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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース
【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース 【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

リアクション

 
 
 
 ■ レース■ アパートメント『サウス 』〜 『獣人の村』役場
 
 
 
 レースも中盤を過ぎ。
 序盤飛ばしたドラゴンに疲れが出てくる頃合いを見計らい、志方綾乃は徐々にスピードをあげていった。
「うん。いいペースだ。けど、最後にごぼう抜きするためのスタミナを使い切るんじゃないぞ」
「当然です。そんなことの分からない私ではありません」
 注意してくるラグナにそう答えると、綾乃はドラゴンの手綱を調整した。

 それまで無理に飛ばさずにいた秋月葵は、そろそろかな、と姿勢を正した。
「シューティングスターちゃん、我慢ご苦労様〜。それじゃあ君の本気の飛行、皆に見せてあげようよ!」
 急にあがった速度に、アルの悲鳴がまた大きくなる。
「もう降りたいですぅ!」
「平気平気。ちょっと目を開けて見てみたら? すごく良い景色だよっ」
「景色……」
 葵に言われ、恐る恐る目を開けたアルは飛ぶ勢いで過ぎてゆく風景に気を失いそうになった。
「きゅう……」
「アルちゃん? もしもーし。起きてる?」
 慌てて呼びかけた葵に、アルはキャーともヒーともつかない掠れた悲鳴で答えた。
 
 
「陣くんっ、そろそろ来るみたいだよ!」
 リーズはアパートメント『サウス』の屋根まで飛ぶと、みるみるうちに近づいてくるドラゴンへと手を振った。
 七枷陣は地上から、ドラゴンの勇姿を見上げる。
「ノーンさん、気合い入れて一番取れよー!」
 自分が応援している現在パビリオンの選手を見つけ、陣は声を張り上げて激励した。
「やっぱ、自分達の所属校担当の所を贔屓したくなるナー」
「そうだね。どちらかって言えば、優勝は現在パビリオンの方が良いけど……でも」
 リーズは屋根から落ちそうになるくらい、思いっきりドラゴンに乗る選手へと手を振る。
「どっちも頑張ってね〜♪」
 誰が勝つとしても、悔いの残らないように全力で。
 アパートの住人たちと一緒に、2人は空を行くドラゴンに向かって手を振り続けた。
 
 
「結和見て見てっ、あれがドラゴン?」
 こもれびの診療所の屋根では、エリーが目を丸くしていた。
「すごいねおおきいね! なんであんなおっきいのにぴゅんびゅん飛べんの?」
「ちゃんとつかまってないと、風圧で屋根から落ちてしまいますよー」
 答える高峰結和はしっかりと屋根にとりついて、ドラゴンが捲き上げるものに目を凝らした。ほとんどは小枝や木の葉程度のものだからただ見ているだけだけれど、時折飛んでくる大きな木片は素速く撃ち落とす。診療所とそこにいる患者に被害を出すわけにはいかない。
「……うー、結和のじゃまはしないよー。でも、選手さんにアリスの投げキッスで元気づけるのだけはいい?」
 エリーは飛んでゆく選手たちにアリスキッスを投げると、そのあとはきっちりと結和を手伝った。結和大好きっ子のエリーだから、結和には喜んでもらいたい。
 ある程度ドラゴンが行ってしまうと、結和は急いで屋根から下りた。
「ケガをしてるドラゴンもいるみたいですから、ゴールの治療所に向かいましょう」
「あ、結和待ってー」
 治療が必要な人のもとへ走る結和のあとを、エリーも慌てて追いかけていった。
 
