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リアクション
第7章「『闇』を打ち払って」
「くそっ、すまねぇ……オレがあの時もっと頑張れてりゃ……」
フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)の心には悔恨の念が渦巻いていた。
彼女の脳裏に浮かんでいるのは忘れもしないあの日――カナンの一諸侯であったオルトリンデ家を滅ぼされ、僅かな仲間と共にシャンバラへと落ち延びた時の事である。
自分達が征服王ネルガルの野望を止められていれば、そうで無くともせめて村が孤立してしまうほどの被害を生まなければ。それならば今回のような悲劇は防げたのではなかったか。そういった想いがフェイミィの胸にはあり続けていた。
「……いくぜ、皆……せめてもの弔い合戦だ……!」
だからこそ、亡骸を利用しようとするラウディは許せない。そして、村人の身体を無残にも切り刻んだあの男も――
「ハハハッ! もっと怒れよ、てめぇら! だがなぁ、てめぇらもシャンバラやカナンの戦争に加担してるだろうが! いくら高尚なお題目を掲げようが、所詮は同類、同じ穴の狢なんだよ!」
その男、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は七枷 陣(ななかせ・じん)の身体に憑依した七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)と斬り合いを繰り広げていた。二人は自身の肉体を、周囲の重力を操り、緩急のある攻撃で互いを翻弄しようとしていた。
「ふざけるでない! お主達のしている事は滅した魂をも踏みにじるもの。根の部分から異なっておるわ!」
竜造への道を阻む松岡 徹雄(まつおか・てつお)へとハンマーを振り回しながら天津 麻羅(あまつ・まら)が叫ぶ。だが、そんな彼女の言葉にも竜造は嘲りの笑みを浮かべるだけだった。
「へっ! 使えるモノは有効活用する。当然の事だろ。それが腐るだけの肉塊なら尚更なぁ!」
「まだ言いよるか! えぇい、どけ!」
何としても鉄槌を喰らわせねばと、徹雄を退かせる為にハンマーを振るう。それに対し、徹雄はこちらから攻撃する事はせずにただ黙々と防御と回避に努めた。
(敵さん、中々熱くなってるねぇ。そろそろ『あれ』の出番かな)
熱くなっているのは麻羅だけでは無い。身体を貸している為声が出せない陣も彼女同様に憤っていた。
『あのラウディとかいう坊主といい、こいつといい……許せん奴らや! そうやろ、刹貴!?』
「一度散った死人を再び使役する、か。うん、涙ぐましい経営努力だ。けど……客に出す予定の料理に、消費期限切れの腐敗物を転用するのだけは頂けないな」
『いや、そういう問題か!』
思わず大声を上げてしまうが、身体を共有している刹貴以外には聞こえない。竜造との戦いは、あくまで身体を操っている刹貴の意識同様に冷静かつ冷徹に行われていた。
そこに大剣を構えたフェイミィが乱入してきた。周囲のアンデッドや徹雄にはオルトリンデ少女遊撃隊が牽制に入り、彼女を支援する。
(おっと、ここらが仕掛け時だねぇ。それじゃ……やりますか)
フェイミィ達の行動を見て徹雄が懐に手を伸ばす。そして――あるスイッチを押した。
「なっ!?」
次の瞬間、その場にいる少女達の表情が驚愕へと変わった。だが、それも当然だろう。アンデッドの一体が突然爆発をしたのだから。
徹雄が最初に仕掛けた煙幕での奇襲――あれは実は死角からの攻撃が目的では無かった。彼は奇襲と思い込ませる為に一、二度だけ攻撃を仕掛け、その隙に一体のアンデッドに爆破工作を行っていたのである。
(いやぁ、さすがに女の子には刺激が強かったかな。でも、おじさんは仕事熱心だから隙はちゃんと頂くよ)
奇襲と見せかけて用意した仕掛けで、今度こそ本当の奇襲を行う。爆散したアンデッドに気を取られている麻羅やオルトリンデ少女遊撃隊を振り切ると、同じく注意力が落ちていたフェイミィへと肉薄し、刀を抜く。
「しまっ――!」
咄嗟の所で身をひねるが、左腕を斬りつけられてしまう。両手持ちの大剣を持つフェイミィにとって、貰いたくは無い一撃だった。
(瞬時にあれだけの動きが出来るとは見事だねぇ。脅威は排除しておくべきかな)
残された右腕を狙うべく、再び徹雄が襲い掛かった。何とか片腕でトライアンフを持ち上げるものの、迎撃出来るほどの取り回しは行えそうにも無い。
「ミーナ!」
「任せて!」
徹雄の刀が届く直前、二人の間に長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が割り込んで攻撃を防いだ。刀と刀が鍔迫り合いを続けている間に、ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)がヒールでフェイミィの傷を癒す。
「淳二! お前達も来てたのか!」
「遅くなってすみません。この村の現状は先ほど聞きました。……村人達の為に、俺達も戦います」
更にリネン・エルフト(りねん・えるふと)も加わる。彼女はラウディが召喚したレイスと戦っていたが、先ほどの爆発を聞いてフェイミィの援護へと回るべくこちらへとやって来ていた。
「淳二、ミーナ……フェイミィを助けてくれて……ありがとう。私も……支援する……」
「フェイミィさんにリネンさん。お二人がいるなら、『あの人』は?」
「大丈夫……もうすぐ来るから……」
ミーナの質問に答えながら、リネンが僅かに視線を上に移す。亡者との戦いが繰り広げられている地上とは違い、空は青く澄み渡っていた。
