リアクション
3-05 東河船着点の死闘
東の谷における教導団の後方陣地である東河船着点。
ここの防衛には、レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)、ラハエル・テイラー(らはえる・ていらー)らが200の兵と残った。
テントが張られ、見張りの兵が巡回している。
兵には、ルカルカの教育が徹底されている。彼女は、斥候と合図信号弾、隠密索敵、狙撃から有効な範囲攻撃、一斉正射、罠作成等の一種の模擬訓練までこれまで行ってきている。ここ陣地の守備に特化された兵となった。そうして選抜された優秀な100名が、ここに残っているというわけだ。(あとの100はレーゼセイバーズだ。段々、レーゼマンに似てきている?)
「期待してるわ」
ルカルカは笑顔で、兵に接して回る。
「皆で幸せになろ」
ここに姿が見えないのだが……カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は上空へ飛翔しており、敵襲を警戒している。カラス兵の部隊が来れば、間違いなく発見できるだろう。今のところ、カラスが飛んでいるのは、見ないが。
夏侯 淵(かこう・えん)は陣を出ている斥候に混ざっている。殺気看破を用いて重々注意を怠らずにいるが、こちらも今のところ大丈夫だ。
幕舎の内では、ここの指揮を預かるレーゼマンと、今回の戦いで軍師の役回りにあたっていると言えるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が話し合いをしている。
「地の利と多少準備時間もある。単純な数対数の消耗戦にはさせんよ」
ダリルは、地図を指し説明を行う。
「塹壕や柵壁を生かし展開、盾を使用し、罠と狙撃と銃撃と魔法で遠距離迎撃、後退しては攻撃を繰り替えす。接近戦前に削れるだけ削るぞ」
指揮官レーゼマンに効果的な示唆を、と考えられる作戦を次々に述べる。だが、
「あ、ミスったらルカが全力で踏むそうだ」と、さらり。
「う、うむ。緊張してくるな」
「ああ。まったくだ。しかし、レーゼマンは指揮者。胸を張っていてはどうか?」
「そうだな、その通りだ。何だ言っても、私たちはこれまで敵を退けてきた。この戦でまた随分、強くなったのかも知れん」
その間、ラハエルは、工兵の技能を生かし、防衛設備やブービートラップを用意する。敵が進攻してくるまでに、少しでも多く、と。
「オレはオレでやれる事やるさ」
彼が提出した防御設備案リストには、柵、塹壕、と、そしてブービートラップリストには地雷、とある。
それから、
「手榴弾いやがらせ」
これはラハエル特有のいやがらせトラップか……「安全装置を外し、レバーを握った状態で泥を被せ固定。足に当たったりして泥が取れると爆発するという寸法だ」
更に、
「ワイヤーいやがらせ。……進攻経路にワイヤーをピンと張り、行軍してきた敵が足を引っ掛けて転ぶというもの。ベタだが、な」ともあれラハエル製いやがらせトラップ2だ。
内側から、柵→塹壕→柵→地雷&手榴弾→ワイヤーという順で設置していく。
この最後のいやがらせトラップを作成しているときに……
「……来た、か? 何。船?」
東河の方が、騒がしい。
「水からか。ナマズ兵が来たか!」
河面に、まっ黒い幾つもの頭が出ている。どうやら、ナマズ兵だ。だが、注意がこちらに向いていない。
「船というのは……?」
ナマズ兵が攻めているのは、船……湖賊の船らしい。
「私たちの味方か。援軍を送ってきたのかも知れない。
ナマズ兵め、陣地を窺っていたところに、思いがけず私たちの援軍が来たので遭遇戦になったのだ。てぇぇー!」
河の方に、矢が射かけられる。
こちらにも、ナマズ兵が上陸してくる。ラハエルの組んだ柵が、それを容易にはさせない。しかし、どれほどの数だ。東の谷付近一帯の河に潜んでいたのだろう。
「我等の任務はこの地を死守することである。我等を侮る奴等に一泡吹かせてやれ!」
しかし、あの船……レーゼマンはどうしたものか、と思う。こちらが敵を引き付けるしかないか。
「敵部隊接近、構えっ!」
来い、もっと近付いて来るのだ……!
