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開け、魔法の本 ~大樹の成績を救え?~

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開け、魔法の本 ~大樹の成績を救え?~

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第6章「試練の完遂、そして発現」
 
 
「おお! 皆戻って来おったか。どうやら全ての試練を超える事が出来たようじゃの」
 入り口で調査を続けていたザクソン教授が帰還した者達の所へと駆け寄る。その目は早くマジックアイテムである本の力を見たいとばかりに輝いていた。
「ささ、早う知りたい事を本へと念じるのじゃ。その効果をわしに見せてくれ」
 興奮した面持ちで篁 大樹を促す。だが、大樹は首を振った。
「悪いけどじーさん。俺はこの本に試験の答えを聞くのは止めたんだ。皆が言ってくれたように、実力で受ける事にしたからな」
「大樹……そうか」
 弟が心を入れ替えたのを見て、篁 月夜が満足そうに頷く。『体』以外に向かった者達も、彼の返答に対する反応は似たようなものだった。そんな中、集団にちゃっかり混ざっていた日比谷 皐月が大樹の頭を軽く叩いた。
「ったく、最初からそうしてりゃ良かったんだよ。そうすりゃオレも面倒な事しないで済んだってのに……ま、ブン殴る前に気付いたみたいだからな。これくらいで勘弁してやろうじゃねぇか」
「悪ぃ……っていうか、皐月兄ぃは最近見なかったけど、何やってたんだ?」
「……色々あったんだよ。そんな事より、今は本の事だろ」
「ああ、そっか。結局この本はどうしよっか。俺はもう知りたい事は特に無いんだけど」
 余ってしまった本の使い道を考える一行。そこにローブに身を包んだゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が現れた。
「それなら、良かったらこの私に使わせては貰えないだろうか」
「え? あんたは一体?」
「これは失礼。私はこの洞窟に眠る本の噂を聞いてやってきた者。東西の統一が成ったとはいえ、シャンバラの未来はまだまだ先行きが不透明だ。ならばせめて私達の手でより良くして行く為には何が出来るか。それこそが知るべき内容では無いかと思い、ここに来たのだよ」
 匿名 某のようにそういった事は自身で見つけるべきだと考える者もいるが、何人かはゲドーの意見に賛同したようだった。中でも一際共感した杉原 龍漸が自身の所持する本をゲドーへと差し出す。
「素晴らしい考えでござる! そういう事なら是非これを使って下され!」
「それは有り難いが……いいのかい?」
「勿論でござる! 拙者は特に願い事は思い付かなかったので、人の役に立てるならこの本も本望でござる!」
「そうか、それでは遠慮無く。これでシャンバラの未来が――な〜んてウ・ソ・ぴょ〜ん☆」
 本を受け取った途端、ゲドーが豹変する。
 実は先ほどまでのは全て演技――彼の素はこちら側だった。
「俺様がそんな事考えてるわきゃね〜だろうが。だ〜ひゃはっは!」
「せ、拙者を騙したでござるか!?」
「そんなもん、騙される方が悪いんだぜ〜ってなもんだ! うひゃひゃひゃ!」
「お、おのれ! 待つでござる!!」
「待てと言われて待つ馬鹿がいるか〜い!」
 本を取り返すべく龍漸が追いかける。だが、それより早くゲドーが自分の知りたい事を本に問いかけた。
「俺様が知りたい内容、それは『どうすれば俺様が幸福になれるか』だ!」
 その願いはどうかという気もしないでもないが、本が答えを記す為に輝きを強くする。
 洞窟を白く染め上げるような強い光が辺りを包み込み――

 ボンッ!!

「ほげぁぁぁぁぁぁ!!」
 ――爆発した。本を持っていたゲドーはその爆風をまともに喰らってしまう。
「な……何故本が爆発を……?」
 黒焦げの姿で呆然と立つゲドー。その周囲に散らばっている物の存在にリカイン・フェルマータが気付いた。
「これは……本の切れ端かしら。焼けずに残った分みたいね……『き』としか書いてないけど」
「こっちにもあったよ。『く』と『ろ』だね」
「私も見つけました〜。こちらは『生』と『強』です〜」
 水鏡 和葉とルーシェリア・クレセントが新たなる紙切れを拾ってきた。これで全部らしい。
「見つかったのは五枚。『き』、『く』、『ろ』、『生』、『強』ね」
「何だろ、これが答えって事なのかな? えっと、並び替えてちゃんとした意味になるのは……」
「え〜っと。『くろ生』……は違いますねぇ。『強』……『強く』?」
 三人が頭の中で考える。それを横から見ていた結崎 綾耶がぽんっと両手を合わせた。
「分かりました! 答えは『強く生き――』」
「ドちくしょ〜!!」
 現実を受け止めたく無いゲドーが涙を流しながら走り去って行く。
「くそっ、くそっ! 俺様は、俺様は絶対に幸せになるんだぁぁぁぁぁ!!」
 ……まぁ何だ。強く生き――
「言うなぁぁぁぁ!!」
 
