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空京暴走疾風録

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第3章 トップ会談 環七中央の繁華街/夜19時頃

 “環七“の環の中、繁華街。
 とあるカラオケ屋のパーティールームが夕方から貸し切り状態となっていた。
 その中に次々と入室していく、4人の男がいる。
 ひとりは金髪トサカ頭、「北」の“空狂沫怒苦霊爾夷(クウキョウマッドクレイジー)“総長、田向井 玄(たむかい げん)。
 ひとりは相撲力士の如き巨漢、「東」の“怒羅厳縁兵羅亜(ドラゴンエンペラー)“頭領、座島 蒼乃介(ざしま そうのすけ)。
 ひとりはロン毛で笑いが顔に張りついてる、「西」の“美的流徒(ビューティーストリーマー)“リーダー、厳島 矢白(いつくしま やしろ)。
 ひとりは角刈りで目つきの鋭い、「南」の“醍堕郎子(ダイダロス)“副長、エリクス・サーベ。
「よく来てくれたな。まぁくつろいでくれ」
 有線BGMが鳴るパーティールームで待ち受けるのは、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)である。
 矢白が口笛を吹いた。
「スゴい格好だねえ、あんた。そいつがあんたの“特攻服(トップク)“ってわけかい?」
「まぁそんなもんだ。“環七““VIP“を迎えるんだから、それなりの“服装(ナリ)“をしていなきゃ失礼だろうさ」
 正悟の服装はロイヤルガードの盛装だ。
「……で、栄えあるロイヤルガード様のお招きが、街の中のカラオケ屋ってのはどういう了見だ?」
 蒼乃介が、地の底から響くような低い声で訊ねる。
「街の中で、手っ取り早く確保できる密室だからね。防音はしっかりしているし、君らが入っても不自然じゃないロケーションを選んだつもりだよ。
 “環七“の東西南北の最大“暴走族(チーム)“のリーダーの会合で、オフィスビルの貸し会議室を使わせてもらう、ってのも変だろう?」
「最初に言っておきます、ロイヤルガードさん」
 エリクスが手を挙げた。
「自分の所の総長は、都合が悪くて来られません。お話は、副長の自分が伺います」
「……ロイヤルガードの招待を断るとは、南のリーダーは筋金入りの“反逆(ロック)“だね?」
「いつもの事だ、『南』の“アタマ“は直接出て来た事がねぇ」
 フン、と玄は鼻を鳴らした。
“アタマ“来なきゃ腰抜け呼ばわりしてやる、なんてのは“醍堕郎子(ダイダロス)“には通じないぜ? やつらをカエルに例えれば、ツラにションベンかけても、口を開けて飲み出すヤツらさ」
「……“空狂沫怒(マッド)“さん。いくら何でも口が過ぎませんか?」
「過ぎたらどうだってんだ? お? 何ならここで“空狂沫怒(マッド)““上等“きってみるか?」
「君らを招んだのは、ケンカをさせる為じゃない!」
 ──!?
 正悟が言い放つと、瞬間、室内が静まりかえった。
「……さすがロイヤルガードさん。声に迫力があるねぇ?」
 矢白が拍手をした。
「で、何の為のご招待なのかな?}
「まぁ、“通告“だな」
 正悟は、口を開いた。
「仲間とつるんで夜の“環七“をかっ飛ばす――気持ちは分からんでもないさ。
 が、君らの好き勝手が周囲の迷惑になっている以上、止めなきゃいけんだろ。特に近隣に住んでる小さい子供とかにも被害でてるんだろうからな。
 正直好きにすればいいと思うがこれ以上やるなら俺も本気で手段選ばず動かなきゃいけない」
「……そいつは、“あんた“の意思か? それとも“ロイヤルガード“の意思か?」
 蒼乃介が睨み付けてくる。
“今は“俺個人の意思だ。が、一声かければ“ロイヤルガード“の意思になるだろうな」
「ほう? あんたは“ロイヤルガード““アタマ“を張ってるのか?」
「まさか。ただ、互いの利害に反しなければ、いくらだって協力できるだろうね。
 それを伝えておこうと思ったのと、もうひとつ――」
 正悟の眼が細められた。
「どういった事情であろうと子供に怪我させたりしたことは頭下げて謝って来い。君らがただのチンピラじゃなく、“漢“ならな」
「それが本音か……安心したぞ」
 蒼乃介は口元を歪めた。
“権力(チカラ)“を笠に着て脅しつけてくるのは気に入らんが……弱いものイジメは確かにワシらの意図する所ではないな。身内で悪さをしている者がいるのなら、こちらなりにケジメも取ろう」
 玄は「フフッ」と鼻で笑う。
“ロイガ“ってのはヒマなんだなぁ? “ワル“同士の問題に首突っ込むのもお仕事のウチなのかい?」
 ぱんぱん、と矢白が制するように手を鳴らした。
「はいはい、“空狂沫怒(マッド)“さんはムリしてケンカ売らないの。
