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リアクション


■ 探索開始から四十分


「ここは子供部屋のようであるな」
 デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)が入った部屋には、毛の長いカーペットが敷かれ、本棚には本ではなく玩具が並んでいる。子供用の小さな机もあり、二つ並んでいた。
「なんで倉庫みたいな部屋の奥の扉が子供部屋に繋がってんだ?」
 この部屋は廊下に面しておらず、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の言葉通り倉庫の奥にあった扉の先にあった部屋だ。普通に考えて、そんな不便な部屋割りにはしないだろう。子供部屋の奥に使わない部屋があるのならまだわかるのだが。
「まるで、空間が歪んで滅茶苦茶に部屋が繋がってしまっているようでありますな」
 合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)がそんな事を言う。もちろん、そんな事はないのだが部屋の繋がりが滅茶苦茶なのは確かだ。
「ここの子供はどうやら女の子だったようであるな」
 部屋には随分と年期の入ったクマの人形や、着せ替えをして遊ぶ用の人形などが置かれている。男の子が喜びそうな玩具は見当たらない。
「みたいだな。けど、だったらアレはなんなんだ?」
 エヴァルトが指をさした先には、ポスターが張ってあった。かなり大きい、等身大のポスターで、そこには女の人のきわどい姿が描かれている。
「ポスターでありますな」
「いや、そんなん見ればわかるって。女の子に部屋に、あんなの張ってあんのっておかしいだろ」
「ふむ、あのような姿になるのを目指していたりしたのではないか?」
 明らかに浮いているポスターに疑問を持ったエヴァルトは不用意にそのポスターに近づいていった。
 デーゲンハルトは罠なのではなかろうか、と思っていたようだが口にはしなかった。エヴァルトは完全武装しているし、多少の罠では大丈夫だろう。ついでに、今度はどんな罠が仕掛けてあるのか少しは興味があったし。
 ポスターには罠が仕掛けてあった。ポスターの目の前の床がいきなり開いたのだ。
「うおっ」
 驚いたエヴァルトの手がポスターの端を掴む。ポスターで人間の体重は支えられるわけがなくびりびり破れてしまう。もう片方の手が幸いにも床の端を掴めたので落ちる事はなかった。
「これは、お手柄ですな」
「は? お手柄? っと」
 よじ登ってみると、破れたポスターの隙間からドアの一部が見えていた。どうやらポスターはドアを隠すために貼られていたらしい。
「随分と適当な隠し方でありますね」
「普通ならば、このような場所に張られているあのようなポスターなど誰も近づかないでしょう。やりましたなエヴァルト」
「なんかソレ、褒められてる気がしないんだけど。とにかく、あの扉の先には何か隠してあるのかもしれないし行ってみるか」
「自分の出番であります」
 と、ローランダーが前に出る。分厚い装甲で守られた彼には、例え地雷を踏んでも大した打撃にならない。その装甲を持って、罠ごと扉をぶち破るのだ。
 ドアを破壊すると、ベアトラップがローランダーに襲い掛かってきたが、トラップの歯が欠けただけで全くダメージを与えるまでに至らなかった。さすがである。
「ここは、また倉庫でありますか」
 ドアをぶち破った先の部屋はかなり狭い部屋だった。
 木の骨組みにガラス板をはめ込んだ、手作りっぽい棚がずらりと並んでいる。中には、人形などの玩具が綺麗に整列している。ケースに入っているからか、保存状態はよさそうだ。
「コレクションを並べている部屋のようでありますね」
「おおおっ、これは!」
 ローランダーを追い越して、エヴァルトが一つの棚に食いつく。
 そこに飾られているのは、ロボットらしきものの玩具だ。随分と古いもののようだが、保存状態はかなり良好である。
「エヴァルト、それが何か?」
「知らないのか、これは昭和に放送された特撮ドラマに出てくる主人公の操るロボットだぞ。その圧倒的な強さが語り草になってて、これと張り合えるロボットは火星の名前を持つロボットぐらいしかいないと言われているんだ」
「は、はぁ………地球の文化ですかな? 確かに、ここの主は変わったものを集める趣味があったようですな」
「これは、売ってしまうなど勿体無い。是非欲しい。しかし………これは果たしていくらになるんだろうか。復刻版ではないようだし、相当、ん、おおこっちに箱まで飾ってあるじゃないか。となると資料的価値も含めないといけないな」
 一人楽しそうに色々考えるエヴァルト。
 一方、取り残された二人は少し呆れた様子でその後姿を眺めていた。
「玩具なんてものよりも、合体型機晶姫に関する資料などがあった方がより有意義でありますよ」
「さすがにそれは個人の収集家には荷が重いというものだろう。我にはわからんが、見る人が見ればここに飾られているものには価値があるようだ。一応宝は見つけたということになるのではないか」
