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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

リアクション


ANSWER 3&27&11 ・・・ 交通規制&生者&依頼人の問題 マイト・レストレイド&霧島春美(きりしま・はるみ)シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)

 俺の名は、マイト・レストレイド。蒼空学園の生徒にして、スコットランドヤードの警部だ。気持ちのうえでは。
 斉藤ハツネと彼女のパートナーの元新撰組隊士大石鍬次郎に襲われ負傷した俺は、事件の捜査中だというのに、現場から離脱して病院で治療を受けるという憂き目をみた。医師は俺に入院をすすめているが、無論、いまの俺にそんなヒマはない。
 五つの模倣殺人事件が起き、暴動も発生しているという街中へ戻ろうとしていた俺の病室に、彼はやってきた。
 フランス市警の警部だという彼は、怪盗紳士アルセーヌ・ルパンを追って、パラミタにきたという。
 刑事として俺を認め、捜査上の意見を求めてきてくれた彼に、俺も誠意を持って答えようと思う。
「ガニマール警部。貴方が本当に警察官ならば、俺ではなく、もっと他に意見を聞くのに適切な相手がいるのでは、ありませんか」
「それは、どういう意味かね」
「認めたくない事実ですが、俺は、気持ちは刑事でも、実際は、一学生にすぎません。しかも、今回の捜査では、捜査開始早々に負傷してここで寝ていたため、マジェスティックが現在、どのような状況にあるのか、十分に把握できていない。生意気かもしれませんが、そんな俺に、個人的な感情を根拠に捜査上の意見を求めるのは、刑事としていかがなものかと思います」
 警部は俺から目をそらさず、話を聞いてくれた。表情に変化はない。簡単には、内面を表にださないということだ。やはり、彼はなかなかの人物だと思う。
「きみの言い分はもっともだが、私がきみに意見を求めるのは、民間からの情報提供を求めるのと同じだし、それに、ここでのきみと仲間たちの活躍を認めたうえでの行動だ」
「俺や学生の捜査メンバーを信頼してくれているのですか」
「メロン・ブラック博士の息のかかった者が内部にいるらしい、ここのヤードの連中よりは、ずっとね」
 彼の言は信頼するに値する気がするが、しかし。
「ありがとうございます。しかし、ここで治療を受けていただけの俺には、残念なことにあなたの役に立てる情報がありません。したがって、とても、あなたに意見を言える状態ではない。だが」
 俺は、俺の刑事魂に負けないくらいの探偵魂をも持った彼女たちなら、彼の力になるのでは、と考えた。
「あなたに必要な情報を持っている俺の仲間を紹介させてください」
「誰かね。ヤードには、私以上にルパンにくわしい者はいないはずだ」
「ヤードの人ではありません。あなたと同じく、ルパンの宿敵の志を継ぐ人です」
 俺は短縮ダイヤルを押してから、携帯を彼に渡す。
「彼女は、百合園推理研究会の霧島春美。人呼んでマジカル・ホームズです」

 十数分後、病室には、俺と警部の他に、春美と彼女のパートナーのディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)ピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)カリギュラ・ネベンテス(かりぎゅら・ねぺんてす)。俺のパートナーの近藤勇(こんどう・いさみ)ロウ・ブラックハウンド(ろう・ぶらっくはうんど)がいた。
 近藤さんとロウは、負傷した俺を心配してマジェスティックにきてくれたのだ。パートナーに心配をかけて、すまないな。
「バウバウバウ」
 犬型機晶妃のロウは、優秀な頭脳と抜群の運動能力を持っているのだが、人語を話すことができない。ので、人と話す時には、メールを使ったりしての筆談になる。ロウは、ガニマール警部に言いたいことがあるようだ。
「警部。俺のパートナーのロウからです」
俺の携帯に届いたメッセージを警部にみせた。文面は、
「わざわざ半人前の、しかもケガ人のイギリス野郎に話を聞きにくるとは、フランス市警もずいぶん親切になったものだ。あの怪盗紳士を逮捕したこともある名警部のひ孫か、初耳だな。私が地球のヤードで警察犬として働いていた頃には、まったく評判をきかなかったが、交通課にでもいたのか」
おい、ロウ、なんで警部にケンカ腰なんだ。
 思わず俺は、尋ねかけたが、考えもなしにこんなことを言う人(犬)ではないので、やめておく。
 ロウは、なにかわけがあって、初対面の警部に失礼な口をきいているのだろう。
 警部はポーカーフェイスで文を読み終えた。
「ロウ・ブラックハウンド。私もきみの話を聞いたことはないがね」
「ワウ…ワウウッ」
 携帯に新しいメッセージが着く。
「それは、きみに署内の友達がいないと言う証拠だ」
まったく、こんなに挑発してどうするつもりだ。
「彼は舞台度胸があるから、言葉責めで崩すのは、難しいわ。ロウ。ありがとう」
 春美がロウの頭を撫で、警部に近づく。というか、近づきすぎだ。抱きつくか、キスでもする気か?
