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黒いハートに手錠をかけて

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黒いハートに手錠をかけて

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第5章


「じょ、冗談じゃねえぞ……!!」
 と、典韋 オ來は仰向けになって呟いた。

「……何、今の爆発音」
 その典韋と携帯電話で話していたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)も呟いた。
 カフェテラスでブラックコーヒーを楽しんでいたローザマリアは、周囲で次々と手錠の爆発に巻き込まれているカップルを見て、自分のパートナー達は大丈夫だろうかと思い、電話をしたのだがすでに手遅れだったようだ。
「やれやれ……案の定巻き込まれているみたいだし……」
 ローザマリアはコーヒーを飲み干して立ち上がる。
 周囲の状況から察すると特定人物を狙ったものではなく、見ず知らずの人間同士も繋がれているようだ。
「ということは、無差別にカップルっぽい人間を狙った犯行――ブラックデーを潰すことが目的、かしらね」
 それならば、とローザマリアはGPSを利用して典韋の場所を探り始めるのだった。

 その典韋は現在かなりの勢いで黒コゲである。

 というのも、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)がどこからか大量の手錠を貰って来てしまい、二人してその手錠を10個ほどお互いに繋げて遊んでいたのだから結末は想像にお任せします。

「えへへー♪ 典韋とあそべてエリーはとってもたのしかった、のー♪」
 そのエリシュカもまた典韋と一緒に黒コゲになりつつも、典韋に抱きついてゴロゴロしている。
 正確には大量の手錠の爆発で体力を失ってしまったため、二人ともその場に転がっていることしかできないのだ。

「ふ、ふざけやがって……こんなもん配った奴等、まとめて簀巻きにしてヴァイシャリー湖に沈めてやる……!!」
 それでも典韋は燃え盛る執念で立ち上がり、方天戟を杖代わりにして立ち上がった。
 よろよろとしか歩けない典韋の足元に、さらにまとわりつくエリシュカ。
「うゅ♪ うゅ♪ うゅー♪ このてじょーおもしろいね、えりーもっとばくはつさせてあそびたいなー♪」
 と、そのエリシュカの上着からさらにぼたぼたと大量の手錠がこぼれ落ちる。

「ちょ、エリーおまえ何個持ってきたんだよ……!!」
 もちろん、その手錠は勝手に動いて典韋とエリシュカを再び繋いでしまうのだった。
「ばっくはつ♪ ばっくはつ♪ たーのしーいなっ♪」
 どうやら爆発する感覚が楽しかったらしいエリシュカだが、典韋にとってはたまったものではない。
「じょ、冗談じゃ……!!!」


「……何やってんの」


 数分後、フレアライダーに乗って駆けつけたローザマリアが見たものは、ウェルダンに煤けた典韋と、典韋に抱きついて喜ぶエリシュカの姿だった。
「……さ、さすがにこんなんじゃ命と身体がいくつあっても足りやしねぇぞ……」
「もーっと、もっとてじょー♪ はわ、もっとブチコロしててじょーもらってこよーっと♪」
 と言いつつ、もはや指先ひとつ動かせない二人を見て、ため息をつくローザマリアだった。


                              ☆


 その頃、エーギル・アーダベルト(えーぎる・あーだべると)はキラキラした瞳で手錠を受け取った。
 もちろん、渡したのは全身黒タイツの男、ブラック・ハート団だ。
「ねぇ、おにーさん、これなぁに?」
 と、幼い瞳をくりっと向ける。
「はっはっは、いいかい? 恋人がいて充実してる奴らにこの手錠をはめて、爆発させてあげるんだ、楽しいぞー
 何しろ今日はブラックデーだからな!!」
 と、黒タイツの男は無責任な発言をする。
 立って歩く犬のような外見をしたエーギルはくりっと首を傾げた。
 偶然手錠のわっか部分をガッチリ両手で持ったので、エーギルの手首には手錠が掛からない。
「そっか! えーくんわかったよ!!
 きょうはヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)をたいほしてばくはつさせるひなんだね!!
 ヴィナ・アーダベルトはリアじゅーだっていつもみんなにいわれてるよ!!」
「ほーう、それはいけないなぁ、じゃあ今日はその手錠をヴィナ・アーダベルトとかいう奴にはめてあげようね、きっと喜ぶよ!!」
「うん、わかった!!!」


 ――数分後。


「誰かな? う・ち・の・えーくんに変なことを教えたのは?」
 案の定、両手を繋がれてしまったヴィナは黒タイツ男を追い立てていた。
 もちろんその手錠はエーギルがヴィナに渡した物で、手錠はその機能を至極当然のように全うしていた。
 エーギルは黒タイツ男に言われた事を真に受けて、パートナーであり保護者であるヴィナの両手に手錠を掛けて逮捕したのである。


 だってえーくんよいこだから。


 黒タイツ男数人を追いたてるヴィナの頭のうえでえっへんと胸を張るエーギル。もちろん、何が起こっているのかは分かっていない。
 そこに、フレアライダーに乗ったローザマリアが飛んできた。
 とりあえず爆発して動けなくなった典韋とエリシュカを安全と思われる場所で回復させ、自らはブラック・ハート団を折檻しに来たのである。

「――見つけたわよ!!」
 猛スピードで突っ込んだローザマリアは、両手に持った曙光銃エルドリッジを乱射し、ブラック・ハート団を次々に倒していく。
「よーし、この辺で終りにしてもらおうかな?」
 と、ヴィナも残った黒タイツ男を壁に追い詰めて迫る。
 男がヴィナの手錠に目をやると、まだカウントは20。爆発まで20分もある以上、爆発するのを待って逃げ出すこともできそうにない。

「まずはこの手錠を外してもらうおうか……よし」
 しぶしぶヴィナの言う通りに鍵を取り出して手錠を外す黒タイツ男。
「じゃあ、まずはそこに座ってもらおうかな。うん、正座」
 にこやかな笑顔を見せつつ、ヴィナの背中からは明らかな怒りのオーラが立ち登っている。
 その迫力に気圧されて、男たちはおとなしく正座をした。

「あ、じゃあこっちはもらっていくわね」
 と、ローザマリアは数人を縛り上げている。
「……かまわないが、どうするのかな?」
 問いかけるヴィナに対し、ローザマリアは笑顔で答えた。
「うちのパートナーがヴァイシャリー湖に沈めるそうだから」
 それに対し、ヴィナも涼しげな顔で答えた。
「ああ、いいんじゃないかな」


 いいんですか。


「そんなことよりこっちはちょっとお話をさせてもらおうかな?
 いいかい、確かに俺もリア充リア充と人様には言われてるけどさ、だからと言ってこういう悪戯されちゃ困るんだよね。
 しかもうちのえーくんに変な事教えたでしょ!?
 仮にも他人様からお預かりしてる大事なお子様なんだから、そういうことしてもらっちゃ困るわけ!! 聞いてる?」
 延々と続く説教にひたすら頷き続けるしかないブラック・ハート団だった。


「あ、ハイ。ほんとスイマセン」


                              ☆