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2020年夏祭り…妖怪に変装して祭りに紛れ混んじゃおう!

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2020年夏祭り…妖怪に変装して祭りに紛れ混んじゃおう!
2020年夏祭り…妖怪に変装して祭りに紛れ混んじゃおう! 2020年夏祭り…妖怪に変装して祭りに紛れ混んじゃおう!

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第3章 妖怪大集合!丑三つ時の祭り

-AM2:30-

 時刻は丑三つ時を回り、妖怪たちが広場に集まり年に1度の夏祭りが始まった。
「いっぱい出店がありますね、何食べたいですか?エリザベートちゃん」
「そうですねぇ。あのお店で焼きトウモロコシが食べたいですぅ」
「トウモロコシですね、私が買ってきてあげます。2つください!」
 明日香は白狐姿の翡翠にトウモロコシをくださいと声をかける。
「はい。持ち歩きやすいように、串に刺してあげますから待っててください」
 表面に醤油を塗って焼いた、焼きトウモロコシを明日香に手渡す。
「熱いから気をつけてくださいね」
「分かりました。聞いてましたかエリザベートちゃん。熱いからふーふーして食べてください」
「はいですぅ。ふぅーふぅー・・・はむはむ、美味しいですねぇ」
「えぇ、食べやすいサイズですし。これなら他のもいっぱい食べられますね」
「見てください明日香、向こうに火の玉が浮いてますよぉ。妖怪さんはやっぱり本当にいるんですぅ!」
 エリザベートの視線の先には、毒々しい紫色の火の玉、姥ヶ火が宙を舞い焼き魚を作っている。
 手紙に書かれてたのが、ただの噂ではなく本当に妖怪がここで祭りをしていて、存在しているのを見た少女は興味津々に目をキラキラと輝かせる。
「美味しそうですぅ〜」
「食べに行きましょう、エリザベートちゃん」
 じーっと焼き魚を見つめる少女の手を逸れないように握り、焼き魚を売っている屋台へ連れて行く。
「他のところも見てみたいですし、小さいサイズにしますか?」
「大きい魚がいいですぅう!」
「うーんじゃあそれと、そこの小さいのをください」
「ちょいと、そこの猫又の2人に焼き魚を渡しておくれ」
「はいよ」
 串に触れられない姥ヶ火の変わりに、海難法師が変わりに明日香へ渡す。
「そっちのちっちゃい猫又、こぼさないように気をつけな。そいつぁ獲れたての新鮮だから美味いぞ」
「はいですぅー。お塩がなくても磯の香りとかでちょうどいいですねぇ。はむはむっ」
 彼の言葉に軽く頷き、エリザベートは魚にかぶりつく。
「エリザベートちゃん・・・一緒に写真を撮りませんか?」
 焼き魚に夢中の彼女に、明日香が遠慮がちに言う。
「いいですよぉ」
「嬉しいです♪あの、私たちが魚を食べているところを、カメラで撮ってくれませんか?ここを押すだけでいいんです」
「あぁ分かった。撮るよ」
「いちたすいちは〜にゃぁあ♪」
 丈の短い着物を着た猫又の格好で、明日香たちは海難法師に写真を撮ってもらう。
「お口の周りに魚の身が少しついてますよ。拭いてあげますね」
「ありがとうございますぅ」
 エリザベートは明日香にティッシュで口の周りを拭いてもらいニコッと笑う。
「明日香ー、綿飴も欲しいですぅ〜」
「いいですよ、何味にしますか?」
「ぅうーんと。ミカン味もいいけど、葡萄味も捨てがたいですぅっ」
「それじゃあ両方買って、私と半分こしませんか?」
「わぁいありがとうございますぅ♪」
「ミカンと葡萄だね?待っていておくれ」
 女郎蜘蛛はくるくると糸で得物を巻くように、棒に綿飴を巻きつける。
「はい、猫又ちゃん」
「ありがとうございます!」
 作ってもらった綿飴を明日香が受け取る。
「エリザベートちゃんがミカン味を私に食べさせるようにして、私が葡萄をエリザベートちゃんに食べさせるようにするポーズで、写真を撮りましょう」
「分かりましたぁ」