 
「なぁ、何か危ねぇみたいだしよ、使わない方がいいんじゃないか? こいつ」
 本が爆発した事を受け、蒼灯 鴉が師王 アスカの所持している本を指差して言う。彼女の知りたい内容が内容だけに、鴉としてはここで取りやめてくれた方が嬉しい所ではあった。
「爆発を恐れていては真の芸術家にはなれないわ。それに、ジェイダス様のお歳を知る為だもの。ここで退く訳にはいかないのよ〜」
 アスカの願いを受け、本が先ほどと同様に輝きだす。今度は爆発する事は無く、次第に光が収束していった。恐る恐る本を開くと、そこにはある数字が記されている。
「え、これが? でも確かに十分ありえる年齢よね……じゃあ、これがジェイダス様の本当のお歳なのね〜!」
 本を抱きしめ、くるくると回るアスカ。願いが叶った彼女は本当に嬉しそうな顔をしていた。
 ――その後ろで舌打ちしている鴉はまぁ……見なかった事に。
 
 
「あ〜らら、眉唾物だと思ってたけど、ちゃんと効果があるのか。だったら何かちゃんと考えてくれば良かったかねぇ」
 七刀 切が本を取り出して考える。具体的な事は特に思いつかないので、とりあえず願うなら――
「ま、何か面白い事でも浮かんでくれればいいかね」
 漠然とした願いにも反応し、本が輝く。光が収まった後に本を開くと、そこには沢山の文字が書いてあった。
「……ふむふむ、なるほど。要さんや、要さんや」
 切が月谷 要を呼び寄せる。早速書かれている内容を試そうという魂胆だった。
「どうしたんだい? 切さん」
「隣の家に囲いが出来たってね!」
「そうなんだ、それで?」
「…………」
「…………」
「……あれぇ?」
 切が首を傾げながら本に目を落とす。何が書かれているのか気になった要が表紙に浮かび上がった文字を読み上げた。
「『爆笑! 昭和時代のギャグ選集』?」
「『これを使えばナウなヤングにバカウケ!』らしいんだけど」
「そのキャッチフレーズ自体が駄目だろ……」
 
 
「あれ? 理知はもうお願いしたの?」
 北月 智緒が尋ねる。桐生 理知は既に本を開いてその中身を見ている所だった。
「うん、さっきお願いしたんだ」
「そうなんだ。それで何が出て来たの?」
「秘密」
「え〜、何でよ! 理知のケチ。ヒントくらい教えてくれたっていいじゃない」
「そうねぇ……大樹君の為になる物、かな」
「? どゆこと?」
「だから、秘密。まぁ近いうちに分かるよ」
 
 
「あの本凄いわねぇ。本当に文字が浮かんでくるなんて思わなかったわ」
 ジェミニ・レナードが本の結果を見て一喜一憂する皆を眺めながら驚いていた。ロランアルト・カリエドも鞄を漁りながらそれに同意する。
「ほんまやな。まさかこいつがそないな貴重なもんやったなんて思わんかったわ」
「って、それ! 皆が持ってる本と同じ物じゃない!」
「マジかよ! 何で持ってんだ!?」
 一際大きな驚きを見せるジェミニとアルフ・グラディオス。まさか身内が持っているとは思ってもみなかったようだ。
「ああ、これか? 俺の実家、商家やから偶にこないなもんが手に入るんよ。何や関係あるかなーと思って持ってきてんけど、ドンピシャとは予想外やったわ」
「凄ぇじゃねぇか。桜は知ってたのか?」
「うん、親分から本の事を聞いたからここに来たんだけど……そういや二人には言ってなかったっけ? いや失敗失敗」
 たはは、と飛鳥 桜が頭を掻く。こんなのサプライズもいい所だ。ジェミニは軽くため息をつくと、ロランアルトへと尋ねた。
「それで、ロランは何をお願いするの? やっぱり農学や経済関係?」
「ん〜、そういうのは勉強すれば何とでもなるからなぁ……せや! 今回頑張ったご褒美っちゅー事で、これ、アルにやるわ!」
「お、俺!? 別に俺は――ってジェミニ、何だよ?」
 おいでおいでするジェミニにアルフが耳を寄せる。するとジェミニが桜に聞こえないように小さな声でささやいた。
「せっかくだから、あんたが桜に素直に告白出来るか聞いてみれば? あの鈍い娘はこのままじゃ全然気付かないわよ」
「なっ!?」
「ん? どうしたの? 二人とも」
「何や、二人してひそひそ話してからに」
「いや! 何でもねぇよ!」
 大慌てで誤魔化すアルフ。手に持っている本が急に重くなったようにすら感じられた。
「まぁアルフが本を使う事は僕も反対しないぞ。何でも好きな事を願ってみるといいさ」
 アルフの気持ちを知ってか知ら――恐らく全く知らずに桜が背中を押す。
(お、俺が今、一番知りたい事……え、えぇい!)
 心の中の願いに反応し、本がその輝きを増した。そして光の収束と共に、叡智を授ける為に文字が浮かびだす。
「さぁ〜て、アルフのお願いは聞いて貰えたかしら〜?」
「っておいコラ! 勝手に見んな!」
「だってあたしも気になるんだもの。えっと、何々――」
 
