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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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 17、本格化する暴動
 

《急遽、タイムが取られました。後半のこの流れ……。前半の精神攻撃で動けなかった西チームが、見事に形勢逆転しましたね。偶然とはいえ、西チームは攻撃に集中することが出来たわけで。それとも、ここまで計算してのアシッドミストだったのでしょうか?》
『違うと思うネ。あれは、あくまでも目くらましとしてのアシッドミストだったと思うヨ。その調整は、天使が何人も来て怒ったこんとらどっじさんがいじったのかもしれないネ。アシッドミストいこーる服が溶ける! とかいう思考回路の持ち主だったのヨ、きっと』
《え……こんとらどっじさんって実在するんですか?》
『冗談ネ』
 闇口は今、副音声の聞こえるイヤホンを再び装着していた。上からのお達しがあった為だ。どうやら、視聴者の殆どがキャンディスの副音声を選択していたらしい。どうせツッコミを食らっているんだからちゃんと会話しろと言われ、渋々そうしている。また、空京の放送局ではキャンディスを正式に実況に使おうという流れもあるようだ。
《救護所は、VIP席のある観客席前に移動したようですね。少し混乱しているようです。ストレッチャーが足りないのか、何台か裏から運んできていますね。暴動の被害に遭った観客が助けを求めて殺到しているようです》
『30人くらいはいるネ〜。それに、怪我をした選手達の安全の確保も必要になってくるヨ』
 びたーん! というビンタの音が定期的に聞こえる。アン○ニオ猪木じゃないんだから、理不尽なことこの上無い。患者達が抗議する傍ら、司は痛みを訴える相手をベッドに寝かせ、強引に治療を行っていた。こちらはまあ、処置自体は適切である。
「怪我なんてものは気の持ちようです! 気合さえあればなんとかなりますよっ! はい、立った立った!」
 一方、サクラコは軽症の観客をそう言って追い返している。ぶーぶーと言う彼らを集めてリカバリを掛けているのは皐月だ。マクシミリアンやらラスターエスクードやら、ブライトグラディウスやらやけに物々しい装備をしている。
「無いとは思ってたけど……本当にこんなことになるとはな……」
「それなら、どうしてそんな装備品持ってきてるんですか。というか、折角そんな格好してるんですから警戒に徹したらどうです?」
 七日も、綾耶と一緒にナーシングやヒールで怪我人に当たっていた。しかし、鎌を持ってきている七日に言われるのは少し釈然としないものがある。
「――まぁ、野郎に治療されても嬉しくないって奴も居るだろうし、万が一に備えて壁役やっててもいいんだけどな。目の前に居る怪我人は、やっぱり放っとけねーだろ」
「……お人好しですね、全く」
 先程、ファーシーに恋愛話を持ちかけた彼女は、すっかりいつも通りの調子だった。そして、この後に及んでもろくに仕事をしようとしないで寧ろピノを連れて離脱を図ろうとしているらしいラスに、鎌を振るった。
「わ、わわわっ!」
「働こうとしない男の頸なんて必要ありませんね。刎ねましょうか」
「いや、俺も一応怪我人……」
「湿布レベルで何言ってるんですか。働いてください」
「……ハイ……」
 キラリと光る鎌を突きつけられれば、仕事をするしかあるまい。仕方なく包帯を手に取る。
「……意外と上手いですね……」
 そして、ここにも意外な男が1人。フリードリヒは積極的に怪我人に対して動いていた。片っ端からヒールをかけていく。使い方に躊躇が無い。適当とも言う。
「ひーるひーるひーる」
 何か楽しそうだ。
「あ、SPなくなった。ファーシー、SPリチャージしてくれー♪」
「え?」
 天使の救急箱からマキロンを取り出して観客の傷口に塗っていたファーシーは振り返った。びっくりしていると同時に、何だかイヤそうだ。マキロンを圧迫しすぎて、ぶしゅーと中身がたれている。
「SP……無くなったの?」
「もう、すっからかん。ほら、早くしないと怪我人が待ってるぜ?」
 ……やけに積極的だったのはこれが狙いか。
 ファーシーは患者の山とフリードリヒを見比べて溜め息を吐いた。
「しょうがないわね……。ここまで運んでもらったし……。車椅子も」

《……………………そろそろ5分が経過します。選手達が戻ってきますね。東チームは、既に内野が8人になっています。キリカ・キリルク選手、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)選手、水橋 エリス(みずばし・えりす)選手、赤羽 美央(あかばね・みお)選手、神代 明日香(かみしろ・あすか)選手、椿 薫(つばき・かおる)選手、メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)選手、クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)選手ですね。西チームと随分人数に開きがありますが、どうなるでしょうか》
『もう、皆体力もそんなに残ってないと思うネ。小説とかだと、大逆転! とかになる展開だけど……でも、これはあくまで現実ネ。……現実ヨ? それより、暴動が止まりそうにないネ〜』

 瀬織のサンダーブラスト、ファイアストームが観客達の間を舞い、クリスの肉体技が確実に1人ずつ再起不能にしていく。瀬織はディテクトエビルで感知力と魔法防御力をあげていたが、時折ヒールを掛けている。優梨子は吸精幻夜で観客を操りつつ体力を回復しつつ、笑みを浮かべて暴動客達に対抗していた。不審者を警戒していたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)も彼らの鎮圧に当たる。
 客も本気で暴動をしたい訳ではない。ただ、この祭りを楽しみたいだけなのだ。だが――どんな時にも事故というものは起こるものだ。
 階段の上の方に居た観客が躓き、転ぶ。ただ転ぶだけじゃなく、彼は他の客に覆いかぶさるように倒れた。その下になった客もまた倒れ、その下も、その下も。
 人々が将棋倒しになって落ちていく。多数の悲鳴が上がり――そして、その1番下に居たのが優梨子だった。彼女は想像を超える重量をその身に受け、壊れた仕切りに背中をぶつけた。その拍子に観客の持っていたフォークが顔に直撃し、一部が吹き飛ぶ。背中にも仕切りの部品であるパイプが刺さっていた。若干モツとかが見えていたが、優梨子はそれはそれで楽しそうに笑った。
「ふふ……こうでないと楽しくないですね! 私に血を提供したい方は遠慮なくどうぞ。生首にしてさしあげますよ?」
 言いながらパイプを抜き、しっかりとリジェネレーションをかける。しかしその時、会場の皆の動きが止まった。冷たく凛とした、それでいて挑発的な響きを帯びた声がスタジアムの大画面から流れたからだ。