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第12章 天国と地獄

「ついにハムーザがみつかったか。だが、まだダークキッコウがいる! 俺たちも縛られたままだ!」
 ナガン ウェルロッドは「キッコウの縛り」からまだ解放されていない状態で、直立して吠え声をあげるダークキッコウに顔を向けて嘆いた。
「ぶきー!! この際ダ!! 全員ぶっ殺す!! 魂の底から汚れてしまった連中は、こうするしかない!!」
 ダークキッコウは沼地をゆっくりと進みながら、生徒たちを追いまわし、巨大な足で踏みつぶそうとしていた
「このままでは、やられる!!」
 ナガンが叫んだとき。
「まだまだ、荒野の蛮族たちの力はここで打ち止めじゃないよ!」
 ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)がダークキッコウに向かって駆け出していた。
「ナガンちゃん! 闘ってるのはあんたの仲間だけじゃないの!!」
「なるほど。さすがパラ実! 心配したナガンがバカだったぜ!!」
 ヴェルチェの言葉に、ナガンはあっさり納得。
「がんばって下さいませ、ヴェルチェ様!」
 秋葉たちの応援の声が、ヴェルチェの背中を押していく。
「ハムーザちゃんが救出されたおかげで、心おきなく闘えるよ!! あたしは、あのカメのお腹の中に眠っているという、貴重な宝石が目当てなの!!」
 ヴェルチェは両手を腰に当て、上体を屈めて下から斜め45度の角度で舐めあげるようにダークキッコウを睨みつけ、右足を半歩前に踏み出した!!
 ぐりぐり
 ドラゴンアーツの応用で、右足が沼地の泥の下の堅い地面にめりこむほど踏みしめられる。
「ぶきー! キサマのようなチンケな人間は、さっさと踏みつぶしてくれるわー!!」
 ダークキッコウがヴェルチェに吠える。
「あぁぁぁん!? あたしに楯突こうなんつーのは宇宙級を通り越して異次元クラスのマキシマム馬鹿? あんたの脳みそ、一年放置されてグズグズになった熟れ過ぎトマトみたいに腐ってンじゃないの? その日陰の黒ナスみたいなショッボイ頭ごとグリグリにすり潰してナラカのクソ豚どもに食わせてやろうかしら!?」
 ちゅどーん!
 ヴェルチェの気迫にこたえるかのように、ダークキッコウの身体のあちこちから爆発が起きる。
「うおお!! 気迫が上がっているな!! だが負けんぞ!!」
「あたしも、負けない!!」
 ヴェルチェは直立したダークキッコウの背後にまわりこむと、ドラゴンアーツの蹴りを叩き込む。
「どあー!」
 叫ぶヴェルチェ。
「ぶきー!」
 天に向かって吠え、ヴェルチェを踏みつぶそうとするダークキッコウ。
 恐るべき毒ガメと生徒たちとの最終決戦の幕が切って落とされていた!
 
「さーて、あたしもそろそろ宝石ゲット狙わないとね」
 ヴェルチェとダークキッコウとの闘いを間近にみながら、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が戦闘準備を整えた。
「あたしもハムーザの救出が終わるまでは控えようと思っていたから。ここまできて、ヴェルチェにお宝とられたんじゃたまらないね」
 アサルトカービンを構えて、セレンフィリティはダークキッコウに向かっていく。
「ぶきー! キサマ、文明の利器を闘いに使うとは! 文明は悪だと、何度もいってもわからない、どうしようもない愚か者だな!」
 ダークキッコウはセレンフィリティに牙を剥いた。
「はあ? 文明は悪? 文明を破壊する? プッ! な〜にダサいこと抜かしてんだか。あんたらただ単に物壊したい、誰かをぶっ殺したい、オレ様の強さをみせつけたい、そういうガキ臭いオナニープレイを他人にみせつけて一人でヨガってるだけじゃん! 安っぽいAVじゃあるまいし、それみても全然イケねぇんだよ! あー臭ぇ臭ぇ!! 程度低すぎ!!」
 セレンフィリティはアサルトカービンの照準をダークキッコウに合わせた。
「てめぇが魂汚れてんのは他人のせいじゃなくて端から汚れきってるんだろうが? 他人のせいにする時点ですでにてめえはもう負けてんだよ!! 何やっても無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁぁ! 負け犬は負け犬らしくとっとと泥ン中で一生引きこもってそのまま化石にでもなっちまえ!! てめーは百万年経っても絶対あたしらには勝てねえんだよこの根暗エロ亀野郎が!!」
 ズキューン!
 シャウトし終わると同時に、セレンフィリティはアサルトカービンの引き金を引き絞っていた。
 ドゴーン!!
 すさまじい気迫のこもった弾丸がダークキッコウに炸裂すると、すさまじい爆発が起こる。
「ぐわああっ」
「うわー逃げろー」
 思わずよろけたダークキッコウに踏みつぶされまいと、逃げ惑う生徒たち。
「なかなか装甲が厚いね!」
 セレンフィリティは突進すると、ダークキッコウに攻撃を続ける。
「セレンフィリティは相変わらず血の気が多いわね。でも、いってることには私も同感だわ」
 セレンフィリティのパートナーであるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)もダークキッコウに立ち向かっていく。
「ぶきー! さっきからチクチクとうるさい人間どもだ! 本当に最低だな! 文明人というやつは!」
「何をいってるの? あなた、もうおかしいわ」
 セレアナは冷たく言い放った。
「逆恨みというより、一人よがりだわ。誰も共感できない理由で復讐をして、何の正当性を主張できるのかしら? セレンのいうとおり、自分の不幸を結局ほかのもののせいにしてしまうなら、いつまでも経っても私たちに勝つことはできないわ。もういいわ。あなたが自分で自分を見切れないなら、私たちがあなたを見切るわ。もうしゃべらないで。声も聞きたくないわ」
 言い終わると、セレアナはダークキッコウに駆け寄り、その巨大な足にランス突き立てた。
 ちゅどーん!
 セレアナの気迫のこもった一撃の影響で、爆発が起きる。
「ぶきー! おのれ、ちょこまかと」
 ダークキッコウは動きながら攻撃を仕掛けるセレンフィリティとセレアナを、忌々しげに睨みつけた。
「セレンフィリティちゃんとセレアナちゃん! お宝を頂くのはあたしだからね!」
 ヴェルチェ・クライウォルフがダークキッコウの後方から攻撃を仕掛けながら、セレンフィリティたちに叫ぶ。
「どうかしら。勝負は常に、実力のある者が勝つのよ! 文句があるなら早い者勝ちということで! お互い、せこい妨害はしないで、熱くいきたいわね!」
 セレンフィリティはヴェルチェにまさるとも劣らぬ勢いで叫び返すのだった。

