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学生たちの休日4

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学生たちの休日4
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リアクション

 
 
1.キマクの史書
 
 
「シャンバラ建国はなったものの、東西に分裂でござるか……」
 椿 薫(つばき・かおる)は、闇龍のいなくなった空を見あげながらつぶやいた。
 はたして、払った代償の大きさを理解している者が何人いるのであろうか。それは、自分をも含めてのことだ。
「なくした物を数えるのは簡単でござるが、これから手に入る物を数えることはできるのでござろうか……」
 その答えは、一人で出すよりも、なるべくたくさんの仲間たちと共に出した方がいい。そう考えた椿薫は、各町を順に巡っていこうと考えていた。
 空には、戻ってきた星がまだ瞬いている。椿薫は小型飛空艇に飛び乗ると、キマクを出発した。
「おやおや、また元気なのがいるねえ」
 自分の飛空艇の上で寝転んでいた神戸紗千が、小型飛空艇のエンジン音を耳にしてつぶやいた。
 彼女の飛空艇は、つい先日、大量の避難民輸送で酷使したばかりだ。しばらくは、遠出は控えようと考えている。
 しばらくして、圧倒的な太陽の力で消えていく小さな星々を惜しみながらも、沈まぬ太陽はないのだと、神戸紗千は静かに思った。
 
 
2.ヴァイシャリーの家書
 
 
「ここがお外でございますかあ」
 高務著 『黒歴史帳・第参巻』(たかつかさちょ・くろれきしのおとぼりうむさん)が、まぶしそうに青空を見あげた。
「ちょ、ちょっと。やっぱり、そんなに珍しいわけなんです?」
 あわてて後を追いかけてきた高務 野々(たかつかさ・のの)は、息を切らせながら訊ねた。
「ええ」
 にこやかにうなずきながら、高務著『黒歴史帳・第参巻』がすたすたと百合園女学院の寮から外へと歩みだして行く。
 魔道書の解放以来、あちこちで普通の本とか走り書きされたノートまでもが魔道書化していくと聞いてはいたが、それは、パラミタらしいでたらめさだとしか高務野々は思っていなかった。
 本という物は、それに込められた念や思いが強いほどに一つの存在へと昇華していくのだろうか。
 それはそれでいい。誰かが研究すればいいだけのことだ。けれども、まさか、それが自分の身に起きようとは、高務野々は想像もしていなかった。さらに、それが自分の黒歴史を綴ったノートだとしたらなおさらだ。
「今まで、部屋の中から出たことはありませんでしたから。光のあたる場所に出たと思っても……」
「わーわー!!」
「……や、……」
「ぎゃー!!」
「……としか書いてもらえなくて、その後すぐにまた引き出しの奥にしまわれてしまいましたから。あら、おみ様? どういたしました?」
「はあはあはあ……。うーん、ピンチです」(V)
 高務野々は魂の叫びでピー音代わりを努めると、ぜいぜいと荒い息をしながら肩を上下させた。
「いいこと、絶対にあなたの名前を人に言ってはだめですよ」
「えー、どうしてでございますか?」
 釘を刺された高務著『黒歴史帳・第参巻』が、少し淋しそうに黒目がちな目を高務野々にむけた。こうしていると、まるで日本人形そっくりだ。まさに、黒髪の儚げな美少女という言葉が似つかわしい。
 ちょっと癖っ毛なのをいつも気にしていて、ついバタバタとあることないこと口走ってしまう高務野々本人の、それが自分の理想像だとは口が裂けても言えない。まさに黒歴史。言ったら、絶対に自分とくらべられるに決まっている。それは耐えられなかった。理想と現実はくらべるものではない。
「わたくしは、やっぱり、おみ様の目にあまり触れていない方がよろしい存在なのでしょうか……」
 淋しそうに言いつつ、高務著『黒歴史帳・第参巻』が二、三歩歩いたとたん前のめりになった。
「あっ……」
 そのままつんのめって倒れかかる。
「ちょっと、なんで倒れるんです!」
 高務野々が、自分の本体であるノートをしっかりかかえたままの高務著『黒歴史帳・第参巻』をぎりぎりのところでだきとめた。
「すみません、おみ様。ちょっと目眩が……」
 いくらずっと隠していたからって、外に出たとたんに力尽きて倒れかかるだなんて……。儚い、儚すぎるぅ。
「わたくし、いろいろと薄いですから、ちゃんと立てないんです」
 それは、薄っぺらいノートなんだから、支えもなしに立てておくなんて芸当はできないだろうけれども。それよりも、いろいろと書き連ねられた本体であるそのノートをかかえたまま行き倒れられでもしたら……最悪だ。
「ほら立って。外を見て回るんでしょ。私と一緒にいろいろ見て回りましょう」
 高務野々は、高務著『黒歴史帳・第参巻』をしゃんと立たせて言った。
「一緒に……いいのでしょうか?」
「もちろんです。ほんとーですよ。だって、あなたは、私なんですから」
 高務野々の言葉に、高務著『黒歴史帳・第参巻』が極上の笑みを浮かべた。思わず、高務野々は顔を赤らめてしまう。
 ――落ち着け、私。
 やっぱり、一番くらべているのは高務野々自身だった。さすがに、慣れないだろう自分を見ているのはつらい。けれども、目を離したらとんでもないことに……。うー、ジレンマだ。
「あら、こんにちは、野々ちゃん。そちらは誰です?」
 ばったりと出会ったヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、ごく自然に挨拶をしてきた。
「御丁寧にありがとうございます。わたくし、たかつかさの……」
「わん!!」
 自己紹介しようとする高務著『黒歴史帳・第参巻』に、高務野々が突然叫んでピー音を入れた。
「ど、どうしました……」
 思わず、ヴァーナー・ヴォネガットが一瞬で三歩分飛び退って訊ねた。
「い、妹です。新しくできました。本当ですよ」
 とっさに嘘をつく高務野々に、ヴァーナー・ヴォネガットがちょっと首をかしげた。だが、まあいつものことだ。
「そうですか。よろしくお願いしますね」
「お願いいたします」
 お辞儀するヴァーナー・ヴォネガットに、お辞儀し返そうとして、高務著『黒歴史帳・第参巻』が貧血を起こしてぐらりと後ろに倒れかかった。あわてて、高務野々が後ろから支えて難なきを得る。
「仲がいいんですね」
 顔をあげたヴァーナー・ヴォネガットが、だきあう二人を見て勘違いする。
「じゃあ、ボクはこれで」
 邪魔しては悪いと、ヴァーナー・ヴォネガットはその場を立ち去っていった。
「い、生きた心地がしない……」
 まさに倒れたいのはこちらだとばかりに、高務野々が大きく息をついた。
「すみません、おみ様。やはり、わたくしは……」
 そう言う高務著『黒歴史帳・第参巻』に、高務野々は少しかがみ込んで背中をむけた。
「えっ?」
 そっぽをむかれたのかと瞬間勘違いした高務著『黒歴史帳・第参巻』が、少し言葉を詰まらせる。
「ほら、早く乗りなさい。外を見てみたいのでしょう?」
 そう言って、高務野々は、高務著『黒歴史帳・第参巻』をうながした。
「は、はい。おみ様」
 高務著『黒歴史帳・第参巻』をおぶうと、高務野々はてくてくと歩きだした。
「嬉しいです。わたくしはおみ様の黒歴史であ……」
「言うなあ!!」
 てくてくと歩きながら、高務野々はまたもや叫ぶのだった。