「狙いをつけろよ……ってぇー!」
「敵。河の方から来たか」
カルキノスは駆け下り、夏侯淵もすぐさま駆け付け、ルカルカらに合流する。
敵は多い。ラハエルの打ち立てた柵やトラップでかなり数を防いだが、白兵戦になるのも時間の問題。
船、か。一体誰が……
「ほえ? 真一郎さんの気配する」
「ルカ。どうした! 危ないぞ!」
急降下してきたカルキノスが、氷術で打ち破られそうな柵を強化する。乗り越えようとしていた数匹のナマズ兵は凍り付いた。しかしそれを乗り越えて、ナマズどもがうようよと陣地に侵入してきた。
「う、うん。大丈夫っ」
ルカルカが前に出る。いよいよ本領発揮だ。ダリルは後ろに下がって全体を見、ルカらに指示を出す。
最初に来た一団を、ルカルカがなぎ払う。
「来るか。まだ、まだっ」
これが戦女神の士気。兵らも気勢を上げると一気に敵兵に斬りかかっていく。
夏侯淵も、ルカルカに続いた。
「俺達が選んだお前達だ、必ず勝てる。堪えて守れ! そして戦おう。
訓練どおり冷静に戦えば、勝機も来る。
ここが落ちれば、最早後はないぞ!」
檄を飛ばすと、自らも敵に斬り込んだ。
レーゼマンのもとにも、うじゃうじゃとナマズ兵は寄ってくる。「お、おお。何という数だ。しかも、き、気持ち悪い。目眩がしそうだ」
敵指揮官を討ち取らんと我先にと。
だが、まだレーゼマンの前には、塹壕がある。
そこを登って来るナマズ……
「クロスファイア!」
レーゼマンの十字砲火が襲う。ギャァァァ。いい具合に焼けていく敵兵ら。
「射撃は私の本領でな……!」
ナマズ焼きか……食えんな。
「……く、何まだ来るか。一体どれだけ」
「レーゼマンさん」
ラハエルも、隣に並んだ。スプレーショットで撃破効率を上げつつ、援護射撃する。
「うむ。腕も確かなようだなラハエル・テイラー。
しかし、この戦い……守りきり、私たちも生き延びるのだよ」
船は……船に取り付いていたナマズらも数が減っており、こちらと分担できたおかげで、船も助かりそうである。暗がりの中で、船で戦っている者の姿までは見えないが、喚声や剣の響きは聞こえる。近付いてきている。
「真一郎さんの気配する……」
周囲のナマズをあらかた斬り刻み、川縁に近づいたルカルカ。
「真一郎さん……」
船の方で水しぶきが上がり、ぐんぐんと、こちらへ泳いで近付いてくる。
「真一郎さ」
水から上がってきたのは、一層きもいでかいナマズの大将であった。
「で、でか」
「鯰賊の将ナガクテイエナイナマズ(ながくていえないなまず)」
「名前、覚えておくね(というか、覚えたくない? こんな鯰……)」
ルカルカの振り上げたレプリカ・ビックディッパーがナマズを一刀両断した。
「ふゥ……」
戦闘は、終わったか。レーゼセイバーらが、ナマズ兵の死骸を突っついたりして、掃討している。「気を付けて。死んでるふりしてまだ、生きてるのがいる」
がし。ルカルカの足をしっかりと掴む感触があった。ぬめり……
「まさかね?」
「アッハァァ。鯰賊の将ナガクテイエナイナマズ。ルカ、また会ったネ。オレ、半分になっちまったけど。
貴様も半分にしてやろうか!!」
ナマズ大将の半身が起き上がった。巨大な牙がルカルカに迫る。
「きゃぁぁぁ」
「ルカルカ!」
水上をかすめて飛んできた剣が、回転しながらナマズの背に突き刺さる。
近付いてくる船の方でまた水しぶきが起き、誰かが飛び込んだようだ。こちらへ、近付いてくる。
「真一郎さん……!」
今度こそ、だ。
「ああ、ルカルカ。遅くなったな」
ずぶ濡れたままだが、真一郎はルカルカをしっかり抱きしめて、頭をなでた。
船も、ようやく陸に着ける。
船の上では、可奈がニコニコ(ニヤニヤ)とその様子を眺めている。
物資は、守りきった。