 
 先頭集団が集合ツリーハウス『みどりの家』に差し掛かる。
「そろそろレースの目玉、アーチくぐりだー! 見所はなんといっても、アーチくぐりとその後すぐくる曲がり角! ドラゴンと選手たちの超絶テクニックっ。危ないから観覧に夢中になって近づきすぎないようにね」
 エクスが警告すると、地上ではセラフが大丈夫とそれを受ける。
「自警団の人が周辺の交通整理をしてくれているから、危険がありそうな場所には観客はいないわよん。みんな、みどりの家が観戦にぴったりの位置に設置したベンチで、応援してるわよー」
 ドラゴン通過まではポップな曲をショルダーキーボードで演奏していた早川あゆみは、今は応援用に『START!』を弾いている。それがちょうどサビの部分に差し掛かった時、ドラゴンもまたアーチへと差し掛かる。
 現在のトップはミルディアだ。
 アーチの小枝が当たりバキバキと音を立て、ミルディアはひやりとした。
「りゅ〜ちゃん、もうちょっと右だよっ」
 翼を小枝がかすめはしたけれど、りゅーちゃんは無事アーチをくぐり抜けた。
 その後をエミリーが危なげなく抜けてゆく。
「ななんななー!」
「ミケ、ちゃんと掴まってないと振り落としちゃうよ」
 るるは左重心の傾きのまま、斜めに空間をとってアーチを抜け、その後を未沙が追ってゆく。
「羽純くん、左側に枝が出てるからちょっと右を通ってね」
 歌菜は前方の状況を羽純に伝えると、応援してくれている人々に笑顔で手を振った。
「ドラゴネットはこういう時は有利だね。ああ、進路はコースの内側から外側に膨らむようにね。アーチの外側ぎりぎりを通過したら、今度は逆のラインを描いてカーブを越えてしまおう」
 天音は村人から得た情報とコースの詳細を登録した端末を確認し、ブルーズに伝えた。
「随分簡単に言ってくれる。1つ間違ったらアーチに激突だ」
「激突したいのかい?」
「誰がするか!」
「ならば問題はないだろう」
 事も無げな言葉に何か違うと反論したかったが、目の前に迫るアーチへの位置取りをしながら天音に口で勝てるはずはない。結局言葉を返せないまま、ブルーズは放物線を描くようにアーチを攻めた。
 ドラゴネットは他のドラゴンよりもサイズが小さい分、アーチをくぐる難易度は低い。とはいえ、その分厳しいコース取りをしようというのだから危険なのに代わりはない。
「フレー♪ フレー♪ 黒崎先輩&ブルーズちんー♪」
 ルビーの瞳と黒曜石の鱗を持つ立派な黒龍に変化しているブルーズに向かって、リンが両手を振り回して応援する。
 ブルーズはその声も届かぬほど一心にルートを見定め、無理な動きにきしむ身体に歯を食いしばって耐えている。
 天音の方は応援に気づくと、鞭を持った方の手を少しだけ挙げて応えた。
 派手な応援は苦手だから、関谷未憂はリンの隣で小さく手を振る。
「みんな頑張って下さいー」
 ドラゴンレースには未憂の知り合いもたくさん出ている。皆に勝って欲しいところだけれど、まさか全員優勝というわけにもいかない。兎に角みんなが悔いのないレースで思う存分飛べますようにとの願いをこめて応援する。
「大丈夫。怖くないよ」
 頭上近くを次々に飛び過ぎてゆくドラゴンの迫力に、怯えたように服を掴んでくるプリムに腕を回すと、未憂は首が痛くなるくらいレースの選手を眺め続けた。
 
「もう少しだよー、頑張れー!」
 アーチをくぐってゆくドラゴンを、モリーはぴょんぴょん跳ねて応援する。ドラゴンがぶつかりそうになると、思わず自分の首をすくめたり、身体を傾げて避ける仕草をしてみたりと、翼を振り回しての大騒ぎだ。
「おらおらーっ!」
 何をするのもまっしぐら。息巻くゲブーを乗せたホーは、パワーに任せてアーチへと進入した。
「おおっと、さすがパラ実、細かいことは気にしない走りを見せ……って危ない!」
 実況のディミーアが鋭く叫ぶ。
 ホーが突入したところには、丁度アーチをくぐろうとしていたレリウスの乗るフォレスト・ドラゴンがいた。
「ぐぬうぅぅ……」
 気づいたホーが吼え、衝突を避けようと身をのけぞらせる。
 身体をロールさせながら、レリウスのフォレスト・ドラゴンがアーチを蹴る。衝撃にしなったアーチの反動を利用して、そのまま加速してアーチを抜けた。
「うわ、ととと……」
 弾みでレリウスの後ろから投げ出されそうになったハイラルは、腕でしっかりとドラゴンにつかまり、レビテートで浮くことによって衝撃を逃がした。
 互いに触れられそうなほどの間しかない状態で、ゲブーとレリウスはアーチを抜ける。
 それまで息を詰めて見つめていた見物客から、一斉に吐かれた息がどよめきのように周囲に満ちた。
 