 レンズの方へ顔を向け、店主に写真をパシャリと撮ってもらう。
「ありがとうございました。次は、あのお店に行ってみましょう」
 カメラを受け取り、明日香はエリザベートを連れて別の出店へ行く。
「キレイな鏡やクシがありますね」
「あの簪、可愛いですぅ。欲しいですぅー」
 綿飴を食べながらじーっと簪を見つめる。
「どれですか?―・・・えっ!?」
 値札の額を見て明日香は一瞬考え込んだ。
「欲しいですぅう〜。鈴の飾りついてる鼈甲の可愛い簪が欲しいですぅー」
「あぅうーっ。そんな目で見られてしまうと・・・。これもエリザベートちゃんのため・・・この簪を1つ・・・いえ2つください!」
 じぃっと少女の強請るような目で見つめられ、可愛さに負けた彼女は簪を買ってあげてしまった。
「同じ猫又だからにゃ。1本サービスであげるにゃ!お姉ちゃんに買ってもらってよかったにゃ?」
「私がお姉ちゃんだなんてそんなっ。あ、あの。簪つけたところの写真も撮ってもらえません?」
「いいにゃよ」
 簪を髪につけ、本物の猫又に写真を撮ってもらった2人は、まるで姉妹のようだ。
「もっといろんなところも見てみましょう!」
 他の店も見てみようと、エリザベートと手をつないで広場を走る。



「アーデルハイト様・・・では不味いんでしたね。山姫様、あちらにも美味しそうな屋台がありますよ」
「お好み焼き屋じゃのう、そこへ行こう!」
 アーデルハイトは望たちと一緒に、赤マントの格好をした涼介のお好み焼き屋へ走る。
「いらっしゃい。すぐに焼くならタコやイカの海鮮ものがあるが、別のがいいなら入れる具を言ってくれ」
「赤マント、それに餅を入れるのじゃ!」
「ふむ餅か」
「座敷わらし様と三つ目小僧様は、生地に入れる具は決まりました?」
 雪女の格好をしているエイボンが、妖怪の少女に扮した望と三つ目小僧の変装した山海経に聞く。
「海老とホタテでお願いします」
「わらわは生地を用意してあるすぐ出来るがよいのう」
「かしこまりました。兄さま海老とホタテ、それと用意してある生地の注文が入りましたわ」
「了解した」
 鉄板に油をひいてから豚肉を置き、その上にキャベツを混ぜた生地を乗せて菜箸で丸く伸ばし、隣にそばを置く。
「本格的ですね、赤マント様のお好み焼き」
「かなりの量を焼くから、フライパンだとかでやるわけにはいかないからな」
 望と話しながらそばにソースとケチャップで味をつけ、ヘラを両手に持ち生地をひっくり返し、その側にソースをつけそばを乗せてひっくり返す。
「いい香りがしてきたのう」
 山海経は鼻をひくつかせて、出来上がっていくお好み焼きの香りを楽しむ。
「出来たぞ」
 生地をもう一度ひっくり返し、ソースとマヨネーズ、青のりをかけて皿に盛る。
「わたくしが持っていきますわ」
 おぼんに乗せてエイボンが望たちに渡す。
「ヘラとお箸をどうぞ」
「ありがとうございます、さっそくいただきますね。ちょうどいい焼き加減で美味しいですよ」
「はふっ、熱々じゃ」
 出来たてのお好み焼きをアーデルハイトも、もぐもぐと食べる。
「おせんちゃ・・・・・・じゃないのよね、三つ目ちゃんは楽しんでます?」
「うむ、こうして美味いものも食べられて楽しいのじゃ。もう食べ終わってしまったのう」
 火傷しないようにふぅふぅと息で冷まし、山海経は満足そうに完食する。
「次は隣の屋台へ行ってみませんか山姫様」
「おはぎか!早く行くのじゃ」
 甘い物を食べようと3人はおはぎ屋へ走る。
「いっいらっしゃいませ、おはぎ屋へようこそ。きな粉と黒ゴマ・・・粒餡がありますけど、ど・・・どどれにしますか?」
 店に行くと米とぎ婆に扮したベアトリーチェが、少し怖がりながら望たちに声をかける。
 妖怪の格好をしている彼女たちに怯えながらも接客しているのだ。
「小豆洗いちゃんと米とぎ婆ちゃんが作ったおはぎ美味しいよー」
「あら座敷わらし様じゃないですか」
 彼女の隣にいる小さな妖怪の姿を見つけた望が傍に寄る。
「だぁれ?わらしと同じ子?」
「私ですよ、望です。と言っても、この格好じゃ分からないですよね」