「やっぱり、ラウール総支配人と同じコロンですね。マジェスティックにくるフランス人男性は、みんな同じ香水をつける、なんてきまりはないですよね」
 ロウといい、春美といい、警部相手になにを言っているんだ。
「春美。あまり失礼なことは」
「レストレイドくん。紹介するわ。彼が、怪盗紳士アルセーヌ・ルパンよ」
 びしっ。
 春美は同じ推理研のブリジット会長、いや代表のように、人差し指をガニマール警部に突きつける。
「ルパン出現の報をきいて、フランスからパラミタにくるには時間が短すぎるわ。さっき、ロウに調べてもらったけれど、本物のガニマール警部もたしかに、こちらにむかっている。でも、彼は、いま、新幹線の車中にいるはずよ」
 警部は、黙って微動だにせず、春美の言葉を聞いていた。俺は、ただ驚いて、ことの真相を知るために警部を見つめている。
 一分、二分、どれほど時間が経っただろうか、病室のドアが開いた。
「本人が名乗らないのなら、そんなささいな謎は、謎のままでもいいではありませんか。みなさん、こんばんは。春美さん、また今回も何人もワトソンを連れていますね」
 入ってきたのは、シャーロット・モリアーティ。一匹狼の天才少女探偵で、推理研のメンバーとは微妙な関係にある人物だ。
「わあ。シャルちゃんだ。こんばんは。レストレイド警部のお見舞いにきてくれたのかな」
 角うさぎの女の子、ディオが、明るくあいさつをする。彼女はいつも元気で、場を明るくしてくれる存在である。
「シャーロット・モリアーティ。春美の邪魔をしにきたの」
 クールなマジシャン、ピクシコラが鋭い視線をむける。
「どうも、はじめましてやね。ボクは、春美ファミリーのお兄ちゃん、カリギュラ・ネベンテスや。シャルちゃんの話は春美から聞いてるで。噂通り、ほんまグルービーな子やね。まあ、よろしく頼みますわ」
 グルービーは、カリギュラ流の誉め言葉で、イカしている☆ との意味だ。
 カリギュラは年長者らしく、ていねいに頭をさげた。
 俺としては、彼女が、俺の病室にくる理由がわからないのだが、どうしたのだろう。
「きみが、ここにきたのは、どんな用件で」
「実業家ルイ・バルメラ、愛国者ドン・ルイス・ペレンナ、アナグラムのポール・セルニーヌ、冒険家ジャン・デヌリ、謎の探偵ジム・バーネット、そして恋多き紳士ラウール。すべて、初代アルセーヌ・ルパンが演じてきた人物であり、名乗ってきた偽名です」
「それにフランス市警のガニマール警部もね。初代のルパンが最初に逮捕された時は、ガニマール警部に変装していて本物のガニマール警部に捕まったのよ」
 パチ。パチ。パチ。
 シャーロットと春美の知識の披露に、ガニマール警部は拍手をした。
「読書好きなお嬢さんたちだ。しかも、ホームズとモリアーティときている。きみらは、まるでミステリの登場人物のようだね」
「ルパン。マジカルホームズは、あなたの花嫁を殺すようなことはしないわ」
「ここは奇岩城ではありませんしね」
 春美とシャーロットの会話の意味がよくわからないのだが、それは、俺が普通だということだろう。
「私、シャーロット・モリアーティは、この事件について調査をすすめた結果、殺された地球人の少女たちのパートナーたちがその後、行方不明になっている点に、注目しました。
 パートナーの姿を隠す理由は、もしかしたら、被害者の少女たちは、殺されていないのかもしれない。死体の損壊は、被害者の真の身元を隠すためであって、本当は別の人物の死体が現場に置かれているのでは、ないか?