「よし、いまこそ勝機だ! 行くぞ!」
 生徒たちの攻撃を受け、ダークキッコウの動きがかたまっているのをみると、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はすかさず進撃した。
「聞け! 衣服とは、理性ある者として、ヒトには欠かせないものだ! それは、文明云々以前の、心ある存在であることの証明! それを悪しきものとみなし、排そうとするならば! 滅ぶべきはダークキッコウ、貴様だぁぁっ!!」
「何をいう! 貴様らは私の心の傷を知らずに何も語る資格はないのだぁぁぁ!!」
 ダークキッコウは、血の涙を流して叫んだ。
 その脳裏に、生前人間に虐待を受けたときの記憶がエンドレスで流れる。
(カメ、死ね! 割っちゃえー!)
(遅いんだよ、のろま!)
 人間たちに吐きかけられた、心ない言葉の数々。
 ダークキッコウと人間たちとの信頼関係は、グズグズに崩壊していたのだ。
「もう語ることはないはずだよ! あたしたちは、いまはもう、ただあんたを討つ! 自分の主張を貫きたいなら、勝ってみな!」
 ヴェルチェ・クライウォルフはドラゴンアーツの数々の技をダークキッコウに決めながら叫ぶ。
「何が正しいかなんて! 本能で考えればすぐわかるはず! いまの自分の体たらくをみつめ直してみな!」
 セレンフィリティ・シャーレットがアサルトカービンをダークキッコウの首筋に向けて引き金を絞りながら叫ぶ。
 ぴきぴきっ
 闘い続けるダークキッコウの背後で、乾いた音が響く。
「ぶき? しまった、ひっくり返ったときに、ひびが入ったか! これが奴らの力か!」
 ラルクたちに叩きこまれた精神エネルギーによるダメージが、いまになって甲羅にきたようにダークキッコウは感じた。
「くっ、甲羅のひびから、力が、抜けてイク……」
 どーん
 マイナスエネルギーの拡散を感じたダーウキッコウは、ついに膝をついた。
「よーし、行くぞ! ダークキッコウ! いまのお前を狂わせている核心を、俺はつく!! ギラギラ、ゴー、グオー!」
 エヴァルトは両の拳を組み合わせて、呪文のような言葉を唱えた。
「くらええええええ」
 両の拳を突き出したまま、絶叫をあげながら、エヴァルトは突進した。
「うわ、すごいエネルギーだよ。あたしたちも巻き込まれちゃう」
 エヴァルトの特攻のすごさに驚いたヴェルチェ、セレンフィリティ、そしてセレアナがさっと身を引く。
 ガシィッ!!
 エヴァルトの両の拳が、直立して膝をついていたダークキッコウの腹部に打ち込まれた。
「とああああああ!」
 エヴァルトはそのままダークキッコウの体内から、不気味に光り輝く宝石ウォーマインドを引きずり出す。
「みろ! これがお前を狂わせていた元凶だ! お前は、本来決して凶暴な生き物ではなかったはずだ!」
 ウォーマインドをたかだかと掲げて、エヴァルトは叫ぶ。
「ぶ、ぶっきいいいいぎゃああああ」
 ダークキッコウが、断末魔の叫びをあげた。
 しゅわあああああ
 核を失ったことで、恐るべき毒ガメの巨体から、みるみるうちにマイナスエネルギーが抜けていく。
 ダークキッコウの体格は矮小化してゆき、ついに一般的なカメのサイズにまで戻っていった。
「ぶき? これは……私は、力を失ったのか」
 ただのカメとなったダークキッコウ、いや、カメ吉(元の名)は、がっくりとうなだれた。