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 そんな大きな店でもなく、派手な装飾がされているわけでもない。
 年季の入った木の扉に、小さく店名が書かれたプレートがかけられているだけの店。
 けれど……。
 呼びかけを感じて、あるいは素通りできなくて。
 ふとこの店の扉を開けてしまう客は後を絶たないという。
 それが――ムカシヤ。

 
 
 
 
 ムカシヤ
 
 
 中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)が漢方の店で買い物するのだとはりきってミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)を引っ張り回している。その後からついて行きながらも、セルマ・アリス(せるま・ありす)の視線は道の両側に建ち並ぶ店に向けられていた。
 ここではクロネコさんが名物なのだろうか。
 ころんとしたフォルムのマスコットが売られていたり、ショーウインドウの中に置物があったりする。どちらかと言えばそれを見ていたい気がする……と思いつつ、セルマは老子道徳経の買い物に付き合っていたのだけれど。
 ふと、1軒の店の前で足が止まった。
「ムカシヤ?」
 そっけない店には可愛いものが売っていそうな様子はない。なのに素通りできなくて、セルマは中に入っていった。
 店の中には大小さまざまな箱が置いてあり、奥の椅子に女の子が腰掛けているのが見えた。会釈してみたけれど、女の子は何の反応も示さない。
 けれどそのことよりも、セルマは目の前にある箱が気にかかった。
 手にとって開けてみると、中にはくたびれた子供用のうさぎのぬいぐるみが入っていた。
 商品にしてはおかしな品物だとセルマは首を傾げた。けれど、それを箱に戻す気はなれなかった。
 そこに、セルマがムカシヤに入ってしまったのを追いかけて、老子道徳経とミリィが店に入ってくる。
「ちょっとセルマ。今日は私の買い物に付き合うんじゃなかったの?」
 老子道徳経は入るなり文句を言ったが、ミリィはセルマの持つぬいぐるみを見て首を傾げた。
「あれ? ルーマ、そのぬいぐるみ……」
「え、ミリィにはこれが何だか分かるのか?」
 セルマは驚いた。
「覚えてないの?」
「ああ。ずいぶんくたびれてるなとは思ったけど」
「それ、地球でワタシと会った時ルーマが探してたぬいぐるみだよ」
「本人が覚えてなくて、何でミリィが知ってるのよ」
 老子道徳経があきれたように口を挟んだが、セルマには本当に覚えがない。
「契約の時、俺そんなもの探していたっけ?」
 まだ分からない様子のセルマに、ミリィは説明した。
「ルーマはワタシと地球で2回会ってるんだよ。初めて会ったのはルーマがぬいぐるみ探してる時だった。契約したのは2回目に会った時だよ」
「初めて会った時……?」
「うん。2年前くらいかな。ぼろぼろに泣いてて……どうしたんだろうって思って声をかけたら、失くしちゃったぬいぐるみ探してるって言って。それからワタシを見て、笑って抱きついてきたんだよ」
 その時のセルマは本当にぼろぼろに泣いていた。セルマの可愛いもの好きはもはや周知の事実だけれど、ミリィは内心ちょっと引っかかりを覚えてもいた。
(ただそれだけのことで、ぬいぐるみ失くしてあんな風にまでなったりするのかな?)
 そんなミリィの心情は知らず、セルマは2年前のことを思い出そうとしていたが、まったく思い出せない。
「その話、作り話じゃないんだよな?」
「本当のことだよ」
「それが本当なら、かなり恥ずかしいことしてるな。何やってんの、2年前の俺!?」
 本気で首をひねっているセルマに、記憶から消去するほど忘れたいことがあったのかと思いつつ、老子道徳経は尋ねる。
「で、どうするの? そのぬいぐるみ」
「うん……これ、持っていた方がいい気がする」
 何でだかは分からないけど、とセルマはうさぎのぬいぐるみを見つめた。
「分かったわ。その箱私がおごってやるわ。遠慮するんじゃないわよ」
 仕事もしているからお金は気にしなくていい、と老子道徳経は店主のところに代金を払いに行った。それに甘えることにして、セルマは礼を言う。
「ありがとう」
「代わりに私とミリィの買い物に付き合いなさいよ。どんな漢方があるのか、はりきって見て行くんだから」
 言いながらもう店を出かかっている老子道徳経に、セルマははいはいと笑った。
「元々そのつもりで来たんだろ。買い物手伝ってやるから」
 しっかりとうさぎのぬいぐるみを手にして、セルマも店を出て行った。
 
 
 
