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【6・残り26時間】

2日目 A.M.07:00

「ぜぇ、はぁ、はぁ」
 ラルクとクィントゥスの一騎打ちは、ついに勝敗が決していた。
 辛くも勝利を得たのはクィントゥス。
 もっとも、正確には互いに攻撃を押収しあって同時に気を失ったのである。
 そしてラルクはそのまま地面へと落ちてしまったが、クィントゥスのほうは乗っていたワイバーンに助けられ。おかげで先に意識を取り戻すことができたということなので。彼としてはあまり勝ったという気分ではなかった。
「大体あの野郎、かなりの高さから落ちたってのにしっかり生きてやがったしな」
 ワイバーンの背でぶつぶつ呟きながら身体に包帯を巻き、ついでに季節外れの恵方巻きを食べてHP回復に勤しんでいた。
 やがて、仲間連中が足止めされているのが目に入ってきた。より正しくは、どうも攻めあぐねているように見えた。
「チッ……腰抜けども。玉砕覚悟の特攻をする気迫はねぇってか。こういうとき、なにがなんでも生き残ろうとする精神は裏目に出ちまうな」
 となれば、発破をかけてやるためワイバーンを急がせようとしたが。
 そこへエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ベルトラム・アイゼン(べるとらむ・あいぜん)が搭乗しているイーグリット・アサルトのダイネクサーが飛来してきたため。強制的に停止させられた。
「どうも。俺はエヴァルト・マルトリッツ。それと、パートナーのベルトラム・アイゼンだ。おまえは?」
 ふたりはここいらを警戒していたため、相手が何者かは大体把握していたが。礼儀として、名乗りを上げたうえで尋ねる。
 クィントゥスとしても、聞かれた以上は答えないわけにはいかないので。
「俺はクィントゥス。傭兵龍騎士だ。いまは、ティーカップパンダを捕まえに来ててな、仲間と合流したいからそこをどいてくれねぇか」
「パンダを捕まえに来た、傭兵?」
「ああ。そうだ。ついでに言うと、パンダの電波を受信する女もいただくつもりだ」
 補足として付け加えられた発言に、エヴァルトはピクリと眉をあげた。
「……ふむ。行商人なら良かったんだが……悪いな、今ばかりは奪わせてやるわけにはいかん。特に、あの人は、共に戦ったこともあるからな」
 あの人、というのはもちろん金元なななのことに他ならない。
 クィントゥスは食っていた恵方巻きを飲み込み、バスタードソードに手をかけた。
「適当に痛めつけるだけで済ますから、帰って普通に貿易するように提言するんだな」
「よーし、オレのオペレートの手腕、見せてやるぜー!」
 先に動いたのはダイネクサー。
 エヴァルトたちの作戦は高速機動による撹乱からのようで、空を駆け回り隙を狙おうとしている。クィントゥスとしても、スピードを生かしてくることは予想できていたので不用意に動かずカウンターの構えになるが。
 ふと。機体の動きがなにやら不安定のようにクィントゥスの目には見えた。
 そしてその原因は、
「えっと、このレーダーが敵の動きをさしてて、こっちの画面のライトを中心になるようにうごかして……あ、違う。こっちのこれがバランスをとるやつで……」
 テキトー極まりないベルトラムの操縦と、
「おい、なにやってんだ。無理しないで俺に任せておけって!」
 それをフォローしようとするエヴァルトの強引な修正によって、起きている事態だった。
 おかげで逆に動きが読み辛く、かといって無視して先に行くこともできず。わかりやすく舌打ちするクィントゥス。
「ちぃっ……なんつーメンドくせぇ相手なんだ…………うっ!?」
 そのとき、上空から隙をついて現れたのは伏見 明子(ふしみ・めいこ)
 彼女はペガサス(名前はゴンちゃん)に乗って、いきなり急降下してきたのである。
「はああああっ!」
 勢いにのせて、魔法の投げ輪を放り投げる明子。
 クィントゥスは咄嗟にバスタードソードを振り回してそれを弾き飛ばす。
「なんだてめぇ、いきなり出てきやがって……」
「うるさいっ! 聞いたわよ、人が頑張ってみつけたものを、横からかっさらって誘拐しようなんて。パラ実だってやんないわよそんなもん!」
 ビッ、と真っ向から明子は指をさして。
「あなたみたいな不良龍騎士は、この私とゴンちゃんが制裁してやるから、覚悟しなさい!」
「はっ。いい度胸だ、やれるもんならやってみろよ」
 クィントゥスはそう低く吐きながら、ワイバーンを軽く叩き。標的を変更させる。
 まごまごしているエヴァルトたちを放置し、一気に飛翔して距離をつめてきた相手に、明子は手綱を握りしめ、回避上昇ですばやく距離をはかる。
 風圧で振り落とされそうになるのを、指に綱が食い込むくらいに掴みながら必死にこらえつつ空中での鬼ごっこに挑む明子。
「おいおい! 最初の威勢はどこいったんだ!」
 放たれるクィントゥスの声が、風に混じって届いてくるが。
 すぐに攻撃するつもりはない。武器は準備してあるのだが、相手もスピードには自信がある獣。機を見誤れば、負けるのはこちらだ。
「おいこら! 相手はオレたちだろうがー!」
 と、そんな追いかけっこの両者にベルトラムの叫びが介入してきて。クィントゥスは目を見張った。
 なにしろほとんど体当たりでもしてこようかという勢いで、ダイネクサーがワイバーンめがけて突っ込んできたからである。しかもなにを思ったか、なにも武器を装備させず、拳として握らせもしていない右手がまっすぐに向かってきて。
 そのまま避ける間もなく、ワイバーンへ平手打ちするように右手がぶつかった。
 バン、とも、バガン、とも聞こえる鈍い音とともに、ぐらりとよろめくワイバーン。
「やった! さすがオレ!」
「いや、ほとんど当たったの偶然だろ……って、あれ。どっち行くんだ」
 ちぐはぐなふたりが操縦するふたりのダイネクサーは、そのままどこへ行くつもりなのか。空の彼方に飛んでいってしまった。
 やはり、根性論では限界があったらしい。
「なんつーむちゃくちゃな攻撃してるくんだよ」
 しかしおかげでクィントゥスもわずかにバランスを崩しており。
 生まれた隙をのがすまいと、明子は手綱を繰り、真っ直ぐに突撃していく。
「ちっ、今度はこっちの蛮族女かよ!」
「蛮族蛮族と馬鹿にしてんじゃないわよー! 私達だってこんぐらいはやれるんだっ!」
 怒り心頭な明子は、ゴンちゃんに高速機動、ダメージ上昇とを重ねて、ビームランスを構え。その激走の力をのせ、ワイバーンの翼をひといきに刺し貫いた。
 顔への攻撃のショックから立ち直っていないところへの、この一撃。
 さしものワイバーンもたまらずふらふらと失速し。やがて森のなかへと落ちていった。
「ふん、ざまあみなさい!」

 そして。
 もろともに落下したクィントゥスは、木の枝にひっかかったまま携帯電話を耳にあてる。
「もしもし、俺だ」
『ああ、クィントゥスか?』
「ちっとドジっちまってな、相棒がやられちまった。だから悪ぃけどちっと迎えに来てくれねぇか。さすがに徒歩だと面倒だ」
『わかったぜよ。こっちもすこし士気がさがっちょるから、一度退いて態勢を立て直すことにするぜよ』
「よし。体力が回復しだい、すぐに反撃を開始と行くぜ」
 こんな無様を晒していながらも、どうやら敗北を喫したつもりはないらしく。
 まだまだ勝負はこれからと言いたげに口元を歪めるのだった。