リアクション
◇第III部◇ 第5章 水軍 東河を上る教導団・湖賊連合水軍。 第四師団の水軍の指揮を担うローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、ブトレバ沖(やや南方)に船団を待機させた。その兵数は、500程。(ローザマリアは更に、湖賊に人員の派遣を要請。) ローザマリアは、湖賊の首領シェルダメルダ(しぇるだめるだ)と話し合い、このブトレバ沖を戦場と定める提案を行った。 西より、湖賊、ローザ本隊、セオボルト隊の順に布陣する。 各艦は、河の流れの緩やかなブトレバ沖でゆったりと揺れていた。今は、戦の合い間…… また、この間に、前回激戦をしその主力艦隊を沈めたブトレバへの交渉も行わねばらなかった。(ブトレバは現在、黒羊郷から攻めてきた独立勢力プリモとの交戦状態にある。) ローザマリアは、ブトレバの勇将カピラの遺体を納棺した上で弔銃を撃ち(ローザマリアによると斉発三回の海軍式)、礼を尽くして丁重に扱い、それを捕虜に引渡しブトレバ本国へと送還させた。このとき、捕虜の手には、ブトレバ首脳への親書も渡された。そこには、こう記してある。 「南部諸国-ブトレバ間、及び教導団・湖賊-ブトレバ間に停戦協定と、新たに相互安全保障条約の締結を持ちかけ、黒羊と手を切って停戦に応じれば、主権は保障する」と。 5-01 水上砦 教導団水軍に加わった【黒豹小隊】は、水上砦へと一戦交えに(ちょっかいを出しに?)向かった。 夜陰に紛れ、二艘の黒色塗装の船が静かに河面を進んで行く。 「前回も言ったが、このおまじないは、かつてオルレアンの少女が……」 アルチュール・ド・リッシュモン(あるちゅーる・どりっしゅもん)は、再び船員に言って聞かす(ディフェンスシフト)。 黒豹小隊の副官ジャンヌ・ド・ヴァロア(じゃんぬ・どばろあ)の船だ。 ロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)の船には、彼のパートナーアデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)の他に、船首に設けられた機関銃座にニャイール・ド・ヴィニョル(にゃいーる・どびぃにょる)が同船している。(ルノー ビーワンビス(るのー・びーわんびす)の姿が見えないが、船の上にいないのは勿論のこと、彼女の能力を生かすには水上戦より、と岩城に向かわせたのである。) 「我らはジャンヌ副官の上陸を支える重要な役回りだ! 気合を入れていくぞ!!」 闇の中に浮かぶ、水上の要塞が見えてくる。 黒羊郷への水路の最後の難関だ。 ほぼ、完成が間近であり、残る一角の工事を終えれば、一隻の船をも通さない巨大なダム状の要塞として水軍を阻むであろう。 「では全軍、静かに強襲するぞ!」 ジャンヌが手をすうと挙げる。「(あの要塞の工事を少しでも遅らせることができれば、それが次の段階への布石になる。そう信じて)」 ジャンヌの船が、静かに河面を進行していく。 「300から400メートルの射程だな……よし。援護射撃、行くぞ!」 ロイが手を挙げる。「要塞警備の、かがり火を中心に狙いを付けろ」 砲撃が開始される。 「敵襲! 敵襲ー!」 砦は夜警も万全だ。 「にゃんこ、弾ッ!」 ロイの言うのに、目つきの悪いにゃんこ一匹、 「オレ、アデライードが好き……男に仕えない!!」 「お、おい! へそ曲げるなーっ! こんな時にぃぃ」 戦闘中、にゃんこに埋もれてしまっているアデライードに、ロイはお願いする。「た、頼むぜ〜アデライード……」 「う、ん、っ」膝枕するにゃんこ(もふもふ)、「わかりましたよ、っ」腰に抱きつくにゃんこ(もふ、もふ)、背中に覆いかぶさる「にゃんこ、っ」(もふもふ、) 「弓を構えて!」 アデライードの号令に、にゃんこが凛と動き出す。 斉射後きっかり20秒、要塞の真上で、矢の首にかけてあった閃光弾の強烈な光が降り注ぐ。 ニャイールも援護射撃を続け、叫ぶ。 「にゃんこ隊! 弓構えっ、撃てぇぇぇ!!!」 砦側からも、火矢が、次々と、射かけられてくる。黒色塗装の船だ、こちらを特定はできまいか……。 その間、ジャンヌたちの船は、砦の物資搬入路を探していた。 頭上を、あまた火矢が飛んでいく。援護射撃のおおよその位置に狙いを付け、撃ち込んでいるらしい。こちらへは飛んでこない。 「っつ、火の粉が……しかし、それにしても」 入口や門にあたるような箇所は一切見あたらず(閉じられ)、砦の壁は河面から高く垂直にそびえているばかりだ。 西の一角は工事中であり口が開けている。 「水路からの強襲が叶うのは、あそこのみか? どう攻める?」 工事中の開けている口から、何かどす黒い大きなものがにょっと顔を出した。 「……?」 黒トロルの頭だ。 「うっ、な、何だ!」 ジャンヌは、すかさずハンドガンを抜く。 太い腕がいきおいよく伸びてきて、ジャンヌの体を掴みにかかった。 アルチュールが乾坤一擲の剣を振り下ろし、トロルの腕を斬り落とす。 そのとき…… 水上要塞の付近一帯に、背筋の凍りつくような妖気が立ち込め始めた。 東河ノ水ヨ、我ノ魔法ノ言葉ニ耳ヲ傾ケ、今少シバカリ力ヲ。貴女ヲ侵ス邪悪ヲ沈メル為…… 頭上の方で、呪文が呟かれた。 砦に配属された恐るべき氷の魔術の使い手パラミム(ぱらみむ)が笑う。 東河の水がうねりを見せ、波立ち、すると波が刃となって、船に襲いかかった。ジャンヌの船が、半壊する。ジャンヌらはかろうじて後退し、近付いてきたロイの船に引き上げられ、撤退していった。その間も、容赦なく火の矢は浴びせられた。 |
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