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1ヶ月遅れのイースター

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1ヶ月遅れのイースター

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お買い物には気をつけて

 カフェテラスで事件が発生したころ。熾乃火 篝(おきのび・かがり)佐々良 縁(ささら・よすが)は、蒼空学園の購買へやってきていた。縁が蒼空学園の購買のパンがお気に入りで、前々からちょくちょく買いに来ていたのである。

「さ〜て、何パンがいいかな〜っ」

縁はさっさと購買に駆け込み、棚を物色し始めた。熾乃火はのんびりと歩いていたので、縁にだいぶ遅れをとっていた。と、購買の中から金色の光が奔った。しばらく間をおいて、熾乃火は声をかけてみた。どこか遠くから、銃声と悲鳴が聞こえたような……。

「……なんだか妙なことになっていないか? なあ、よす……が?」

熾乃火が購買を覗くと、ピンクのバニーコスチュームにに、手には不似合いな高枝切りばさみといういでたちの縁がきょとんと突っ立っている。その瞳は普段の茶色ではなく、光を帯びた紅色に変わっていた。

「何だか……おかしいんだぴょん。
 ……ねぇ、かがりーん……髪の毛バッサリさせてぴょん!」

嫣然と微笑みつつ、高枝切りバサミを開閉させつつ、にじり寄ってくる縁。

「だああ?! 何がどうしたんだっ……って……ここで実弾はまずいよな……。
 ……三十六計逃げるに如かずだっ!」

熾乃火は購買に背を向け、一目散にその場をあとにした。

 秋月 葵(あきづき・あおい)は、ちょうど蒼空の山葉との用事を済ませ、なにやら周囲が騒然としているのに気づいた。職員室から出てきたロキュ・タフティア(ろきゅ・たふてぃあ)も、ただならぬ気配に気づいて辺りを見回している。窓の外で悲鳴が上がり、2人は眼下を見下ろした。
 バニー姿の女生徒が、大鎌を持って生徒を追い回しており、悲鳴が上がっている。バニーの後方に、数人、スキンヘッドの生徒が呆然とたたずんでいるのが見える。葵が小首をかしげる。

「校内でバニーガールが武器を持って鬼ごっこ?」

そこへ雅羅が数人の生徒と共に、急いでやってきた。

「あ、あなたたち。早く逃げたほうがいいわ」

雅羅が二人に事情を説明する。葵はそれを聞くと、すぐに協力を申し出た。

「それは大変! オッケー私も手伝ってあげるよ〜♪
 魔法少女リリカルあおい! 出撃だよ!」

ロキュもうなずいた。

「髪の毛を刈られるなんて絶対イヤ! 私も協力します!」

「見つけ出したら、カフェテリアに持ってきてね。お願い!」

雅羅は言うと、足早に立ち去った。ロキュと葵は顔を見合わせた。

「教室なんかは他の人が探しているだろうし……
 あまり探されていなさそうなところにあるのかも」

ロキュの言葉に葵が頷く。

「購買はどうかな? 商品がいっぱいあるし、物を隠すには丁度良い思うんだよ♪」

「そうね、商品や在庫品置き場の中にまぎれてたりするかも。行ってみましょう」

購買では縁が、すさまじい髪切り衝動と戦っていた。

「うう……髪が切りたいぴょん……
 ……このつっこみどころ満載な語尾はなんだよぴょん! 何が原因なんだぴょん?」

が、しかし。瞳の紅色が輝きを増しはじめ、縁本来の意識はどこかに押しやられた。もはや髪を切る衝動に突き動かされているのみ。葵とロキュがやってきたのを見た縁は、目を文字通り輝かせ、高枝切りバサミをショキショキさせると、二人に向かって突っ込んでゆく。

「髪の毛切りたいぴょ〜ん」

「きゃー!! こっちに来ないでくださいーーっ!」

ロキュが叫ぶや、おもむろに身の丈ほどの炎の防壁が彼女の周囲に出現する。とっさとはいえ、購買の商品などに火が移らないように、距離は置いている。炎熱に縁がたたらを踏んで立ち止まった。そのまま今度は葵に向き直り、はさみを突き出す。

「願掛けして伸ばしてるんだもん、髪を狩られる訳にはいかないんだよ!」

葵は魔砲ステッキを構えると、いかにも魔法少女らしく華麗に一回転して、派手な動きで受け流す。同時にヒプノシスを縁に向かって放った。しばらく酔っ払いのごとく、よろよろしつつも攻撃を仕掛けてきていた縁だが、すぐに目がとろんとして購買の床にバッタリ倒れると、そのまま寝入ってしまった。

「むにゃむにゃ……髪……」

「失礼しまーす」

ロキュと葵が異口同音に言って、寝ている縁から高枝切りバサミを取り上げ、葵が購買にあった荷物紐で、手足を縛る。ロキュが葵に言った。

「とりあえずこれで、起きても大丈夫そうですね、ご一緒に探しましょう」

しばらくごそごそと探した結果、購買の片隅、スポーツ用品の箱の中から淡いパープルに金色のつる草模様、菓子パンの箱の中から濃い青に白いユリを描いたイースターエッグがそれぞれ見つかった。葵とロキュはポーチに卵をしまい、眠る縁を2人がかりで抱えあげるとカフェテリアへと向かった。

「んしょ、んしょ……」

残る卵、あと5つである。