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S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

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S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

リアクション





10:鏖殺の イコンを拾って 来ただけよ(言い訳 by ミレリア)

 ミレリア・ファウェイはパープル小隊を嘲笑うかのように防御網の隙間を縫ってアネックス海京に接近すると、ファランクスの迎撃を受けた。
「あらやだ。手厚い歓迎。ミレリア困っちゃう♪」
 ミレリアはその弾幕の隙間をシューティングゲームのように抜けるとアネックス海京に潜入した。
 そして内部に入るとソニックスピーカーから歌声が流れてきて、胸部のホロビジョン投影装置からミレリアの3D映像が投影される。
「あれは――」
 誰かがそう叫んだ瞬間だった。
 なんだかハッピーな気分になってきた。
 <マジカルステージ♪>である。
 ミレリアは歌声と踊りの立体投影で警備部隊のみならず会場全体を混乱の渦に陥れた。
 これに抵抗できたのはアルコリアとナコト、加夜にルカルカだけだった。
 対抗しようと準備していたセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)さえ影響を受けてしまう。
「どうしよう、アルコリアさん?」
 加夜の問にアルコリアは
「イコンは幸い地上に降りてきたし、遮蔽物に隠れながら接近してあのイコンを壊すしかないわね」
 と答える。
「加夜とルカルカはみんなの守りを。ナコト、行くわよ」
「イエス、マイロードアルコリア様」
「ROCK’N’ROLL!」
 ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)が鎧形態に戻りアルコリアは赤黒いボンテージ姿になる。
「転経杖起動!」
 ナコトが二人の魔力をあげる。
「そういえばコリマ校長まで混乱なんてことは……」
(ふっはっはっはっは……)
 加夜が校長の様子を見てみると、校長も混乱していた。
「まさかそんなに魔力が強いだなんて……」
「コリマ校長覚悟!」
 と、観客席から銃を片手にコリマに狙いをつける刺客。彼はミレリアの味方だから混乱しなかったのだろう。
「させない!」
 ルカルカが<天のいかづち>で刺客を撃退する。
 アルコリアとナコトがミレリアのイコンに接近すると、ミレリアは振動剣でそこらじゅうのイコンを手当たり次第に斬りつけていた。
「そこまでよ」
「イエス、マイロードアルコリア様」
 アルコリアが<魔道銃>で、ナコトが<天のいかづち>で立体映像投影装置を破壊する。
 それで<マジカルステージ♪>の効果は切れる。会場の混乱が元に戻る。
 垂がS@MPの為に整備していたソニックスピーカー付きイコンに「緊急事態だ、罰は後で受ける!」と言って乗り込む。
 朝霧 栞(あさぎり・しおり)も乗り込み、『mao』のアルバムを録音しておき、「小さな翼」「START!」の2曲を順番にソニックスピーカーに乗せて流す。
「はっ!? 鏖殺寺院のイコン」
 杏が正気に戻ってコームラントを操作する。
「あなた、一機でここまで来るなんて何者?」
 敵機に無線をいれる。
「あたしはアイドルのミレリア・ファウェイちゃんよん。よろしくね♪」
「テロリストがアイドルですって……ふざけるなあ!」
 杏が特攻を仕掛ける。
 夢やぶれた元アイドルからするとテロリストがアイドルというのは屈辱でしかない。
「え、ちょっと。杏さん!?」
 杏が急に特攻し始めたので早苗は慌てる。
「指揮官機相手に一機で特攻なんて危険です」
「相手も一機よ!」
 しかし早苗はコントロールを杏から奪うと空中に浮かぶ。
 対抗してミレリアのシュヴァルツ・フリーゲも空中に浮かぶ。
 高度は同じ。杏はすぐさま汎用機関銃を撃つ。
 だが――
「外れた!」
「うふふ、おばかさぁん。銃なんて銃口を見ていれば行動予測で避けられるわよん♪」
「なら、剣で!」
 杏は早苗に突進させると振動剣で斬りかかろうとした。
 だが、その瞬間にはミレリアのイコンの姿はそこにはいなかった。
「相対速度から数秒後の相手の位置と自分の位置を予測してよければ剣だって怖くないわぁ」
「さすがです、ミレリア様ぁ」
「いい子ねリリア」
 パートナーのリリア・シュレインが主人を称えると、ミレリアは下僕を褒めた。
「でも、さすがに囲まれたらそうはいかないでしょう」
 永谷やアスカ、紫音、祠堂 朱音(しどう・あかね)、そして杏に五方向を囲まれる。
 5機が一斉に斬りかかる。
 が、5機の剣が絡みあう結果になった。
「どこだ!?」
「ここよ!」
 ミレリアは瞬時にブースターの噴射を切って自由落下して包囲を抜けたのだ。
 そしてシュヴァルツ・フリーゲの機関銃から弾が飛んで来る。
「きゃあああああああ」
 それは杏のコームラントのブースターの排気口に命中し、爆発する。
「脱出します!」
 杏と早苗は脱出し、イコンは爆発を起こしながら会場へと落ちた。
 地上では騒ぎが起きていた。
 加夜とルカルカがまだ混乱から立ち直りきっていない人々を安全な場所へと避難させる。
「騎兵隊登場よ」
 ローザマリアと教官たちのデモ飛行部隊が到着。聡とエルフリーデ、S@MP合格者のイコンもやってきた。
「朱音、どうする?」
 須藤 香住(すどう・かすみ)が朱音に尋ねると
「やるしかないよ!」
 と答える。
 これで18対1となった。
「うふふ……燃えるわねえ」
 だがミレリアは無線でそう通信を入れてくる。前後左右だけでなく上下も囲まれているのだから逃げるスペースなどないはずなのだが。
 しかしミレリアは流れ弾での同士討ちを危惧して剣でしか仕掛けてこないことと、これだけの数のイコンが一斉に攻撃できないことを読んで、動き始めたイコンのうち1機に向かって移動した。
 そして振動剣を振るう。
 教官機が撃墜され地上に落ちる。
 その瞬間ミレリアは包囲を脱出していた。
「この技量……カミロほどまではいかないが……やる!」
 聡が驚愕する。
「包囲をしていても包囲網が完成していなきゃ各個撃破の餌よぅ」
 ミレリアが無線でそう告げる。事実完全な包囲網は完成していなかった。
 今度は学院側のイコンがミレリアを半包囲する。上下も囲まれている。
「よしS@MPのデビュー戦だ。気合入れていこうぜ!」
 フレイが叫ぶと全員が『応』と答えた。
「うーん。マズイわねえ……」
 ミレリアはそう言うと攻撃が始まる前に急上昇した。慌てて射撃するがミレリアはそのことごとくを回避する。
「集団戦闘時の統制が取れていないわねえ……まだまだよ。それに敵が集団でも人やイコンの可動範囲はたかが知れているもの。行動を予測することは不可能ではないわ」
 ミレリアは嘲笑う。
「くっ。コンマス、演奏頼む」
 フレイがそう言うとコンサートマスターに任命された和希がギターの演奏を開始する。
「あら、歌合戦ね? いいわよ。受けて立とうじゃないそれじゃあ行くわよ、『Love Loading』」

