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学生たちの休日4

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学生たちの休日4
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    ★    ★    ★
 
「ぶちょー、こちらが、見学希望者のジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)さん。ジーナ、こちらがイルミンスール生物部の鷹野 栗(たかの・まろん)部長」
 生物部の部室で、七尾 蒼也(ななお・そうや)が、ジーナ・ユキノシタと鷹野栗にそれぞれを紹介した。
「あら、いらっしゃいませ。私が部長の鷹野栗です。お噂は、七尾蒼也さんからかねがね」
 緑色のエプロンドレスを着た鷹野栗が、歓迎する。
「あっ、はい。ジーナ・ユキノシタと申します」
 鷹野栗にぺこりとお辞儀してから、どんな噂だったのだろうかと、ジーナ・ユキノシタはちょっと考えた。
「それから、むこうで片づけ物をしているのが、私のパートナーの羽入 綾香(はにゅう・あやか)。そして、そこにいるのが生物部の大切なペットの雌狼のミヤルスと、雄猫のミケです」
 鷹野栗に紹介されて、ミヤルスの頭の上にだらりと乗っかったミケがみゃーっと御挨拶した。
「うちの子のシンシアと、リヨンです」
 ジーナ・ユキノシタが、かかえたティーカップパンダと腕に巻きついた蛇を紹介する。
「ゴーレムのビスマルクと、虎のポンカと、猪のタロは外の動物舎においてきています」
「大きい子は、なかなか中に入れられないですからね。でも、そのために、部室以外に、世界樹の幹にくっつく形で動物舎を作ってもらいましたから。生物部の部員以外でも利用する人は多いんですよ」
 大型のペットは外においてきたというジーナ・ユキノシタに、鷹野栗が生物部の施設を説明した。部員も増えたので、それなりの部屋を割り当ててもらっている。
「動物舎へはまた後で行くとして、ユニコーンも見てもらいたいからなあ。でも、今日のメインはやっぱりロック鳥の卵だぜ」
 ちょっと自慢げに、七尾蒼也が言った。以前手に入れたロック鳥の卵は、彼らによってなんとか保護され、現在は生物部の預かりとなっているのだ。
「羽入、もうそっちには行けて?」
 鷹野栗が確認する。
 なにしろ、部室を散らかす者が人間動物問わずに多いので、片づけ担当の羽入綾香の苦労は大変なものだ。
「もう大丈夫じゃ、栗。孵卵部屋への道は作ったからのう」
 羽入綾香が、顕わになった隣の部屋へのドアを示した。
「じゃあ、行こうぜ」
 七尾蒼也がジーナ・ユキノシタの手を引っぱった。瞬間、えっとなったジーナ・ユキノシタだったが、かろうじて手を引っ込めるのを思いとどめた。そのまま、手を引かれるままに扉をくぐる。
「わあ、凄い」
 少し暑い室内の中央に、厚い敷物の上におかれた卵があった。長径は一メートルを超えるだろうか。
「順調に育っているとは思うんだけれど、なにしろ、ロック鳥を飼育した記録がここにはないから、結構大変なのよねえ」
 卵の表面を撫でながら鷹野栗が言った。この飼育記録その物が、貴重な資料となるのは間違いない。
「いつもは気がむいたときしかこの部室には来ないんだが、ちょっと最近はこいつが気になって足繁く通っている……ってところかな。なにしろここはアットホームな雰囲気なんで、自由に好きなときにやってくればいいというわけなんだ」
「で、好きだから毎日来るというわけね」
 自慢げに言う七尾蒼也に、鷹野栗が突っ込んだ。
「いいことじゃないかのう。ついでに掃除もしてくれれば助かるのじゃが」
 さらに、羽入綾香が突っ込んだ。だが、これはどちらに対してなのだろうか。
「お掃除ですか。得意とまでは言いませんが、私は好きですよ」
「そりゃいいや。よかったら、気がむいたときにちょくちょく遊びに来ないか。ここの入り口は、いつでも開かれているから」
 ジーナ・ユキノシタの言葉に、七尾蒼也が彼女を生物部へと勧誘した。
「そうですね、七尾先輩……がそう言うのでしたら……」
 おずおずと、ジーナ・ユキノシタが答える。
「それなら、もっと生物部をよく知ってもらわなくちゃ。さっそく、外の動物舎にも行ってみましょう。羽入」
「ちょっと待ってくれんか、今、外に出る道を作るからのう」
 鷹野栗に言われて、羽入綾香はガラクタを掘り起こしながらそう答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「どうぞ、校長先生。お茶が入りましたぁ。2020年物のビンテージダージリンですぅ」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)が、淹れたての紅茶を、校長のデスクの上においた。
「うーん、いい香りですぅ」
 校長用のどでかい椅子に沈み込むようにして座ったエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が、ワルプルギス家の家紋を刻んだ専用のティーカップを手にとって、満足そうに目を細めた。
「それで、なんの話だったですぅ?」
 エリザベート・ワルプルギスは、校長室に詰めかけた生徒たちを前にして話を元に戻した。