「―・・・!?」
 鬼ごっこで追いかけられた時のことを思い出した座敷わらしは、ぱっとベアトリーチェの後ろに隠れる。
「原因は良くわかりませんが、恐がらせてしまってごめんなさいね」
「もうわらしのこと追いかけない?」
 望が追いかけてくる姿が、わらしにとってはとても恐ろしい形相に見えたのだ。
「えぇ、追いかけませんよ。私たちと一緒に屋台を回りませんか?」
「うーんでもー・・・」
「まだそんなに混んでないから、少しだけ行って来たら?」
 おはぎを作りながら美羽は、望たちと一緒に遊んできていいよというふうにニコッと笑う。
「じゃぁー・・・行く!」
「おはぎを買いに来たんじゃないのかのぅ?」
「あっ、粒餡のぼたもち3つください」
 アーデルハイトに言われ望は、買いそびれてしまうところだったおはぎを買う。
「はい、どうぞ。(よかった・・・妖怪に変装した生徒みたいですね)」
 座敷わらしと鬼ごっこをしていたというふうに聞いたベアトリーチェは、望たちが妖怪じゃないことが分かり怯えずにおはぎを渡す。
「ありがとうございます、ここで食べていきましょうか」
「甘くて美味いのじゃ!」
「うむ、いけるのう。他のところは何があるのかのう?」
 3人はその場でおはぎを食べ、別の屋台へ行ってみる。
「砂時計がありますね」
「へい、いらっしゃい。どれにする?」
「(この砂、大丈夫なんでしょうか・・・)」
「砂かけ婆が使ってる砂じゃなさそうだからどれも安全だよ」
 買おうか迷っている望に座敷わらしは、砂かけ婆に聞こえて機嫌を損ねないようにこっそり教える。
「そうなんですか・・・?」
「うん」
「私は買うぞ、この星砂のやつを1つもらおう」
 アーデルハイトは何の警戒もなしに堂々と砂時計を買う。
「ほい。落とさないように気をつけるのじゃよ」
「うむ!私の部屋に飾っておくとしよう」
「それじゃあ私は・・・こっちの天使の羽根みたいな砂粒が入っているやつにします。三つ目ちゃんはどれにします?」
「うぅーむ・・・三日月型のやつにしようかのう?」
「ではその2つをください」
「はいよぉ」
「落とさないようにカバンへ閉まっておきましょうか」
 望は山海経が選んだ砂時計と一緒に閉まっておく。
「うーん、そろそろ小豆洗いちゃんたちのところに戻るね」
「もう行ってしまうんですか?」
「少し混んできたから大丈夫かなぁーって・・・」
「そうですか・・・残念ですけど仕方ないですね」
 おはぎ屋に戻っていく座敷わらしに、望は片手をふりふりと振る。



「エリザベートやアーデルハイトも来ているみたいだな」
 祭りにやってきた2人を見つけた御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が声をかけようとする。
「紫音・・・じゃなくて茨木童子。本名で呼ぶと、本物の妖怪たちに正体がばれてしまいますぇ」
 平安時代に京都を荒らしまわっていたという茨木童子に変装した彼に、清姫の姿の綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が注意する。
 黒色を基調とし裏地が真っ赤な着物を着ている。
「あぁそうだったな。気をつけるよ清姫」
「(途中で妖怪たちにばれて、悲しく退場するような悲劇にならなければいいがのぅ)」
 烏帽子を被り巫女のような服を纏い鈴鹿御前の格好をしたアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)は、綿飴を食べながら不安そうな顔をする。
「そこの猫又と山姫、俺たちと一緒に遊ぼうぜー」
 紫音は手を振って2人に呼びかけて駆け寄る。
「(うわラッキー、可愛い女の子もいる!)」
 彼女たちと一緒にいる望や明日香たちを見て、いっきに紫音のテンションが上がる。
「だいぶ混雑してきましたから、いろいろと気をつけないといけませんね」
 望たちの傍に寄ろうとする紫音の行く手を阻むように、風花が立ちはだかり近づけないようにする。
