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リアクション
3-03 テング山の決闘
夜が来た。
天霊院華嵐(てんりょういん・からん)は自ら獣人の隊を引き連れ、一気に強襲を開始。夜間でも生かせる獣人の知覚能力と機動力をもってすればと。
橘カオル(たちばな・かおる)も雅刀を引っさげ、真剣な眼差しで山を上りにかかる。
「電撃戦だ。一気に片を付ける。マリーア!」
「カオルーふぁいとー」
マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)が空飛ぶ箒ですぐ隣に飛んでくる。「落ちたらひろったげるね。きゃっ!」
カラスだ。敵襲! 敵襲! カラスの叫びと羽音とがあちこちにしている。
「おっ、テングさん!」
「うむ」
飛来してくるカラスには、テングがあたってくれる。「マリーア殿、ご無事ですかな? 空中戦では敵も力を発揮してきます。上からの攻撃に気を付けて」
「あ、ありがとう!」
カラスも鳥目? いや、わりあい夜目が効くらしい。しかも暗闇に紛れるので、なかなかに厄介だ。しかし、獣人兵が奮戦している。最初の奇襲にある程度の効果があり、成功と言えた。あとは……
「がおーがおー! どらごんだぞー!」
伏兵の役を担っていたオルキス・アダマース(おるきす・あだまーす)。混乱して出てくるカラスに、伏兵が襲いかかる。
「義勇軍に加わった獣人の村の反乱だ!」「メニエスの情報通りだ!」
天霊院の仕組んだ流言飛語が飛び交う。
「わっ。獣人……く、どこの部族だ? 何故、我々を裏切っ……」
ニヤリ。天霊院 豹華(てんりょういん・ひょうか)が戸惑う敵を見て笑む。
伏兵に追い立てられた敵兵を捕えるトラップを仕掛けていたのだ。
徹底した作戦により、テング山のカラスの多くは討ち死にか、囚われとなっていく。
「梅琳……どこだ!?」
それでもまだ、頂上付近にはかなりのカラスが残っている。鴉賊の中でも、精兵の部類と言えた。
マリーアが、ルミナスグローブを振って光でカラスを誘引する。
「カッ?」「カァ」
マリーアの方に、引き付けられているカラスら。
「く、行ったか……カラスめ。ち、切り傷、引っかき傷だらけだ……!
ここ、もう頂上だよな……梅琳? どこに、囚われているんだ……まさか、カラスの餌食になんか……はっ」
翼を広げたその姿。東の谷に高くそびえるテング山の頂上を占拠したカラスの王に相応しい畏怖の姿であった。
背景にした夜空に溶け込む漆黒の黒色。
「ブラッディマッドモーラか」
鴉賊最強の戦士だ。
カラスがこちらを向く。
「お姫様を、助けにきた王子サマかな? カッカッカ」
「……そういう流れか」
仕方ない、とカオルは雅刀を抜いた。「って、……え。俺、やるの……?」
カラスは巨大な薙刀を頭上に掲げた。
少し、たじろくカオル。「あの間合いを縫ってどうやって懐に入るんだよ〜……」
すぐに、ブラッディマッドモーラの強大な一撃が来る。
「うえ、は、早いっ」
「俺の一撃を避け得たか。誉めてやろう。だがこれが交わせるかな? カッカッ」
「はっ。ブラッディマッドモーラ」天霊院も頂上に達した。周囲にもうカラスの兵はいないようだ。「……仕留める!」
天霊院の鋭い銃弾がカラスの心臓めがけて撃ち込まれる。カラスは、飛んだ。
「えっ……!」カラスの方から、反撃とばかりにクナイが飛んできて天霊院がかろうじて避ける。「おのれ、カラスめ!」
付近の空中戦を制したテングやその長らが駆けつける。
カラスは薙刀で四匹程を一気に斬り捨てると、そのままカオルめがけて急降下してきた。
カオルは踏みとどまり、覚悟を決めた。振るった雅刀、空を切る。「ちょっ、……!」「カカ。モラッタ」
カラスは空中に浮いたまま、不恰好に自分の片羽が曲がるのを見た。「? 俺の、俺の羽が?」羽の真ん中を、光の矢が突き抜けている。
「死ね! カラス」
天霊院の銃弾が、今度はカラスの胸をぶち貫いた。天霊院から少し離れて、マリーアが光条兵器の弓を構えた格好で立っていた。
「マリーア……」
皆が、カオルのところへ駆けつける。
「敵将の首は……カオルが討ち取ったらどうだ? 自分は、すぐ次の任務にかかる」
天霊院が声をかける。
「天霊院。おまえの手柄だよ。あ、あとマリーアね(く、強いぞマリーア)。
俺は……えーと。まァ、いいや。俺は……」
カラスの死骸の向こうに、梅琳が囚われていた。
カオルは、李 梅琳(り・めいりん)のもとへ駆け寄った。
「あまり……あの通り、カッコイイとは言い切れなかったけど」カオルは、梅琳の捕縛を解く。
「ありがとう。ええっと、……マリーアさん、お強いわね」
「へへー」得意そうなマリーア。
「ええ、でも……ありがとう。来てくれて。本当に……」
梅琳は、カオルにもたれかかった。
天霊院が、頂上から「敵将は討たれた!」と喧伝し、すると戦っていたカラス兵らはこぞって一方向へ流れ出す。
「これで残るのはテント山。続いてテント山を落とす!
逃げ込むカラスを追い立て、一気になだれ込む! 豹華!」
「はっっ!!」
「テント山制圧の指揮を委ねる」
ニヤリ。天霊院 豹華(てんりょういん・ひょうか)は獣人兵を鼓舞し、山を駆け下りた。
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