羽純くん、私がキャッチするから大丈夫よ」
「いくぞ・・・せーのっ!」
 ブラッドレイは羽純の身体を持ち上げて歌菜の方へ渡す。
「キャッチ成功!」
「そんじゃ俺もそっちへ」
「皆、渡りきったようなのだな」
 後ろに誰か残っていないか確認し、ユリウスも棘を飛び越える。
「黒い石みたなのがいっぱいありますね。さっきの石と形が違うようですけど」
 天井や壁に張つく棘を見ると、何かが絡みついている。
「―・・・ふむ、どれも違う形だが。またトラップかもしれない、気をつけなければ」
「黒牌って位牌と同じような形のやつを探せばいいんでしょか?」
「そうですわね。十天君なら嫌な意味を込めて、そういう形にしているかもしれませんわ」
「嫌な意味・・・ですか。たしかにやりかねませんね」
 やつらならありえるかもしれないと、歌菜が顔を顰める。
「位牌か・・・これか?」
「どれ?」
 一輝が指差す方を見ると、それらしい形の黒い塊がある。
「きっとそれですわ」
「この棘を焼き落とすんだ」
 こくりと頷くローザを見て、絡みついている棘にペイント弾で目印をつける。
「いきますわよ!」
 高周波ブレードの刃から爆炎波を放ち、紅の炎で焼き尽くす。
 目的ものらしきやつが地面に落ちる寸前、一輝がキャッチする。
「たぶんこれだと思う。確認してくれ」
 歌菜に手渡して見せる。
「そうね、きっとこれだわ」
 形状を見て黒牌だと確認する。
「棘が動き始めたのだよ、早く2階へ行くぞ」
 フェザースピアで防ぎながら、ユリウスが急ぐように叫ぶ。
「私が道を作るっ、サンダーブラスト!」
 歌菜は雷を行く手を阻む棘に降り注がせ、ワープ装置がある場所まで走る。
「くっ、棘が追ってくる!」
 ガードしようと一輝たちがシールドを構える。
 棘の先がシールドに届く寸前、装置が彼らを2階へ転送する。
「やれやれ、休む暇もないな」
 毒草の群れが待ち構えていたかのように、一輝たち襲いかかる。
「邪魔立てするなら、全て焼き払ってあげます!!」
 歌菜はファイアストームの炎の嵐で毒草を包み焼き払う。
「早く持っていかないとアウラさんが・・・!」
 石版部屋で待っている仲間の元へ全力で走る。



「孤島の施設と違って、小部屋とかはないみたいだね」
 禁猟区を発動させて清泉 北都(いずみ・ほくと)は、棘に襲われないように周囲を警戒する。
「獣人には厄介なところだな」
 手甲をはめた両手で棘を退けながら、白銀 昶(しろがね・あきら)が先に進む。
「イッてて!」
 ふさふさの尾に引っかかってしまい、刺さった棘を退かせる。
「っと・・・危ねぇ」
 昶の声に反応してガササッと地面の棘が動き、慌てて両手で口を塞ぐ。
「これぐらいやっとけば、俺たちが諦めると思っているんだろうな」
 道を塞ぐように絡み合う棘を、音に反応して動き出さないようにラルクが慎重に引き千切る。
「あの施設も僕たちに侵入されないように、かなり厳重にしてたからね」
「まぁ、結果があれだったけどなっ」
 怒りまくっただろう彼女たちの姿を想像して、ラルクはフンッと笑い飛ばす。
「計画に他にもいろいろあるんだろうけどよ」
「他にって・・・?」
「何も出来ずに嘆き悲しむ光景も見ようとか思ってんだろうぜ?」
 問いかける北都に言う。
「それって僕たちのこと?」
 その言葉に少年はムッと不愉快そうな顔をする。
「計画の遂行と同時に、オレらのことも・・・か。あの病棟で顔を知られているしな」
「だな、俺は孤島で知られたかもしれないが。それ以前のことならそうだろうよ。絶望のどん底に落としてやろうとか考えているんだろう」
「助けるよ・・・必ず」
 北都は刺さる棘の痛みを堪えながら退かす。
「んー・・・これはただの石だね」
「これか?あー・・・違うな」
 蔓に絡まっている石を掴んで、北都と昶が確認してみるが、どれも黒牌ではなかった。
「奥の方に何かあるぞ」
 ラルクの視線の先へ目を移すと、黒い石のような塊を守るように、棘がぎちぎちに絡まっている。
「天井と壁の蔓を掴んで渡れば行けそうだな。俺が取ってくるか?」
「ううん、僕が行くよ」
「おっ・・・、おい、危ないぞ!」
「しゃーない、オレも行くか」
 昶も北都の後を追って進む。
「―・・・っ!」
 棘が手にプツンと刺さり、じわりと手袋に染みる。
「今、オレらが行くからそこで待ってろ」
「あと・・・もう少しで届きそう・・・」
 地面に落ちてしまわないように、昶が声をかけるが彼の耳には届かない。
「―・・・うわっ!?」
 黒牌を掴んだ瞬間、手が滑り蔓を離してしまいそうになる。
「くっ・・・う・・・大丈夫・・・・・・か?」
「見つけたみたいだな」
 落ちてしまいそうになる寸前、昶が北都の腕を掴む。
 ラルクは昶を身体を抱えて、2人に蔓を手渡して掴ませる。
「これで1つ見つけたな」
 蔓をつたって地面へ降り、黒牌の数を数える。
「残りの2つは誰の人が取りに行ってるみたいだから、2階へ行こうか」
 北都たちは仲間が待っている石版部屋へ向かった。



