蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

地下水道に巣くうモノ

リアクション公開中!

地下水道に巣くうモノ

リアクション

「ミア! ミアってば、どこー!」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が叫び声を上げている。
 パートナーのミア・マハ(みあ・まは)が、コウモリの羽を取りに地下に行くと言い残し、そのまま帰ってこないのだ。
 そこで折り悪く、この石化騒ぎである。
 救助隊に入ったときは、気が気でない状態だった。
 地下水路をくまなく見て回ったけれど、パートナーの姿はなかった。
 だから、その一画には、一番最初に足を踏み入れた。
「……!」
 レキの目に飛び込んできたもの。それは……石像の群れ。
 それほど数が多いわけではなかったけれども、その意味を飲み込むにはやはり時間がかかる。
 石像に飛びつき、確かめて回る。近くにメデューサや、他のモンスターがいるかもしれないことなど、気にも留めない。
 違う。これも違う。これも……。

「う……、くっ、千百合ちゃん、お返事……して……」
 パートナーが帰ってこないのは、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)も同じであった。
 日奈々にとって冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)を失うことは、その半身を失うことに等しい。
 盲目で杖をついている彼女であるが、レキの次に、その場所へ足を踏み入れた。
 感じる。
 冷たい石像の群れの中、確かに、ある気配があった。
 レキとは違い、石像のひとつひとつを、指先で慎重に確かめていく。
 ……あるひとつの石像の前に来たとき、日奈々の心臓が思い切り跳ねた。
(こ、……これ……)
 恐る恐る、震える指で触れてみる。
 間違いない。この唇、この頬、この髪……。
「ち、千百合……ちゃん……! あ、あ、ああっ……ううっ、えくっ」
 見えない目から、涙が溢れ出す。冷たくなった千百合の手が、熱いもので濡れた。
 その時だった。
 千百合の前で立ち尽くす日奈々を、水路から狙っていたパラミタアリゲーターがいた。
 動かないのを見定めたように、背後から口を開けて襲う。
「日奈々ちゃん、危ない!」
 側にいたレキがそれに気付いて叫ぶ。
 ――その一瞬後。
 レキは光を見た。
 落雷の如きサンダーブラストの直撃を受け、ただの消し炭になって転がるワニへ、ゆっくりと向き直る日奈々。紅の魔眼が、ばっくりと開いていた。
「よくも……千百合ちゃんを……」
 日奈々は水路の方を向いた。今のと同じワニが数匹、こちらの様子をうかがっている。
「絶対……許さない……っ」
 言うやいなや、日奈々の体中からアボミネーションが溢れ出す。動けなくなったワニに対して、ぞろりと光条兵器を抜いた。
「あははっ……これくらいで、済むと思わないでください、ですぅっ……」
 次々と、周囲のモンスターを、凄惨に殺戮していく日奈々。
 ――不意に、その背中に、暖かいものが触れた。
「……!」
 日奈々の表情が変わる。
 この感覚、この匂い、あれ……?
「千百合……ちゃん?」
(うん)
 後ろから抱きすくめられた手を、日奈々はぎゅっと握る。
 間違いようもない。あの手だ。暖かい千百合ちゃんの手だ。ああ。
「ごめんね。心配かけて、本当にごめんね」
「……千百合ちゃん……! あああ、うぁあああ」
 千百合は泣き止まない日奈々の髪を優しく撫で、キスをする。
「よかっ、た……もう……いなくならないで……ぐっ、うぅ」
「うん。もう、絶対にいなくなったりしないから。ずっと日奈々の側にいるよ。ね。だから、泣かないで?」
「うん、……うん」

「なんとか、助けてあげられた……かな?」
 ――千百合を石化解除薬で戻したのは榊 朝斗(さかき・あさと)だった。ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)もあとに続く。
 ルシェンはさらに、石像の影で気を失っていたミア・マハを発見し、ヒールで回復する。
 レキが猛然と駆け寄ってくる。

「ミ、ミ、ミアの……ばかーーーっ!」
「馬鹿とはなんじゃ、馬鹿と……むきゅっ」
 思いっきり抱きしめる。
「さぞかし心配したじゃろ。よしよし」
「し、心配なんて……してな……うぐぅ」
 レキの目は真っ赤だ。
 こんな顔を見せられたら、さすがにミアも素直にならざるを得ない。
「……すまなかったな。もう二度とこのようなことはないゆえ」
「当たり前だよ! 次やったら、もう、……」
 言葉が出てこず、再び、ミアを抱きしめる。
 彼女にとって、この状況で、他に気の利いた方法などないのだった。

   ◇

 ミアと千百合が無事に救出されたことを受けて、一同は安堵する。
 そして、石像が散らばっている、さらに奥の通路。
 そここそが、地下通路唯一の未到達地点だった。
 フェンリルは救出隊の面々に振り返る。
 そして、この先に待ち構える戦いと、ここまで再び来ることができたことについて、礼を言った。
「みなさん、……必ず生きて帰ってください」
 その言葉とともに、救出隊は最後の通路へ突入する。