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空京薬禍灼身図(【DD】番外編)

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空京薬禍灼身図(【DD】番外編)

リアクション

「こちら“バースト”現場、“環七”北部『セブンスリング』、樹月。人手が足りない。手空きの人員はいないか」
「こちら捜査本部、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)。間もなく源鉄心とティー・ティーの組がそちらに行くはずです」
 すると、さっきと同様に、遠巻きの人の輪の中から声が聞こえた。
「……通してくれ……警察だ」
「すみません、警察の者です」
 輪の中から出てきたのは、本部から聞いた者の顔だ。
「こちら樹月。今合流した。以上」
「お疲れさん。あらましを教えてくれ」
 鉄心とティーは、刀真から話を聞くと、もと来た方向に小走りに向かい、聞き込みを開始した。

「警察の者です。もう大丈夫です。ケガはありませんか?」
 ティーが微笑みながら、不安そうにしている買い物客のひとりの女の子に向かって呼びかけた。
 首を横に振る女の子に、鉄心とティーは安堵の息をつく。すると、鉄心が前に出た。
「恐れ入ります、何があったかお話を聞かせていただけませんか? ご協力いただけると、非常に助かります。」
「何があったも何も……突然あの黒焦げになってる人が喚き出して、魔法使ったんですよー」
 女の子が眉間にシワを寄せながら答えた。
「『うぎゃああ』だが『ぐあああ』だか叫び出して、その後にはもう、火柱が立って……“バースト”って言うんだっけ? あんなに怖いものだとは思わなかったなあ」
「ご無事で何よりでした」
「あれモンスターとの戦闘とか用の魔法なんでしょ、きっと?」
 女の子の連れ(こちらも女の子)が、やっぱり眉間にシワを寄せながら口を挟む。
「何? 『契約者』のヒトって、街中でいきなり爆弾爆発させるような事フツーにやってるわけ?」
「そういう者ばかりではありませんが……同じ『契約者』として、お詫びいたします」
「いや、あなたに謝ってもらっても仕方ないんだけどさ……」
 頭を下げる鉄心に対し、連れの子が「止めて止めて」という調子で掌を振った。
「まぁ、もともと様子おかしかったみたいだし……」
“もともと”?)
 そのキーワードに、鉄心とティーの脳裏で何かが閃く。
「あの……その、あそこにいる“お焦げ”さんとはお知り合いか何かで?」
「まさか!」
 連れの子は今度は「違う違う」という調子で掌を振った。
 閃きは、ただの過剰反応だったようだ。
「ただ、待ち合わせでここに来た時に、あちこちキョロキョロ見回しながら体のあちこち掻いていたのを見たのよ」
「掻いていた?」
 “掻いていた”、とティーは手帳のページに大書した。
「そう。服の袖や裾周りに手を突っ込んで、ゴシゴシっていうかバリバリっていう音が聞こえてきそうで──皮膚の弱い人なのかなぁ、って思ったから印象に残ってる」
「なるほど……他に何か気づいた事はございませんか?」
 鉄心の問いに、ふたりは「うーん」としばらく唸ったが、返って来た答えは、
「……ないなぁ」
「後は何も……もともと知らない人だし」
というものだった。
 どうやらこれ以上は何も聞き出せないようだ──そう悟ると、鉄心とティーは「ありがとうございました」と同時に頭を下げた。
「後から何か思い出した事がありましたら、何でもいいので警察の方にご連絡下さい。改めて、ご協力感謝します」
 ──その買い物客から離れてから、「で、どうだった?」と鉄心はティーに小声で訊ねた。
「シロですよ。あのふたりは嘘をついている様子はありません」
 ティーは答えた。
「……用心のし過ぎでは、と思うのですが」
「相手の姿も規模もまだ分からない。警戒はいらないが、用心ならやり過ぎ、という事はないだろうさ。次行くぞ」

