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第五章 初日の出4

「ティファニーちゃんが分校長を辞任するなんて……それも、行き先が遊郭だなんて!」
 志方 綾乃(しかた・あやの)は遊郭で修行中のティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)を訪れていた。
「ティファニーちゃん大丈夫!? 変なコトされてないですか?」
「来てくれてアリガトウです。でも、ミーは全然心配されるようなコトしてませんヨ?」
 ティファニーは綾乃が持ってきた万能高性能 こたつ(こうせいのう・こたつ)の中に入ってぬくぬくしている。
 もちろん甘酒つきだ。
「ティファニーちゃんはアメリカンサムライガールだから、はっきりと言わないとわからないのかも知れませんけど、あなたがこれからやろうとしているのは『娼婦』ですよ。プロスティテュート、ユーシー?」
 ティファニーはきょとんとしながら綾乃を見ている。
「そんなコトないデスヨー。綺麗な着物着て、そこの格子に座ってる簡単なお仕事デス。それに、神社の巫女サンが官人の接待をするのがオリジンって聞きましたヨ。ミーは巫女サンですヨ」
「ティファニーちゃん、それ騙されてますから! 絶対騙されてます!」
 綾乃はティファニーの手を強く握り締めた。
「サムライはどんなに苦しくても誇りだけは捨てちゃいけないんです。『武士は喰わねど高楊枝』ってね。どうしても生活に困るというなら、パートナーのゲイル・フォード(げいる・ふぉーど)さんに商いを教えてもらったらどうですか?」
「ゲイル?」
「別に物だけじゃなく、武芸を売ることだってできますよ。用心棒や傭兵だってあるし。ともかく、春を売る事はダメです」
 ティファニーは判ったような、そうでないような顔をしている。
「ゲイルはたぶん葦原の仕事が忙しいデス。それにこれが……」
 ティファニーは机の引き出しから、借用書という紙を見せた。
 綾乃はその金額を見て驚いた。
 一般家庭の年収分くらいはある。
「どうしたんです、これは!?」
「よくわからないけど、幕府からミーが逃げていた間にかかったお金デス。でも、テンチョさんが立て替えてくれて、ここで働けば半額にしてやるって……」
「やっぱり騙されてますよ、この人〜!」
 綾乃が頭を抱えていると、高性能こたつが話しかけてきた。
「ならば、お仕事を試されてはどうです?」
「わ、コタツがしゃべった!」
「私は対イコン用コタツ型機晶姫。万能家具ですからね、そっちの扱いも対応済みです」
 そういって、コタツの中に入っているティファニーの足指を舐め上げる。
「はう……っ……う、はあ……」
「ティファニーさんはとても感じやすい人みたいですね」
 コタツの中でもだえるティファニーを見て、綾乃は思った。
「これは『志方ない』……じゅるり。い、いえいえ、ダメです。助けてあげないと……!」
 綾乃は名残惜しそうに、ティファニーを万能家具から引きずり出してあげていた。