「これがお宝でありますか。いまいち納得できないであります」
 そんな話を二人がしていると、目の前に唐突に人が降ってきた。
 どうやら、二階を探索していた誰かが落とし穴の罠に嵌ってしまったらしい。落とし穴があったのは、偶然にもエヴァルトの真上だった。
「きゃああああああぁぁぁぁっ」
 落ちてきたのは、パルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)だ。
 パルフェリアはエヴァルトを巻き込んで地面に激突。あたり一面に埃が舞い上がった。
「えほっ、けほっ、うー、いったーい!」
 舞い上がった埃が落ち着いていく。
 うつ伏せに倒れたエヴァルトの上に、パルフェリアが馬乗りになっていた。
 自分が人の上に落ちた事に気づいた彼女は慌てて横に飛びのく。
「パ、パルフェが悪いんじゃないんだから! あんな場所に落とし穴作った人が悪いのよ!」
「おーい、パルフェや、生きておるか〜?」
 開いた穴がタルト・タタン(たると・たたん)が覗き込む。
「お、生きておるな。ほれ」
 天井からするすると縄がおりてきた。
「ほれ、早く縄を掴むんじゃ。引き上げてやるからのう」
「ああ、その人は丈夫だから、放っておいてもかまわぬよ」
 ぴくりとも動かないエヴァルトを心配そうに見ていたパルフェリアに、デーゲンハルトはそう言って早く上にあがりなさい、と手で示す。
「ちょ、ちょっとはパルフェも悪かったかなって思ってるんだからね。そ、それじゃあね!」
 縄に引き上げられてパルフェリアが去っていくと、床にうつ伏せに倒れているエヴァルトが、なわなわと震えだした。
 彼の目の前には、先ほどの衝撃でバラバラになって壊れてしまったロボットの玩具が無残な姿を晒していた。
「うおおお………おおお………」
 言葉にならない感情に、エヴァルトは拳を握り締めてそう呻くしかなかった。
「なんつう………なんつう姿になっちまったんだ………くそっ、俺が、俺がお前を絶対元の姿に戻してやるからな………待ってろよ」
「あれはどうたらいいでありますか?」
「少し、放っておくべきであろう………関わると余計面倒になるであろうし」
 
 一方、引き上げられたパルフェリア。
「落ちた先に人が居たようじゃったが、迷惑はかけなかったか?」
 タルトにそう尋ねられて、パルフェリアは「うっ」と呻く。
「パルフェは悪くないもん、あんなところにある落とし穴が悪いんだもん」
「いやいや、どう考えてもあれほどわかりやすい罠にかかるお主の方が悪かろう」
 踏まないでください、と言わんばかりに敷かれているタイルの色が違う場所が落とし穴になっていたのである。そんな場所を踏むに行くのは、よほどの不注意者か、もしくはチャレンジャーぐらいだろう。
「悪くないもん! 悪くないもん!」
「しょうがないのう。では、そういう事にしておいてやろうかの。それはそれとして、パルフェが落ちてしまったせいで、他の面子に置いていかれてしまったのだがそれは誰が悪いのかのう?」
「うぅっ」
「大丈夫、誰も怒ったりしてないから。それより、無事でよかったよ」
 北郷 鬱姫(きたごう・うつき)が声をかけて、二人のじゃれ合いを中断させる。
「この落とし穴はそうでもなかったけど、もっと危ない罠もあるし気をつけてね」
「………はーい」
 渋々といった感じで返事を返したパルフェリアを連れて、三人は先に行ったメンバーのあとを追うことにした。三人が居た廊下から一番近い部屋のドアが開いており、中から聞こえる声にも聞き覚えがあった。
「よかった、大丈夫でしたか?」
 入ってきた三人に気づいて声をかけてきたのはルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)だ。
「追いついたんだ。それにしても運がいいよね、狙い澄ましたように危険な罠だけは作動させないんなんて」
 榊 朝斗(さかき・あさと)がそう言う。
「ところで、心亜………何があったんじゃ?」
 部屋の奥で、相楽 心亜(さがら・ここあ)が踊っていた。
 実際には踊りを踊っているのではなく、次々とたかってくる虫を追い払っているのだが、傍から見ると踊っているようにしか見えなかったのである。
「水あめが、水あめが降ってきてー、うわー! くんなー!」
 バッタバッタと手を振りながら、よってくるアリやら羽虫を追い払おうとする心亜。
「この部屋の扉を開けたら、大量の水あめがね、降ってきたんだよ。サイコキネシスで吹っ飛ばそうとしたんだけど、水あめみたいなドロドロしたのって扱いにくいんだよねぇ」
 椥辻 久遠(なぎつじ・くおん)が事情を説明する。
「それで、虫にたかられてるんだね」
「そーいうわけ。僕は早く離れに行きたいんだけど、一旦外に出た方がいいかな」
「外に出たらもっと虫がよってくるよー!」
 手足を振り回しながら、心亜が抗議する。
「しかし、ここの水道止まっていますし、その体についた水あめを落とせないですよ」
