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超能力体験イベント【でるた2】の波乱

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第12章 そして監禁へ

「ここは?」
 意識を回復した設楽カノンは、自分が檻の中で鎖につながれていることに気づいた。
 窓ひとつない独房の中に、カノンはいるようだった。
(気がついたか)
 コリマ校長が、精神感応でカノンに語りかける。
「校長先生、これは、どういうことですか?」
 カノンは、鎖をガチャガチャと鳴らして尋ねた。
(イベントで、また暴走したな。さすがに今回の件は、生徒たちが受けた被害を考えると、不問にはできない)
「だから、私を監禁するんですか? 私は、学院が誇る、エリート強化人間のはずですよ」
 カノンは、ムッとして答えた。
 はじめて、校長に対する反感が芽生えるのを感じる。
(その自負が、おごりになっているようではいかん。少し、お前に甘くしすぎたようだ。十分反省し、力をある程度コントロールできるようになるまで、この管理棟に監禁し、私自ら、矯正の教育を施すとしよう)
 コリマは、毅然とした口調でいった。
 いつの間にか、学院は、カノンを「指導」できる人材が誰もいない状態となってしまった。
 コリマ校長が、そうした状況を問題視するのは当然だった。
「矯正、ですって? 私にそんなものは必要ないです!! すぐに出して下さい!! でないと!!」
(でないと、何だというのだ? おごりたかぶるのも、いい加減にするのだ!!)
 コリマ校長の怒りが爆発した。
 強烈なサイコキネシスが、カノンの身体をとらえ、きりきりとひねりあげる。
「きゃ、きゃああああああ!! ……絶対、反省なんか!!」
 歯をくいしばってうなるカノン。
(少なくとも、いまよりは心が成長してくれないと困る。お前の仲間である生徒たちも、今回の暴走は行き過ぎだと感じているぞ。お前のそのおごりは、強化人間としての自己への「誇り」とは性質を異にするものだ。ただ本能と欲望のままに生きるのではなく、理性によって自分の行き先を決めるのが人間なのだ)
「え、偉そうに。くっそー!!」
 どうすることもできないほどの力を前に、無力感と激痛にさいなまれ、カノンはうなだれる。
(そこで、当分の間謹慎だ。追って、プログラムを示そう)
 コリマの精神感応が切れた後、カノンは悔しさのあまり、独房の床に拳を叩きつけていた。
「私は、私は、妙なものをみせられて錯乱しただけです! 講義を精一杯やろうとしていたのに!! 確かに、暴れちゃって、被害は出しましたが、それが、それがそんなにいけないことなんですかー!!」
 
 超能力体験イベント【でるた2】は、開催中に鏖殺寺院の派遣した屈強のサイオニック集団「黒の十人衆」の襲撃を受け、大混乱の中で講師である設楽カノンが暴走して生徒を襲うというトラブルに見舞われた。
 だが、イベントに参加した生徒たちとしては、すさまじい闘いを目の当りにする中で、結果として超能力スキルを向上させることができたという者が多く、体験イベントで「実演」を行えたことに意義を感じられたという者が多かった。
 そうした状況をふまえて、コリマ校長は、公式見解の中で、全ては超能力の「実演」のための演出だったと主張し、イベントは成功だったとの認識を示した。
 だが、同時に、カノンの暴走は確かに問題だったので、当分の間監禁して矯正教育を行うとも発表したのである。

 イベント当日の混乱について学院の管理体制を批判する声も多かったが、同時に、開会式でのコリマ校長の宣言が、多くの強化人間、そして、その仲間である者たちの共感を集め、校長の理念に賛同しようという動きを顕在化させたのも事実である。

(これで、カノンも、サンプルXも、管理下におけた。だが、真に重要なのは、これからだ)
 コリマ校長は、校長室での瞑想の中で、今後のプランについての検討を開始した。
 学院の未来、強化人間の未来は、彼の双肩にかかっているのである。
 批判はあるものの、校長が強化人間を導いていける力を持っていることは事実だった。
 
 そして。
 一部の生徒の間では、イベント会場に現れた「死楽ガノン」という伝説の強化人間を封印した謎の美少女戦士、「ナースプリンセスKAORIGA」の活躍が伝説として語り継がれることになった。
 一説によると、KAORIGAは変身するときに一度全裸になるといい、その美しい肢体をひとめみたいと、夜な夜な学院のキャンパスでKAORIGAを探しまわる人々も現れた。

「もう! みんな、恥ずかしいことしか、印象に残らないんですのね! 大切なのは、KAORIGAが、仮想と現実、夢と現実をつないでくれたことですのに!」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)はスケベ根性丸出しの男性ファンたちの姿に生理的な嫌悪感を感じたため、自分がKAORIGAだったことは絶対秘密にしようと決めた。
 死楽ガノンを抑えこんでもとの設楽カノンの精神を復活させたあのワクチンのプログラムは、学院の上層部に差し押さえられてしまったが、次の「暴走」にも同じワクチンが使えるかどうかは、疑問だった。
 なぜなら、暴走するたびにカノンの力は強大となっており、より強力な対処法を考える必要があると思われたからである。
 カノンの力が進化するタイプのものだと考えると、一度有効だった手段に対しては、すぐに耐性を備えると思われた。
「カノンさん、次に会ったときは、また、素敵な笑顔をみせて欲しいですわね。みんな、カノンさんと仲良くしていきたいと思っていますわ。その気持ちを無駄にしないで欲しい。これが、KAORIさんとわたくしの共通見解ですわ。いつかのお風呂のときのように、互いに裸になって、お互いをさらし、理解しあっていきたいですわね!」
 オリガは笑って、学院の廊下を歩き、今日も授業を、仲間とともに受ける。
 カノンの中の凶暴な別人格を知りながら、それでも彼女を受け入れている、素晴らしい仲間たちとともに。
 オリガの願いは、天学だけではなく、パラミタの学生たち全ての願いだといえるだろう。
 だから、カノンは、変わらなければならないのだ。

担当マスターより

▼担当マスター

いたちゆうじ

▼マスターコメント

 今回は久しぶりのマスターシナリオ運営ということで、いまいちペースをつかめず、締め切りに間に合うかどうか焦ってしまいました。

 海人がNPC登録されてからすぐに休止に入ってしまいましたが、今回扉絵にも登場させることができ、よかったと思います。

 覚醒技、あるいは新必殺技のアイデアをたくさん頂き、ありがとうございます。全部が採用になったわけではありませんが、できる限り描写させて頂きました。
 なお、このシナリオで使用した「覚醒技」「新必殺技」については、あくまでこのシナリオ限定ですのでご注意下さい。

 今回、「黒の十人衆」については、リアクションをお読みになればわかるとおり、全員倒されたわけではありません。
 倒された者についても、本当に倒されてしまった者、倒されたけどまだメンバーとして存在する者、にわかれています。
 特に、シナリオ「Sの館」で倒されたのに今回復活して寺院所属になったシビトは、今回また倒されたもののしぶとく生きていますので、いつかまたみなさんに襲いかかってくると思います。

 次のシナリオの予定は未定ですが、早くても8月中旬以降になってしまうと思います。
 それでは、参加頂いたみなさん、ありがとうございました。

※7月26日 一部修正を加え、リアクションを再提出しました。