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リアクション
ネクロマンサーが取り押さえられたことで、坑夫たちの士気も落ちていった。
目の前で繰り広げられた争いは自分達のレベルを超えている。翠鳴が倒されたのなら勝ち目などあるはずがない。まだ息のある坑夫のほとんどは戦意を喪失し掛けていた。
それをみて益々男――クライヴァルはいきり立った。
「金を払ってやってるのに、お前等と来たら何だその様は! もっと金が欲しいのか? ならいくらでもやる! さっさとそいつらを――」
「やっぱり、あなただったんだ」
ことの成り行きを見守っていた天音が愉快そうに口を開いた。
「知り合い?」
「最近、この街ではぶりが良いって噂の店長さんだよ」
そういえば白竜が言っていた。あくまで噂のレベルだが、との前置きがあったが。
「お前さんは……さっきの」
「店主さん、ああ、クライヴァルさんだっけ、君、色々甘すぎるんだよ。子どもの秘密基地が廃坑だって、この街で知ってたの、君ぐらいものもだったし。店もそうだったけど、その匂いも酷いよ」
死者を召喚するネクロマンサーとの接触で移った匂いを誤魔化すためにと、香水を使用していたのだ。形だけ銃を構えるも照準が定まらない。次々と倒される坑夫やコボルトを見ていたのだ。勝ち目が無いことは明らかだ。逃げるにも道はふさがれている。しかしみすみす手放すにはこの鉱山は惜しすぎる。
歯噛みしているとクライヴァルは背中に叩かれるような痛みが走った。
「俺たちの秘密基地から出て行け!」
「出て行けー!」
「おじさんが、オレ達の秘密基地をとったんだな!」
3人の少年が現われた。手には石を握っている。
「えっちょ、ちょっと、なんで……!?」
理子の混乱は最もだ。子供たちは可憐とアリスが一緒に遊んでいたはずだ。
「出て行けこの成金野郎―!」
さりげなくリルも子供に混じり面白がって石を投げていた。
「蒼い空からやって来て、子供の夢を護る者!仮面ツァンダーソークー1! 只今参上!」
仮面ツァンダーアクションスーツを纏った風森 巽(かぜもり・たつみ)だ。腕を上げ、ポーズを決めると鉱石の山の上から飛び降りる。近場で巽……仮面ツァンダーソークー1の登場に呆然としている坑夫に顔を向ける。ハッと我に返ったようだが、遅かった!
「ソゥクゥッ! イナヅマッ! キィィッックッ!」
またの名を龍飛翔突とも言う。
坑夫は身構えるよりも早く突きを食らい、見事にふっとばされた。
「頑張れー! ちっちゃいけど負けるなー!」
「俺を忘れてもらっては困るな」
新たな声が坑内に響き渡る。辺りを見渡している坑夫たちのスコップが何の前触れも無く切り落とされた。
「何だ!?」
ヒッと情けない声をあげ、ただの棒切れと化したスコップを放り投げる。あとずさると何かにぶつかった。男が恐る恐る振り返った先――背後には突然姿を現した覆面の忍者、それが――。
「白獣纏神!バイフーガ! 見参!」
どこかで見た事のあるその出で立ち。その正体は唯斗だった。魔鎧化したプラチナが覆面となり、顔を覆っている。子供たちは突然のヒーローの登場にすっかり興奮していた。ばっさばっさと坑夫たちをふっ飛ばしていく背中へ夢中で声援を送っている。「ハハハ! 応援ありがとう!」と中の人達も楽しそうだ。
「私も居るわよ!」
「その声は……まさか……!?」
その場に居た全員が声のするほうを振り向いた。
聞き間違えるはずもない。この声は、あの魔法少女――!
「シャンバラの法と正義を護る魔法少女えむぴぃサッチー、子供たちの秘密基地を取り戻すために只今参上!」
どこからとも無く降り立った魔法少女えむぴぃサッチ――宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が華麗に着地をすると、理子に向き直りその手を差し出した。
「理子っちも私と契約して、魔法少女になってよ!」
「きまったー!」「えむぴぃサッチーだ!」「俺達のえむぴぃサッチーktkr!!」と名声を手に入れた魔法少女にあちこちから声援が上がる。差し出された手に、理子は少し戸惑った。
「で、でも……あたしに魔法少女なんて……」
「自らを遊び人と謳いつつ実働部隊では中心的人物、子供の夢を取り戻すべく立ち上がった理子っちには…そう、弱きを守り正義を貫く強き人の魂を感じるの! 理子っちには、十分にその才能があるわ!」
「はいよろこんで!」
その手を握ったのは魔法少女に憧れているエリスだった。
***
「うーん……。やっぱり、子供の遊び場を真面目に調べるっていうのは、正直あんまり気分良くないなあ」
伏見 明子(ふしみ・めいこ)は理子たちから離れて、坑道の調査をしていた。万が一トラップが張られていたら事だ。不測の事態に備えたい。
ようやく見つけた、それほど奥ではないわき道。『ひみつきち』と描かれたダンボールが立てかけられていた。ビー玉や男のが言っていたショートソードと人形もある。
「まさか、子供の人形に仕掛けなんてするとは思えないけど……なーんか嫌な予感がするのよね」
念のためだ。人形や玩具など、そこかしこに触れてみる。特に不穏な影は見られなかった。
「ここは大丈夫そうね。」
ぐるりと見渡して息を吐く。5畳ほどの空間には納まらないぐらいの子供たちの思い出がつまっている。出来ることなら、このまま返してあげたい。返す、というのは御幣があるかも知れないが……せっかくあの子達が自分の力で見つけて作り上げた遊び場なのだ。
他の場所も念のため調査しておこう。人形とショートソードを抱え秘密基地を後にする。
レオン達や他の調査組みから逐一情報がHCに届いていた。途中でわき道を行くと伝えた時に、一人で行くなら、と理子から手渡されたものだ。
誰かがコボルトを住まわせたとの予測は間違っていなかったようだ。今もメールで『採掘現場を発見』との旨が伝えられた。ついでに『ネクロマンサーなう』とのメールも届いた。若干あきれつつも、明子は駆けつけるべきか悩んだのだ。しかし、人数も居るしおそらく問題ないだろう。手が足りなければ最悪の事態になる前に応援要請がくるはずだ。
廃坑は寺院がアジトとして使用しているケースもある。子供たちがこの後も遊び場として使うのなら、徹底的に調べつくして悪い事は無いだろう。
何の気なしにサイコメトリで触れた壁がある映像を脳に押し込んだ。
「えっ……」
エッツェルだ。苦悶に歪む表情。左腕だけでなく顔も左半分ほど、左足まで異形化している。壁に手を押し当てながら、気配を窺いつつ明子は進んでいく。
「これって、ちょっとヤバいんじゃ」
空気がビリビリと肌を焼く。
これ以上先へ進むなと、訴えている。動悸がする。心臓が肥大して、いや、全身そのものが心臓になったような錯覚すら覚える。咄嗟にHCを耳元へ押し当てた。
「理子っち!? ちょっとマズいことになりそうよ」
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