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【十二の星の華】双拳の誓い(第5回/全6回) 解放

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【十二の星の華】双拳の誓い(第5回/全6回) 解放

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3.追跡者
 
 
「進めー、進めー、邪魔な敵を薙ぎ倒し、飛び散る血潮、弾け飛ぶ身体、撲殺しよう、そうしよう♪」
 楽しく歌いながら、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が野球のバットで灌木を薙ぎ倒していった。
「僕の力、思い知ったかあ。ねえ、メイベル、輝睡蓮ってどんな花なんだろうね」(V)
 進行方向にあった岩をスパーンとかっ飛ばしてホームランにしながら、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)がメイベル・ポーターに聞いた。
「きっと、とっても綺麗な花に違いありませんわ」
 ライトニングウエポンを使って、帯電したバットで大木を無数の爪楊枝に変えながらフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がうっとりと言った。
 彼女たちの前に道はない。だが、彼女たちの後に道はできる。人の侵入を拒んできたかのような密林も、総合体育215を誇る彼女たちの前では、ふやけたモナカも同然であった。
「この森の奥にあるっていう話ですぅ。きっと、私たちが最初の発見者になるのですぅ」
 軽快に道を切り開いて進みながら、メイベル・ポーターは言った。
 
    ★    ★    ★
 
「やっと追いつけたか。いや、今の俺は敵ではない。海賊たちは後ろまで迫っている、それを知らせに来たんだ」
「怪しいな。何度か、海賊と一緒のとこを見たような気もするけど」
 不審げに、マサラ・アッサムがレン・オズワルドを睨んだ。
「それもしかたないか。だが、奴らと一緒にいて分かった、アルディミアクは間違いなく自分以外の意志に操られている。それは気分が悪い。なによりも、うちのノアが悲しむからな。だから、海賊を抜けて、お前たちの手伝い、アルディミアクの洗脳を解く手伝いをしにきた」
「いっそ、ここで再起不能にしてついてこれないようにする? リーダー」
 すっと切っ先を上げたエペをレン・オズワルドの喉元に突きつけながら、マサラ・アッサムが訊ねた。
「好きにすればいいさ。邪魔をしてくれなければそれでいい」
 もういろいろめんどくさいとばかりにココ・カンパーニュが言った。
「だそうだ」
 そう言うと、レン・オズワルドはエペに手をかけて切っ先を下げさせた。
「そうそう、一つだけ言っておきたいことがある。アルディミアクは、ノアの作ったカレーが好きなんだ」
「なんだよ、それ?」
 意味がよく分からないと、ココ・カンパーニュが聞き返した。
「アルディミアクには、アルディミアクの日々があったということさ。洗脳が解けたらそれが消えてしまうのかは分からないが、無視はしないでくれということだ」
 レン・オズワルドは、そう頼むかのように言った。
「それにしても、ずいぶんと手際よく道を作って進んだものだ」
 薙ぎ倒されたばかりとしか見えない灌木や下生えを見て、レン・オズワルドが感心したように言った。
「いや、来てみたら道がもうできてたんだけど、誰が作ったんだか。先を越されると困るからね、もう少し急ぐとしようか」
 ちょっと不思議そうにココ・カンパーニュが言った。進みやすかったとは言えるが、これでは進行方向が丸わかりだ。それに、誰かに先を越されて輝睡蓮がなくなってたりすると、ちょっとまずい。
「それがいい。海賊たちも待ってはくれないはずだ」
 レン・オズワルドも同意した。海賊たちも、当然この道を辿って追ってくるはずだ。
「まあ、ある程度は大丈夫でしょう。いろいろと罠をしかけている人もいましたからあ」
 チャイ・セイロンが、ちょっと後ろを振り返って言った。
 一行の人数は、樹海に入るときの半分ほどに減ってしまっている。自ら敵の足止めをかってでた者たちが、樹海の入り口付近に残ったためだ。
「ああ。単独だったから直接の攻撃はされなかったが、いろいろ罠がしかけてあったな。海賊たちにどれだけ効果があるかは疑問だが……」
 ここにくるまでの小さな罠を思い出してレン・オズワルドは言った。
 
