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喋るんデス!

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喋るんデス!

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 猫の友社

「ここが……猫の友社……」
 そこは空京における倉庫街と言うべき場所だった。
 立ち並ぶ倉庫の中の一つ……その前に新宮 こころ(しんぐう・こころ)は立っていた。
 『喋るんデス!』が怪しいと踏んだこころは、その販売元であるここに潜入しようとしているのだ。
「こんにちは、バイト募集って聞いて来ましたー!」
 元気に挨拶するこころ。
(これで、ごく自然にバイト希望の学生に見えたはず……)
「こころや、バイトと言っても面接は面接、粗相のないようにするんだよ」
 こころが本当にバイトをするつもりだと勘違いをしているらしいサキ・ニマ・チイス(さき・にまちいす)は、隣で熱心に面接の心得を説いていた。
 中学生にしか見えない二人のそんな様子ははた目には少々奇妙なのだが、本人達はまったく気にしていないようだ。

「はーい、ちょっと待っててください」
 確認の為、守衛が社内に連絡する。
「もしもし、バイト希望の子が……え? 募集なんてしてない? ですが確かに……はい……」
 電話中の守衛がチラチラとこころ達を見ている、その表情が徐々に険しくなっていった……
「あれ……なんか嫌な予感が」
 ……猫の友社はバイトの募集などしていなかったのだ、バイトとして潜入するという、こころの作戦は失敗だった。
「君達、奥でちょっと話を聞かせてもらえるかな?」
 守衛は完全に疑いの目で見ている……
「あー、場所間違えましたー……逃げるよ、サキおばーちゃん!」
 サキの手を引いて駆け出すこころ。
「いったいどうしたのじゃ? 面接は?」
 当然、サキは状況が読み込めていなかった。
 こころが無理やり引っ張るのだが、どうしてももたついてしまう。
 守衛に追いつかれるのも時間の問題だった。
「待ちなさい!」
 サキに守衛の手が掛かろうとした、その直後。

「ななな、ななー!(猫の友社、発見!)」
「ドルン! ドルン!(邪魔な奴は轢くぜ! 気をつけな!)」
 横から暴走バイクが突っ込んできた。
 『喋るんデス!』の販売元を突き止めたミケと、ミケに盗まれたハーリーだ。
 こころ達の前を通り過ぎると、そのまま倉庫内へ突っ込んでいく……
「うわっ! いったいなんなん……うぐぅ」
 間一髪、轢かれずに済んだ守衛だったが、派手なバイクに気を取られ、背後に忍び寄っていたその人物の気配には気付けなかった。
 不意を突かれ、昏倒してしまう。
「ごめん、悪く思わないでね」
 清掃員の姿に変装した桐生 円(きりゅう・まどか)だ、自ら倒した守衛に謝っていた。
 そしてこころ達の方を振り返ると、自分についてくるように促す。
「え?」
「君達もここが怪しいと思って調べに来たんだろ? こっちだよ、おいで」
「う……どうしよう」
「よくわからないけど、助けてくれたのだから、信用できるじゃろ」
 ……こころ達は円についていく事にした。
 幸いなことに、猫の友社内では今、ミケ達が大騒ぎを起こしている。
 セキュリティなどあって無きが如しだった。
「今のうちに何か証拠になりそうなものを探そう」
 片っ端から引き出しを開け物色を始める円達。
「証拠って、売り上げとか書いてあるやつ?」
「こころは帳簿を探したいのかい? そういうのは多分、金庫に入れてあるんじゃないかねぇ」
「それだ! サキおばーちゃん、金庫を探そう」
 泥棒さながらに金庫を探すこころ達……

 そんな最中、円は重役風の男性を見つける。
(きっと証拠隠滅を計ろうとしているんだ)
 円は男の後をつけることにした。
「いったい何が起きているんだ? とにかく、売り上げだけは守らなければ……」
 どうやら男は金庫ヘ向かっているようだった。
(ビンゴ! 後は金庫を開けた直後を狙えば……)
 円は気配を押し殺し、そのタイミングを待つ。


「はぁはぁ……もぅ、ミケってば!」
 ミケを追いかけ、るるも猫の友社に辿り着いた。
 バイクで暴れるミケを止めるべく、社内へ突入する。
「ななななー!(『喋るんデス!』はどこにあるのよー!)」
 程なくして『喋るんデス!』を求め徘徊するミケを見つける。
「ミケ、ダメでしょ! こんなことしちゃ!」
「なな?!(るるちゃん?!)」
 ハーリーに跨るミケの襟元を掴みあげるるる、俗に言う猫掴みだ。
 一度この体勢になるとミケは逆らえない。
「なーなー(ごめんなさいごめんなさい)」
「めっ、だよ! めっ!」
 すっかりおとなしくなったミケを叱るるる。
 周囲では社員達が呆然とその様子を見守っていた。
「すいません、ウチの子がお騒がせしました、ホラ、ミケ、ごめんなさいは?」
「なー」
「この通りミケも反省してます、どうか許してあげてください」
「……」
 すっかり呆気に取られている社員達を尻目に、ミケを抱っこして帰っていくるるだった。


 男の手によって金庫が開かれる。
(後はこいつをやっつけて、金庫の中の証拠を押収するだけだね……)
 背後に潜み、隙を伺う円だったが……その金庫に入っていたのは……

「社員達の給料……これだけは守らないと……」
 男は金庫に収められていた給料袋の数々を大事そうに抱える。
 それらには社員一人ひとりの名前が書いてあった。
「え……給料? 社長さん?」
「誰だ!」
「あ、しまった」
 動揺してついつぶやいてしまった円だった。
 こうなったら直接この社長を捕えるしかない、だが……
「頼む! この金は社員達の、家族を養う為のものだ、持って行かないでくれ!」
 円に向かって土下座をする社長……その姿はとても悪人には見えなかった。
「な……これじゃまるでボク達が悪者じゃないか……」
 そこへこころ達が駆けつける。
「この会社って、全然儲かってない、零細企業だよ」
 どうやら帳簿を見つけたらしい。
「開発費と権利料として、収入のほとんどは御手洗博士に持っていかれてるようじゃ、こんな収益で経営出来るなんて、ここの社長は相当な苦労人ですよ」
 ……確かにその社長のやつれた顔には、日頃の苦労が伺えた。
「そんな……」
 真実を知り、愕然とする円。

「御手洗博士は我が社を救ってくれた恩人なんだ、彼が望むだけの研究費を与え、研究に打ち込んで貰うのが我々に出来る唯一の恩返し……社員達もそれで納得してくれている」
 法外な金を要求している御手洗博士を疑いもしていない……つくづくお人良しな社長だった。
「結局、この会社の人達は博士に利用されているだけってことじゃないか……」
 きっとこの社長の性格も、付け込まれる原因だったのだろう。
 ある意味、一番の被害者と言えるかも知れない。
 円達の心が痛んだ。
「ねぇ、ボク達、どうすれば良いのかな……」
「……」
 こころの問いかけに答えられない円……その時、彼女の携帯が着信を告げた。

「円? 聞こえてる? 御手洗とか言う奴の悪事の証拠を今掴んだわ、すぐに来て」
 ……その知らせは、研究所に潜入したブリジットからだった。