 『新聞紙は捨てずに取っておきましょう。含まれるインクが窓の汚れを落としてくれます!』
 
「……何これ? アルフ、あんた何お願いしたの?」
「…………掃除の仕方……昨日、棚が倒れて部屋が散らかったから……」
「いや、確かにそれは大事やけども! もっと他に何か無かったんかいな!?」
「ちょっとナンセンス過ぎるんじゃないかな!? それ」
 ロランアルトと桜が思わず突っ込みを入れてしまう。アルフを焚きつけたジェミニは呆れとも諦めともつかぬ表情でただ一言つぶやいた。
「……ヘタレ」
 彼が素直に想いを伝えられる日は来るのか。とりあえずは掃除用具片手に頑張れ、アルフ。
 
 
「ところで大樹くん。君の本も何やら光りだしていませんか?」
「え? あ、本当だ!」
 月読 司の指摘で手元の本を見る。特に願いや知りたい事は考えていないはずなのに、他の者達が本を使用した時と同じ輝きを見せていた。
「まぁ運が悪い私がそばにいますから、先ほどのように爆発の一つでもするかもしれませんねぇ。はっはっは」
「いや、それは冗談にならねぇって!?」
 幸いというか何と言うか。光は限界を超える事をせずに無事収束していった。裏表紙を上にしている為にどんな内容が書かれているかは分からないが、何かしらの内容が浮かび上がったらしい。
「どうやら何も変な事は起きなかったみたいですねぇ。それで大樹くん、本には何が書かれているんですか?」
 司が珍しく厄介事に巻き込まれなかった事に安堵しながら尋ねる。大樹はそれに対し軽く首を振ると、本を裏返したまま月夜へと手渡した。
「言ったろ? 俺はこいつに頼るのは止めたって。だから何が書かれていようが関係ねぇ。そいつは月夜姉ぇが持っててくれよ」
「ああ、分かった」
 本を受け取った月夜が中身を確認する。すると何を思ったのか、再び本を閉じ、大樹へと差し出した。
「何だよ、月夜姉ぇ。俺はそいつには頼らねぇって――」
「いや、これは大樹、お前が持っておけ」
「? 月夜姉ぇがそういうなら持っとくけど、一体何が書いてあんだ?」
 不思議に思いながらも本を開く。そこに記されていたのは――
「今思い出したが、父さんの手紙には『持ち主にとって必要な事が浮かび上がる』とあったな。確かにそのとおりだ」
 うんうんと頷く月夜の横で固まっている大樹。何事かと横から覗き込んだ西表 アリカが開かれているページの内容に気付いた。
「あれ? これって去年ボクがやった問題だ」
 そう、この本には蒼空学園が設立されから今までの試験問題や、それのパターンを変えた問題が多くのページに渡って記されていた。
「なるほど、確かにこれを解いていけば試験勉強の対策には最適ですね。安易に答えを教える訳でもありませんし、今の大樹さんには必要な物でしょう」
「……ちょ、ちょっと待ってくれよ! まさかこれ、全部やれっていうのか!?」
 沢渡 真言の言葉で現実へと引き戻された大樹が叫ぶ。本一杯に記されたそれは、並みの問題集なら数冊分に匹敵するかという量だった。
「安心したまえ、少年」
 神拳 ゼミナーが大樹の肩に手を置く。そして不敵な笑みを浮かべると、容赦無い一言を放った。
「問題が全て解けるまで、我が懇切丁寧に指導してやろう。何、少年の勉学の為なら例え朝から晩までであろうともな」
「か、勘弁してくれー!!」
 一際大きな叫び声が洞窟に響き渡る。そんな願いも空しく、試験に向けた勉強会は連日連夜続けられるのだった――