「これなんだが、一人で研究する予定だったが、どうにも芳しくないのだ。ここは、ぜひ校長に御意見をいただこうと……」
「ふーん……ですぅ」
 エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)がデスクの上においたドラゴーレムの腕を見て、エリザベート・ワルプルギスがちょっと眉根を寄せた。紅茶のカップを避難させるように横に寄せる。
「ドラゴーレムねぇ」
 すでに、エリザベート・ワルプルギスはあまり興味がなさそうだ。
「すまないが校長、捨てるなり役立てるなり、適当に処置を頼む」
 エリオット・グライアスがなおも頼み、処理をエリザベート・ワルプルギスに一任した。
「そうですかぁ。じゃあ、ぽいですぅ」
 そう言うと、エリザベート・ワルプルギスは容赦なくドラゴーレムの腕を放り投げた。
「ああっ」
 ころころと転がったドラゴーレムの腕が、部屋の隅でおとなしく本を読んでいたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)の前で止まる。
「ゴミですか?」
 『世界樹の夏の甘味処特集』と表紙に書かれた雑誌から顔をあげて、ノルニル『運命の書』が訊ねた。
「そうですぅ」
 エリザベート・ワルプルギスに言われて、ノルニル『運命の書』が神代明日香に生ゴミですとドラゴーレムの腕を渡した。ドラゴニュートの遺伝子を使っているというふれこみの腕は、保存状態はよかったとは言え、さすがに一部腐りかけている。
「ぐあっ、校長、それはないだろう」(V)
 唖然としていたエリオット・グライアスが、エリザベート・ワルプルギスに噛みついた。
「失敗作なんて、研究したってきっと無駄に終わるですぅ。量産化された改造ゴーレムにはドラゴンアーツのスキルが装備されていないことを見ても、明らかに失敗作ですぅ。だいたい、こういうことは、制作者であるラウル・オリヴィエ博士に聞くのが筋というものですぅ」
「それが、なかなか博士が捕まらなくて……」
「だったら、ノーム教授とか、そのへんの好き者に聞く方がましですぅ」
 エリザベート・ワルプルギスはにべもなかった。こういった物の研究は、それなりにマッドな施設がなければだめであろう。
「はいはいはい、邪魔ですよ。次は私よ、私」(V)
 なおも食い下がろうとするエリオット・グライアスを、風森 望(かぜもり・のぞみ)が押しのけた。
「私が御提案したいのはこれです。えっへん」
 そう言って風森望がデスクの上においたのは、お手製の等身大の小ババ様人形と着せ替えセットだった。
「小ババ様騒動の際に保護・拉致に回った人数から考えまして、小さくてかわいらしい小ババ様にはマスコットとしての魅力があることは自明の理です。こちらのフリップをご覧ください」
 そう言って、風森望は用意してきた資料を広げて説明を始めた。
「これは小ババ様の等身大ぬいぐるみの売上予想図です。この収益は各種設備への投資にも利用できます。またマスコットによるイメージアップにより、蒼空学園への入学者をこちらに引き入れることも可能かと」
 自信満々に、風森望はまくしたてた。
「なぜ、小校長様人形じゃないのですぅ」
「へっ?」
 エリザベート・ワルプルギスの予想もしない言葉に、風森望が固まった。
「そんな人形よりも、小校長様人形の方が万倍もかわいいのですぅ!」
 アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)へのライバル意識をむきだしにして、エリザベート・ワルプルギスが叫んだ。
「しまった、プレゼンする人選を誤った……」
 プレゼンするなら、アーデルハイト・ワルプルギスその人にすべきだったのだ。だが、エリザベート・ワルプルギスの知るところのものになった今となっては、妨害は必至だろう。
「ふっ、御苦労だった」
 諦めろと、エリオット・グライアスがポンと風森望の肩を叩いた。
「すみません、アーデルハイト様と小ババ様はこちらにおいででしょうか?」
 納得できていない三人がまだギャアギャアやっているところへ、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が現れた。
「あら、小ババ様……いえ、お人形でしたか」
 デスクの上の小ババ様人形に目をとめたフィリッパ・アヴェーヌが、一瞬ぬか喜びをして言った。
「百合園の生徒がなんの用なのですぅ。大ババ様は、ここにはいないですぅ」
「そうですか。では、お土産をおいていきますので、よろしくお伝えくださいませ」
 持ってきた箱と手紙をおいていくと、フィリッパ・アヴェーヌは校長室を後にしていった。
「あらまあ〜。なんでしょう、これぇ」(V)
「開けてみるのですぅ」
 エリザベート・ワルプルギスに言われて、神代明日香が箱を開けてみた。中から、シャンバラ山羊のミルクで作られたカップアイスが出てくる。
「こ、これは。よし、みんなで食べるですぅ。これで仲直りですぅ」
 エリザベート・ワルプルギスが、キランと目を輝かせて言った。
「でも、これは大ババ様と小ババ様へのお土産なんじゃ……」
「いいのですぅ。どうせ、大ババ様は、今はアイスクリーム禁止の刑の真っ最中なのですぅ。さあ、遠慮なく食べ尽くすのですぅ」
「わーい、アイス、アイス!」
 エリザベート・ワルプルギスの言葉に、ノルニル『運命の書』が急いで駆け寄ってくる。
 というわけで、アイスクリームは欠片も大ババ様の口には入らなかったのであった。