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雪祭り前夜から。

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雪祭り前夜から。

リアクション

「こんな事もあろうかと思って、備えておいて、本当に良かったぜ」
 万一のために隠しておいたビッグローへと向かったエヴァルトは、外側からロートラウトへ声をかける。
「準備は万全か? スノーゴーレムが出たみたいだ」
『うん、途中でボクが一端外に出た時に、未沙クンと会って関節部分も、ちゃんと整備して貰ったから』
 ――だからこそ、本当に準備は万端だ。
 内心で、ロートラウトが考える。
 二人がそんなやりとりをしているのを、少し離れた場所からエメトが耳にしていた。


 ――こ、れ、は。ボクが細工したゴーレムが動き出したみたいだねぇ。
 そんな思いで綺麗な癖のある長い黒髪を指で巻き取りながら、エメトは少し離れた位置を歩いていたジガンに走り寄った。
「大変! 雪祭り会場に、ゴーレムが出たみたい!」
 わざわざ会場近辺まで彼を連れ出していたのも、この時のためである。
 パートナーであるジガンは、退屈嫌いで何時も戦場に出かけるが中々うまいこと退屈を殺せないという日々を送っているようなのだ。つまり、戦いにかり出せば、彼はきっと楽しんでくれるだろう。そしてそのまま雪祭りでデートなど――。
 そんなエメトの心中など知らず、ゴーレムという言葉に、ジガンが足を止めた。
「なんだと? それは一大事だ」
 こうして二人は、早急に雪祭りの会場へと足を運んだのだった。


 その頃、会場外へとスノーゴーレムを移送していた三組のイコンも戻ってきた。
 一息つきながら、改めて千歳がユースティティアの中で首を傾げる。
「それにしてもスノーゴーレムが、どうしてこんな場所にいるんだ?」
 コクピットの中で彼女は振り返りイルマを見た。
「スノーゴーレムが勝手にやってきて、雪像の中に混じって夜まで待っていたとは考えに難いですし、やはりこれは何者かが紛れ込ませたということでしょうね――地方の雪祭りでテロとも思えませんし、誰かの悪戯かもしれません。偶然イコンが雪像作りに参加していて良かったですわね」
 冷静なイルマの言葉に、千歳は静かに頷いた。
「雪像も大事だが、夜通しで雪像作りをしている人もいるし、避難する時間を稼がないとな」
 呟きながらも、内心彼女は考え込んでいた。
 ――雪像でも壊すと器物損壊に当たるのだろうか……まぁ、相手ゴーレムだし、罪状を告げる必要はないよな。
「それにしてもゴーレム対策が課題ですね。アサルトライフルの射撃で終了だと思い……そういえば持って来てなかったですわ」
 イルマの声で我に返った千歳は、主兵装のアサルトライフルを本日持参していない事を思い出した。
「戦闘は想定外だったからな……」
「こればかりは仕方がありませんわ。客観的に考えて、雪像作りにライフルを持参しようとする方が少数でしょう。警備をするのならば別でしょうけれど」


 彼女立ちがそんなやりとりをしていた直後、会場の一角で再び轟音が響き渡った。
「あっ!!」
 その惨状にまず言葉を漏らしたのは、リリアだった。
 声を上げたのは、折角紫音や加夜と共に作っていたロップイヤーのぬいぐるみ像の一部が、暴れ出したスノーゴーレムにより瓦解したからに他ならない。
 漸く会場で起きている事態に、雪像制作をしていた皆が気づいたのもこの時だった。
 初めは未だ誰もそれがスノーゴーレムだとは気づかなかった中で、既に移送を終え、いち早く現状を理解していた孝明が咄嗟にアサルトライフルを放つ。
 そして反射した弾の行方に加夜が息をのんだ時、傍らで作業していた彩羽とスベシアがイロドリで雪像と皆を守った。
 孝明のその行動で体制を立て直し事態を理解した皆の元へ、四体目のスノーゴーレムが襲いかかってくる。


