イルミンスール魔法学校

リアクション

　
　　　　★　　　　★　　　　★
　
「お紅茶にサンドイッチはいかがですかあ」
　ワゴンを押しながら、ミリア・フォレスト（みりあ・ふぉれすと）が生徒たちの間を巡回していた。宿り樹に果実の出張販売らしい。
「はーい、サンドイッチセット四つおくれー」
　大きく手を振って、セシリア・ライト（せしりあ・らいと）がミリア・フォレストを呼び止めた。
「はーい、ただいまー」
　カラカラとワゴンを押しながら、ミリア・フォレストがセシリア・ライトたちの所へとやってきた。
「あら、小ババ様、さすがに食べ物の気配には敏感ですぅ」
　いつの間にかすぐそばにいた小ババ様を見つけて、メイベル・ポーター（めいべる・ぽーたー）が言った。髪の毛がくしゃくしゃだ。どうやら、アーデルハイト・ワルプルギスの所から一時的に逃げてきたらしい。
「こばー」
「はい、どうぞ」
　フィリッパ・アヴェーヌ（ふぃりっぱ・あべーぬ）が、ミリア・フォレストから買ったマドレーヌを小ババ様に差し出す。
「こばぁ♪」
　小ババ様が、嬉しそうにマドレーヌにカプリついた。
「それにしても、魔法学校は敗者にスライムを使うだなんて。恐ろしいのですぅ」
　ヘリシャ・ヴォルテール（へりしゃ・う゛ぉるてーる）が、眼下で蠢く青いスライムの群体を見てブルンと身体を震わせた。
「大丈夫ですぅ。以前、百合園女学院の校長室前に作った落とし穴に、ラズィーヤ様があのスライムを入れていたことがありましたからぁ。意外と慣れているんですぅ」
　メイベル・ポーターが、阿魔之宝珠の事件のときのことを思い出しながら、ヘリシャ・ヴォルテールに言った。あのときのマジックスライムは、おそらく、ラズィーヤ・ヴァイシャリー（らずぃーや・う゛ぁいしゃりー）がエリザベート・ワルプルギスから分けてもらった物なのだろう。だが、あのときのバケツ一杯分程度のスライムと、今目の前にいる広間を埋め尽くす量のスライムは、驚異としては比べるべくもない。それにしても、魔力を吸収するマジックスライムを、よりによって魔力の塊のような世界樹の中に入れても大丈夫なのだろうか。
「世界樹の魔力を吸収して、いきなり大増殖ということはないですよね？」
　さすがにちょっと心配になって、フィリッパ・アヴェーヌが言った。
「大丈夫。そうなったらボクたちの出番だよね」
　セシリア・ライトが、傍らにおいた真っ赤な撲殺天使専用バットをチラリと見て言った。
「こばー、こばこばー」
　大丈夫だよ、今は繁殖期じゃないもん。――そう小ババ様が解説してくれたのだが、やっぱりこばこば聞こえるだけで意味が通じない。
　本来世界樹の天敵のようなマジックスライムだが、オプシディアンの攻撃から、同様の攻撃への対応策としても密かに養殖が行われたのだった。ビーストマスターやドルイドたちの研究もあって、ここにいるマジックスライムたちは、エリザベート・ワルプルギスの命令に従順である。そのため、必要以上の魔力を吸収しないように躾けられてもいる。
　もしも、野生のマジックスライムが襲いかかってきた場合は、このペットのマジックスライムが出撃し、敵と融合して逆に相手を支配してしまうように訓練されているのだった。
「本当に安全なのですぅ？」
　まだちょっと心配そうに、ヘリシャ・ヴォルテールがつぶやいた。
「ははははは、すばらしいデース。でも、まだ一味たりまセーン。それはカレーデース。勝者にはカレーを、敗者にもカレーをなのデース。こーちょー、スライムにカレー味の許可をお願いしマース。はい、許可、ありがとうございマース！」
　勝手にそう言うなり、カレーの入った寸胴を持ったアーサー・レイス（あーさー・れいす）が、魔法給食当番少女に変身してマジックスライムに近づいていった。そのまま、カレーをスライムにぶちまけてカレー味にするつもりのようだ。
「そこの割烹着の似合う馬鹿生徒、私はまだ許可してないですぅ。危ないから、近くには……」
　エリザベート・ワルプルギスが注意しようとしたが、遅かった。アーサー・レイスの魔力を感知したマジックスライムが、偽足をのばしてピトッとアーサー・レイスの手に触れた。
「はうあ……」
　あっけなく気を失ったアーサー・レイスが、マジックスライムにつかまって飲み込まれていく。あっけなく、スイーツ魔法少女コスチュームなどがバラバラになり、裸割烹着などというおぞましい姿にアーサー・レイスがひんむかれる。
「よいですかぁ、負けた者には死あるのみですぅ！　あのようになりたくなかったら、死力を尽くして戦うのですぅ」
　マイクを握りしめて、エリザベート・ワルプルギスが叫んだ。
　言いようのない緊張感と期待感が、観客の生徒たちと選手たちの身に走った。
「あんな姿になったりしたら、また悪い人たちが撮影とかするかもしれないですぅ」
　目を被った手の指の隙間からしっかりとアーサーレイスの方を見ながら、ヘリシャ・ヴォルテールが言った。
「大丈夫ですよ、もしも撮影なんかしている悪い人がいたら。ふふっ」
　フィリッパ・アヴェーヌが、チラリとメイベル・ポーターとセシリア・ライトの方を見て微笑んだ。
「えっ？」
　突然背筋に冷たい物を感じて、漆髪月夜が樹月刀真のブラックコートの中で身を縮込ませた。カメラを持ってしゃがみ込んだところを、樹月刀真のコートで隠してもらって撮影をしていたのだ。
「なあ、やっぱり、その位置はいろいろと……」
「いい……。刀真は、そのまま……私を隠す……」
　困りまくる樹月刀真に、漆髪月夜が言った。
「さあ、それでは、そろそろ大会を開始したいと思います。最初は、エリザベート・ワルプルギス校長先生からのお言葉です」
　準備が整ったのを確認して、シャレード・ムーンが実況を開始した。
「うむ、ですぅ。生徒諸君、他校に負けたりしたら、連帯責任で全員お仕置きですぅ！」
　エリザベート・ワルプルギスの言葉に、マジックスライムが大きく音をたててうねった。
「ひー」
　見てるだけーと思っていた生徒たちから、悲鳴があがる。
「えーっと、負けると、ああなりますので、みなさん頑張ってください」
　うねうねとスライムの上を奧の救護室にむかって流されるように運ばれていくアーサー・レイスをさして、シャレード・ムーンが言った。
　修練場の奧にある用具置き場が、臨時の救護室となっていた。スライムは犠牲者をそこまで運んでいって、ぺっ、するのだ。後は、待ち構えている筋骨逞しいアリスさんたちが、アリスキッスで回復してくれる……らしい。とにかく、そちらはカーテンのむこうなので、実際どうなっているのかは分からない。
「では、組み合わせ表を発表いたします。印刷された物は数に限りがありますので、なくならないうちに保存してお持ち帰りください」