「ささっ行きますぇ〜。美味しいものがあるとえぇどすなぁ」
 屋台を探すふりをして彼の魔の手から引き離す。
「(うわぁん、俺も女の子たちと祭りを一緒に楽しみたいのにぃいい!)」
 あからさまに女子から遠ざけられる彼は、心中で悲しみの叫び声を上げる。
 そのやりとりを見ているアルスはやれやれと嘆息する。
「たこ焼きも美味しいですねぇ」
「へぇーそんなのも普通にあるのか?俺も買ってみるか」
 明日香に買ってもらったたこ焼きを食べているエリザベートを見た紫音も買ってみる。
「ほぁあっ、あっちぃ。半分にして食べるか」
 火傷しないように爪楊枝で半分にして食べる。
「何か飲み物とかねぇかな?」
「そこのお兄さん、冷たくて美味しい飲み物を買わない〜?」
 胸元が見えるセクシーな着物姿の飛縁魔が紫音を手招きをする。
「ぉおっ、超美人!買う、買うぜっ」
「A型とB型、それとO型とAB型があるけど、どれがいいのぉ?」
「んー?それって味の種類か?」
「味?まぁちょっと違うわねぇ。肉食系と草食系別でも売ってるわよ〜」
「他の種族の血かのう?」
 アーデルハイトが直球で飛縁魔に聞く。
「そうよぉ。とっても美味しいんだからぁ♪」
「うーむ、私は遠慮しておこう」
「あ〜ら。山姫なのに飲まないのぉ?」
「他のを食べてきてしまったから、お腹がいっぱいなのじゃ!」
 それらしいことを言ってその場から逃れる。
「お兄さんの方はどうするの?」
「え・・・えーっと。俺は・・・その・・・」
「皆、お腹いっぱいなのじゃ!行くぞっ」
 紫音たちを連れて危険地帯から離れる。
「本当にお腹いっぱいなんどすか〜?」
 風花がアーデルハイトの方に顔を向ける。
「ちょっと減ってきたのぅ。別のところで食べるのじゃ!」
「(紫音を助けるための嘘だったんどすなぁ)」
 生き血を飲まされないように、わざとお腹いっぱいだと言ったのかと、アーデルハイトの優しさに風花は思わず微笑んでしまう。
「塩焼きそばがあるのぅ!」
「買ってあげたらえぇんじゃないどすか?茨木童子」
「俺が?ぁあ分かった、それくらいはな」
 助けたもらった礼くらいしなさいと肘で軽く脇腹を押され、紫音は焼きそばを買う。
「結構量あるけど、1人で食えるのか山姫」
「ぅーむ・・・」
「皿もらってやるから俺や猫又と分けるか?」
「そうするのじゃ!」
 一つ目小僧から買った焼きそばを3人で分けて食べる。
「美味しかったのぅ」
「そうだな、他にも何か食うか」
「うむ!」
「山姫様。林檎飴がありますよ」
「何ぃい!?食べるのじゃあ、行くぞ茨木童子!」
 望に呼ばれアーデルハイトは電光石火の勢いで駆け寄る。
「おー、いらっしゃい。世にも珍しい林檎飴だよぉ〜」
「普通の林檎飴に見えるけどな?」
 どこの辺が珍しいのか紫音はじっと見つめる。
「この林檎飴、顔の絵が描いてあるのう?」
 なんで顔なんか描いてあるのかとアルスは不思議そうに首を傾げる。
「面白いですねぇ♪」
 エリザベートの方は興味津々に見る。
「食ってみるか」
 普通のやつとどう違うのか食べてみようと、紫音はとりあえずのっぺらぼうから買ってみる。
「猫又のエリザベートちゃんも食べます?」
 他の生徒が妖怪の名前で呼び合っているのを見て、明日香は正体がばれないように呼び方を変える。
「食べたいですぅ、猫又の明日香」
「なんだい猫又の・・・って?」
「えっと、愛称みたいなものですよ」
 訝しげに聞くのっぺらぼうに明日香が言う。
「へぇー今そんなの流行っているのかい?」
「まっまぁそうですね。それより・・・私にも林檎飴を1つください」
「ほい、どうぞ」
「顔の絵がなければ本当に普通の林檎飴に見えますね。猫又のエリザベートちゃんどうぞ」
「あまぁい香りがするですぅ♪はむ・・・」
「林檎飴には違いないよな・・・。食べてみるか!」
 紫音もがぶっと食べてみる。
 2人が食べた瞬間、どこからか“ギャァアアアアー、ギェエエッ!”という声が聞こえてきた。
「な、何だ!?」
 その叫び声に驚いた紫音は、声の主を探してキョロキョロと周囲を見回す。
「あぁそりゃ林檎飴が叫んだんだよ」
