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イルミンスール魔法学校

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シャンバラ教導団へ

切なくて、胸が。 ~去りゆく夏に

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切なくて、胸が。 ~去りゆく夏に
切なくて、胸が。 ~去りゆく夏に 切なくて、胸が。 ~去りゆく夏に 切なくて、胸が。 ~去りゆく夏に

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SCENE 26

 花火が終わり、解散となる。
 ……その前に、
「両校の諸君、まずはその健闘を称えたい。私は本日、中立の検分役としての役目を受けたシャンバラ教導団所属のクレア・シュミットだ」
 両校代表、すなわち、蒼空学園の御神楽環菜とイルミンスール魔法学校のエリザベート・ワルプルギス、さらには両校のメンバーを含む多くの聴衆を前にして、マイクを手にしたクレアが結果発表を行うこととなった。
 設置されたステージに上がり注目を浴びても、たたき上げの軍人たるクレアは何ら動じない。隙のない軍装、黒真珠のような目で、手元のレポートを読み上げた。
「まずここで、今夜のルールを確認したい。すなわち、
 1『原価も申告して純利益だけで優劣を競う』
 2『他校の屋台はカウント外』
 3『相手校の営業妨害をしたら反則負け』
 4『その他不正行為は禁止』
 である。その上で、両校の売り上げを合計し、高い方を勝利者とする。
 私は本日、巡回を行ったがルール3に該当するものはなかったことを明言する。4については未遂を含む違反者もないではなかったが、ペナルティに至るまでのものはなかった。正々堂々とした戦いであったことを我らがシャンバラ教導団の名において保証しよう」
 違反なしというのは気持ちが良いものだ。歓声が場を満たした。
 クレアの紹介を受け、やはり教導団軍服の青年が壇上に上がる。麦穂のようなブロンドに、明け方の海のような碧眼、背中の白い翼は守護天使の象徴だ。
「同じくシャンバラ教導団所属のハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)と申します。公正に集計作業を行わせていただきました。わたくしもまた、教導団の名にかけて結果に間違いがないことを宣誓します」
「それでは結果を発表する……」
 緊張感が走った。
 クレアは各店舗の売り上げを読み上げていく。ぎりぎりの段階まで結果はほぼ同じで、久世沙幸は「まさかの引き分け!?」と期待するが、結果、僅差でイルミンスール魔法学校の勝利と決まった!
(「ここまで来て無様なラストってんじゃ絵にならない! 最後はきれいに〆てやるぜっ!」)
 二人の校長が取っ組み合いでもはじめるかと思い、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が飛び出そうとする。まさかのときには体を張って争いを止めるつもりだ。
 しかしそれは杞憂に終わった。お互い、じろりと睨み合いながらも、
「ヨーヨー釣りってアイデアは悪くなかったわね。しばらくはこれを見るたび、今日のことを思い出せそうよ」
 環菜は、もらった水風船を手にして告げ、
「褒めるのは悔しいんですけど……クレープ、美味しかったのですぅ」
 エリザベートも、素直になれぬまま環菜を称えるのである。
「お疲れ様、二人とも。格好いいぜ」
 アキラはゆっくりと進み出た。その手には、帽子箱ほどの黒い紙製の箱がある。
「気持ち的には両方を勝者にしたいくらいだな。だからこれは二人にプレゼントだ。俺からの特別のご褒美だぜ〜」
 すわ危険物かと、ルミーナ・レバレッジは腰を浮かせかけるも、環菜がこれを制した。
「いただくわ。開けてもらえる?」
「じゃ、いくぜ〜」
 アキラが箱を開くと、そこには大量の蛍が入っていた。
 かくて自由を得た蛍は夜風に誘われ、ゆっくりと流るる金色の河のように飛び交う。
 それがいかに幻想的な光景かは、言うまでもないことであろう。
 誰もが……特に二人の校長が心奪われている隙に、アキラはマイクを手にしていた。
「ところで二人とも、店の売り上げはどーするつもりなんだ?」
 答える間を空けずに今度は大声で、
「なにぃ、二人とも売り上げは慈善団体に寄付するぅ!? さすが両校長だ! やることがニクイぜ! いよっ教育者の鏡〜」
「やってくれたわね……」
「ま、仕方ないのですぅ」
 環菜もエリザベートも苦笑いを浮かべるが、売り上げをどうするかまで考えていなかったのは事実、せっかくなのでその案をそのまま受け入れることにした。 
 勝って傲らず負けて腐らず、どちらからということもなく、二人の校長は握手を交わしたのである。
 両者を称える嵐のような喝采は、当分やみそうになかった。