リアクション
* 砂漠。戦争から逃れた難民の群れをまとめ、歩んでいた者たち…… 前方に就いていたそれぞれのパートナー、伊吹 九十九(いぶき・つくも)、水都 塔子(みなと・とーこ)は後方に悲鳴を聞く。随分、距離が隔たってしまっていたのだ。 「何が起こった?」 九十九は剣の柄に手をかけるが、彼女がそれまで警戒していたのは、前方。付近を探っている様子で、幾らか遠くを行く者の姿を見とめていたのだ。斥候かもしれなかった。今、その姿は見えなくなっている。 後方では、続いて難民たちのざわめきも聞こえる。靄のようなものが見えたが、すぐに消えていった。一瞬のことだった。 敵襲? 「……わかる」塔子には、「ちゃ〜み〜(千代)の命の炎が大きく揺らいでいる?!」、と。 今すぐに駆けつけたい。しかし、前方に見えたのも敵であれば、挟撃……? 今、背中を向けるのは危険だと判断した。 九十九は警戒を解かず、まず難民たちに、はぐれずひとまとまりになるよう声をかけている。そして、霧島のもとへ…… 「九十九さん」 「うん?」 塔子は九十九にこの場の判断を託し、自らはあえて前方に見えた者に接近していくことにした。「挟み撃ちではないような……」という気はした。確かに、部隊ではない。一人のようだ。斥候とも思われたその影はしかし、こちらには気付いていないのか、だんだん遠のいていってしまった。 「はぁ、はぁ、……見失ってしまった……」 砂丘に上り、見渡す塔子。 難民たちの位置は、きちんと確認できる。まだそれほど離れていない。九十九が取りまとめ、先ほど何事か起こった後方と今は合流してひとかたまりになっているようだ。危険は、去ったのだろう。 だがそのとき、 「……!」 塔子の視界に入ってきたのは、砂漠にゆらめく人の群れ。今度は数が多い。こちらへ向かってくる。先ほどの斥候が仲間に知らせたのか? 塔子には、そうは思われなかった。いや、先の斥候は敵、もしくは人でない何かであったかもしれない、しかし今こちらへ向かってくる彼らは…… 「砂漠の民……?」 * はっ。 千代が目を開けると、真っ暗な空間で、目の前にいるのはやはり髑髏であった。 ああ、……体に尋常でない痛みがたち戻ってくる。気分も急激に悪くなる。 「本当に私、死ぬのかな……」 * 塔子が、千代を覗きこむ。「千代。死……」 「いや、大丈夫。死んではいない」 霧島 玖朔(きりしま・くざく)が、意識を失い横たわる千代に、必死のナーシングを行っている。心配そうな顔で、千代を慕っていた難民の子どもらや、塔子、九十九がその回りを囲む。 塔子は、思い出したように、そのなかに先ほど連れてきた者たちを探し、 「すみません。こういう状況で……医療に秀でた方はいますか?」 そう問うた。 「負傷者か……残念ながら、砂漠を抜ける道は教えてやれても、死にゆく者を戻らせる道は教えてやれぬ。残念じゃが……」 彼らは、塔子の予感した通り、砂漠の民たちであった。 「砂漠には、我々の知らぬ魔も出る。こと近頃は、本来砂漠のものではない生きものや、それに生きものでないものまでも、入りこむようになったでな」 民らは、先ほど九十九や塔子の見た付近を探っていたらしい者のことは見なかった、と言う。彼らとは別の者らしい。 「しかしともかく、一刻でも早く、この砂漠を出られる道は示してやろうて。……このおなご、それまでもつとよいな。助かることを祈ろう」 「やれることはやった……」 霧島は言い、九十九、塔子らも頷いた。 * 人々を連れ、霧島は、九十九は、塔子までも、行ってしまう。もちろん、千代も一緒だ。だけど……霧島らと一緒に行っているはずなのに、遠ざかっていく。何も、見えなくなる。 「霧島くん、最後まで付き合ってくれて本当にありがとう……。 私、幸せだったわ」 それにしても、いつまでも、目の前にある髑髏だ。「くっ、……ちょっと最後くらい、霧島くんの顔を出してよ……っ。えっ」 髑髏は今度は、真っ黒くなり、羊の頭に様変わりする。 「何、コレ……? 黒い羊……夢? 現実? 何もかもが、……ああっ」 空間が、歪んでいく……! |
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