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イルミンスールの割りと普通な1日

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イルミンスールの割りと普通な1日

リアクション



●あっちこっち、忙しい。

「ワタシはスライムの担当ね!」
 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)はとても面白いことが起こりそうな笑みを浮かべて、嬉々としてスライムの元へと向かった。
 その手にはビデオカメラが握られており、何かを録画するつもりなのがひしひしと感じ取れる。
「シオンくん、何もスライムじゃなくてもいいんじゃないかなぁ!?」
 月詠司(つくよみ・つかさ)はシオンに引っ張られるように、スライムのところへ向かう。
「ツカサー! はいパース!」
「って、ねぇ、シオンくん……そのうねうね動いているのスライムですよねぇ! なんで私の方に投げるのかなぁ!?」
 ついて早々、シオンの暴走が始まった。
 身に着けている衣服を溶かすというスライムは、地肌で触れる分にはぬるぬるぷるんぷるんしているだけで害は全く持ってない生物だ。
 それを、シオンはぽいっと司へ向けて放り投げた。
 スライムは放物線を描いて司の胸元へ。
 べちょ。ぶすぶす……。
 酸に溶かされているような音を立て、司の衣服が溶け出す。
「ハハハ、見たかー!」
「見たかって! 誰も男の裸とか見ても嬉しくないからね!? やるなら、女の子にしなさい!」
「……ゼリー美味しそう……じゅるり……」
 強殖魔装鬼キメラ・アンジェ(きょうしょくまそうき・きめらあんじぇ)が腹の虫をぐぅぐぅと周りに聞こえるほど鳴らしながら、司にへばりついているスライムに近寄ってくる。
「アンジェくん。食べたらお腹壊すからやめなさいね! というか、私ごと食べる気じゃないでしょうね!」
 そういいながらも、司の服はどんどんと解かされ、誰得だよといわんばかりな状態になってきている。
 シオンはその様子をビデオに取りながらきゃっきゃと笑い転げている。
 つんつん。
 そんな司をつつくモノがいた。
「ちょ――! こ、コカトリスー!」
 そして、それが司の最後の言葉だった。つついたものを例外なく石化させるコカトリス。
 そいつはどこからか脱走してきたのか、なんとなく目の前にいた司をつついたのだった。
「わー! ごめんなさい、逃がしてしまって!」
 生徒の一人が石化した司に平謝りしているが、当人には聞こえていない。
「気に病むことはないのじゃ……。ツカサがこうなるのはいつもの事じゃ問題なかろう」
 ウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)は自分のペットをキメラ・アンジェから守りながら生徒に答えた。
「あっれー、スライムどこ行った?」
 シオンがドサクサにまぎれて行方知れずになったスライムの行方を聞いた。
「知らぬ……」
 ウォーデンはそっけなく答えた。
「お腹すいた……」
 キメラ・アンジェはスライムを食べ損ねてしょげ返るのだった。
(くっくっくっ……面白いことになるぞー♪)
 どこに行ったのかわかっていて、行方を聞いたシオンはとても悪い笑みを浮かべたのだった。



