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リアクション
●第20章 包囲網はすぐそこに
恋人のソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)も女性化したなら、薔薇学にはいないはずと思い、久途 侘助(くず・わびすけ)は師王 アスカ(しおう・あすか)と共に空京に向かう。
もちろん、ソーマを探すことと、街の様子を見るためだ。
「どう? 彼は見つかったの?」
アスカは言った。
「いないなぁ…でも、大丈夫。どんな姿になったって、俺の愛で見つけ出してみせる!」
侘助は楽しそうだ。
人ごみの中から人を探すのは至難の業だ。だがしかし、愛の力は偉大なり。侘助はソーマを発見した。
遠めで見ていると、なにやら清泉 北都(いずみ・ほくと)とクナイ・アヤシ(くない・あやし)の邪魔をソーマがしているようにも見えた。
北都はVネックのグレーのサマーセーターと黒のスリムジーンズ。クナイは麻のシャツにカーキ色のカーゴパンツという格好だった。
ソーマは白い長袖シャツに黒のスラックスだった。どうやら背が低くなったのか、シャツはダボダボのままだし、スラックスの裾を折って穿いていた。黒い帽子を目深に被って顔を隠している。
アスカと侘助はそっと後をついていき、三人の会話を聞こうとした。
すると、北都はソーマに対抗してクナイの腕にしがみ付く。ソーマは何を考えているのやら、クナイにしがみつき、挑戦的な表情で北都を少し煽っている。
「あの、北都。ソーマに対抗しなくていいですから」
胸が腕に当たって落ち着かないのだ。
「でも…」
北都がそういった瞬間、侘助はソーマに飛びついた。
「ソーマ、見つけた!」
「わっ! …何だ、侘助か…」
侘助に後ろから抱きつかれ、ビックリさせられたソーマは不機嫌そうだ。
でも、侘助は知っている。これは拗ねているだけだ。
相手の嬉しそうな顔した一瞬を見逃すはずも無い。でも、ソーマはだぼだぼの服のせいか、眉を顰めて仏頂面をしていた。
それに、左薬指のリングはそのままなのだから、女の子になっても思いっきりバレている。隠れようがない。
「じろじろ見んな」
「美人なのにどうして帽子で隠すんだ? 勿体ない…」
とか言いつつ、侘助はにやにやと笑った。
「女性化で背が15cm縮んだからだ。侘助より低いじゃねぇか。見降ろされるのはごめんだ」
ソーマの言葉に侘助は笑いたいのを堪えて、眉を顰めてしまった。でも、口のヘタは笑っている。
北都が二人のやりとりを見ていたが、いつもと違って護るように肩に手を回すクナイがちょっと気になってクナイを見た。
「僕は女の子の方がよかった?」
北都は何気なく言った。その方が不自然じゃなく一緒に居られるのかなと思ったからだった。
「男か女かなんて関係ありません。私は北都が…北都だから好きなんです」
クナイは苦笑した。
後ろにいるのも辛くなって、アスカがちょっと顔を出した。
「あ、れ……師王さん?」
北都は言った。
「こんにちはー♪ 清泉くん…女の子ねぇ」
「そうみたいだね」
「 ……久途く〜んっ!」
「え?」
「勝利のポーズ♪」
「あ、うん」
師王とハイタッチ! 悪戯成功だ!
それを見てソーマが目を瞬いた。
「何?」
「なんでもない…」
「ちゃんと説明しろよ」
ソーマは言った。
「わ、待って…」
そう言った侘助は、ポケットの中の携帯のLEDが光ったように見えたので、ソーマを征して携帯を出した。
「…あ、留守ロク…入ってる。ちょっと、かけ直すね」
侘助は携帯のボタンを押した。
だが、その行為は敗亡への逆落とし。
彼女らの命運もそれまでだった。
☆★☆★☆★☆★
「バクヤ、これで本当に『剣の花嫁』でありますな! …って、わわ!! 何かいけない事言ったでありますか?!」
草刈 子幸(くさかり・さねたか)は光条兵器を振り回す草薙 莫邪(くさなぎ・ばくや)を制して叫んだ。
一人殺気立って飛び出していく勢いの莫邪は、着るものが無くても、花嫁の白いドレスを腰に巻きつけていた。絶対に着ないという決意の程が見える。
「ドレスなんかっ! 着るか、ヴォケーーーーーーァ!!」
鉄草 朱曉(くろくさ・あかつき)も別段困る事はないのだが、莫邪が止まらないので、どうにかせんといけないかなとは思っていた。思っていただけだ。
「しっかし…ええのぉ〜、やっぱ肩や足の露出は女の曲線美に勝るもんはないのぉ〜。しかし、背がちいとでも低ぅならんと可愛げないのが残念じゃでー」