「ムカシヤ? 何の店なんだ?」
 初めてのクロネコ通りを物珍しく歩いていた佐野 亮司(さの・りょうじ)は、吸い寄せられるように古びた店に入っていった。
 亮司の後について店に入った向山 綾乃(むこうやま・あやの)は、店内に所狭しと積み上げられた箱に目を丸くする。
「箱ばかり……ですね」
 綾乃は店内を見渡しているが、亮司の目は1つの箱から動かなかった。
 片手でひょいと持ててしまう立方体の軽い箱。
 蓋を開けてみればそこには、子供が遊ぶようなボールがきっちりと収まっていた。
「もしかしてあの時の……」
 取り出してみたボールには、少し丸みを帯びた整った文字で『さの りょうじ』と名前が書かれていた。
「亮司さんのボール?」
 不思議そうにボールをのぞき込む綾乃に、亮司は思い出す。
「そうか、綾乃が誰かに似てると思ったら……」
 雰囲気が違うから思い出せなかったけれど、そうしてボールに身を寄せている横顔は確かに……。
「似ているってどなたにですか?」
「小さい頃、公園でよく遊んでくれた近所のお姉さんにだよ」
 名前も知らない人だけど、と亮司は幼い日の思い出を綾乃に語った。
 
 子供好きで保育士になる為に勉強中だったお姉さんは、よく公園にきてはそこにいる子供たちと遊んでくれていた。
 髪は短くて元気いっぱいというか、姉御肌というか。
 子供たちを遊ばせているというよりも、一緒になって遊んでいたという方が近かっただろう。
「お姉ちゃん、新しいボール買ってもらったんだ。これであそぼうよ」
 子供だった亮司がそう言うと、お姉さんは良かったねと笑ってボールに大きな文字で名前を書いてくれた。
「せっかくのボール、なくしちゃったらいけないもんねっ。さ、遊ぼっかー」
 そう言ってお姉さんは、亮司とボール遊びをしてくれた。
 活発なわりに運動神経はあまり良くなかったお姉さんは、よくボールを取り損なったし、暴投もした。
 その時も……そう、亮司が投げたボールを取り損なった上に、拾おうとして自分の足で蹴飛ばしてしまい、恥ずかしそうな笑い声をあげて公園の外にボールを拾いに行った。
 そして……車に轢かれたのだった。
 幸いというべきか、お姉さんの怪我は重傷ではあったけれど、命に関わるほどではなかった。リハビリをすれば元の生活に戻れるようになる、という話を聞いて、ほっとしたことを覚えている。
 けれど、自分と遊んでいたせいで、と思うと顔を出しづらくて、そのうちに、そのうちに、と見舞いを先延ばししているうちに急な引っ越しが決まってしまい……結局、それきりになってしまった。
 もう15年以上前のことだけれど、どうして見舞いに行かなかったんだろうと後悔が残っている……。
 
「その方と私が似ているのですね」
 そう言われて、亮司は綾乃を見た。もしかしたら自分は今まで気づかないふりをしていただけで、最初に綾乃を見たときから、あのお姉さんと重ねて見ていたのだろうか。
 あの時何もできなかったのが悔しくて、それで綾乃を必死になって助けて引き取ろうと思ったのかもしれない。
「ああ。けど」
 今はもう違う。
 容姿は似ているけれど、それだけのこと。
「綾乃は綾乃だ。あの人の代わりなんかじゃない、俺の大切な家族だよ」
 断言すると綾乃はじっと亮司の瞳をのぞき込み……ありがとうございます、と微笑んだ。
 
 
 
 こんなところにも店が……、と引き寄せられるように入った店内の様子に、椿 薫(つばき・かおる)は驚いた。
 薄い箱、深い箱、大きな箱、小さな箱。
 ありとあらゆるサイズの箱が積まれているのだけれど、小さい箱の上に平気で大きな箱を載せてあったりして、うっかり触ると崩れてしまいそうな不安定さだ。
 けれどそんな異様さも気にならなくなるくらい、薫の目は目の前にあった箱に吸い寄せられた。
 A4より一回り大きいぐらいの薄手の箱。
 何が入っているのだろう。
 無性にその中が見たくなり、薫は店の奥に座っている女の子に声をかけた。
「見せて貰っても良いでござるか?」
 女の子はわずかに顎を引いた。
 良いということなのだろうと、薫はその箱を開けてみた。
 箱の中に収められていたのは……冊子。
 その表紙には『のぞき部マニュアル』と書かれている。
「これは……」
 あまりに懐かしくて、薫はそのページをめくる。
 それは……みんなで築いた、血と汗の結晶だった。
 皆で知恵を絞って、のぞきに挑むのは面白かった。
 覗けたことも楽しかったけれど、何よりもそうしてみんなで額を集め、真剣に策を練るのが楽しくてたまらなかった。
 莫迦騒ぎしていたあのころが懐かしい。
「最近部活してないけど、みんな何をしてるのでござろうか……」
 今は少し活動から離れてしまっているけれど、またみんなで修学旅行の女子風呂を覗きたい。
 女子に聞こえたらそれだけで百叩きされてしまいそうなことを考えつつ、薫はのぞき部の活動の軌跡たるマニュアルを1ページ、また1ページと読み進めていくのだった。
 