「えっと、ガーゴイルはこっちでワイルドペガサスはこっち……ああん、スクィードパピーの世話もぉ?」
 ひんひんとなきながら峰谷恵(みねたに・けい)はペットの世話をしていた。自分のペットもだが、イルミンスールで飼育されている幻獣の世話も忘れない。
 しかし、悲劇はあらぬところからやってくるのだった。
「わっ、とっと……きゃあ!」
 何かに足を取られて、後ろ向きに転んでしまう。
 ぐにょん。
 とてもやわらかい物を踏んづけてしまった。
 そして、お尻からぷすぷすと煙とともに何かが溶けるような音が聞こえる。
 うにょんうにょん。
 恵のお尻から這い出してきたスライムが、恵の体をくまなくまさぐる。
 腰から這い上がり、豊満な胸へと向かっていく。
 スライムの体液はまるでなめくじが這ったかのように、軌道線上に恵の服を溶かしていく。
「わ、わわ……んっ……」
 スライムは恵を気に入ったのか、じらすようにゆっくりと恵の体を張っていく。
 服の隙間から入り込み、内側から服を溶かしたり。
 そのたびに恵が、あっ、とか、んっ、とか艶かしい声を上げる。ただでさえ動くたびに揺れる胸で男子生徒の視線を釘付けにしていたのに、スライムが襲ってしまっては誰一人として、恵を助けようという意思を持つ生徒はいない。
 いいぞ、もっとやれ! そんな心の声が聞こえてきそうだ。
 最早、服としての機能をなくした恵の服。幸い可愛らしい上下の下着は死守することができたのが救いだろう。
「いつまで遊んでいる?」
 グライス著始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)がスライムを引き剥がし、事態は収束したかに思われた。
 べちょ。
 標的が変わったのだ。
 始まりの一を克す試行へとスライムが飛び移った。
 しかし始まりの一を克す試行は動じない。ヒプノシスでスライムを眠らせると自分から引き離し、
「……」
 無言で地面へと落とした。若干服を溶かされたが元々露出度の高い服を着ている始まりの一を克す試行は特に気にした様子もなかった。
「あ……ごめんなさい、ケイ。手が滑ってしまいました♪」
 舌をちろりとだしながらエーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)は恵のスクィードパピーをスライムが離れてほっとしている恵の胸元へと落とした。
「ひっ、やぁ!」
 ぬるっとした感触に、恵は顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。
 スクィードパピーは我使命を得たりと、恵の体をまさぐる。
 十本の触手を起用に動かし、豊満な胸を刺激したり、それより下をぬるり、ぬるりと制圧していく。
「あん、ら、らめらって……」
 なされるがままになっている恵。
 そんな様子を遠巻きに眺めている、レスフィナ・バークレイ(れすふぃな・ばーくれい)は豪快に笑いながら、
「いやぁ、恵が楽しそうで何よりだ」
 しばらくの間眺め続けている。
「た、助けてくださいよぉ!」
 顔を真っ赤にし涙を溜めている恵の悲鳴を聞いているのだった。



 白瀬歩夢(しらせ・あゆむ)はアゾートを庇いながら、落下していた。
 原因は、白瀬みこ(しらせ・みこ)が歩夢たちが乗って飛行していたワイルドペガサスを驚かせたことだ。
 そして、地表に落ちると――――ぐにょん。
 歩夢が思っていたような衝撃はなかった。
 しかし、ぶすぶすと白煙を上げ始めている自分の衣服に気がついた。
「わ……」
 呆然としていても、歩夢の服はどんどんと溶かされていく。
 そして、上半身の服がほぼすべて溶かされたところで我に返る。
 胸を隠し、
「上半身の服完全に溶けちゃった……」
 体を起こす。さすがに落下の衝撃でスライムはそれ以上の追撃をすることなくどこかへ去っていったのだけが幸いだ。
「あ、アゾートちゃん! 大丈夫?」
 自分のことは二の次に、歩夢は真っ先にアゾートの心配をした。
「うん、ボクは大丈夫だけど……キミのほうが酷いよ?」
「わ、私は平気だよ! あっ……」
 そして、歩夢は気づいてしまった。
 アゾートの服が少し熔け、素肌が見えてしまっていることに。
 ぼっと、そんな音が聞こえたかのように、歩夢は真っ赤になって顔を逸らしてしまう。
「顔、赤いけど、やっぱり、どこか怪我したんじゃ……」
「……あれれー? 歩夢ってば、何で真っ赤になってるのー?」
 いたずらをした子供のような笑みを浮かべて、みこは歩夢にイルミンスールの制服のマントを掛けた。
「くすっ、歩夢、見られなくてよかったねぇ」
 耳元でぼそりとそう囁くとみこは踵を返すとどこかへ行ってしまった。
「みこちゃーん……」
 恨みがましく、みこを見送る歩夢。
「アゾートちゃん、ごめんね……本当に大丈夫?」
「ボクは本当に大丈夫だよ。でもやっぱり……あの高さからボクを庇って落ちたキミが心配だよ」
 困ったように眉根を寄せ、アゾートは歩夢の顔を覗き込む。
 アゾートに覗き込まれて、歩夢はもっとドキドキしてしまう。マントを胸元に引き寄せた手に心臓の音が伝わってくる。
「次は、もっとちゃんとアゾートちゃんを守ったりできるように……なるから!」
「うん。ボクも……助けられたままはイヤだから助けられるようになるよ」
 アゾートは微笑を浮かべ、歩夢の思惑とはずれた答えを返す。
 そうして、二人は代えの服を取りに向かうのだった。