「棘だらけで進みづらいね」
 栂羽 りを(つがはね・りお)は足音を立てないように、隠れ身の術を使いゆっくりと進む。
「あんまり先を行くなよ。迷わないように、道をメモしてるんだからな」
 小さな声音で言い、サバト・ネビュラスタ(さばと・ねびゅらすた)はメモ帳に道順を書く。
「音さえ立てなければ、上よりはマシだと思うんだけど・・・」
「上の階には毒草がいるしな」
「でも・・・同じような場所ばかりで、全然分からないっ」
「あっさりクリアされないように、向こうも考えているんだろうぜ?」
「うー・・・それはそうだけど・・・」
 サバトの言葉に、がっくりとへこむ。
「迷うとかあまりマイナスなことを考えないほうがいいぜ。本当になったら厄介じゃねーか」
「そうだね、例えば・・・ダミーがいっぱいあるとか?」
「考えたくもないな」
「でもそこまでしない・・・はず・・・・・・って、何!?」
 顔を上げるとりをは思わず大声を出してしまいそうになる。
 彼女が驚くのも無理ない。
 なぜなら黒い石のようなものが土や天井、壁に棘の蔓が絡まっているからだ。
「うわっ!?これ、ほぼダミーなんだよな?この中から探せというのか・・・」
「十天君は私たちに喧嘩を売っているかなっ」
「あぁそうだろうよ!」
 サバトは壁に貼られた紙を引き千切って土に埋める。
 その紙にはこう書かれていた。

―ここのフロアへ来た皆さんへ―

「簡単に見つけられたら面白くないですからぁ。
ちょっと面白そうなことを考えてみましたー♪
ダミーをいくつか用意させていただきましたぁ〜。
アナウンス式でお知らせしてもよかったんですけどねぇ。
ちょっと忙しくて声を録音出来ませんでした、ごめんなさいねー。

ではではー。
良い子の皆頑張って、お姉さんたちのとこまで来てください♪」

                        by 趙天君

「ふざけやがって、こうなったら意地でも見つけるぞ」
「牌に似た形の見つければいいんだもん。そんなの簡単だよっ」
「どういう牌か分かってるか?」
「もちろん・・・ま・・・・・・」
「ま・・・?」
「いっ、位牌だよ!」
「それで探してみるか。(ま・・・て、何を言いかけたんだ)」
 位牌に似た形のやつを探してみようと、地面の石を手にとってみる。
「これは違うみたいだな」
 長方形のやつを拾ってみるが、目当ての形とは違った。
「むー・・・これはただの丸かな?」
 今度はりをが壁際の蔓に絡まっている黒い塊を手にとってみるがそれもダミーだった。
「これは?」
「それじゃないな」
「うーん見つからないっ!」
 2人は20個ほど拾って確認しあったが全てダミーだ。
「ここじゃないのかな・・・。サバト兄ぃ、天井のあれ見てみよう。違ったら別の場所へ探しに行こう。十天君が私たちに意地悪して、全部トラップかもしれないし・・・」
「よし肩車してやるから、取ってくれ」
「分かった!」
 りをはサバトに肩車をしてもらい、天井へ手を伸ばす。
「もうちょっと右、うーん左・・・」
「こっちか?」
「―・・・あっ、右」
「どっちだよ!」
「そこ、そこで止まって!取れたっ」
 サバトの肩から降り、彼に見せる。
「それだな、2階へ行くぜ」
「やったー見つけたーっ。―・・・しー・・・」
 喜びのあまり大きな声を出してしまいそうなったりをは、棘が動き出さないように両手で口を塞ぐ。
 そっと歩きながら、仲間の生徒たちが待っている石版部屋へ向かった。