「ちっ、おい! つばめ! いい加減に目を醒ましやがれ!!」
ラウディの持つペンダントの影響を受けて自我を失った藤井 つばめ(ふじい・つばめ)。彼女の攻撃をかわし続けながらゲルト・エンフォーサー(げると・えんふぉーさー)が叫んだ。
「…………」
だが、つばめの意識には届かない。呼びかけも虚しく、彼女の刀がゲルトを、そしてメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)を狙ってくる。
「ど、どうしましょう〜。つばめさんを攻撃する訳にはいかないのですぅ」
「くっ、このバカ野郎が……!」
ゲルトが後の先で攻撃を回避し、相手を張り倒す。その度につばめは立ち上がり、再びこちらへと攻撃を仕掛けてきた。
いや、こちらだけでは無い。彼女の攻撃は周囲のレイスやアンデッドへもお構いなしに向けられている。ただ使役されているだけでは無い何かがつばめの身に起こっている事は間違い無かった。
「本気で戦り合う訳にはいかねぇし……どうしろってんだよ!」
パートナーとの不本意な戦いに悪態を吐くゲルト。つばめが変貌した原因の一端にペンダントの力があるのは明らかだった。
それを理解している榊 孝明(さかき・たかあき)が立ちはだかるレイスの動きを読み、その隙間から妖精の弓で狙い打つが、ラウディの指示で射線へと入るアンデッド達によって防がれてしまう。
「フフフ……無駄だよ。こいつらは何度でも立ち上がるさ」
「俺達地球人よりも加護を理解している奴が、何故神を冒涜するような真似をする?」
「加護だって? 全ての人間が加護を受けてこられた訳じゃ無い。そんな物を崇めて何になると言うんだい」
「だが、その不思議な力、大方女王器かマジックアイテムだろう。神が要らないと言うのなら、その力に頼らず事を為せ!」
「なら実力で止めて見せるんだね! 力の無い者が尊厳を説いた所で無駄なのさ!」
ラウディの闇術が孝明を襲う。迫り来る魔法の前に三船 敬一(みふね・けいいち)が飛び出し、冥府の瘴気を纏わせたハルバードを一薙ぎして打ち払って見せた。
「お望みなら実力で止めてやるさ……。これ以上、好きにはさせない。ここで倒す!」
「ああ、ネクロマンサーの力はこんな事の為に使う物じゃない! 千結! セイル! 俺達も行くぞ!」
「わかったんだよ〜。あの子をとっちめる為に、まずはレイスを何とかするんだよ〜」
「人を玩具のように扱う許せない者達。そんな悪い奴は……地獄に叩き落してやるぜ! ククク……アハハハハッ!」
無限 大吾(むげん・だいご)の突撃に合わせ、廿日 千結(はつか・ちゆ)と戦闘モードに入り性格が豹変したセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)がレイスを抑える為に向かった。最初に千結の魔法と大吾の銃が相手を撹乱する。
「あたいの光術から行くんだよ〜。それ〜!」
「敬一さん、俺が弾幕を張る! セイルと一緒に前へ!」
「了解だ! 支援は任せた!」
更に敵陣へと飛び込んだ敬一のクロスファイアとセイルの爆炎波がそれぞれレイスを片付ける。障害が減ったのを見て、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)とキリカ・キリルク(きりか・きりるく)が走り出す。
「あの少年に人の生と情念の重さを伝える為に……行くぞ、キリカ!」
「えぇ、ヴァルの拓く道……導かれし者達が歩むその時まで、ヴァルの背中は僕が護ります!」
キリカのバニッシュがアンデッドを怯ませ、その間をヴァルが神速で駆け抜けて行った。アンデッド達の下を脱した瞬間、ヴァル目掛けてリターニングダガーが飛んでくる。
「む――!」
対するヴァルも二刀のうちの一振りを投げつけ、空中で相殺する。ダガーを投げた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は再び建物の陰へと姿を消した。
「中々やるのぅ。じゃが、わらわを忘れて貰っては困るぞ」
刹那を追って御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が現れる。先ほどまで彼女と戦っていた紫音は殺気看破と二丁拳銃で奇襲を退けていたものの、身軽さを活かして家屋を飛び回る刹那を捉える事は難しいようだった。
「くそっ、すばしっこい奴だ。小さいから攻撃は軽いけど、その分ああやって動かれるとかなり厄介だな」
「このままではあの少年に近づくのも難しいか。何か対処を考えるべきか」
距離的にはだいぶ近づいてきたものの、ラウディの下に肉薄するには障害となるべき者がまだ多かった。状況を打開する為に頭を働かせている彼らと対峙しているラウディは、別方向から迫り来る物の存在を感知する。
「ん……? この気配は……」
感じなれた気配、そして僅かな震動。『それ』が何物かを察知したラウディはペンダントに手をやり、呪文を唱える。次の瞬間、地中から大きな鯱が飛び出してきた。
「下から奇襲とは味な真似をしてくれるじゃないか。でも……相手が悪かったね」
現れた鯱は一見普通の砂鯱だが、地面に隠れている腹の部分は酷い腐食をしている冥界鯱だった。誰かが仕掛けたこの鯱はアンデッドであるが故にラウディに感知され、その主導権を奪われてしまっていた。
「せっかくだ。こいつにも役に立って貰うとするか。ふふ……立ち塞がるのはお前達自身の力だ。頑張って突破してみるんだね」
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