 まずはロップイヤーを破損させた三体目のゴーレムに対し、近場で作業をしていた岩造とフェイトが載る龍皇一式が立ちはだかった。
 ――これ以上雪像を破壊させるわけにはいかない。
 そんな思いを抱いた龍皇一式の横へと、ムーンスター――CHP001、クェイルが並んで立った。
『スノーゴーレム出現ね☆ 銀河パトロール隊の、愛のピンクレンズマンあゆみにお任せよ☆ クリアエーテル!!』
 声をかけたあゆみの声の後部座席で、ヒルデガルドが目を伏せる。
「あゆみさん、はしゃいでるんじゃありませんよ。私達は未曾有の災害を防ぎに来たのだということをお忘れなく」
「分かってるよ、ほら、銀河パトロール隊の一員としては、こういうの放っておけないじゃない? ピンクレンズマンにお任せQX☆」
 コクピット内でそんなやりとりをしている二人が搭乗するムーンスターへと向かい、岩造がモニター越しに頷いた。
「加勢か、有難いな――何よりスノーゴーレムの出現も、今後のイコン戦において操縦技量を高めなければと思っていたから練習には丁度良い」
 唇の端を持ち上げてから、岩造がフェイトへと振り返る。
「レーダーでスノーゴーレムの反応は確認できたか?」
「勿論ですわ」
 レーダーで現在位置と周囲にいる他の雪像に異常な反応がないかを確認した後、被害を及ぼしたスノーゴーレムの反応箇所を、彼女は岩造に伝えた。それはモニター越しにも目視できるほど、最も元気よく暴れ回っている代物だった。
「どうやら右方向から、破壊して回っているようですわね」
 敵の行動を分析しながら、フェイトが呟く。
 するとあゆみ達がのるムーンスターから声が響いてきた。
『次に右に来ます後方に七メートル下がって――あゆみさん、ゴーレムの手が目の前に来た時に火焔攻撃して下さい』
 ヒルデガルトのそんな声を耳にしながら、岩造は手持ちの武器であるソードを右手に構えた。そんな中あゆみの声が谺する。
『いくよフラちゃん! それ、ピンク火焔車――!!』
 あゆみが、武装していた焔のフラワシで攻撃を放った。焔のフラワシは、フラワシの一種であり炎を操る能力を持つものだ。戦闘中に使うと敵全体に炎熱属性の魔法ダメージを与えるのである。それを見計らうようにして、岩造がソードを上から振り下ろした。冬の夜風を切り裂く音と共に、スノーゴーレムの体躯の一部が欠ける。するとスノーゴーレムが憤怒に駆られる様子で、襲いかかってきた。それに対して岩造は冷静に回避行動を取る。
『あ、ちょっと、襲ってきた!』
 息をのむようなあゆみの声が、ムーンスターから響いてくる。
 岩造は庇うように機体を動かし、両腕を重ねてガードする。それから共闘機の無事を確認した後、左右に動き、スノーゴーレムの手撃に対して、下にしゃがんでそれをかわした。その後続いてソードを横にふり斬る。そうして一息つきながら、彼はあゆみ達に声をかけた。
『大丈夫か?』
『有難う、助かったよ』
 そんな二人のやりとりにフェイトが安堵するように微笑んでから、岩造へと視線を向ける。
「マシンガンの照準は合わせましたわ。イコン用光条サーベルも使用できる状態にしてありますわ」
 流れ弾で雪像を壊さないようにと、慎重にスノーゴーレムの足下へと照準を合わせた彼女は、岩造が安心して攻撃できるようにそう告げた。頷いた彼は精悍な顔立ちに笑みを浮かべて、マシンガンでスノーゴーレムの脚部を狙撃する。
 すると白い巨体が傾いた。それを見据えてから、二人が搭乗する龍皇一式は、飛行ユニットで闇夜へと飛び上がる。
 龍皇一式の青い機体を見守りながら、ヒルデガルトが地上にいる周囲に対して声をかけた。
『そちらの方々、8分27秒後にこの雪像にゴーレムの身体の一部が落ちて来ます。このシートで、そちらの柱とこちらの壁を囲えば被害は防げます。手伝っていただけませんか?』
 ブルーシートを携えたムーンスターから響いた声音に、彩羽や、近くでイコンに搭乗していたアリーセ、夢見らが、慌てて愛機を動かした。
「どうやら胸部が弱点みたいです。核があるようですわ」
 そうした地上の風景を見守りながら、分析していたフェイトが声をかける。それに頷いて、岩造がイコン用光条サーベルをふるった。暗い夜の最中、まばゆい光があたりを一時照らし出す。
 そして瓦解したスノーゴーレムの破片の一部が、ヒルデガルトの予言通りに、近隣の雪像へと落ちてこようとするのを、周囲にいた皆は、ブルーシートで防御したのだった。