イルミンスール魔法学校

リアクション

　
5-02　宴

　戦勝の宴が催されていた。いや、まだエピローグには一足早い。ここは……盗賊アジトだ。
　敵側食糧基地である盗賊アジトにたどり着いたエル・ウィンド（える・うぃんど）ら【黄金の鷲】と林田　樹（はやしだ・いつき）ら【騎狼部隊】。林田のパートナー、ジーナが本営に戻り増援を呼んでくるまでの間をもたせようと行ったのが、この……
「絶対寝かせないわよ！　７２時間耐久コンサート！」開催！
「わたくしの歌をきけぇーーーですわ♪」
　シャンダリア・サイフィード（しゃんだりあ・さいふぃーど）の歌。
　国境での戦のあとに流れた少し悲しげで優しいあのときの歌とは違い、
「わたくしは女神〜♪」
　誘惑、
「わたくしを崇めなさい〜！」
　説得のスキルを織り交ぜたノリノリの歌唱である。
　わーい。シャンダリアちゃ〜ん。いえーい。女神さまぁぁぁ。
「はぁ、はぁ……７２時間……」
　眠気に落ちてくる眼鏡を正しながら、エルはPAに明け暮れた。
　シャンダリアのコンサートは一日二回に分けて行う。
「お、お疲れ様……」
「は、はあ……」
　見張りには、黄金の鷲の仲間を交代で立たせるようにして、盗賊らは皆宴会の方に加わるように促した。もちろん、彼らは喜んでいたのだが……
「わーい。はぁはぁ」「シャンダリアち゛ゃ〜〜ん゛」「いえーぃげほげほ」「女神さ゛ま゛ぁぁぁ゛」
　観客には休みを与えない。そのための誘惑と説得で強化された歌唱＆ダンスでもある。
　シャンダリアが引っこむと、ギルガメシュが登場し宴会芸が始まる。
「私はパーを出すやつが好きだぞ〜」
　じゃーんけーん
「……。空気読んでな……」
　わーおわーお、はぁはぁ。あぁぁぁぁ、いぇーーいはぁはぁ。はぁはぁ、……。
　どんどん脱がされていくギルガメシュ。
「ここで一旦ストップね」
　ごらぁぁぁぁぁ、はぁはぁ。観衆がステージに詰め寄せそうである。
「な、ちょ、ちょっと待てぇぇ。そうだ、よしこれから先は優勝者が決まるまでお前らで野球拳をしろ」
　そんなぁぁぁぁぁ、そこまで、そこまで脱いでおいてぇぇぇぇぇ！
「わ、わかった、だから、その……つまり優勝者にのみ私と勝負する権利をくれてやろう。
　さらに私が勝てば……これ以上は言えんが期待を裏切らん。
　負けた者が服を着るのは厳禁だからな？」
　わぁぁぁぁぁ！
「楽しそうだね……」「洪庵も参加してくるか」
「い、いや僕には樹ちゃんが……うん。遠慮しとくよ」「そうか？」
　林田は、情報撹乱のスキルを用いて宴会を更にヒートアップさせた。
「え、そんなことができるのか。はぁはぁ」「な、なにそんなサービスが？　はぁはぁ」「明日の夜はもっと？　更に？！　はぁはぁ」
「樹ちゃんどんな偽情報を……」「知りたいか？」
「い、いや、うん……遠慮しとくよ」「そうか」
　再び、シャンダリアのステージが始まる。
「うっ……な、何です、皆、裸に……きゃっ……なってるではありませんのっ。
　こんな裸祭りのステージで歌うなんてーー」
「こた、じにゃがくるまれ、ねーたんのてつらいするお。
　しゃんらりあしゃん、きれー、しゃんらりあしゃん、かわいー」
　林田コタローも一緒にステージに上がって、恥ずかしがるシャンダリアを盛り上げた。情報撹乱を用いて。
「おいー脱げー」「裸になれー」「裸でおどれー。チケットに書いてある内容と違うぞ。全裸コンサートってあんぞー」
「ちょっ……そ、それは……明日です、明日ですーっ」
　こうして時間は流れていった……
「はぁはぁ。これ、こっちは交替とってるって言っても、けっこう疲れてくるね……」
　エルも段取りに必死だった。
「戦力比は大きく見積もって１：４か。
　まだ、奥の手もある。
　それにあっちはほとんど不眠の徹夜。ヘロヘロの敵なら勝機はある。でもこっちも、く、く……」
「キンピカ一度睡眠をとっては？　PAなら私に任せてくれ」
「えっ林田さん本当〜た、助かる……ZZZ」
「うむ。こういう、機械なら得意……む、このへんを少しいぢって（改造）みようか。……」
「ねーたん、じにゃ」
「！　来たか。確かに、そろそろな頃合……ジーナよくやった」
　