 ……で、“ロイガ“さん、歌本とリモコンはどこにある?」
 エリクスは携帯電話を取り出して、忙しく指を動かした。どこかにメールでもしているらしい。
 ほどなくして、その手元の携帯電話が着メロを鳴らした。
「どうぞ。総長です」
 差し出された携帯電話を受け取る正悟。耳に当てようとして、スピーカーホン状態になってる事に気がついた。
 耳に当てず、携帯電話そのものに話しかける。
「もしもし?」
“醍堕郎子(ダイダロス)“総長、オシキリ アケミです。如月正悟さん、とおっしゃいましたね?」
「そうだけど?」
「ロイヤルガード殿のご招待をお断りして申し訳ない。どうしても抜けられない用事があったものですから。
 そちらからの申し出は聞きました。先ほど騎沙良詩穂さんという方からも話がありましたが、今後しばらくは安全運転を心がけましょう」
 意外な名前を聞いて、正悟は内心驚いた。が、表情には出さない。
(……話をややこしくしてないだろうな)
「彼女は何て?」
「場合によっては、協力できるかも知れない、と」
(あの女〜〜〜〜〜〜ッ!)
「注意した方がいいですよ? 彼女は一筋縄ではいかないと思います。変に利用しようとしたら、物凄いツケを払う事になるでしょう」
「ご忠告感謝します」
「このクソ野郎!」
 玄が怒鳴った。
「いいかげん引っ込んでないで顔見せろ!」
 口にこそ出さないが、蒼乃介も矢白もかなり険悪な眼で携帯を睨み付ける。
「『南』は随分嫌われているんだな」
と正悟が探りを入れてみると、
「どういう形でチームまとめているのか見当もつかん。“集会““暴走(ハシリ)“に顔を見せた、という話も聞いた事がない」
と、“怒羅厳(ドラゴン)“の蒼乃介。
「慇懃無礼ってのはこういうのを言うんだろうねぇ」
と、“美的(ビューティー)“の矢白。その後に付け加えて、
「ところでカラオケ料金は“ロイガ“さん持ちかい?」
「野郎相手に奢るわけないだろう」
“ロイガ“さんはケチだねぇ?」
“話“は終わりか? なら帰るぜ」
 玄が立ち上がった時、「ちょっと待て」と正悟は呼び止めた。
 玄の背中には「猫」が背負われていた。正悟も見覚えのある「猫」だ。
“空狂沫怒(マッド)“は少女趣味なんだな? その背中の“猫リュック“は何だ?」
「こいつは“リュック“じゃねぇ、れっきとした“猫“よ」
 玄は答えた。
「ウチの“溜まり場“に迷いこんできたのを拾ったんだ。文句あんのかコラ?」
“空狂沫怒(マッド)““アタマ“はいつから“ペット預かり所“を始めたのだ?」
「ぶっ飛ばすぞ、“東“のデブ」
 正悟は携帯電話を取り出し、オルフェリアにメールを入れた。
「そちらの夕夜 御影(ゆうや・みかげ)が何故か暴走族の背中に背負われているんだけど心当たりある?」
 ほどなくして返信が来た。
「よかつたいまどこいますとつぜいなくなてさがしてたんです」
「北の総長さん」
 正悟は呼びかけた。
「その猫、ウチに引き取らせて貰えないかな? 知り合いが探していてね」
 玄は正悟を睨み付けながらも、御影をくくりつけていた帯を外した。背中合わせにくくりつけられていた黒猫姿の御影は、戒めが解かれるとそのまますぐには降りず、器用に態勢を裏返して玄の背中をよじ登り、金色トサカ頭に手を突っ込んで引っかき回し始めた。
「……止めろ。何度も言ったろうが」
 玄はソファに向かって頭を下げ、御影の体をずり落とすと、「ほれ」と正悟に向き直らせた。
 しばらく正悟と玄とを見比べた後、御影は正悟の方にとてとてと歩いていった。
「……どうやらテメェが“知り合い“ってのは“フいて“るわけじゃねぇようだなぁ」
「ずいぶん懐かれたみたいだね。煮干しで“猫ナンパ“でもしたのかい?」
「勝手に懐いて人の頭“くしゃくしゃ“にしに来やがったのよ。何度引っぺがしても人の頭によじ上って来やがるから、背負ってやったらやっと落ち着きやがッた」
「乱暴な事とかはしてないだろうな」
「猫張り倒す趣味はねぇ……飼い主に会ったら、『ちゃんとつないどけ』とでも言っておけ」
 玄は鼻を鳴らし、背を向けた。
 正悟の隣に座った御影は、人の姿に変化すると、
「ばいばい」
と玄に向かって手を振った。
 背中越しに玄も手を振った。

 玄に続いてエリクスと蒼乃介もパーティールームを出た後で、アップテンポのイントロが流れ始めた。
「……おい、“南““アタマ“
「何だ、あんたはこの曲嫌いか?」
「そうじゃない。何勝手に曲入れてるんだ?」
「ケチくせぇな。一曲ぐらいいいだろうが? それとも“ロイガ“の趣味は“ひとりカラオケ“か? さびしいヤツだな」
「ヤローと二人オケする気はない。つーか話終わったんだからさっさと出て行け」
 正悟はリモコンをひったくり、演奏を中止した。
「分かった分かった。今キレイ所揃えてやっから待ってろ」
 矢白は携帯電話を取り出した。