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リアクション
8:苦戦――そして反撃
「くっ、シュヴァルムを組んでいても手強いな」
『Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! Hei-a ha! Hei-a ha!』
昇がワーグナーをバックにそうつぶやく。
敵の練度はこちら4機に対して敵が1機と言った割合だった。
隊長機1機に対して量産機3機で同じくシュヴァルムを組んでいる敵と相対した時には、1機を倒し、そのかわりこちらが小破から中破の損傷を追うということがパターンとなっていた。
『Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! Hei-a ha! Hei-a ha!』
「こちら天司 御空。支援が必要な機体はいるか? こちらはコームラントだ。イーグレット、支援が必要なイーグレットはいるか?」
「こちら月夜見 望。支援を求める」
「了解。他にいないか?」
「こちら設楽カノン。あたしも支援をお願い」
「僕は山田 桃太郎! 美の女神に愛されてしまった罪な男さ! さぁ、僕の美に酔いしれると良いよ!」
ピンクの長髪という派手な山田 桃太郎が支援を求めているのかそうでないのかわからないことを言う。
パートナーの青い髪を頭の横で一本にまとめた不良っぽい少女のアンナ・ドローニンは頭を抱えて、怒鳴った。
「頭のネジを閉めろ桃太郎。こちら山田機。こちらも支援を求める」
そしてフォローを入れた。
『Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! Hei-a ha! Hei-a ha!』
「了解。敵の練度は高いから隊長機がやられたあの部隊を狙おう。それじゃ、支援射撃いくよ」
そしてコームラントからの支援射撃が飛び、望とカノン、桃太郎が敵に突っ込む。
望と桃太郎がビームライフルでさらに牽制している間にビームマチェット(ナタ)をもったカノン機が突出する。
「あっはははは、死になさいな」
カノンはイコンを文字通り手足のように器用にイコンを動かすと、マチェットでシュメッターリングをバラバラに壊した。
「くそ、よくも!」
鏖殺寺院兵が反撃してくるがカノンは余裕でそれを回避すると戦場を離脱する。
「なんでカノンは一人であそこまで効率よくイコンを動かせるのかしら? たとえ強化人間だとしてもあそこまで……」
奏音が抱えた疑問は、だが次の戦闘によって霧散した。
――傍観者
「へぇー、アレがイコンなんだー」
戦場から離れた場所で、赤い髪を後ろで束ねた、一見美少女の鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)がイコンを双眼鏡で見ながら楽しそうに言う。
空飛ぶ箒に座り、カバンからノートとペンを取り出す。
「うーんと、注目してみる場所は、【戦闘能力】、【機体の動き】、【周りとの連携】の三つかな。一応ノートに書いておこう。今後役に立ちそうだしね」
箒から落ちないように気をつけながら、双眼鏡で対決を見つつ、気になったところや、先ほど言った注目して見る三つの事をノートに書き込んでいく。
気になるところは赤いペンで色付けし、分かりやすくノートに書き込んでいく。
「あ、こうやって情報取ってるの、まずいのかな? ……まぁ、いっか。よし、このくらいで良いかなー」
ある程度情報をとると、ニッコリと微笑んで、箒を動かして帰っていく。
――天御柱
「そっちのイコンはこっち、そっちのはあっちに着地しな」
リオと未沙が修理のために帰投したイコンを振り分ける。
そして自分の班の担当部署にイコンがおりてくると整備班は班長を中心としてアリのようにイコンに群がった。
「未沙くん、パーツ運んできて」
「わかりました」
あくまでも他校生である未沙に消耗品の交換などの重要な作業は任せられない。したがって雑用などが主になった。
「よし、ビームのエネルギーパック交換終わり!」
銀髪を一本三つ編みにした痩身の美少女フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)はリオのパートナーとして一緒に整備の仕事についていた。
「リオ、次の仕事は?」
「そうね、装甲の補修。一応班長にもお伺い立ててみて」
今のところ一般の生徒が班長になるということはない。いずれ経験を積めば班長などのポジションも任せられるがそれはまだ先の話だ。
「リオ、装甲の補修でいいって」
「了解。じゃあ、バーナー取って。応急処置だけどこの中破したイコンくんをもう一度戦闘できるようにしないとね」
「うん」