私の眠ってる鼓動を動かして…!
今読み込み開始
君へのLoveLoading


目を開ければ君を確認中
どこか頼りない顔をインプット
初めて交わす君との言葉
「初めまして」と…

トクンと鳴る胸の石の音
故障?と疑ったの
今思えばこれが合図だったね…

私の中のデータは溢れ出して
まだ処理は全然遅れそうです
私の眠ってる鼓動を動かして…!
今読み込み開始
君へのLoveLoading


原因不明・気持ち検索中
この思いに当てはまるのは何?
心配そうな君と手を見たわ
「大丈夫?」と…

繋がる手と手のぬくもり
離したくないと思った
今わかった探していた言葉を…

君への思いのデータが増え出して
この気持ちは保管が必要です
私の眠ってた鼓動を動かして…!
アップデート開始
君へのLoveInstall


心惹かれる思いに立ち止まり
君の背中を見つめた…
Ah…これが恋なんだと

私の恋のデータは溢れ出して
世界中に送信されそうです
私の眠ってる鼓動を動かして…!
今読み込み開始
君へのLoveLoading

La〜La〜…La・LaLa…♪

LoveLoading…☆

「きゃ〜ミレリアちゃ〜ん! 可愛い〜!!」
 アスカが歓声をあげる。
「アスカ、お前は何を言っている。やつは敵だぞ!」
「でも可愛い物は可愛いんだもの」

「って……あの声は、ミレリアちゃんじゃないっすか!? ちょー、ミレリア・ファウェイの生歌とかマジっすか! 何かシュバルツに乗ってるけど、細かいことは言いっこなしっす」
「ミレリア・ファウェイ……聞いたことがない名前だが、誰なんだろう?」
「昇、ミレリアちゃんを知らねぇ、とかないわ。ミレリアちゃんの演奏を邪魔する無粋な馬鹿がいたら張り倒すっすよ」
 そう言うとデビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)は格納庫に向かって駆けていく。
「あ、おい! 待てよ!」
 パートナーの笹井 昇(ささい・のぼる)がそれを追いかけて行った。