    ★    ★    ★
 
「来た来た来た」
「ほう。思ったよりも早い。だが、障害は取り除かねばな」(V)
 樹海の入り口に現れた海賊たちを見て、雪国ベアと悠久ノカナタが言った。
「やれやれ、早くもお出迎えか。ということは、こちらで間違いないと見える。わざわざ自分たちの進んだ方向に案内人を配置してくれるとは御丁寧なことだ」
 皮肉たっぷりに、シニストラ・ラウルスが言った。ゴチメイたちに同行する者たちは毎度少なからずいるので、妨害に現れるのは予想のうちだ。むしろ、あからさまな囮でない限りは、彼らの配置を辿っていけば迷わずに追いかけられるというものだ。
「そう、俺たちはあんたたちを待っていた。確かめたいこともあったからな。先日の城の一件から、どうにもあんたたちを憎みきれなくてな」
 緋桜ケイが切り出した。
「なんのことだ」
「耳をかたむける必要はないだろう」
 逸るアルディミアク・ミトゥナを、シニストラ・ラウルスが押さえた。
「分からぬのは、おぬしらの目的だ。此度の十二星華の背後には、たいていティセラとシャムシエルが隠れておる。アルディミアクの洗脳も、あ奴らの差し金ではないのか」
「洗脳? 何を言うの、この子は」
 悠久ノカナタの言葉に、アルディミアク・ミトゥナが怪訝そうに聞き返す。
 思わず、チッとシニストラ・ラウルスが舌打ちした。
「シャムシエルか、今ごろあいつらは自分たちのことでてんてこ舞いだろうな。俺たちに構っている余裕なんてないさ。確かに、俺たちは奴らと同盟関係にあるが……、詳しいことはむこうに聞くんだな」
 そう言って、シニストラ・ラウルスはにやりと笑った。こいつらが、シャムシエルたちにかまけて、勢力が分散すれば海賊たちとしてもありがたい。
「あんたたちも、もしアルディミアクのことを思う気持ちが少しでもあるのなら……もう彼女を解放してやってくれ!」
 思わず、緋桜ケイが叫んだ。
「姉妹同士を戦わせるなんて、酷すぎるじゃないか。それに何の意味があるんだ。戦わなくても、話し合いでけりがつくかもしれないじゃないか」
「それだったら、どんなにいいか……」
 緋桜ケイの悲痛な叫びに、ぽつりとデクステラ・サリクスがつぶやいた。
「意味はあるさ。誰にもどうにもできない意味がな。俺たちは、自分たちの意思で動いている。シャムシエルも、クイーン・ヴァンガードも、関係はない。もちろん、お前たちもな」
「なら、アルディミアクは、誰の意思で動いている!」
 緋桜ケイの言葉に、シニストラ・ラウルスは一瞬返答に困った。
「私も、自分の意志でちゃんと動いている。失礼なことを言うな」
 アルディミアクが言い返した。
「うん、あなたはちゃんと自分の意志をもっているですぅ。ティセラに操られていた人たちは、もっとお人形さんみたいでしたぁ。だから、もっと自分で考えてほしいんですぅ。海賊さんたちだって、あなたには操り人形ではなく、仲間であってほしいと思っているはずですぅ。そうでしょぉ?」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)も、一緒になって呼びかけた。
「いったい、奴らは何を言っているんだ?」
 戸惑いながら、アルディミアク・ミトゥナがシニストラ・ラウルスに聞いた。
「お嬢ちゃんの好きにしろということだ。さあ、どうする?」
 シニストラ・ラウルスが確かめるように、アルディミアク・ミトゥナに訊ねた。
「私は、先に進むだけだ。邪魔をする者は排除する。来臨せよ、ジュエル・ブレーカー!」
 きっぱりと言い放つと、アルディミアク・ミトゥナが星拳を召喚した。
「今はまだ、進ませるわけにはいきません」
「ええ。ここで待っていてもらうんだもん」
 菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)がすかさず身構えた。
「女王像の欠片を隠すつもりだろうが、俺たちはあれをよく知っている。ティセラからの信用で、ずっと預かっていたのだからな。どこに隠そうと無駄だ。それも分からないとはな」
 シニストラ・ラウルスが笑った。どこに隠そうとも、おおよその場所さえ分かれば、丁寧にトレジャーセンスを駆使していけばいずれは発見できる。
「それはどうかしら。女王像の右手なら、ここにありますもの」
 菅野葉月が、チラリと女王の右手を見せて言った。
「交渉のために、預かってきたんだよね。分かったら、ちゃんとこっちの話を聞くんだもん」
 ミーナ・コーミアが菅野葉月の前に移動して、女王像の右手を海賊たちの視界から隠しながら言った。
「本物か!? だとすれば、迂闊だが。まあいい、確かめさせてもらおう」
「そう簡単に、あれを奪わせるわけにはいかないぜ!」
 飛び出すシニストラ・ラウルスの前に、白砂 司(しらすな・つかさ)が立ち塞がった。
 繰り出される槍を、高く跳躍してシニストラ・ラウルスが避ける。それを皮切りにして、全員が動きだした。
「サクラコ!」
 あっけなく抜かれた白砂司が叫んだ。
「サクラコ、行きますっ!」(V)
 後ろに控えていたサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が、シニストラ・ラウルスを牽制する。
「甘いな」
 突き出されたパイルバンカーを、シニストラ・ラウルスが叩いて下をむかせた。打ち出された槍が地面に突き刺さる反動で、サクラコ・カーディが後ろに飛ばされる。それを追うようにして、シニストラ・ラウルスが菅野葉月に肉薄した。ミーナ・コーミアがフォローに入るが、それを海賊の魔法使いたちが火球を放って牽制する。
「渡してもらおうか」
 数度拳のやりとりを交わす合間に、シニストラ・ラウルスが素早く女王像の右手を奪い取った。さっと後退してそれを確かめる。
「なんだ、このだごーん様というサインは。やはり偽物か」
 シニストラ・ラウルスが、奪い取った女王像の右手を投げ捨てた。
「残念でした。本物はこっちです」
 グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)が、自分の持つ女王像の右手を高々と上げて叫んだ。
「いただきー」
 光学迷彩で姿を隠していた南鮪が、あっけなくそれを奪い取った。
「ああ、取られちゃったー」
 もの凄くどうでもよさそうに、グロリア・クレインが叫んだ。
「ついに手に入れたぜ。お宝だ」
 女王像の右手のにスリスリと頬ずりしながら、南鮪が言った。
「何をしている。それはちゃんと本物なのであろうな?」
 織田信長が、ちゃんと確かめろと南鮪を叱咤した。
「えーと、畜生、これもだごーん様作だぜぃ!」
 南鮪が、欺されたとばかりに女王像の右手を投げ捨てた。
「危ないじゃないの」
 アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)が、飛んできた女王像の右手をホーリーメイスで叩き落として叫んだ。
「残念でした。本物はこっちですー」
 グロリア・クレインの影に隠れていたレイラ・リンジー(れいら・りんじー)が、新たな女王像の右手を取り出して言った。
「どういうことだ、みんな本物を持っていやがる。……ということは、すべて偽物か」
 さすがにトレジャーセンスを欺くからくりまでは見抜けなかったものの、いいかげんダミーにうんざりしたシニストラ・ラウルスが叫んだ。
「構うな、先に進め!」