　シャレード・ムーンの言葉とともに、トーナメント表にかけられていた垂れ幕が取りのぞかれた。
　
　　　　　　ラスティ・フィリクス　　　　　ＶＳ　　　　　ジャワ・ディンブラ
　　　　　　ノルニル『運命の書』　　　　　ＶＳ　　　　　朝野未那
　　　　　　　　　　　　　水神樹　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　アルジャンヌ・クリスタリア　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　鳴神裁　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　駿河北斗
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　カレン・クレスティア
　　　　　　　神曲プルガトーリオ　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　小冊子十二星華プロファイル　　　　　ＶＳ　　　　　ビュリ・ピュリティア
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　ニーナ・イェーガー
　　　　　エッツェル・アザトース　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　デーゲンハルト・スペイデル
　　　　　　　　　　　小鳥遊美羽　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　ルーツ・アトマイス　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　カレン・ヴォルテール
　　　　　　　　　　　神代明日香　　　　　ＶＳ　　　　　ウルリーケ・クアドラングル
　　　　　　ニコ・オールドワンド　　　　　ＶＳ　　　　　ルルール・ルルルルル
　　　　　　　　　童話スノーマン　　　　　ＶＳ　　　　　マリハ・レイスター
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　『ブラックボックス』アンノーン
　　　　　　　　　　　　　篁雪乃　　　　　ＶＳ　　　　　本郷涼介
　　　　　　　　クリムゾン・ゼロ　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　雪国ベア
　　　　　ズィーベン・ズューデン　　　　　ＶＳ　　　　　四谷七乃
　　　　　　　　　　　　朝野未沙　　　　　ＶＳ　　　　　チャイ・セイロン
　　　　　　フィリップ・ベレッタ　　　　　ＶＳ　　　　　久世沙幸
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　月詠司
　　　　　　　　　　　　日堂真宵　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　泉美緒　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　アルシェナ・サイフィード
　　　　　　　　　　　　　玉藻前　　　　　ＶＳ　　　　　火村加夜
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　ミツキ・ソゥ・ハイラックス
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　大神御嶽　　　　　ＶＳ　　　　　トゥプシマティ・オムニシエンス
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　五月葉終夏
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　水橋エリス
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　エレナ・フェンリル　　　　　ＶＳ　　　　　悠久ノカナタ
　　　　　　　　　　　　坂上来栖　　　　　ＶＳ　　　　　エリシア・ボック
　　　　　　　　　　　飛鳥　豊美　　　　　ＶＳ　　　　　愛海華恋
　　　　　エイム・ブラッドベリー　　　　　ＶＳ　　　　　レイナ・ミルトリア
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　鬼崎朔　　　　　ＶＳ　　　　　秋月葵
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　立川るる
　　　　　　カディス・ダイシング　　　　　ＶＳ　　　　　赤羽美央
　　　　　　　　　　　相田なぶら　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　ルカルカ・ルー　　　　　ＶＳ　　　　　天城　紗理華
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　キネコ・マネー
　　　　　　　　　　　　　蒼灯鴉　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　天枷るしあ　　　　　ＶＳ　　　　　アリアス・ジェイリル
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　イーオン・アルカヌム
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　ルーシェリア・クレセント　　　　　ＶＳ　　　　　セシリア・ファフレータ
　　　　　　　　　　　東雲いちる　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　　佐伯梓　　　　　ＶＳ　　　　　ウルガータ・グーテンベルク
　　　　　　　　　ナナ・ノルデン　　　　　ＶＳ　　　　　欠場
　　　　　　　　　　　　高峰結和　　　　　ＶＳ　　　　　麻上翼
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』
　　　　　　　　　　　　　　欠場　　　　　ＶＳ　　　　　ソア・ウェンボリス
クリムリッテ・フォン・ミストリカ　　　　　ＶＳ　　　　　リン・ダージ
　
「それでは始めましょう。第一回魔法勝負大会！」