「はっ?これがぁあ!?ていうか生き物なのか!!?」
 平然と言う店主の言葉に彼は食べた林檎飴を凝視する。
「食用の生き物だよ。どこで捕獲してきたのかはヒミツだけどねぇ」
「えぇー食べるのぉ?食べちゃうのー?うぅ〜」
「当たり前じゃ!」
「きゃぁあああーっ、痛いよぉおーやめてぇえ」
 アーデルハイトに食われた林檎飴が泣き叫ぶ。
「(あれを見て食べなはるんどすかぁ!)」
 容赦なく食べる彼女の姿に風花は目を丸くする。
「ぬ?食わぬのか?普通の林檎飴と変わらない味じゃぞ清姫」
「わ、私は遠慮しときますぇ。さっきたこ焼きを食べて、ちょっとお腹がいっぱいなんどす〜」
「(大丈夫そうじゃのぅ)」
 アルスも林檎飴を食べてみる。
「普通やつより少し甘めじゃな?」
「そうですねぇ〜」
 うんうんとエリザベートが頷く。
「違うところも行って見るか?」
 妙な物が多いが食べてみれば以外と普通に食べられると、紫音たちは屋台の周り食べ歩きをする。



「(1人で祭りに来るなんて、なんと寂しいことでしょう)」
 天代火法 心象以南(あましろかほう・しんしょういなん)は屋台の隙間から、妖怪や生徒たちが楽しむ様子を見ながらスキマ妖怪に見えるように振る舞う。
「そこで何やってんだ?」
「フッ・・・フフフ・・・フッフッフッ、イアイアハスター」
 本物の妖怪と目が会うと胡散臭い笑みを浮かべて、地球人だとばれないようにする。
「変わった食べ物ばかりですけど、こういうのもいいですね」
 あんず飴に似ている固形の炭酸の飲み物を食べながら、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は出店を見て回る。
「これなんて飲み物なのに、食べるんですよね。中で溶けて炭酸系になるなんて不思議です。それにしても・・・1人で遊ぶのも寂しいですね、誰か声をかけてみましょうか」
 大きな御幣を担ぎ一緒に遊んでくれる相手を探す。
「(あ・・・1人の人を発見・・・)イア!イア!ハスター!」
 エッツェルにそっと近づき、すれ違い様に天代が言う。
「へ?今・・・誰かの声が聞こえたような?気のせいでしょうか」
 声が聞こえた方へエッツェルが振り返ると誰もない。
「(うぅっ。構ってくれそうですけど、やっぱりなんだか声をかけづらいです。いいえっ、ここでもう1度存在に気づいてもらわないと何も始まりません!)」
 天代は彼をじっと見つめて後を追いかける。
「(気づいてください!)イア!イア!ハスター!」
 そう言いながら傍を通り過ぎる。
「たぬきや?お腹も減ってきましたし、行ってみましょうか」
 彼女の声に気づきながらも気のせいかと思ったエッツェルは、たぬきやと書かれている看板を見つけ、狸の親子が店を出しているところへ行ってみる。
「ラヴィニア、これはやり過ぎだと思うんですが・・・・・・」
 胡散臭く見える狸の格好に無理があると、ラムズがラヴィニアに言う。
「いーじゃん。ほら、お客さんだよ?“とーちゃん”」
「たぬきやのシチューはいかがですか?」
 狸の耳と尻尾をつけ、顔に髭をつけ鼻先を黒く染めて、葉っぱを頭に乗せて狸の姿をしているラムズが接客をする。
「チシューをください」
「イア!イア!ハスター!」
「・・・・・・いあいあはすたあ」
 なんとか気づいてもらうと天代の言葉に反応したのか、ラムズも同じような言葉をぼそっと言う。
「―・・・はい?」
 注文をしただけなのに、謎の言葉を返されたエッツェルは首を傾げる。
「あっ、いえ。何でもありませんっ。どうぞ・・・」
「ここでいただいていきますか」
「とーちゃん、お客さん連れてきたよ。ボク、えらい?」
 ラヴィニアは甘える口実を作ろうと、箒神に変装した終夏を連れてきた。
 終夏の格好は
「えらいですね」
「いい子?」
「えぇいい子です」
「えへへっ♪」
 褒められた小さな狸は嬉しそうにニカッと笑顔になる。
「どんなシチューなのかな?」
「待っててください、今渡しますから。―・・・だいぶ少なくなってきましたね。ラヴィニア、ちょっと・・・・・・」