 あなたがガニマール警部ではないように、メロン・ブラック博士も、そして、この事件にかかわっているノーマン・ゲインさえも、真の姿は別にあります」
 シャーロットの話は、俺にはどうもよく理解できないのだが。それは、推理研のみんなから聞いたように、彼女が捜査側と犯罪者側、両方の情報を持つ人物だからなのだろうか。
「今回の事件のテーマは、偽名。ではないでしょうか」
 シャーロットの問いかけに、誰もこたえない。いや、こたえられないのだ。しばらくの沈黙の後、
「ホームズ。モリアーティ。レストレイド。きみらは、私をどうしたいのかね」
 ガニマール警部は笑っている。余裕があるな。
「あなたの目的次第では、私は、共闘したいと思うの」
まずは、春美。
「いいのですか。ホームズくん。相手は、犯罪者ですよ。私は、ルパンと手を組みます。理由は、必要ですか」
そして、シャーロット。
「春美もシャーロットも、警部をルパンと決めつけているが、本当のところは、わからないだろ」
最後に俺。
「説明会を開いている時間もないしな」
 ガニマール警部はつぶやき、トレンチコートを脱ぎ、宙に放り投げた。高くあがったコートが床に落ちた時、そこにいたのは、黒の夜会服、シルクハット、片眼鏡をした長身の紳士。
「ラウールさんだ!」
「なかなかの早業ね」
「また派手なおっちゃんやな。泥棒さん。ボクらは、事件の調査をするんであって、あんたの悪事に協力するわけやないからな」
 ディオ、ピクシコ、カリギュラに彼は、無言で頷く。
「諸君。我らは、今夜だけはチームなのだろう。ゆこうか。ロンドン塔へ。どんなに警備をかためていても、私に入れぬ家などありはしない。ああ。この病院にいるピンカートン君も連れて行こう、彼は必要だ。さあ、時間はそうないぞ」
「ちょっと待ってくれ。なんであなたは、捕まる危険をおかしてまで、俺に会いにきたんだ」
 歩きだす彼の背中に俺は、声をかけた。
「ムッシュ。身を張ってこの街を守ってくれたきみと握手をしにきたのさ。それに、もし、捕まれば、逃げればよいだけだろう」
 なんて返事だ。
 少年探偵がらみの事件で出会う連中は、どいつもこいつもまるでミステリの登場人、おっと、これは、さっきルパンが言ってたのと同じセリフだな。
「説明なしでついてこいか、しかたないわね。今回は行ってあげるわ」
「春美。携帯にメールだよ。うわっ。舞さんがロンドン塔で結婚式だって。えー、そんな話、全然、聞いてないよ」
「ていねいな解説が必要なら、ルパンの代わりに後で私がして差し上げましょうか」
春美たちとシャーロットが、なんやかや言いながら彼の後に続く、やれやれ、俺も行くしかなさそうだな。
「マイト。悪いが先に行っててくれ。俺は、少し」
 俺のパートナーの近藤さんが、暗い目をしている。
 元新撰組局長の彼としては、俺を襲った相手に対して、思うところがあるのだろう。
「大石かよ。マイトを斬るたぁ。ふっ。よくよく俺は、因果ってやつがついて回るらしいな」
 自問自答するようにつぶやく近藤さんに、俺はなにも言えなかった。