そして教官の整備主任が各班を回ってアドバイスを出す。こうしてイコンの修理は進められていったが戦線に復帰するには20分ほどの時間がかかった。
「こちらイレイン。パートナーを求める!」
イレインは単騎で敵の攻撃から逃げ回っていた。
「直哉だ。援護する!」
直哉の<ビームライフル>から発射されたビームがイレイン機と敵機の間の空間を通り過ぎる。
「兄さん、イーグリットはコームラントより装甲が薄いんだから、気をつけてね」
妹の結奈がそう言うと
「わーかってるって。そこをスピードでカバーして戦うってのが、スリリングで面白いんじゃねーか!」
直哉はそう返した。
「やませ、支援します。白虎、ビームライフルでシュメッターリングを!」
「了解! やってやるぜ!」
やませ機のビームライフルが直哉の射撃で動きを止めたシュメッターリングに直撃する。
「直撃!? うわあああああああああああああああ!」
シュメッターリングパイロットの悲痛な叫びが無線を通して聞こえる。
直後、シュメッターリングは爆散した。
「こちらイレイン。助かった。引きつづき敵機を攻撃したいがどうか?」
「こちら直哉。了解!」
「こちらやませ、了解!」
「天王寺 沙耶だよ。コームラントの支援いる?」
沙耶がそう話しかけるとイレインはコクピットの中で微妙な表情をしたがそれを押し隠し、「お願いする」と言った。
そしてコームラントの支援を受けてイーグリット3機が隊長機と僚機2機を失い単騎となったシュメッターリングにライフルの集中砲撃を与える。
これだけの集中攻撃を受けてはシュメッターリングといえど耐えられるわけがなかった。融解して爆発する。
「よし、これで敵小隊一個倒したな。あと三個小隊だ!」
白虎が快哉を挙げる。
「こちらアルファワン。敵小隊を一個撃破するも戦況は今も尚こちらに不利である。健在な機体は12機単位でグループを組め。練度で劣る以上数で圧倒するしかない」
『了解!』
「だってよ。どうする、沙耶? アタシたちは空母を攻撃したいけど……」
「仕方が無いよ。迎撃機をやっつけないことには空母に向かえないもん」
「そうだね……とにかく敵をやっつけよう」
「うん」
沙耶とアルマはそう会話するとグループを組むべき相手を求めて移動を始めた。
「こちら榊 孝明。グループを組みたい」
「孝明……今の4機だけじゃ駄目なの?」
「さっきの指令を聞いたろ? 12機単位で敵に当たれとさ」
「そっか……」
椿はそうつぶやくと周囲への警戒を強めた。
「こちら輝燐宮 文貴。榊のグループへ参加する」
「感謝する」
とは孝明。
『Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! Hei-a ha! Hei-a ha!』
『Hei-a ha! Hei-a ha!』
旋律が変わる。
「こちら御空 天泣(みそら・てんきゅう)。コームラントで参加する」
ボサボサの茶髪と銀の瞳を持つ知的そうな少年が参加を表明した。
「天ちゃん、やっとやる気でたぁ?」
白髪をショートカットにしたかわいい男の子のラヴィーナ・スミェールチが可愛らしい子供の笑みを消し本性をさらけ出して天泣をいじめる。
むろん天泣とてこれまで逃げ回っていたわけではないのだが、練度に勝る敵を相手に戦果を挙げられずにいたのだ。
「こちら水城 綾。イーグリットで参加します。ウォーレン、任せたよ」
焦茶色の髪をセミロングにしたはかなげな美少女が参加を表明する。
「了解お嬢。操縦は任せときな」
金髪ショートで派手な美形で、鏖殺寺院と戦い戦死したという過去を持つ守護天使のウォーレン・クルセイドがそう言うと綾は安心したようだった。
『Hei-a ha! Hei-a ha!』
「御剣 紫音だぜ。コームラントで参戦する」
黒髪をポニーテールにした美少年が美声でそう告げる。
パートナーの黒髪ロングのはかなげな美少女綾小路 風花は紫音以外には興味がないので無言を貫いている。
「鳴海 和真と劉 邦、イーグリットで参加する」
和真は黒髪ショートの育ちがよさそうな美少年。劉 邦は古代中国の英霊で重力に逆うツンツンの黒髪をしている。そしてなぜか関西弁を喋る。
「よろしゅうな」
「あたくしはヴィヴィアン・アンダーウッド。イーグリットで参加ですわ」
ヴィヴィアンは綺麗な金髪のロングウェーブの、胸が小さな少女で、ロンドンのお嬢様の出だった。
「キアラン・ウェッジウッドです。お嬢様ともどもよろしく」
キアランは焦茶色の髪をシャギーにカットし知的で顔立ちが端正な執事的な人物である。
「これで10機か。あと2機。なんとか集まってくれ……」
孝明が念じる。
『Hei-a ha! Hei-a ha!』
「夕条 媛花です。イーグリットで管制を行ないます。皆様のサポートはお任せください」