 
 
「クロネコ通り、か。本当にあったんだな」
 正直、父親の創作話だと思っていた。けれど、それらしきクロネコさんを発見して、まさかと思いつつ教えられた呪文を唱えて飛び込んでみればそこは店がびっしり建ち並ぶ不思議な通り。
 まさかあれがすべて本当の話だっだなんてことは、なんて思いつつ店を眺めていたオルフェ・キルシュ(おるふぇ・きるしゅ)は、ムカシヤのプレートを見つけてのけぞった。
「父上のあの話、実話だったのか……」
 入ってみるかと扉を開けると、父親から聞いていた通りに店内は箱だらけだった。
 そしてまた……黒い小箱から目が離せなくなった、というところまで父親と同じ、ときている。
「なぁ店主さん、昔……」
 そう言いかけて、オルフェはいや、と首を振って話を変えた。
「これ開けてもいい?」
 必要最小限の顎の動きで答える店主も話のままだと思いながら、オルフェは箱を開けてみた。
 入っていたのはビーズの指輪だった。
「さすがに中身は違……あれ、この指輪……」
 箱から摘み上げる指が震えた。
 古びている上にテグスが切れている箇所もあって壊れかけていて、数粒ビーズが箱に敷かれた布の上に落ちる。
 けれど、指輪の形が見分けられなくなるほどには傷んでいない。
 間違いない。母からお守りだと渡された指輪だ。
 ずっと指に填めていたのだけれど、母が自分たちをかばって死んで……まだ若い父が必死になって自分を守ろうとしてくれているのを見た幼いオルフェは、せめて父に母のことを思い出させないようにとその指輪を机の奥にしまいこんだ……はずなのに。どうしてここにあるのだろう。
 中央に配置された灰蒼色と翡翠色は父と母の瞳の色。複雑に編まれた模様には確か、防護効果があると聞いた記憶がある。
「結構いいビーズ使ってるけど、作りが甘いな」
 市販品という感じではない。母はあまり器用ではなかった覚えがあるから、もしかしたら母の手作りだったのかも知れない。
 これ以上指輪を壊してしまわないように気を付けながら指に通そうとしてみたけれど、小さすぎて小指にも入らなかった。
「さすがにもう、守られる年じゃないか」
 オルフェはそっと指輪を箱に戻した。
 そういえば、まだ母の墓前に留学の報告をしていなかった。今度帰った時にでも、リメイクしてこの指輪を供えようか。自分はもう、貰ったものを作り直して返せるはずなのだから。
「店主さん、お代は幾ら? お金で良いの?」
 店の奥に呼びかけると、そこそこの金額がぽつりと返ってきた。
 その代金を支払うと、オルフェは黒い箱を大切そうに包み持ち、店を出ていった。
 
 
 
 クロネコさんについて行って呪文を唱えれば、魔法街に行ける。そこにはムカシヤという不思議な店があるらしい。
 そんな噂を聞いていたから、クロネコ通りに来た椎堂 紗月(しどう・さつき)はムカシヤを探して通りを歩いていった。
 右にも左にも店、店、店。
 1軒1軒店名を確かめていくと、目が回りそうになってくる。
「不思議なお店って、いったい何を売ってるんだろうね?」
 紗月と手分けして店を探しながら有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)が尋ねたが、紗月も椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)もその詳細までは聞いていない。まあ、特に買いたいものがあるのではないから、ムカシヤを探してクロネコ通りを歩いてみるのも良いだろう。
 散策がてらにクロネコ通りの店を見ていくと。
「紗月、ここじゃない?」
「ほんとだ、ムカシヤって書いてあるな」
 思ったよりも地味な店だけれど、と中に入ってみればあるのは箱。
 さてはこの箱の中に不思議なものが、と紗月が開けてみるとそこにあったのはヒマワリ柄の浴衣だった。
 パラミタに来る前、地球での夏祭りで着ていたのと同じ柄だ……と思ってよくみれば、紗月がたこ焼きのソースで汚したシミがうっすらと残っている。
「あの時の浴衣、なのか?」
 そういえば、と紗月はこの浴衣を着た夏祭りでの出来事を思い出した。
 そこで紗月は、自分にそっくりな少女に予言をされたのだ。
 ――あなたは数年後、大切な人に会うでしょう。
 不思議だと思いはしたけれど、忙しさからそんな出来事があったことも忘れていた。
 せっかくだからこれは買っていこうか、とパートナーたちの様子を見てみると、凪沙は小さなクマのぬいぐるみを大切そうに抱いていた。
 それは凪沙が孤児院で暮らしていた幼い時、一緒に生活していた姉が凪沙にプレゼントしてくれた大切なぬいぐるみ。
 凪沙が泣いた時にはいつも、このぬいぐるみと姉がいてくれた……。
 歳を重ねるうちに忘れてしまっていたけれど、大切な姉との思い出のぬいぐるみだ。
 手から放しがたいそのぬいぐるみを、凪沙は買って帰ることにした。またいつか姉に会えた日の思い出話のたねになってくれるに違いない。
「アヤメもそれ、買っていくのか?」
 紗月はじっと白い毛糸の手袋を見ているアヤメに聞いた。
 けれどアヤメは箱の蓋を閉じると、元の位置に戻した。
「こんなもの覚えがない」
 箱に惹かれて開けてみたけれど、それはアヤメにとって見た記憶も触れた記憶もない品物だった。
「それは……行き先を失ったもの。それに載せた想いと共に」
 店主は小さく呟いたけれど、その意味を知る者はこの場にはいないのだった。
 
