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空京暴走疾風録

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第13章 挑戦者の姿・4 環七西/23時頃
 ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)がスパイクバイクに巨大なリヤカーを着けて、“環七“に入った。リヤカーにはホー・アー(ほー・あー)がふんぞり返っている。
「シャンバラ地方はシケてやがる。トラック程度何で簡単に手に入らねぇんだ?」
 ボヤくゲブーに、
「ここは地球ではない。仕方ないだろう」
とホーが答えた。
 予定では、バイクと軽トラックで“環七“を突っ走り、チーム“出羅津駆棲・喪哀漢(デラックス・モヒカン)“の華麗な“御披露目(デビュー)“を飾る筈だった。が、ゲブーがボヤいたように、シャンバラ地方では四輪の乗り物はレア度が高く、彼らのツテやコネでは到底調達が出来なかったのだ。
 それならふたりしてバイクに乗るなりすれば良さそうなものだったが、身の丈四メートルを超える巨体を乗せられるバイクはこの世には存在しない。
 かくて、見方によっては“神輿“に見えなくもない巨大リヤカーを、バイクに乗ったゲブーやホーの「救世主」らが引っ張っているという状況だ。
 そんな姿が目立たないはずもなく、しばらくするとそろそろ“暴走(ハシリ)“を始めた環七西の“暴走族(チーム)“が集まってきた。
「何だ何だ? 今夜は“仮装行列“の夜だったか?」
“神輿“は担ぐモンで、“引きずる“んじゃねぇだろう?」
“奴隷“に台座引かせるなんざ、“王様“か何かのつもりか? “面白“過ぎんぞ、オメー!」
「リヤカーがデカ過ぎるな! 路線からハミ出していて、“道路交通法(ドーコーホー)“違反じゃねーのか?」
「おいおい、お前のどの口から“道路交通法(ドーコーホー)“違反なんて出てくるんだ?」
「知らなかったのか? 俺は横断歩道渡る時は“手を挙げて“渡るんだぜ?」
「お前が“黄色い手帳“を守ってたなんて、初めて知ったぜ!」
「だろうな、俺も“たった今“知ったぜ!」
 容赦なく浴びせられる囃しや煽り。集まった者達のあちこちから下卑た笑いが上がった。

 その近くを目立たないように安全運転で走る軍用バイクがあった。冴弥 永夜(さえわたり・とおや)凪百鬼 白影(なぎなきり・あきかず)の二人だ。
 安全運転を心がけ、極力目立たないようにして、目前の集団のやり過ごしを図る。トロトロと遅い走りでイラつきそうになるのを何とか抑えた。
(ムリに諍いあわなくても、バイクで走るのは楽しいのになぁ)
 「精神感応」で、永夜が白影に話しかけた。ストレス解消の手っ取り早い方法のひとつは、気の合う者とのコミュニケーションだ。
 白影も同じように「精神感応」を用いた。
(そういう楽しさがヤツらには理解できないんだろう? お山の大将は、争いたい奴らに任せればいいさ)
(そろそろ横道が見えてくるな……迂回してやつらを追い越すか?)
(だな……これ以上の徐行運転はガスの無駄だ)
 ふたりの乗る軍用バイクは、ひとたび“環七“から降りた。

(ほぅ……“環七“ってのは気合いの入った“バカ“が多いな?)
 吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が眼を細めた。
 「光学迷彩」で姿を隠した彼は、西の方から“環七“入りし、強いヤツらを探している所だ。
 “環七“最強の“ワル““躾(シメ)“れば、その手下をごっそり自分の“暴走族(チーム)“に吸収し、そのままシャンバラ大荒野に引き抜ける――そう考えての、言わば「偵察」である。
(さて……あんな“傾(カブ)いた“ヤツらをどう判断する?)
 その竜司は、目前でトロトロと走る一団を見ながら、色々と思考を巡らせていた。
 ――“チーム旗“ではなく“本尊“を立てて“暴走(ハシ)“るやつらは初めて見た。
 ――縄張りの中で“示威(メダ)“つようにするのは“ワル“の宿命。
 ――“力の足りない跳ねっ返りが、不必要に目立とうとするのはよくある話“だが、あそこまでデカい集団を率いているって事は“力“も相当ある、と推測できる。
 ――集まっている“ワル““特攻服(トップク)“も色々いる……って事は、現状の
東西南北の“環七四国志“だけじゃない、既存の“暴走族(チーム)“をまとめ上げた新たな大勢力ができつつあるって事か?
(面白ぇ)
 竜司は口元を歪めた。
(テメェ等まとめて、この俺の“超池面竜司(スーパーイケメンリュージ)“が食ってやらぁ)
「おらおらァ! そんな所でチンタラ走ってんじゃねぇぞ、ウスノロどもが!」
 竜司は「光学迷彩」を解き、叫んだ。
“超池面竜司(スーパーイケメンリュージ)“流の“交通規則(コーツールール)“ってのをてめぇらの体に叩き込んでやる! 違反切符は高くつくぜぇ!)
 アクセルを吹かす。
 竜司は“本尊“のホーを中心とした一団に突っ込んだ。

 一団の中では、“神輿“と揶揄されるリヤカーの奪い合いで混乱していた。
 その中に竜司が飛び込んだ事で更に場の混乱は悪化した、ホーの連れてきた「救世主」が、群がってきた「西」の“暴走族(チーム)“のみならず竜司も敵と判断して戦闘に入り、竜司は劣勢に立たされた。
 そうでなくても劣勢だったゲブーやホーは、貴重な戦力が竜司に割かれた事でさらに劣勢となってしまった。
 その時。
「なんだぁ?! 楽しい事やってるじゃねぇか!?」
 空から響いた声に、上を仰いだ者が見たものは、暗闇からこちらに向かい滑空する小型飛空挺だった。
 乗っているのは白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)。抜き身の「虎徹」を振りかざし、パラ実訛りの間投詞「ヒャッハー」を叫んでいる。
「俺も“仲間“に混ぜてくれよ! 一緒に踊ろうぜコノヤロウ!」
「ち、ちょっと待てオイ! “抜き身“はヤベェよ……いてッ!」
 周囲からボコ殴りにされながら、ゲブーが竜造に呼びかけた。
「心配すんな、ちゃんと峰打ちにしてやらぁ! 斬殺じゃなくて撲殺になるかもだがなぁ!」

 ほどなくして、「西」の“暴走族(チーム)“らは沈黙した。死人が出なかったのは、一応竜司も竜造も、手加減をしたのだろう。
 状況が一段落して後、ゲブー、ホー、竜司、竜造らは話し合った。
 彼らそれぞれの狙いは微妙に異なるが、
「とりあえず環七一帯のワルを一度に相手にしたい」
という点で行動を共に出来る事を確認しあった。
 また、種籾剣士ホーはワルを集める囮として有用でもある。
 4人は“DSSh連合(デッシュレンゴウ)“――“出羅津駆棲・喪哀漢(eluxe Mohican)““超池面竜司(uper Nice−guy Ryuji)““修羅外道(Shura Gedou)“――を結成、行動を共にする事とし、再び“環七一周“をめざし始めた。