「でもさー、ってうわっ、顔はやめろ!」
「やれやれじゃな。しかし、水あめが降ってくるとは、仕掛けから随分経っておるはずじゃから、もう腐ってるんじゃないかのう」
「え?」
 虫と格闘していた心亜の動きが止まる。
「もしかして、心亜、それ舐めちゃったの?」
「だって、いきなりどばって被っちゃったら、口の中に入るよ、仕方ないんだよ!」
 久遠の問いに泣きそうになりながら答える心亜。
「………一旦、外に出て胃薬を用意した方がいいですね」
 と、鬱姫。
「うぐぐ、で、でも何も持たないで外に出るなんて嫌だよ! せめて、この部屋で何か見付けて行こう!」
「お腹が痛くなってしまうかもしれませんよ」
 ルシェンの言葉に、
「まだ大丈夫だよ! たぶん!」
 そう威勢良く心亜が答えて、とりあえずこの部屋もっと探索してみることになった。
 この部屋は色々なものが雑多に並べられていて、どのような用途で使われていたのかよくわからない部屋だった。ソファとテーブルがあるが、事務机のようなものも置いてあり、さらに本棚はあるが本は入っておらず、その隣に何故か食器棚が置かれている。
 ただ物が押し込まれた倉庫、というわけではないようなのだが、いまいちよくわからない。
「うわっ!」
「なんだ、また罠に引っかかったのか?」
 声をあげたパルフェリアに、朝斗がそう声をかける。
「机の引き出しを開けたら、頭の骨が入っててびっくりしただけだもん! それにコレ、作り物みたい」
「なんで頭蓋骨の模型がそんなところに入ってんだ?」
 朝斗がその引き出しを覗き込むと、確かに頭蓋骨の模型が入っていた。
 取り出してみると、これの出来がすごく悪いのがわかる。下顎は紛失しているし、紙粘土のような質感だ。
「これはお宝ってわけじゃなさそうだな」
 なんて言いながら朝斗が眺めると、頭蓋骨の中に何かがあるのに気づく。よくみると、テープか何かで小さな指輪のようなものがくっつけてあるようだ。
「指輪ですね。シルバーリングでしょうか」
 宝石のついていない銀色の指輪をルシェンが観察する。特に装飾もなく、裏にも誰の名前も刻まれていなかった。
「なになに? お宝発見?」
 心亜が水あめで足跡を残しながら近づいてきて、みんなで指輪を観察してみるものの特別な力がこもっていたり、銀以外の貴重な金属が使われている様子もなかった。お宝にしては少し物足りない。
「なーんだ。でもなんでわざわざコレの裏に張ってあったんだろう? 何か意味があるのかな、裏を見ろみたいな」
 なんて言いながら、心亜がこの頭蓋骨が見つかった引き出しに目を向ける。
「裏?」
 心亜の言葉が気になった、パルフェリアは引き出しを引っこ抜いて、試しに中を覗いてみた。すると、一つ上の引き出しのところにも、頭蓋骨と同じように宝石のようなものが貼り付けられていた。
「んっと、よし、取れた!」
 取り出してみると、それは親指ぐらいの宝石らしい。色は薄く黄色がかかっているがほぼ透明。宝石の原石というのが正しいらしく、形はかなり無骨だ。
「これも………お宝とはちょっと違うかもしれませんね」
 受け取った鬱姫が、その石を見て言う。確かに綺麗な石ではあるが、加工されていない原石はそれほど高くは取引されないのである。
「ただのシルバーリングに、綺麗な石ではあまり金額は期待できないのう。わざわざ全身がベトベトになるほど水あめを用意して守るほどのものではないと思うのじゃが」
 他にも色々と少しは価値がありそうなものが見つかった。古い銃だとか、銀でできた銃弾だとか、銀製の食器、それと価値があるのかわからないお皿などだ。大成功からは少し遠い。
「さて、もう何も出てこなさそうだし、一旦外に出ようか」
「ちょっと待って!」
 部屋を出ようとした朝斗を、久遠が呼び止める。
「どうしたのじゃ?」
「これだよ、ここ」
 久遠が示した場所はただの壁である。
「ここ、ほら、何かはまりそうな窪みがあるよ。さっきの石とリングが、入りそうでしょ?」
 そこには、確かに不自然な窪みが用意されていた。
「そうですね………はめて、みますか?」
 鬱姫がわざわざそう聞いたのは、罠の可能性があるからだ。しかし、あまりこの部屋で収穫の無かった一同は、多少危険であっても試してみることにした。特に、心亜がやってみようと強く推した。
「はまて、みますね」
 鬱姫が宝石と指輪をはめこむ。すんなりと、どちらも窪みに入っていた。
 一拍ほどの間を置いて、歯車が回るような音がすると、目の前の壁が左右にゆっくりと開いていく。
「お宝の予感!」
 しかし、心亜の希望は打ち砕かれた。
 確かにその先には、金で作られたいかにもお宝というべきオルゴールがあったので、お宝があったのには間違いなかった。しかし、その薄暗くてちょうどいい隙間には、大きな大きな蜂の巣が設営されていたのである。
 いきなり巣の近くに人間が、しかも一人はやたら甘い匂いを撒き散らしている!
 飛び出してきた蜂の軍団が狙いをつけるのは、当然彼女だった。
「うわぁぁぁぁぁ、こっちくるなぁぁぁぁぁぁぁっ!」