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リアクション
●第10章 はじめての ☆の子の お風呂。
茅野 菫(ちの・すみれ)が朝起きた時には男だった。
いつもと同じように振舞ってるように見えて、実はすっごく混乱していた。
「何これ? あたし、男の子になってるじゃん!? ど、どうしよ…」
なんで、こんなことになったのかを何度となく思い出そうとしたが、もちろんわからなかった。
「はぁ…なんで…こんな…」
そう言いつつ、菫は服を着替えることにした。
さすがに男の子の服は、すぐには調達できない。菫は男の子でも平気そうなスパッツを直穿きすることにした。パンツ代わりである。
もにゅん☆
「う…何、この気持ち悪さ。サイテー…」
湧き上がるムカツキを抑えて、菫は我慢して穿いた。そこは見ないに限る。
上は適当なチビTを着て、下はゴシックパンク風の赤いチェックのプリーツスカートを穿く。これにはチャックと安全ピンがいっぱい付いたレッグカバーが付属されている。
傍目から見れば男の子だか女の子だかわからない服だ。
「はぁ…なんか疲れた」
さすがの菫もこれには驚いた。
このストレスをどうしてくれよう。
「お風呂でも入ろうかな…朝風呂ってスッキリするし」
菫は気分転換しようとお風呂場に向かって歩きはじめた。こういう時は、大浴場が一番だ。大きくてのんびりできる。
「んー、どっちに入る?」
自分に問いかけた。
菫はまだ小さい。ぎりセーフで女湯だろうか。
なじみの無い男風呂に入るよりは、女風呂の方がいい。
それに、男の子になってしまったお仲間がいないかと探してみたいところだ。じっくり見たろーやないかいと思ってみたが、しかし、この時間は人が少ない。
「チェッ……」
菫は拍子抜けした。
そう思うと、大浴場がやけに大きく見える。
誰か『だいじなところの洗い方』を教えてくれないだろうか。
もじもじしつつ、今しがた入ってきた男の子が(元)女の子であるかどうかを窺う。
ここで本物の少年にでも声をかけたら、ただのエロ痴(魔)女っ娘☆になってしまう。
菫は深い溜息を吐いた。
☆★☆★☆★
●第13章の2 はじめての ☆の子の お風呂。(七那 夏菜 の場合♪)
「ふわぁああ〜〜〜う!」
それはある部屋から聞こえてきた。正確には、ある部屋のトイレから、である。
ただいま、この小さな小部屋の住人になっているのは七那 夏菜(ななな・なな)。
夏菜はパジャマのズボンを下げたまま硬直した。そのまま、ストンッとその場にへたり込む。
(ボク、女の子になって…)
前を見たまま、必死で【下を見よう】という衝動を抑えていた。
恥ずかしすぎて動悸が止まらない。
夏菜は今日と言う日、そのものを恨んだ。
「ふぁぁ〜〜〜〜〜ん!」
パタンッ☆
「もぉ、いやだよお……」
トイレから出た夏菜は呟きながら洗面所に向かう。トイレの後は手を洗うものである。
そして、鏡の前に立ち……
「ひぇぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
悲鳴が響いた。
女の子になっている。獣耳は、無い。
そして、悩んだり落ち込んだり泣いたりを繰り返し、最終的には夏菜は七那 禰子(ななな・ねね)に助けを求めた。
「ほっときゃ治るんじゃねぇの?」
あっさりと言った。姉は。
もっと正確に言えば、姉と慕う剣の花嫁である。だが、慕い頼る相手がどんな種族であろうと関係ない。
どれだけ思って、どれだけ愛して、どれだけ大切にするかである。
夏菜にとって、禰子は【姉】。それで十分で、【姉】はその役割を十分にこなしていた。本当に姉のようだった。
「ほっときゃって…直らなかったら?」
「それはそれで…あ、でも。キミのこと疑う人がいなくなるよう、お風呂に行って【女の子なとこ】を見せびらかしてきたら良いんじゃないか?」
「…あ……」
そんなことは考えもしなかった。名案である。
「ねーちゃん、それってアリなの?」
「アリじゃねーの? むしろ」
「そうかなぁ」
「いいんじゃね?」
「んー…」
「あまり思い出させたくはないんだけど……、キミの命もかかってるしな」
逆転してしまった性別を利用しようと言うのだ。実に禰子らしい考えだった。
「それはそうなんだけど」
「だったら、早く行こう。ちょっと早い時間だけど、昼間のお風呂って人気あるんだよな、ゆっくりは入れるからさ」
そう言って、禰子はウィンクした。
これで自分が女の子だと認識してもらえるということで、恥ずかしいけど夏菜はお風呂に行くことにした。
いつもは男の子なのがばれないように人が少ない時間に入ってるのに、今日はわざと人が多い時間にいくことになるとは。
夏菜は溜息を吐いた。
(恥ずかしいけど、恥ずかしいけど、恥ずかしいけど……でも、この先バレない為に頑張る! ……恥ずかしいけど)
きゅっと拳を握り締め、百合園が誇る一番大きな大浴場のドアを見た。
「うぅ……恥ずかしいよぉ」
「はぁ…今からそんなことでどーすんだよ」
「だって…」
「さあ行くぜ」
それだけ言うと、禰子はドアを開けてしまった。
「そおのタオル外せって」
禰子は言った。
「だって、恥ずかしいし…って、ぁああああああ!!!!」
ごおおおおーーーん!
「……って、転びやがった!」
「痛いよぉ!」
「おい、大丈夫か? ちゃんと周り見てないからだぞ」
禰子は呆れて言ったが、ふとあることに気が付いて、ふむと納得した。
(結果的に派手に見せびらかすことになったし、結果オーライだな!)
姉は鬼だというのは、世界共通かもしれない。
「うぅ……、みんなにばっちり見られちゃったよぉ」
「大丈夫ですか?」
心配になって、隣にいた子が声をかけてくれた。
「あ、ありがとっ…痛た…」
「無理しちゃ、めーですよ?」
その子は笑った。
恥ずかしかったけれど、夏菜は女の子として人に接することが出来たので満足だった。