船から、道明寺、迦陵、騎狼を連れて一条アリーセらが出てくる。レーゼマン、ラハエル、ルカルカのパートナーたちは荷物を降ろすのを手伝う。
「物資の輸送。ご苦労である」
「ええ、レーゼマン少尉」
「ところで、この物資は……」
「ええと、さあ? そう言えば何が……」
ずっとルカルカと抱き合っていた鷹村が、歩いてくる。「そうでしたね。これは……」箱を開ける。
そこには、大量のチョコバーが入っていた。
「わあ♪」ルカルカはときめく。
「これ……全部、チョコバーですかな……」
「そうです」
「わあ♪」
「……」「……」「……」「……」「……」
*
さて、少しシーンが変わって、今度は
ルカルカが鷹村を"全力で抱き締める"シーンである。
何故シーンが変わったのかというと、さっきのドラマチックな展開が終わって、ルカルカはチョコバーに発狂し真一郎の名を呼び"喜びで・思わず・つい・即・全力で抱き締めた"。
どういうことかと言うと、ダリル曰く、
「ルカは外見と違い怪力(体育178)、筋力無いと軽く死ねる」
ダリルは冷静に分析したが、すぐ、
「物品(全チョコバー?)の移動を急げ。鷹村は手薄な部分を頼む。攻勢をかけるぞ!」
と言い何とか"死の抱擁"を終らせることに成功した。
鷹村、「…………はぁ、はぁ。…………はぁ、はぁ」
「愛も命がけだな」ダリルは苦笑してみせた。
*
補給物資を無事、届け終えると、各人が移動していく。
道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は、
「それがしは、言った通り、前線の方へ向かわせて頂きます」
「私も」
「迦陵? あなたも。では、ご一緒に」
鷹村は、ルカルカのもとへ、つまり東河船着点へ残る。
「ギズムのやつ。来なかったか……(いや、時間はかかるけど、と言っていた。信じるしかない)」
アーシャは、船にて待機。
一条アリーセ(いちじょう・ありーせ)は、騎狼に乗って辺りを見回っていたが、先ほどから姿が見えなくなっている。
道明寺はレーゼマンに問うたところ、前線ではすでに戦端が開かれ、二つの山のうちテング山を落とすと主力部隊が前線に、いま一方の山テント山にも部隊が向かった、という。
道明寺、
イルマ、
迦陵(か・りょう)、
マリーウェザーらは四人でそこまで向かうが、その間にはとくに敵は出現することはなかった。おそらくこの道の敵はすでに一掃されているのだろう。
間もなくすると、前線に向かった主力部隊の後方と思われる隊に接触する。
聞けば、先ほど一戦交えたが、敵指揮官ジャレイラとこちらのイリーナの一騎打ちの後一度双方兵を退いた状態なのだという。
「ほう……ではこれより、決戦というわけですな。ちょうどいい」
迦陵は、待機する前線部隊の陣中を歩き回った。
そこで迦陵は、金住少尉と出会う。「? どうされたでありますか……」
「あ、あの」
「え。あ、自分ではなく、レジーナにでありますか」
レジーナは、戦乱の中において目覚めた自身の力を自覚し始めていた(実際には別シナリオ)。
「戦乱の中、各地で神子が現れていると聞きます」
「神子……」
「だとすれば、黒羊郷を中心とし、今まさに起きている戦乱の中からも神子が現れるのでは(神子プロファイルより)と……あなたは」
迦陵は、閉じた瞳でじっと見つめる。
「この地で神子が現れたなら、戦乱を終息に向けさせることはできないのでしょうか」
「だけど、……」
レジーナは、自身がそうであることに気付いていた。しかし、あのとき踏みとどまってしまったけど、神子の力を使うことによっても、あのジャレイラは止めることはできなかったのでは。この戦乱を終わらせることは……
南部戦記。この戦乱とは一体。