もっしゅもっしゅとご飯を食べながら、朱曉は他人事のように言う。
「やかましいわ!! 飯なんか食ってる場合じゃねえだろうが!」
「腹が減ってはぁ〜」
「こら、バカツキィッ! お前、ちった〜ぁ役に立てよ」
莫邪は我慢ができなくなって怒り出す。
「しかたない、犯人を捜すであります。しかし…情報が無いのであります」
「あ〜? 久途にでも連絡すりゃいいだろ。他に話しやすそうなヤツはいるか?」
「そうでありますなぁ。他には思いつかないであります…では、とりあえず久途先輩に会うであります!」
子幸は尊敬している侘助の所に相談に行こうと立ち上がった……が、今は夏休み。
「う〜〜む、まだ夏休みであります」
「アホか。ケータイで連絡すりゃいいだろ」
「あ、そうであります」
そして、子幸は電話をかける。
呼び出し音が続く。
侘助は気が付かないようだ。
「電話が通じないであります。この調子だと、久途先輩はお相手と一緒にいるでありますなあ。しかたない、ここは諦めるであります」
プツッと電話を切ると、子幸はポケットに携帯をしまおうとした。その瞬間、電話が鳴った。
「あ、電話であります」
折り返し久途から電話が来たことにビックリしつつ、子幸は電話を取る。
近くにいると言うので、子幸たちはそこまで走っていくおとにした。
「久途せんぱーい! …あっ! お相手と一緒であります〜」
久途の隣にソーマがいるのを発見し、「お邪魔はよくないであります!」と、こっそり回れ右をしかけたところ、久途に声をかけらた。
「久途先輩、邪魔したのではないのでしょうか? だったら謝らなければいけないのであります」
「あぁ、大丈夫。…で、何の用事だったんだ?」
「そうです。そのことであります。実は巷で性転換の事件があったのをご存知でありますか? まぁ、お相手がそのようでは、知っていると思うでありますが…」
「あぁ、知ってる…災難…だよ、ね…プッ…」
そう言いつつ、侘助は苦笑した。…フリをした。
後ろで見ていたアスカは笑いを堪えている。
「実は、うちのバクヤの怒りが止まらないので、犯人を追っているであります」
師王と久途はにやりとした。しかし、知らんふりだ。
「え? そうなんだ」
「そうであります」
「残念だなァ…手伝ってあげたいけど…俺、ソーマと一緒だしぃ?」
「そうよね〜。デートするんだもんね、これから」
アスカも苦しい言い訳をはじめる。
そして二人は、ソーマたちを連れ立ってそそくさと逃げようとしはじめた。
しかし、なにやらゾロゾロと人が集まってくるではないか。
「ん? なんでしょうねぇ」
クナイは言った。
腕を組んで、今までと何か違って感じるかを試している北都にされるがままだったが、周囲の様子に首を傾げる。
集まってきた集団は、各校の生徒たちだ。
先頭に立っているのは、教導団の鷹村。後ろに金住、自分のパートナーを犯人だと思い込んでいる鳳明。新入生の城と凛、皆川、他一同。
水上 光(みなかみ・ひかる)なんぞは「薬なんか没収だー! レシピもよこせー!」と言う始末。
「え、嘘。バレた?」
「……そうかも」
さすがの人数に驚く師王と久途。
集まってきた一同は、侘助たちの前で立ち止まった。
そして、鷹村が言った。
「すみません、教導団 騎兵科の鷹村ですが」
鷹村は形式的な挨拶をした。
幾度となく依頼や戦闘を繰り返している鷹村ゆえ、どこかで会っていたりしても、さすがに声をかけるときには名を名乗る。
「実は、性別が入れ替わるという事件の犯人を友人の伝で捜そうとしたんですが、該当する魔法薬用品の店の顧客名簿に久途 侘助さんの名前があったんですよ」
「え!?」
蒼白になる、侘助。
鷹村は見逃さなかった。
さっきから、可愛い名前の巨漢アリスに数度殺されかけるわ、その度に弟分にヒールされるわ、血反吐ぶちまけるわで、散々で残念な休日を過ごしたのである。
これはオトシマエをつけていただかないと、ちょっと納得できない。
「えっと…その…」
侘助はたじろいだ。
「久途くん……君のことは、忘れない! じゃあね!」
「師王ェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
アスカが走り出した。
振り返らない。
「うそ…だろう…」
侘助は呟いた。
振り返ると、睨んでいる一同。
ジリジリと皆がにじり寄った。
もう、後が無い。
そして、正義の声が響き渡った。
「悪戯が過ぎたな…その悪意、俺が両断する!」
篠宮 悠(しのみや・ゆう)、満を持して登場!
