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リアクション
第二章 海京
「よく来てくれましたね、セイニィ」
「久し振りだな」
「こんな所に呼び出して、一体何の用?私、忙しいんだけど」
シャーロットと呂布 奉先(りょふ・ほうせん)、それにセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)の三人は、空京入り口を見下ろすビルの屋上に立っていた。図らずも、昨日セイニィが一行を見下ろしていたのと、同じ場所である。
「急いで美那さんを追いかけないといけないから、ですか?」
セイニィの眉が、ピクリと釣り上がる。
「どうしてそう思うの?」
「あのカード、アナタですよね?あのネコのようなトラのような絵が描かれたヤツ」
「山猫よ!」
「やっぱり、アナタだったんですね」
“図星だ”というように、ニヤリと笑うシャーロット。
「あなたは知らないと思いますが、私も彼女の護衛をしているんです。あなたと同じように別行動で。もっとも、私は他のメンバーとも連絡を取ってますけどね。どうです、同じ目的を持つ者同士、協力しませんか?」
「協力……」
「別に、“一緒に行動しよう”っていうわけじゃ無いんですよ。私があなたの動きに付いていくのは、正直難しいでしょうし。ただ、お互いに情報を共有し合い、互いの動きを把握しておいた方が効率的だと思いまして。どうですか?」
「……」
シャーロットを見つめたまま、じっと考え込むセイニィ。
「私がウソをついているかどうか心配なら、泪先生に確認してもらってもいいですよ」
「……いいわよ、協力するわよ!……連絡は、携帯で?」
「そうですね。メインはそれで。後、電波が通じない時は、六花が連絡に行くと思います」
そう言ってシャーロットが上着の内側から取り出したのは、ちょうどリカちゃん人形位の大きさの小さな女の子、霧雪 六花(きりゆき・りっか)だった。
「その時は、ワタシがメッセンジャーガール代わりという訳。ヨロシクね」
「わかったわ」
「さて、めでたく交渉成立したことですし。いいですよ、もう出てきても」
シャーロットが階段の方に声をかけると、その陰から、二人の人物が現れた。小鳥遊 美羽とコハク・ソーロッドである。
「アナタたち……?」
「ハイこれ。空京ミスドのチョコドーナツ。おんなじ仕事してるのに、私たちだけ美味しいもの食べるの、悪いから。好きでしょ、甘いモノ?」
「べ、別にドーナツなんか自分で買えるわよ!」
「あら、じゃあいらない?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ!……もらってあげるわよ。モッタイないし。せっかくだから」
「じゃ、これからヨロシクね!」
ひったくるようにしてドーナツの手提げ箱を受け取るセイニィに、美羽は、嬉しそうに言った。
「パラミタと地球の架け橋・海京へようこそ。天御柱学院生徒会より広報担当として参じました。天司 御空(あまつかさ・みそら)と言います。どうぞよろしく」
「同じく、白滝 奏音(しらたき・かのん)です。よろしくお願いします」
旅の二日目に美那が訪れた海京は、日本領海内、パラミタ直下に存在する海上都市である。
美那たち一行は、空京と海峡をつなぐ巨大な物資輸送用エレベーター、『天沼矛』の前で、二人の出迎えを受けた。
「今日は、皆さんを僕たちの母校、天御柱学院に案内したいと思います」
「我が校では、イコンを始めとする最先端技術を多く取り扱っていますので、部外者の方の立ち入りが制限されている区域が設定されています。申し訳ありませんが、校内を見学する際には、必ず私たちの指示に従ってください」
御空からの一通りの注意を聞き終え、一行が真っ先に向かったのが、イコンの格納庫である。
「すごい……!本当にロボットなんですね」
イコンを見上げて、感嘆の声を上げる美那。
「はい。今、こちらにずらりと並んでいるのが天御柱学院の代表的なイコン、イーグリットとコームラントです」
少し誇らしげな御空。
「みなさん、立ち入り禁止区域に入らなければ、自由に見学していただいて結構です」
御空のその一言で、一行は格納庫内に散った。
「あれは、修理しているんですか?」
美那が、格納庫に鳴り響く騒音に負けないよう声を張り上げながら、片隅を指差した。そこでは、揃いのツナギを身につけた一団が、イコンに群がって何やら作業している。
「……あれは、修理ではなく、整備。メンテナンスの実習です」
常に美那に寄り添うように行動している奏音が、美那の耳元で声を出す。
「実習?」
「……整備科の授業の一環です。彼らは最終学年ですから、実際の作業に即した授業を行います」
「皆さん、こちらへどうぞ。イコンシミュレーターの準備ができました」
御空に促され、一行は格納庫から程近い所にある別室へと向かう。
「これが、イコンシミュレーターです。蒼空学園の山葉校長が設計されたもので、仮想空間内で実際のイコン操縦に近い体験ができます。やってみますか?」
「え、私でもできるんですか?」
「はい。ただ美那さんの場合、実際に操縦するのではなく、デモンストレーション用の自動操縦を体験して頂く形になりますが……。どうなさいますか?」
「それって、揺れますか?」
「え、えぇまあ。10メートルの高さの動くモノに乗る訳ですから、まるで揺れないと言う訳には行かないですね」
「……ループコースターが乗れるなら、大丈夫」
「るーぷ……?」
うーん、と難しい顔をする美那。結局美那は、その顔のままたっぷり1分は悩んだ挙句、乗ることに決めた。そして……。
「大丈夫ですか?」
真っ青な顔をして椅子にもたれかかっている美那を、奏音が心配そうに見つめている。
「は、はい。お陰さまで、だいぶ落ち着きました」
意を決してシミュレーターに乗り込んだ美那だったが、ものの見事に乗り物酔いしてしまったのだった。
「スミマセン、こんなに弱いと分かっていれば、お勧めしなかったのですが……」
心底済まなそうに言う御空。美那の後、一行のほぼ全員がシミュレーターを体験したが、酔ったのは美那一人だけだった。
「それにしても残念です。美那さんにも、是非我が校の学食の味を堪能して欲しかったのに……」
天御柱学院の学生食堂は、学院がロシアの極東新大陸研究所と提携している関係で、ロシア料理が豊富であり、名物となっていた。
「食べられないなんて、残念だね……。美味しいのに、このボルシチ」
「うーん、仕方ないっちゃ仕方ないんだが……。お、こっちのロールキャベツもイケるぞ」
気の毒そうな顔で美那の方を見ながらも、シッカリと料理をほうばるミルトと周。
「い、いえ……。みなさん、私の分まで楽しんでください」
かろうじて上体を起こして、そう健気に言う美那。
「美那、これ……。あとで食べて」
奏音が、発泡スチロール製の小さなクーラーボックスを差し出した。
「これは……?」
「……お土産です。天御柱学院風ゆるアイス。保冷剤が入ってるから、しばらくは大丈夫」
「ありがとう」
まだ青い顔をしながらも、美那は精一杯の笑顔を浮かべた。
「お疲れ様でした。またの御訪問を心よりお待ちしております」
「……また来てください」
美那の回復を待ち、一行は天御柱学院を後にした。
後で、みんなで少しずつ食べたアイスクリームの個性的な味は、美那にとっては今でも、忘れられない思い出になっている。
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