 買い物を終えて店を出ると、ちょうど買い物の荷物を持って通りを歩いてきた鬼崎 朔(きざき・さく)と出くわした。
「あ……紗月も買い物ですか?」
 思わぬ所で恋人に出くわして朔は真っ赤になる。そんな朔と紗月を、月読 ミチル(つきよみ・みちる)は興味深げに見比べた。
「今、そこのムカシヤで買い物してきたところだ」
「ムカシヤ?」
 紗月に言われてやっと、朔はそこに店があるのに気づいた。
「箱ばっかの店だけど、懐かしいもんが手に入るみたいだぜ。入ってみたらどうだ?」
「懐かしいもの……」
 思い返してみても、つらい記憶しか出てこない。けれど紗月が勧めてくれた店だから、と朔はムカシヤの中に入っていった。
「本当に箱ばかり……」
 このどこに懐かしいものがあるのかなんて分からない、と思いつつも、朔の手は1つの箱を取り上げていた。
 惹かれるままに蓋を開けた朔の手から、蓋が床にすべり落ちた。
「朔様、どうかされたのでありますか?」
 床に落ちた蓋をスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が拾い上げ、蒼白になっている朔に心配そうな顔を向けた。
 何が入っていたのかと朔の手元をのぞき込んだブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)は、あれ、と声をあげる。
「朔ッチ、それはあの時流した白布じゃ……どうしてここに?」
 それは朔が自分の髪の一部とともに灯籠流ししたはずの白布だった。
「それは……」
 ミチルが言いかけて、ふと息をついた。そして朔の表情を伺う。
 ムンタキム家ではこの白布に神の加護と持ち主の幸せを祈る。朔の両親も、朔の幸せな未来を祈ったこの白布を6歳の誕生日に贈ってくれた。朔はそれをお守りにし、髪留めとして使ってきたのだ。
 けれど……その白布を朔は復讐の誓いと共に流した。こんなところにあるはずがないのに。
「朔ッチ……」
 複雑な気分で白布を見つめる朔を悲しげに見ていたカリンは、箱から白布を取って朔の手に握らせた。
「……朔ッチにはやっぱり、この白布が必要なんだよ。だって、この白布は……ご両親との絆の証なんでしょ? ……だったら、持ってなきゃ……ね♪」
 カリンははげますような笑顔を向けたけれど、白布を載せた朔の手は震えだした。
「……ダメだ……今の私はあの時の誓いを果たしていない。これを……纏う資格はない……」
 けれど、その白布が朔の家族との大切な絆であるのは確かなことだ。ロケットの写真以外に朔に残された、唯一の家族との繋がりを示す思い出の品なのだから。
「私はどうすれば……」
 迷う朔の様子に、スカサハはむむむと唸った。
「スカサハ、難しいことはよくわからないでありますが、そんなに大事なものなら……朔様の手元に置いておくべきなのではないでありましょうか。大切なものは纏っておかないと……ダメなのであります」
 スカサハは機晶姫ファイスのことを思い、箱の蓋を掴む手にぎゅっと力を入れた。
「……でも、私は両親を殺した相手に復讐すると……」
 その時は復讐への決意を固めて流したのだけれど、こうして再び手の中に戻ってくると様々な家族への想いが湧き上がってきてしまう。
 葛藤する朔に、あくまで私の意見だけど、と前置きしてミチルは言った。
「ご両親はあなたのその復讐とやらをして欲しくはないんじゃないの? それよりも、せっかく生き残った娘に……幸せになって欲しいと思うんじゃないかしら? ……まあこれは、あくまで親であった私の意見よ。どうするかは、あなたが決めなさい」
 決められるのは自分自身だけ。
 そう言われた朔は改めて手の中の白布を見つめた。己の心にあるものを両親との絆に問うかのように……。