「そうはさせるか。お前たちが追いつくころには、女王像の右手は隠し終わっているさ」
 白砂司が、本当の目的を悟られないようにとわざとらしく叫んだ。
「この先には行かせぬ!」
 悠久ノカナタと緋桜ケイが、ファイアストームで海賊たちの前に炎の壁を作った。
「アブソーブ」
 アルディミアク・ミトゥナの声とともに、燃えさかる炎の壁がすっと消え去った。
「魔法はだめだろうが!」
 雪国ベアに言われて、なぜか悠久ノカナタが凄く屈辱的な感情を覚える。
「ならば、必殺、熊ミサイルじゃ」
 悠久ノカナタが、クルリと雪国ベアの肩の上で身体を回転させた。その勢いのまま、雪国ベアの背中を蹴飛ばして海賊たちの方に無理矢理押し出す。
「うおおおおお、シャイニングベアクロー!」(V)
「おお、やるねえ。熊ロボットちゃん」
 繰り出された則天去私を同じ技ですべて受け返しながら、デクステラ・サリクスが笑った。さらに、唯一生身の顔面に膝蹴りを一発入れる。
「すまん、先に寝るわ。くまー」(V)
 雪国ベアがもんどり打って倒れた。
「さあ、本物の女王像の右手はここよー。あたしと取引をしましょう!」
 秋月 葵(あきづき・あおい)が女王像の右手を掲げて叫んだが、今さら遅きに失した感がある。誰も見向きも……。
「本物ゲットだぜ!」
 南鮪が、秋月葵の持つ右手に飛びついた。
「だから、確かめてから行けとあれほど……」
 織田信長が頭をかかえる。
「進むぞ!」
 よけいな物に構うなと、シニストラ・ラウルスが叫んだ。
「そうはさせねえぜ」
 防衛線を突破しかけた海賊たちの前に、そんな言葉と一緒に名状しがたき獣がべちゃりと落ちてきた。よく見れば、その上にナガン・ウェルロッドが乗っている。
「なんだ、これは」
 あらゆる生物のパーツを寄せ集めた戯画に等しい生物を模した物体に、嫌悪感をあらわにしてシニストラ・ラウルスたち獣人が顔を顰めた。漂う臭気は、障気と呼べるほどに獣人たちには耐え難い。
「よっしゃあ、行けえー」
 ナガン・ウェルロッドの叫びとともに、名伏しがたき獣からぼとりと二つの塊が零れ落ちた。その肉塊とも思われた物が四肢をのばし、むくむくと起きあがって歪な人形を形成した。グールだ。
「気持ちの悪い物を……」
 アルディミアク・ミトゥナが、ナガン・ウェルロッドたちの前に立つと星拳を構えた。
「えっ、ちょっとまっ……」
 アルディミアク・ミトゥナと戦うのは想定外だったナガン・ウェルロッドがあわてる。
「セット。ほとばしれ、聖なる光よ、ホーリーサークル!」
 アルディミアク・ミトゥナが、オパールを差し込まれて目映い光を放つ左拳を地面に叩きつけた。広がる波動が、複雑な魔法陣を描きながら広がる。その文様からわきあがった光が、足元からグールと名伏しがたき獣を吹き飛ばした。巻き込まれたナガン・ウェルロッドが、宙高く舞い上げられる。そのまま、胸から地面に叩きつけられた。
「進むぞ!」
 アルディミアク・ミトゥナの攻撃で空いた道を指して、シニストラ・ラウルスが叫んだ。
 位置が入れ替わったとたん、アルディミアク・ミトゥナがガーターリングからルビーを一つ外して星拳ジュエル・ブレーカーに差し入れた。
「セット。ファイアーウォール」
 先ほど緋桜ケイたちにしかけられたことの逆をする。
「しまった。早く消すのだ」
 悠久ノカナタたちが氷術で消火しようとしたが、火勢が桁違いだった。樹海に燃え移らないようにするのが精一杯だ。そのため、逆に足止めを食らう形となった。
 燃えさかる炎をバックにして、むくりと起きあがる人影があった。
「危なかった……胸パットをつけてなければ、死んでいたところだった……」
 女王の加護と胸パットに守られたナガン・ウェルロッドがつぶやいた。