「なぁにとーちゃん?」
 手をつないで店の奥へ連れ行こうとするラムズをラヴィニアは嬉しそうに見上げる。
「どうしたのかな」
 店の主が奥に行ってしまい、残された終夏は店の奥を見ようとする。
「ふぎゃぁああー、ひぎゃぁああーっ!」
 悲鳴を聞いた終夏とエッツェルは驚きのあまりその場に固まる。
「ちょっと材料を足してきました」
 戻って来たのはラムズだけでラヴィニアの姿はない。
 彼の前掛けを見るとなぜか赤く染まっている。
「これが・・・シチュー!?」
 まさかと思い終夏はそれを見てみると、普通のシチューは白い色をしているはずだが、どろっと真っ赤に染まり狸の片耳のようなものが浮いている。
「私が食べたやつと、だいぶ違うみたいですけど・・・」
 やばい気配を察知したエッツェルは屋台からさーっと離れる。
「え、そうなの?うぅーんさすがにこれはちょっとねぇ・・・」
「美味しそうなのに食べないのかい?じゃあ私がもらうよ」
 アーデルハイトではなく本物の山姫がシチューを飲み干す。
「ふぅ、美味しかった。ごちそうさま」
 ラムズに器を返した彼女は屋台めぐりしに行く。
 その隙に逃げろといわんばかりに、終夏とエッツェルは店の前から去っていった。
 ここはたぬきや。
 破格の値段という良心的な設定に加え、味は値段に見合わない程旨い。
 しかし時折、店の奥から悲鳴が響いてくる。
 “たぬき”や何時でも美味しいシチューを、お客様に提供する素晴らしい屋台。



「ぉおおおっすげぇええっ、マジで妖怪がいっぱいいるぜーーっ!」
 頭に角をつけて天邪鬼に変装したアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は会場についたとたん、行動のリミッターを解除する。
「うおおおおおおぬりかべだぁぁぁぁ。触ったらどんな感じなんだぁあ!?」
 触ってみたいと射的の出店へ走っていく。
「ちょっと抱きついてみてもいいか!?」
「え、何でだい?」
「前々から頼もしいがたいだなーっと思っててさぁ」
「そうなのかい・・・うーん」
「ほんの一瞬でいいから、頼むっ!!」
 渋るぬりかべに、アキラは必死にお願いをする。
「一瞬なら・・・」
「やったぁああ!うおおおおゴツゴツだぁ〜〜〜。ありがとぉおおーっ!」
「なんだったんだろうねぇ?不思議な子」
 ぬりかべは唖然としながら突然現れたかと思うと、すぐ去っていく突風のようなヤツだというふうに見る。
「うおおおおおお猫娘だぁぁぁぁ。ちょっとその耳を触らせてもらってもいいか!?」
「にゃぁあ!?誰、キミっ」
「アキ・・・いや天邪鬼だ!」
「えー本当にぃ?」
 やけにハイテンションな彼を、猫娘は訝しそうな目で見る。
「お祭り・・・・・・好き?」
「もちろんす・・・」
「す・・・?」
「(やべぇ、疑われてるのかこりゃ!)」
 本物かどうか確かめようとしてきている妖怪に対して、どう答えるべきか頭の中で答えを探す。
「(そうだ俺は天邪鬼だ。逆のこと言わなきゃな)」
「怪しいなぁー、早く答えてよー」
「俺、祭りきらーい。大嫌いーっ!」
「へぇーそうなんだ。お祭り楽しんでる?」
「ぜぇーんぜん、楽しくねぇー」
「そうかよかったね。じゃあ・・・いいよ」
「うおおおおおふにふにだぁぁ〜〜〜」
 やっと信用してもらえたアキラは猫娘の耳を触ってみる。
「うおおおおおお雪女だぁぁぁぁ」
 今度はカキ氷を売っている雪女を見つけ爆走する。
「いらっしゃい、何味にします?」
「氷レモンをくれ!うひゃぁあ、頭がキーンッってなった!」
「そんなに急いで食べるからですよ」
「あっ、あの。握手してもらってもいいか?」
「はい?」
「雪女なんて初めてみたから、握手してみたいと思ってさぁあ」
「可笑しな天邪鬼ね、いいですよ」
「うおおおおおつめてえぇぇぇぇぇ。(あっ普通に出店も見て回らなきゃな!)」
 アキラは思い出したように出店めぐりを始める。
「なんか変わった食べ物は多いけど、買って保存したり出来るようなものはないなー。食べても特別な変化が起こるわけでもないし」
