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序章 開幕

「こりゃ、びっくりだぜ……」
 歴史博物館内に入った【846プロ】所属の落語家若松 未散(わかまつ・みちる)は目の前に現れた巨大な砲台に驚いた。
 天井ぎりぎりの砲身。広々としたホールの中央に≪機晶式ジィビナイド・カノン砲台≫が展示されていた。
 未散は近づくと、自身の倍以上の高さがある砲台を見上げた。
 ≪機晶式ジィビナイド・カノン砲台≫は五千年前の戦いで使われた、機晶石によって生み出されるエネルギーにより弾丸を撃ち出す巨砲だった。
「これ事態が床に固定されているため、上下にしか照準を変更できないようでございますな」
 ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)が未散の隣に立って同じように砲台を見上げていた。
 そこへ、博物館の館長室に設計図を探しに行っていた匿名 某(とくな・なにがし)が、古びた用紙を片手に戻ってきた。
「見つかったぜ!」
「某さん、見せてください」
「どうぞ」
 砲台の状況を確認していた一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)は、某から受け取った設計図を見ながら修繕箇所を調べる。
「これなら、すぐに終わりそうです」
 瑞樹は思ったより損傷が酷くなかったことに胸を撫で下ろした。
「ん……」
 すると、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が【『シャーウッドの森』空賊団】副団長リネン・エルフト(りねん・えるふと)からの【テレパシー】を受信する。
「ああ、わかった。……皆、前線部隊に向かった連中から連絡だ。あっちではもう戦闘が始まってるそうだ」
 街の方から、怒声と共に激しい戦いの激音が聞こえてくる。
「じきにここにも敵が向かってくるかもしれませんね」
「というよりもう来ちゃったみたいだよ、瑞樹ちゃん♪」
 博物館の入り口に立つシエル・セアーズ(しえる・せあーず)が、大量の≪氷像の空賊≫を見つけて楽しそうに言った。
 街に散っていた≪氷像の空賊≫が一斉に博物館を目指してきていたのである。
「瑞樹! 発射までどのくらいかかる!?」
 【846プロ】所属のアイドル神崎 輝(かんざき・ひかる)は瑞樹に問いかけると、大通りを侵攻してくる≪氷像の空賊≫を睨みつけた。
「二十分……いえ、三十分あれば撃てると思います!」
「わかった。≪氷像の空賊≫はボク達が引きつける。瑞樹は作業に集中して!」
「待って、輝! 私も一緒に行くよ!」
 博物館を飛び出した輝をシエルが追い掛ける。
 生徒達が砲台の応急処置と迎撃に分担して作業を始めた。

 タシガン空峡沿岸部の小さな街≪ヴィ・デ・クル≫。
 生徒達が巻き込まれた壮絶な一日がいま始った。