何とかと煙は高いところに登るとか、そこのあなた、言っちゃいけませんよと突っ込んで。
「女が悶える永遠の法則は、白と黒との黄金比!! 俺の拳と、フラガラッハを喰らいやがれェ!! いくぜ、とぅっ☆」
悠は颯爽と飛んだ。
電柱から。
背後であなたの契約者が、ナニカやってますよなんて、抜群のひ・み・つ☆
「スイッチを押すと、外装を弾き飛ばして魔法少女の衣装が姿を見せる! 魔法少女フォームってワケよ!」
…と、小鳥遊 椛(たかなし・もみじ)&瀬良永 梓(せらなが・あずさ)。
「じゃあ椛、やっちゃうわよ!」(ぽちっとな♪)
「仮面のヒーロー【絶刀戦士パラフラガ】とうじょ…ぅ? …ああ?? あーーーーー!!!!」
しかし、それは!【魔法少女エタニティルナ】としてのデビューとなったのであった! 南無三!
こまけーェこたァ、気にするな!
「俺、用事思い出したから……じゃぁな!!!」
侘助は走り出した。
篠宮を完璧に無視して、久途は師王を追いかける。
「待てや、コラァーーーー!」
「絶対に捕まえて叩いて晒して嬲って挿してイカしてとっちめて差し上げますわっ。沙幸さんのたっゆんなおっぱいを還すのです!」
「フヒヒ♪」
「うわぁーーーーー! ソーマ、助けてくれーーーー!」
「こっちに来ないで、久途くん!」
「おまえも捕まれよ!」
「いやよーーーー!」
「ああ、美しきひと、君は、まさにボクの天使だ!」
霧島 春美(きりしま・はるみ)は紅月を道中で見かけ、ずっと追ってきていた。
「ふわっふ!? 何故、俺!?」
紅月は箒に乗った男の子の登場に驚いた。さすがに、告白されればビックリするだろう。
「だって、綺麗なんだもーん」
「はあ??」
「さっきからねー、『君の瞳に乾杯☆』とか言ったら逃げちゃうのよー」
「そりゃ逃げるだろうゥう! つーか、犯人が逃げる!」
「え、犯人?? わーーーい! 探偵としての腕が鳴るわぁ♪」
「じゃぁ、追いかけろ!!」
「ひゃっほーーーーい☆」
ばびゅーーん! っと、春美は出力最大でぶっ飛ばす。
「犯人! 捕まりなさぁい!」
「いやよぉーーー!」
そして、遠鳴りのように聞こえるナニカが近付いてきた。
「ひゃっはぁーーーー!」
「ひゃっはぁーーーー! ひゃっはぁーーーー!」
「ひゃっはぁーーーー! ひゃっはぁーーーー! ひゃっはぁーーーー!」
典韋 オラ來が手勢を連れて空京にやってきた。
実は、先ほど男になった嬉しさで、男の姿のまま、思わず曹操の急所を蹴り上げてきたところなのだ。女の姿のクセが消えず、ツン度1000パーセントで照れ隠し蹴りされた相手はたまったもんじゃない。
そして、その現場をローザマリアに取り押さえられたのだった。
…で、現在に至る。
後ろからはローザマリアが手に鞭を持って追いかけてきていた。
「性転換薬よこせ、ひゃっはぁーーーー!」
「馬鹿を言うんじゃないわでゴザル!」
ローザマリアは容赦なく鞭を振るう。
「お゛ーーーゥ!」
典韋は野太い声で叫んだ。
「姐さん、素敵ッス!」
手勢の一人、はぐれパラ実生が潤んだ瞳で言った。蛮族は奇声を上げた。
「さぁ、追い込むでゴザルわよー!」
「ひゃっはーーーー!」
鷹村以下、被害者一同と典韋&手勢がアスカと侘助を追い込む。
「いやぁああ!!!」
「ひぃ…ッ!」
もう、後が無い。本当に無い。
そこは高層ビルの上。
「何故だっ! 何故にお約束な場所へ行くのだ、犯人!!!」
篠宮と子幸が叫んだ。
「こんなところまで馬走らせてきたのはそっちじゃないかぁ〜〜〜…ぁ、ああ!!」
篠宮たちが悠長なことを行っている間に、ローザマリアが久途と師王を捕まえた。
「ちょっ…ちょっと…あ゛ああ!!!」
「ひいぃ〜〜〜〜〜〜ッ!!」
「このぐらいはしないと納得できないでゴザルね」
ローザマリアは言った。
一メートル四方の石を波型に切った物を二つ並べ、その上に縛り上げたアスカと侘助を正座させる。
そして、ローザマリアは石を太股の上に積んでいった。――石積みの刑だ。
「どう? 生あることに感謝するでゴザルよ」
「うぅッ…悪かった…です…」
「生キテイテゴメンナサイ」
二人は謝るのだった。