 そして格納庫からイコンが発進する。
「てええええええりゃあああああ」
 和希のイコンに飛び蹴りが入る。
 デビットの仕業だった。
「なにをする!?」
 フレイが叫ぶ。
「ミレリアちゃんの演奏を邪魔すんじゃねえええええ!」
「コントロールは奪うぞ、デビット!」
 昇がそう言って機体のコントロールを奪う。
「やめろ。ミレリアちゃんの生歌を聞けるチャンスなんてめったにないんだぞ」
「だったら撃墜してから思う存分歌ってもらえ!」
 聡のその言葉にデビットも考えを変える。
「よし、そのシュヴァルツ・フリーゲのハッチ開けちゃうっすよ」
 その頃には【パープル小隊】も合流していた。
「よーし、ミレリア! 今度はこっちの歌を聞け。『スリーピングビューティー』」
 和希がギターを掻き鳴らすとそれに追随する形で演奏が始まる。
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が匿名の黒川弥音と言う名で送った曲だった。

手を伸ばせば届く 距離に君が寝ている
無邪気に笑う その寝顔
どんな夢をみてるの?

そっと手を伸ばし 優しく手を包む
柔らかなそのぬくもりに ほっと心が和らいだ

昔みたあの星は今も輝いているかな
1つ1つの思い出が全て大切に思う

会えないことが多くて時計の針が悔しい
一秒針を刻むたびに 親指をかむ

だけど今この瞬間の 一秒一秒は惜しい
時計の針がもっと遅く進めばいいのに

今 どんな夢を見ているの?
無邪気に笑う その寝顔

その微笑みは宝物
どうか何時までもそのまま 微笑んでいて

 ミレリアが30機近いイコンを相手に、銃口から動きを読み、剣先から逃れ、包囲を抜けようとする。
 だがイコンに気を取られている隙に<空飛ぶ魔法↑↑>で密かに接近していたアルコリアとナコト、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が魔道銃と天のいかづち、ヴァーチャースピアで関節部分を破壊される。
 バランスを崩して墜落するシュヴァルツ・フリーゲ。
 アルコリアはコクピットを開けるとミレリアを引っ張り出す。
「洗脳なんてする悪い娘は、調教しちゃうぞ……☆」
 <雷術>で電撃を与えたあと、<幸せの歌>を繰り返し繰り返し耳元で歌う。
「ほら、言ってごらん。おねーさまだいすきですって」
「くっ……だれが……」
 抵抗する限りアルコリアは幸せの歌を歌い続ける。やがて……
「おねーさまだいすきです!」
 ガバっとミレリアはアルコリアに抱きつくと、そう叫んだ。
「アルコリア様は私だけのものです……」
 ナコトがそういうが二人とも聞いていない。
「ミレリアさん握手してください」
 歌菜もミレリアに迫り、握手を貰って嬉しそうであった。
「ところで、そのイコンどこで手に入れたの?」
「鏖殺寺院から盗んできましたぁ」
「嘘おっしゃい。あなた鏖殺寺院ね?」
「そんな、アイドル生命に響くようなことはしません……」
「本当?」
「本当ですぅ」
「そう……ふふ……いい娘ね……」
 唇と唇が交じ合う。
 唇が離れるとミレリアは
「おねーさまー……」
 とつぶやいた。
「くっ……ミレリア様あああああああああああああああああ!!!」
 リリアはイコンを動かすとアルコリアたちを振り落とし、バランスの取れない機体で急加速しながらあまりのことに驚いて何も出来ないイコンの包囲網を突破して逃げ出していく。
 こうしてミレリア・ファウェイは戦場から離れて言ったが、今後アルコリアをおねーさまと慕いつけ回すことになる。
「あー、なんだ? お疲れ様です」
 フレイが間抜け顔でそう言うと、イコン達は格納庫へと戻っていった。
 トライブは媛花に携帯番号とメールアドレスを書いた紙を手渡すと、「ごめんな」と囁いて去っていった。
 ちなみに紙には「電話をするときは覚悟しな? 次は本気で口説くぜ?」
 と書かれていた。