「おう、あッこの焼け焦げてるヤツな、ありゃあ“闇黒巣斧射亜(ダークスフィア)”のジョージだぜ」
「間違いないか?」
「ウソ言ったって仕方ねえだろ?」
 鉄心の問いに、金髪碧眼の男は答えた。すぐに染髪及びカラーコンタクトだと分かるのは、日本人顔に全然似合ってないからだ。
「以前にウチの“玖宇瑠伐奴(クールバッド)”とツルんで流した事あったから覚えてんのよ」
 鉄心とティーは、は“玖宇瑠伐奴(クールバッド)”“闇黒巣斧射亜(ダークスフィア)”の名前を脳裏で探った。二秒で「自分達は聞いた事がない」という結論に達した。
 何時頃にどうツルんでどこを流したのか、という方面で色々ツッコミたくなったが、今は止める事にした。
「不勉強ですまん。そちらの名前は聞いた事がないんだ、“そっち”方面じゃさぞかし有名なんだろうな」
「なぁに、大したモンじゃねぇよ。ヒザと肩と首が擦っちまいそうなくらいバイク傾けてコーナリングする程度さ」
 凄いのは分かったが、到底正気の沙汰ではない──が、そんな印象は顔には出さない。
「そのジョージってのは、以前から自分で自分に『ファイアーストーム』かけたりするような真似をしてたのか?」
「まさか。傍目にゃ『死ぬつもりか』ってツッコミたくなる“暴走り(ハシリ)”はしてたが、死にたがるようなバカじゃなかったぜ。デッドラインはきっちり見極めていた、って聞いてる」
(伝聞か)
(今度の伝聞表現に嘘の反応はありません)
「……まぁ、少し前にあんたらの派手な取締りがあってから、ウチらもヤツらも“暴走(ハシ)”れなくなったがなぁ。ストレスは溜まってたと思うぜ、俺もそうだがな」
(今度は「思うぜ」か)
(やっぱり嘘の反応はありません)
「暴走族の間では、ストレス溜まると自分で自分を燃やすのが……その、イケてたりするのか?」
「そんなノリは聞いた事ねぇなあ?」
「最近あちこちで流行ってるっていうじゃないか?」
「少なくとも俺はイラついたからってテメーでテメーいたぶるようなマゾじゃねぇな。流行ってるってったって俺には理解できねぇ」

 あゆみは、コインロッカーコーナーに到着すると、ロッカーのひとつひとつに「サイコメトリー」を用いた。
 ついさっきに、何者かがコインロッカーコーナーに飛び込み、十数口のロッカーを一度に開き、中にある荷物を回収するのが見えた。
 その人物の人相や特徴を調べようとした。が、黒いロングコートに目深に被った野球帽、サングラス、不自然な付けヒゲのせいで、顔の特徴は分からない。
(あう──)
 SPが尽きた。
 ここまで集中的に「サイコメトリー」を使ったのは初めてだ──全身汗みずくになりながら、あゆみは無線機と携帯電話で、自分の掴んだ情報を警察および警察に協力する「契約者」達に展開した。
 人相不明の相手だが、走り去るバイクのナンバーなら確認できた。あとは捜査本部で照合ができるだろう。
「さすがに……もう駄目かな?」
 蒼ざめた顔で、あゆみは地面にへたりこんだ。もう立ち上がる気力さえない。
「……変装してるのかな……? 顔、よく分かんなかった……」
「十二分ですわ、あゆみさん。今は休みましょう、誰も文句は言いません」
 ――その後、マイトが手配して、コインロッカーコーナーの防犯映像を確認した。
 あゆみが「サイコメトリ」をしたように、コインロッカーのコーナーに飛び込み、いくつものロッカーを一度に開き、中にある荷物を回収する男の姿が映っていた。
 そのタイミングは、中庭で“バースト”が起きた直後ぐらいの時刻である。
 マイトは舌打ちした。
 ──気づくのが早ければ──いや、自分がもっと到着するのが早ければ──
(違う。考えなきゃいかんのはこんな事じゃない)
 マイトは頭を振り、携帯電話を取り上げた。
「こちら“バースト”現場、“環七”北部『セブンスリング』、マイト・レストレイド。
 “バースト”発生時には、現場近くのコインロッカーにも注意するよう、周知を頼む」
 やるべき事は、後悔ではなく、反省と改善だ。
 いつまでも後ろを振り返り、立ち止まってる時間はない。
 救急車のサイレンが聞こえてきた。
 “お焦げ”になっている発現者は、警察病院に運ばれるだろう。