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放送開始前
 
 
「なんですってー、ディレクターがいない!? どーすんのよ」
 シャレード・ムーンが大声をあげる。
「あーん、怒らないでくださぁい。風邪ひいちゃったらしいんですぅ」
 シャレード・ムーンに怒鳴られて、大谷文美が泣きそうな声で答えた。
 いきなりピンチである。
「このメンバーでどうしろと……」
 思わず、指から落としそうになったタバコを反射的に拾おうとして、シャレード・ムーンはあちち踊りを踊ってしまった。
 今ここにいるのは、すべてバイトである。
「やるっきゃないか……」
 シャレード・ムーンは、大谷文美、影野 陽太(かげの・ようた)電子兵機 レコルダー(でんしへいき・れこるだー)日堂 真宵(にちどう・まよい)アーサー・レイス(あーさー・れいす)らの顔を見回した。不安だ、ものすごく不安だ。
「とりあえず、そこのたっゆんはゲストに連絡とって、そこのお子様はハガキ選んで、そこのメカは音素材準備、そこのぺったんこは台本とか準備して。そこの……ええっと……、パシリで夜食買ってこーい」
 問答無用で、シャレード・ムーンが各人に役割を割り振っていく。
「たっゆんってえ、そんなに大きくないですぅ」
「子供……、子供……」
「ふっ、任せておけでございます」
「放せ、ぺったんこ騎士団の名にかけてたっゆんは殲滅する」
「まあまあ、そんなことをしている暇はないデース。真宵が暴れたらすべて水の泡デース。すべてはカレーの為なのデース」
「そっちの方が問題よ」
 すでに、まとまりがない。
 バン!!
 それを見たシャレード・ムーンが、台本で机を激しく叩いて一同を黙らせた。その勢いの凄さに、台本はすでに半分千切れかけている。
「いいわね、もう本番まで余裕ないんだからね!! バイトに来た以上、きーりきーりとその血の一滴まで働いてもらうわよ。じゃあ、かかれ!!」
「は、はい!!」
 台本のようにされては大変だと、一同はあわてて準備に取りかかっていった。
「えーっと、まず、ゲストコーナーのハガキを持ってきました」
 影野陽太が、ハガキの束を大谷文美に手渡す。
「はい。今日来る予定の人たちですね。おかしいですぅ、まだ誰も来ていないなんて」
 ちょっと困ったように、大谷文美がのんびりと答えた。
「すぐに電話確認。急ぐ!」
「は、はいっ!」
 怒鳴られて、大谷文美はあわてて携帯を取り出した。
「ええと、銀霞さんは前にガイドで一緒になったからあ……」
 ピポパと、住所録からジェイス銀霞の名を選んで電話をかける。
「すみませーん、御無沙汰しています、大谷ですけれどぉ」
『はっ、誰だ、この忙しいときに……。そっちだ、逃がすな、取り押さえろ!』
「あのー、もしもーし」
『ああ、文美ちゃんか。今忙しいんだ……。逃がすくらいなら、脚の一本ぐらい吹っ飛ばせ! ああ、すまん、それでなんだ』
「あーん、怖いですぅ。そのー、今日のラジオ出演のことなんですがぁ」
『ラジオ? ああ、忘れていた』
「あーん、困りますぅ」
『しかたないなあ。まあ、内容次第では、行ってやらんことも……。馬鹿者! 包囲を崩すな、確保だ確保!』
「えーと、質問が来てますから、読んでみますね。
 ドSで行き遅れの年増っぽい女教官に質問です。プロフィールと弱点を教えてください。あとSMクラブでバイトしているって噂は本当ですか?
 ペンネーム、正義の宇宙海賊さんからで……」
『ガチャン!! ツー、ツー、ツー、ツー……』
「あーん、切られましたぁ」
 容赦なく携帯を切られた大谷文美が、情けない声でシャレード・ムーンに助けを求めた。まあ、あの質問内容では、即座にブッチされても文句は言えない。
「馬鹿者!! 大事なゲスト逃がしてどうするのよ、あんたは。次連絡しなさい、次! 」
「は、はい」
 叱られて、半べそをかきながら大谷文美が今度はイルミンスール魔法学校の校長室に電話をかける。
「もしもし、こちらラジオ☆シャンバラと申しますがあ、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)校長は御在宅でしょうかあ」
『こ……ばっ?』
「はっ?」
『こば、こばこばこば』
 電話のむこうからは、こばこばしか聞こえてこない。
「あのー、誰かいらっしゃいませんかあ。こばぁ」
『こばあ♪ こば、こばこばこばこばー
 なんじゃ、こんな夜中に。ふぁーあ。
 こばこばー。
 エリザベートに電話か。お子様は、もうとっくの昔に寝ておるぞ』
 少し離れたところにいるらしい別の声が微かに電話に入ってくる。どうやら、近くに大ババ様がいるらしい。
「あのー、誰か変わってくださーい。アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)様ですか? ちょっとお話が……」
『ああ、もう面倒じゃ。だいたい、こんな夜中に電話をかけてくる方が非常識なのじゃ、切ってしまえ。
 こばー!』
「ああ、ちょっと待って、切らないで……」
『ぶちっ! ツー、ツー、ツー……』
 大谷文美の願いもむなしく、またも電話がブッチされた。
「また切られましたぁ」
「お前は……」
 本格的に泣きだした大谷文美に対して、シャレード・ムーンはプルプルと拳を振るわせる。
「貸しなさい、卜部 泪(うらべ・るい)には、私が電話するから」
 大谷文美から携帯をひったくると、シャレード・ムーンは卜部泪にかけてみた。
『おかけになった電話番号は、現在電波が……』
 聞くなり、シャレード・ムーンがテーブルに携帯を叩きつける。
「まったく、どいつもこいつも……」
「あーん」
 くさるシャレード・ムーンにはかまわず、大谷文美が自分の携帯を取り戻して愛おしそうに頬でスリスリした。
「遅くなったのだぁ」
 そこへ、何やらスーパーの袋をたくさん手に提げたアーサー・レイスに伴われて、ビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)が現れた。
「おー、助かったぁ。ほら、何をしている、お茶よ、お茶を出しなさい」
「は、はい」
 ニッコリと笑ったシャレード・ムーンが、日堂真宵に命令する。
「凄いですよ、ビュリさん宛てのハガキが、こんなにたくさん届いています」
 やっとハガキを整理し終えた影野陽太が、ゲストコーナー宛てのビュリ用のハガキや手紙の束をドンと机の上において言った。
「わーい、凄いのじゃあ」
 単純にビュリ・ピュリティアが喜んだ。
 だが、量は凄いが、よーく見るとみんなイルミンスールの世界樹の消印が捺されている。必死に筆跡や便箋を変えてはいるが、完全な組織票だろう。とはいえ、ないよりはましである。
「これは、仮面の貴公子さんからですね。それから、不撓不屈の騎士さんとか、魔法少女マジカル美羽さんとか、雪だるまのヒーローさんたちからお手紙が来ています」
 ニコニコと、影野陽太がハガキをビュリ・ピュリティアに紹介した。
「じゃあ、出番になったらお呼びしますので、あちらでお待ちください。バイト、御案内して」
「分かりましたー。どうぞこちらへ」
 シャレード・ムーンに言われて、日堂真宵がビュリ・ピュリティアを控え室へ案内していく。
「あ、できたら、後でサインを……」
 ビュリ・ピュリティアに背中に影野陽太がささやいたが、はたして聞こえたかどうか……。