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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANOTHER 浮上の歌

 シャーロット・モリアーティさんに連れられて、ゲームセンターをでたあたしとくるとくんは、迎えにきた車に乗り込みました。
 地球のメーカーのエアカーで、運転しているのは、なんとラウールさんです。
 広い車内には、オーレリー姫と少年がいました。
 あたしたちを乗せて、車はマジェスティック市内を低空飛行します。あちこちから水が流れ込んできていて、道路がまるで水路みたい。
「シャルさん。なんであたしとくるとくんを」
「私は今回の事件を探偵として調査しています。同じ探偵のあなたちと協力するのは、当たり前ではないですか」
「支配人。姫をどこに連れて行くつもりさ」
「アル。私よりも、姫に聞いたほうがいいと思うぞ」
 ハンドルを握り、前を見たまま、ラウールさんが答えました。
「ラウール総支配人。貴方は、もしかして」
 姫の言葉をさえぎり、ラウールさんは、
「私は、昔、姫様のおじい様にお世話になった男です。あの時の、御恩を返しに参りました。おそれおおくも進言させていただきます。女王も復活したいま、マジェスティックも本来の姿に戻るべきではないでしょうか」
「・・・幼い頃におじい様に聞いたことがあるの。パラミタに迷い込んだ地球の伝説の大泥棒を救ったことがあるって。子供だった私を喜ばせるための作り話だと思っていましたが、それは、つまり、あなたは、私に、あれを浮上させろとおっしゃるのですか」
「いまはその好機かと思います。悪人のたくらみではなく、あなたが自分の意思で復活させ、この地の民たちと新たな歴史をつくるべきだ」
 姫とラウールさんのお話の意味は、わかりませんが、事件が最終局面を迎えつつあるのは、感覚的に理解できます。
 車は、市内最大の教会の残骸の前で、とまりました。ちょっと前に、騎沙良詩穂さんときた場所です。ロープや柵はないけど立ち入り禁止状態のできたての廃墟。
「くると。あまね。ここの地下集会場にレキや街の人たちが生き埋めになっているのじゃ。わしは、どこかにこの近辺に非常用の出入り口がないかと探しておるのじゃが、どこも破壊されてしまっていてな」
 廃墟の前で、小さな魔女ミア・マハさんが困っています。
おっと、あたしの携帯にメールが。
『マジェスティック少年遊撃隊を連れてそちらへ行きます。詩穂 PS サド侯爵の下着(縄)で鮪さんを縛りあげました』
 詩穂さんが少年遊撃隊を連れて、応援にくる?
 数分後、彼女は本当にやってきました。あたしたちが現場を去った後、テレビ中継で彼女が伝えたメッセージ、マジェスティックを救うために団結しよう! に共感した数十人の子供たちを率いて。
「きっと、俺の家の古井戸からなら、入れると思うよ」
「学校の裏の洞穴とつながってるよ」
「沼の底にトンネルがあるの」
 ラウールさんが、子供たちに地下集会場の出入り口を探しているのを話すと、さっそく何人かが手をあげました。
 この子たちは、地下道へ入る秘密の通路をよく知ってるみたい。
 あたしたちは、教えられた出入り口、草木で隠された人工の洞窟から、地下へおります。
そこは歌声の反響している暗闇でした。
「レキさーん。いますか?」
「あまねちゃーん。みんな、ここで待ってるよ。おーい。助けがきたよー」
 あたしの声、レキさんの声、そして、たくさんの人の歓声です。

 あたしたちが持ち込んだ照明用のライトで集会場内は明るく照らされました。
 舞台には、爆破されて壊れてしまったピアノ。オーレリー姫。
「ピアノは、伴奏のための道具にすぎません。皆さんの歌声がこの街を動かすのです。今夜は、街が真の姿を取り戻す夜。みなで歌いましょう。
 God save the Queen」
 オーレリー姫と歌う人々の声は、はじめから、その人数の数倍は音量のある大合唱でした。


「なんですってぇー。マジェスティクの地下にある古代都市の遺跡が浮上する、ですってえ。ロンドン塔が、ほぼ沈没するんですね」
 大合唱の中の会話はつい怒鳴りあいになってしまいます。
 ラウールさんは頷きました。
「遺跡は、ロストテクノロジーの宝庫だ。マジェスティックは、シャンバラの保護指定都市になるだろう。この歌声でスイッチは、入った。もう誰にも止めることはできない。今夜、一夜でマジェスティックは、姿を変える」
 耳元でなんか言われてますけど、よく聞こえませんよ。
「問題は、守護神だが、本当に必要な時がきて、街が浮上するのなら、言い伝え通りなら、あれは自分から姿を消すはずだ。そうでなければ、この地を焼き尽くす」
「はあー。守護神って、なんですかあ」
「くるとくんやきみ、捜査メンバーのみんなと会えて楽しかったよ。機会があれば、また会おう。今度は、本来の探偵と怪盗としてね。メロン・ブラックに引導を渡す役割はきみらに任す。では、失礼」
「なに言ってるんですか、聞こえないってば」
 ラウールさんは、ていねいに一礼して、集会場の人の海に消えていきました。
 ラウールさんと入れ替わるように、あたしたちの前にあらわれたのは、PMRの謎の人物、ベスティエ・メソニクス(べすてぃえ・めそにくす)さんです。
「やあ、こんなところで奇遇だね。くるとくん、あまねちゃん。きみらは行かなければならないところがあるんだろう。案内するよ」
「聞こえませんよ!」
 あたしたちは、ベスティエさんと地下を後にしました。