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12.銃撃戦闘研究会

 
 
「おっと、そこ行くお嬢さん。少しお時間よろしいですか? 隣のお兄さんも、ちょっと腕試ししていきません?」
 銃撃戦闘研究会のブースの前で呼び込みをしていた天司 御空(あまつかさ・みそら)が、通りかかった透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)の前に飛び出すようにして声をかけた。
「考えておきますよ」
 やんわりと、璃央・スカイフェザーがお茶を濁す。
「強引な客引きはお断りだ」
 逆に、女の透玻・クリステーゼの方が、おっとこ前な態度できっぱりと断った。
「行くぞ、璃央」
「はい、透玻様」
 素っ気なく、二人がその場を後にする。
「これこれ、そういう強引な勧誘は感心しませんです」
 その様子を見咎めた顧問のアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)が、軽く天司御空を注意した。
「そんなこと言ったって、客が来なくちゃだめだろー」
 ちょっと天司御空がくさる。
「ここも騒がしそうだな」
「なんだか、参加したそうな顔だわ」
 その様子をじっと見ていたレン・オズワルドの顔を下からのぞき込んで、ノア・セイブレムが言った。
「いや、さすがに今はな。またの機会を待つさ」
 そう答えると、レン・オズワルドは他のブースの見回りを続けようとノア・セイブレムをうながした。
「お客さん来ないみたいですねー」
 会員であるミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)の様子を見に来たオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)が、ちょっと苦笑しながら言った。
「ううっ、せっかくいいとこ見せようと思ったのに……。会長、こうなったら我らで模擬戦といきましょう。サクラです、サクラ!」
 手持ち無沙汰なミリオン・アインカノックが、天司御空に言った。
「そうだな。いっちょうもんでやるか」
 しかたないかと、天司御空がミリオン・アインカノックの提案にのる。呼び込みの方は、アルテッツァ・ゾディアックが引き継いでくれた。
「はい、では王座として天司御空、挑戦者としてミリオン・アインカノック。位置についてください」
 審判役の白滝 奏音(しらたき・かのん)が、二人に言い渡した。
 腰のホルスターには、BB弾が二発だけ入ったモデルガンが入っている。これを使って、決闘形式の対戦を行うのだ。背中合わせに立って三歩歩いたら振り返って相手を撃つというシンプルなものだ。
「飲み物だ。ゆっくり楽しんでくれ」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が、観戦するオルフェリア・クインレイナーに紙コップに入れたジュースを持ってきた。
「それでは……。始め!」
 背中合わせに立った二人にむかって、白滝奏音が声をかける。
「ミリオン、頑張ってねー」
 オルフェリア・クインレイナーの声援が飛ぶ。それに一瞬気をとられたミリオン・アインカノックがわずかに遅れた。
「そこ、あたれぇい!!」(V)
「はうっ」
 パシンと、赤いBB弾がミリオン・アインカノックの額に命中する。
「そこまで。天司御空の勝利」
 白滝奏音が、天司御空の方を指し示した。
「これでも一応会長だからな」
「ううっ……」
 なるべく勝ちを誇示しないように言う天司御空の横で、いいところを見せられなかったミリオン・アインカノックが軽く唸る。
「面白そうです。私もやってみようかなあ。オルフェだって、やればできます」(V)
 それを見たオルフェリア・クインレイナーが、参加を申し出た。
「では、こちらの参加名簿にサインをお願いいたします」
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が、「天司御空○−●ミリオン・アインカノック」とだけ書かれたノートを差し出した。対戦者の所に、オルフェリア・クインレイナーが自分の名前を書き込む。
「ありがとうございます。あちらで、装備を受け取ってください」
 ヴェルリア・アルカトルにうながされると、柊真司がサバイバルゲーム用防護ゴーグルとモデルガンの入ったホルスターを手渡してくれた。
「ちょっと待て、オルフェリア様が相手なら、我が対戦します!」
「えーっ、しょうがないなあ、ルール外だけど、特別だよ」
 意気込むミリオン・アインカノックに、天司御空がそう言って許可した。今のところ他に客がいないことだし、身内同士の対戦だからまあいいだろう。
「それでは、始め!」
 三歩歩いたミリオン・アインカノックが、素早く振り返りつつ腰のホルスターからモデルガンを抜いた。だが、オルフェリア・クインレイナーの方は、まだホルスターの留め具を外してなんとかモデルガンを引き抜こうとしているところだった。
 ――と、とろい……。
 思わず、ミリオン・アインカノックが一瞬固まる。その隙に、やっとオルフェリア・クインレイナーが銃を構えた。
「いきますよ。えーい」(V)
 なぜかかけ声と共に、オルフェリア・クインレイナーが引き金を立て続けに引いた。当然外れのはずだったのだが……。
「はうっ」
 ――なぜ、外れる方に身体を動かしてしまうのですか、我は……。
 理不尽な条件反射に、ミリオン・アインカノックは沈んでいった。