　
　増援部隊を率いるマーゼンとジーナはすでに城外付近に陣を張っていた。
「アム」
「……」
「ではあの城外に出ている見張りを頼む。む、あの見張りは、なんだ味方か。
　敵はジーナ殿の言った策とやらが効いておれば、あらかた酔いつぶれておるか……
　ふむう。そうか、これは存外らくにいけるかもしれぬな」
「いかが致しましょう？」
　アム・ブランド（あむ・ぶらんど）。
「うむ。いかに堅固な砦といえ、これならば抜け穴を掘るような手間も危険も要らんだろう。
　よし、アム。君は自分と共に正面より、飛鳥は百を率い裏手に回ってくれ。この戦いの指示はもうそれで十分だろう？
　できる限り捕え、そうでなければ殺してしまえ」
「うん！」
　本能寺　飛鳥（ほんのうじ・あすか）は純情可憐に頷いた。
「あ、マーゼン様。いよいよですね」ジーナが来た。
「うむ」
「林田様によりますと、裏手の方が細い通路になっておりますため、そこにあぶり出せば一網打尽にできるそうです。
　どうします？　ワタシは林田様と連絡を取って呼応いたしますので裏手にまいります」
「わかった。こちらはこの飛鳥が裏手に向かう。ならば兵数はそのまま百、裏手に集中させればちょうどよかろう。
　うむ、自分とアムは正面から引き入れてもらう」
「はい。正面の方はエル様黄金の鷲の所属の方が見張りをやっています。
　こちらも、すでに連絡済です。では……」
「あたし本能寺飛鳥。よろしくね！」
「はい！」
　

　
　コンサートも最高潮に達していた。
　最後に、シャンダリアは、
「今夜からわたくしがあなたたちの女神様。
　ゴッドイーグルですわ！
　女神として命じます。黒羊軍と縁を切り教導団の仲間になりなさい！」
　わーわー　もう　戦は終わったんだぜぇぇ　おれたちゃ自由に、やるぜぇぇぇ
　ほとんどの者が酔いつぶれ、盗賊らは事象の関連性もよくわからなくなっていた。とにかく、もう黒羊のために戦う必要はない。これからは、教導団第四師団の仲間になって毎晩楽しく宴会しながら、暮らしていくのがいいのかなぁぁぁ
　電気が落ちた。
　「ち。やられたな」「兄者……」
　酒に滅法強い盗賊頭領の兄弟だけが策に嵌らなかった。とは言え、最後の最後で敵を知ったが、遅かった。
「樹ちゃん。敵をあぶり出すルートは、こうこうこうで……」
「うん。よし、発破いくぞ」
　うわぁぁぁぁ！　盗賊らが、一斉に逃げ出す。
「裏口へ！」「こっちれす、こっちれすよー」
　盗賊らが、一斉に出てくる。そこには、教導団の部隊が待ちかまえていた。
「ここまでね！」
「砦に残っている敵も、皆捕えましょう！」
　飛鳥を斬り込み役に、ジーナ、獣人兵らが突入していく。
　正面口では……
「ちっ。裏口はだめか。
　兄。上手く逃げろよ……く、しまった。ここにも敵か」
「当然だ。逃がさん」
　マーゼンは、ディフェンスシフトを展開、敵・頭領弟の強靭な腕で振り下ろされたハンマーを受け止めた。すかさず出たアムが敵の首筋に牙を突き立てる。「ぎゃ、ぎゃぁぁ」
　砦内。ＰＡ室。
「はっ。樹ちゃん……」
　樹の前に下り立った敵に、緒方が林田を守って前に立つ。頭領だ。
「女。指揮官か。貴様を道連れにしよう。その前に姫さんのナイトから、かな？」
「僕の樹ちゃんに何かしたら、タダじゃおかないよ〜」
「姫とナイトって柄じゃないがな」
「えっ。樹ちゃん〜〜」
「残念ながら、サポート専門なんだ。手柄は、……正直好きではない」
　林田が言うのを合図に、
「へっへっへ」小柄な老人が現れた。
「いいぞ。存分にやってくれ」
「む。新手……」と言いかけた頭領の首に、ナイフが突き立った。「……く、……」頭領は倒れた。
　騎狼部隊浪人三人衆の爺さんであった。「ここにいない二人の分も込めてな。まあ、ナイフは一つで十分じゃったようじゃな」
「あっ。樹様〜」
「ジーナ！」
　正面から、マーゼンらも入ってきた。「おお、林田殿。それにエル殿。随分と派手な宴会をやったようですな」
　飛鳥が来る。「砦は制圧しました！」
「うむ。これで、この方面の不安材料は無事取り除かれたな」
　大量の物資・食糧も手に入った。進攻軍は黒羊郷を打ち破り、やがて戻ってくることになろう。これでまた改めて、戦勝の宴ができるかもしれない。
「そのときには是非、エル殿らにご協力頂けますかな？」
「ウ……ウン……。ギル、シャンダリア。教導団からお呼びがかかった。
　黄金の鷲の新しい任務だ。頑張ろう……」
「……わなわな」「つん」