 林檎飴やあんず飴などの食べ物は賞味期限があり、冷凍しても長期保存出来るものではなかった。
「砂時計とか特別変わってるようなもんじゃなかったしな」
 買ったものを見ながらしゅんとする。
「そういえば櫓があるってことは、後でなんかイベントが始まるのか?そこで妖怪と遊べればまぁいっか」
 イベントごとが始まるまで屋台で何か食べていようと、屋台めぐりを再開する。



「(これなら地球人だってばれないよな?)」
 獣 ニサト(けもの・にさと)は化け狸に変装し、化かす真似してちょっと驚かせようとターゲットを探す。
「そこの雪女。たまには氷以外のものを食わないか」
 雪女の姿の綺人に声をかける。
「うん?暖かい食べ物とか食べられないけど・・・」
「これなら大丈夫だろ?」
 綺人に林檎飴を渡す。
「うーんどうかな」
「(ククッ本当に林檎飴かな?)」
 ニヤッと笑うと綺人の足元に落としたドライアイスに水をかけて団扇で扇ぐ。
「白い煙?」
 綺人の手元が白いスモークに覆い隠される。
「ドライアイスが足元に落ちてますよアヤ」
「え?本当だ・・・何でこんなところに・・・」
 クリスに言われ足元を見てみると、ニサトが仕掛け用に落としたドライアイスがある。
「アヤその手に持ってるのはなんですか?」
「もらった林檎飴だけど」
 眉を潜めて手にもってるものを指差すクリスに、綺人は首を傾げる。
「林檎飴?違いますよ」
「どういうことこれ!?」
 瀬織の言葉に恐る恐る手の平を見てみると、林檎飴ではなく串に葉を刺したものがある。
「他の生徒さんが化かしたのですね」
「そっか。それでドライアイスが落ちてるんだね。(こういうお祭りだし、それくらいならいいかな)」
 ドライアイスを見下ろしながら、まぁいいかとふぅと息をつく。
「ありゃー気づかれたか。ま、こんなもんだよな」
 その様子を物陰から見ているニサトは、とりあえず一瞬でも化かせるようなことが出来てよかったかとニヤリと笑った。
「皆変装してるから、妖怪なのか生徒なのか分からないな。どっかにいないかな」
 新たなターゲットを探そうと広場内を探す。



「ねぇ1人なら私と遊ぼうよ」
 一緒に遊くれそうな妖怪がいないか探している終夏が鬼女に声をかける。
「いいわ、ちょうど鬼婆と世代の趣味が合わなくて退屈してたのよ」
「本当?ありがとう!」
「他の子もいるけどいい?」
「うん、いいよ」
「だって。磯女、提灯小僧」
 鬼女は一緒に来た妖怪たちを呼ぶ。
「なんだい。いい男でも見つけたのかい?それなら生き血をいただこうかねぇ」
「何言ってるの女の子よ。しかも妖怪同士でそんなことするわけ?」
「他の種族じゃないのかい」
「いるはずないじゃん、今日は妖怪だけのお祭りよ?」
「それもそうか」
 そんなのがいるものかと言われ磯女は残念そうに俯く。
「早く食い物!」
「あーはいはい、分かったわよ。提灯小僧がうるさいから、先に食べ物がある屋台を見ていい?箒神」
「いいよ、何があるのかな?」
「イベタムたちがやってる屋台とか美味しいわよ。ほら、あぁやって自分自身の刃を使って、肉を切るのよ」
「へぇー凄いね!」
 イペカリオヤシが放り投げた鳥肉を、イベタムが空中でさばく光景がまるで何かの曲芸を見ているみたいで、終夏は珍しそうに目を輝かせる。
 焼き鳥用にさばかれた肉が台に落ちる前に、火の鳥のような姿をしたふらり火が空を舞いながら自身の炎で焼く。
「美味しそう〜。塩で5本ちょうだい」
「はぁーいどうぞ」
 串に刺した焼き鳥をイペカリオヤシが渡す。
「あっちい、気をつけやがれこの野郎!」
「ぁあ゛?そっちがさっさと避けねぇからだろうがっ」
「はぁーまた始まったわ」
 イベタムとふらり火の喧嘩に鬼女は嘆息する。
「やめてよー、お客さんが逃げちゃうよー」
 彼らの喧嘩を止められず、イペカリオヤシはオロオロとしている。
「またってことは、よくこういうことが?」
「祭りの度によく喧嘩してるのよ。去年なんて他の屋台に火の粉が飛んじゃってね、そこの店主が怒り狂ってもう大喧嘩よ」