黒髪ツインテールで胸が小さいがかっこいい、腐女子受けしそうな少女、媛花が応じるように名乗り出る。
「私もお手伝いします」
パートナーの獣人で、銀色のロングウェーブの髪を持つはかなげで育ちがよさそうな少女、夕条 アイオンがそう言って情報管制の手伝いをする旨を告げる。
「茅野 茉莉、イーグリットで参加すんよ。情報取るにも邪魔なイコンをどうにかしないと駄目みたいだし……」
情報収集のために最適化したイーグリットに乗る茉莉がそう告げる。
「景勝だ。皆の参加に感謝する。それじゃあ、みんなでハイスコア狙って敵の小隊を落とそうぜ!」
『応!』
「景勝さん、やはりシミュレーターと実戦では勝手が違いますね。もっと差を詰めないとやられますよ?」
「わかってる」
パートナーである前髪ぱっつんロングで綺麗な髪のシャンバラ人リンドセイ・ニーバーの愛情のこもった毒に景勝は笑って答える。
(この笑顔……自信をつけましたね)
リンドセイはそう確信する。
――反撃が始まる――
集結した12機のイコンは巧みなチームワークで敵の小隊を相手取る。
「イーグリット7にコームラント5か。少し突出気味だけど、この編成で行くしかないな」
孝明がそう言ってリーダーシップを取る。
「コームラントは支援機でもあるが、逆に言えばイーグリットは囮でね。イーグリットが敵を集めてくれないとコームラントも支援ができねえ。頼んだぜ」
景勝がそう言ってビームキャノンを構える。
『Hei-a ha! Hei-a ha!』
そこにシュメッターリングを一機失って3機編成になった小隊が向かってくる。
「イーグリット各機は散開!」
媛花が<指揮>で状況を把握し指示を出す。
イーグリット7機は散開し、そこにコームラントが遠距離からビームで砲撃をする。
散開する敵イコン。
「3機ずつで残りのシュメッターリング2機に対抗してください」
媛花の指示が飛び媛花機のビームライフルがシュヴァルツ・フリーゲに向かう。
『Hei-a ha! Hei-a ha!』
それは外れるが目的は陽動。隊長機は行動を停止しシュメッターリングに向かう6機の安全が確保された。
シュメッターリングからマシンガンが発射される。和真機と茉莉機が被弾するが戦闘に支障はない。
二手にわかれた6機は同時に散開しビームライフルの発射を行う。
「落ちろ!」
孝明が叫ぶ。
「落ちなさい!」
綾が吠える。
「いっけえええええ!」
和真が念を込める。
「落ちなさいな!」
ヴィヴィアンが叫ぶ。
「落ちなよ!」
茉莉がトリガーを引く手に力を込める。
「落ちろおおおおおおお!」
昇が雄叫びを上げる。
飽和攻撃である。
いかに錬度に優れた鏖殺寺院とは言え、3倍の敵に囲まれては為す術がない。
コクピットブロック部分にビームが集中し爆散する。
鏖殺寺院の兵士の悲鳴が耳朶を叩いた。
隊長機であるシュヴァルツ・フリーゲ1機となったこの小隊にもうひとつの小隊が支援に来る。
だが、そこに後方からの攻撃があった。
鏖殺寺院のイコンを鹵獲した天御柱生徒による奇襲である。
『Ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!』
ワルキューレの哄笑と呼ばれる女性による歌唱が、まるで鏖殺寺院を嘲笑うかのように流れる。
コームラントの支援を受けてイーグリットがビームライフルで牽制し、その隙に残りのイーグリットが接近戦に持ち込んでまずマシンガンを破壊してからじっくりゆっくりと料理をしていく。
『Ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!』
攻撃を受けて次々と爆発し四散する敵イコン。
修理と補給の終わった機体も戦闘に参加して、空間におけるイコンの密度は加速的に増大する。
無線には敵兵の悲鳴が響き渡り、天御柱の生徒たちは戦闘というよりは狩猟の快楽に酔っていた。
『Fuhret die Mahren fervn voneinander bis unsrer Helden Habsich gelegt!
Der Helden Grimm bubte schon die Granei
Hahahahahahahahahahahaha!
Hahahahahahahahahahahaha!
Hahahahahahahahahahahaha!』
もはや戦闘ではなく一方的な虐殺。
そして1機、1機と鏖殺寺院のイコンが撃墜され、最後の1機がついに落ちた。
そして勝利の余勢を駆り――
「アルファワンより各機へ。このまま敵空母の撃沈にとりかかる。味方を巻き込まないように最大限の注意をしつつ空母を攻撃せよ!」
「了解!」
演奏は終りを告げ、時は勝利を告げていた。
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