「そうなんだ・・・」
「でもそんなの他のヤツらは気にしないよ。箒神ー、それよりも冷めないうちに早く食べよう!」
「そうだね。(あまり気にしてたら楽しめないもんね)」
 暢気に言う提灯小僧に頷き、終夏は焼き鳥の入った袋を開ける。
「ふぅーふぅー。皮の部分がカリカリしてて美味しいね」
「そうね、このお祭りは初めて?」
「えっ!?う、うん・・・」
「それじゃあ今夜はおおいに楽しんでいくといいわ。次はどこに行きたい?」
「うーん・・・」
「生き血が飲みたいねぇ」
 鬼女と話していると突然、傍で黙っていた磯女が話しに割って入ってきた。
「さっき飲んだばかりじゃないの」
「むー・・・」
 即答で却下された磯女は不服そうな顔をする。
「冷たい飲み物が飲みたいかな」
「だったら白粉婆がやってるところに行こう。ちょっと変わってるけど、身体に害はないからね」
「どんな飲み物かな」
 終夏はわくわくしながら鬼女の後についていく。
「何色がいい?」
「味じゃなくて色を選ぶの?」
「この店ではそうよ」
「どれがいいか分からないから選んで欲しいな」
「じゃあ・・・これにしよう。白粉婆、水色を頂戴!―・・・ありがとうね。ほらもらったわよ、これを飲んでみて」
「ごくごく・・・ソーダみたいな味かな?ひゃぁあ身体の色が変わっていくよ!?どういうことー!」
 肌の色が突然水色に変化し、驚いた彼女はぐるぐると走り回って騒ぐ。
「大丈夫よ箒神、数分たったら元に戻るから」
「そっそうなの?へぇー面白いねっ」
 終夏は鬼女たちに他のところも案内してもらう。



「雪ん子か、可愛いですね。ちょっと声をかけてみますか」
 きゃっきゃとはしゃぐ雪ん子を見つけ、エッツェルはさっと彼女たちの傍に近寄る。
「幣六がいるぅー」
「いるねー」
 エッツェルに気づいた雪ん子たちが振り返る。
「よかったら私も一緒に混ぜてくれませんか?」
「どうするー?」
「うーん、いいよ」
「じゃあ冷たいアイスでも食べに行きましょう」
「行くー」
「行くぅう」
「逸れないように、手をつないでおきましょうね」
 雪ん子たちと手をつないでアイス屋へ行く。
「雪女はカキ氷だけじゃなくて、隣のアイス屋もやってるんだよ」
「へぇーそうなんですか。3つください」
「どうぞ」
「美味しそうですね、ありがとうございます。さぁ食べましょう、どれがいいですか?」
 紳士的に少女たちに、先に選ばされてやる。
「あたちはチョコがぃい!」
「むぅー、あたちはねぇ。バニラー」
「では私はミントにします」
 アイスをその場で食べきり、目の前にいる美しい雪女へ視線を移す。
「雪女さんのその冷たい瞳って素敵ですね」
「あらあら。そんなこと言っていいんですか幣六さん。あなたのようなかっこいいお兄さんは私・・・、凍らせて山に持ち帰ってしまいますよ?」
「はははっ。凍らされるのはちょっと困りますね」
「まぁ、こちらも冗談ですけど。フフフッ」
「冗談・・・ですよね。はぁ・・・」
 からかわれたのかとエッツェルはしょんぼりする。
 雪女には彼が口説いているセリフだとお見通しだったのだ。
「花屋さんもあるよ」
「どんな花があるんですか?」
「行ってみれば分かるー」
 雪ん子に案内され、古椿の霊の花屋へ行く。
「(なんともいい香りですね。あの妖怪の香りでしょうか)」
 頭に咲いているキレイな赤い花から香りが、よそ風で漂ってきたのだ。
「どの花にします?」
「トロロアオイをください」
「大事にしてくださいな」
 花を包んでエッツェルに渡す。
「他の花もいかかです?」
「店にある花ならどれでもいいですか?」
「えぇどうぞ」
「あなたという花を摘んでも?」
「―・・・わたくし・・・ですか」
 言葉の意味がよくわからない古椿の霊が不思議そうに首を傾げる。
「私がこの花を選んだのは、古椿の霊さんへの思いの表現です。トロロアオイの花言葉は整然とした愛、知られぬ恋」
「答えるのに5000年はかかってしまいそうですね」
「そ・・・そうですか」
「元気出して」
 しゅんとしおれたように俯く彼を、傍にいる雪ん子たちが慰める。