「ノルンちゃん、アーチ、アーチですよ〜!」
 次いでアーチにやってきた神代明日香が、慌ててノルンに知らせる。事前にコース確認をしていない為に、何を見ても大騒ぎで教えてくるので、ノルンは分かってますと答えた。
「アーチがあるのは知ってます」
「あのアーチ、半分壊れてますぅ。ノルンちゃん、危ないですよ〜!」
「だいじょうぶです。ちゃんと生き物の乗り方は頭に入ってます。明日香さんは振り落とされないようにしっかり掴まっていてください」
 ノルンは自信たっぷりに答えると、斜めに傾いでいるアーチへとドラゴンを進めた。
 明日香は言われた通り、しっかりと掴まる。
 ドラゴンにではなくノルンに。
「え?」
 思わぬ明日香の行動にノルンは目を見開いたが、そのままアーチへと突入する。くっついているから体重移動が分かりやすい。この体勢、間違っているようで多分あっている。
 お揃いデザインの色違いスカートがひらっと翻って、もしかしてこの恰好はまずかったかも……という考えが明日香の頭をよぎったが、ノルンは集中して傾いたアーチをくぐっていった。
「ほら、ちゃんと通れました」
「ってノルンちゃん、すぐカーブですよ〜、きゃ〜!」
 明日香の叫びにノルンは急いで顔を引き締めると、カーブに飛び込んでいくのだった。
 
 
 アーチくぐりと曲がり角を連続で終えた選手たちが次に通りかかるのは【846シアター】だ。
「せっかくやから、これを振ってもらえませんか?」
 日下部社は観客に虹色サイリウムを配ると、ステージ上のアイドルにGOサインを出した。
「レースも後半戦。疲れが溜まっているだろう参加者を力づけられるような元気いっぱいの歌を届けような♪」
 流れ出した曲にあわせ、獣人アイドルが踊り、歌う。
 アーチくぐりの為に施設上を通った選手は、道路に戻るため、ちょうどこのステージ上を通過するはずだ。
 飛んで跳ねて元気良く、アイドルの歌声が弾ける。
 それにあわせ、虹色の光を放つサイリウムが一斉に振られる。
 隣の施設【かものはし】から水を引いた噴水にサイリウムの光が映り込み、きらきらと虹色が散る。
「随分と粋な演出ですね」
 ドラゴンの手綱を引いてその上を越えながら、レリウスが感嘆する。さきほどのアーチでの危険と比べ、この景色はなんと心和ませてくれるものだろう。
「それだけ村もレースに盛り上がってるってことだろうな。レースが終わったら、どこか覗いてみるか……お、そうだレリウス。さっき醸造所があっただろう。レース終わったら酒買って帰っていいか?」
「俺に断ることでもないでしょう」
 ハイラルにそう答え、レリウスは逸るドラゴンに任せて少し手綱を緩めた。速く飛びたくて仕方のないドラゴンは、待ってましたとばかりに速度を上げる。
 酒を買うならば、出来ればそれが勝利の美酒となるように、と。
 
 846シアター、かものはし、と進んできたドラゴン達が次に飛ぶのは【賢狼の里】だ。
「みんな一緒に応援しましょう。頑張れー!」
 ソアは狼や客を促して、上空に意識を向けさせた。
 千切れんばかりに手を振れば、選手の中には声援に応えて手を振り返してくれる人もいた。
 上空からはこちらはどう見えるのだろうとケイはレースを見上げながら考える。昼間の狼は日陰を探してじっとしているけれど、夜間ならば、雄大な施設内を駆ける狼の姿が楽しめるだろうか。
 一度自分も空からこの施設を見てみたい。ドラゴンからの視界を想像しながら、ケイは施設の横を過ぎてゆくドラゴンたちに目を注ぐのだった。
 
 
 獣人相撲部屋、アパートメント『ノース』の建物の脇を過ぎてゆくと、ここからはもう曲がり角の連続だ。
 1区画を横切るのはドラゴンなら10秒もかからない。
 進んだかと思えば左折、進んだかと思えないうちに左折、とゴールまで厳しさは増すばかりのコースだ。
「ひゃっ……!」
 ここまでトップで来たミルディアが、不意に巻いた風に煽られて息を呑んだ。
 アサノファクトリー獣人の村出張所、祭り櫓と巨大建造物の並ぶ区域。風向きによっては上空の風は複雑に巻き、思わぬ方向から吹き付けてくる。
「ぶつかるであります!」
 ひやりとエミリーの背に冷たい汗が流れた。ぎりぎりのところで無理矢理方向を変えてなんとか衝突を免れはしたが、そこに次々と別のドラゴンが飛び込んでくる。
 さすがにまともに衝突する者こそいないが、レースの流れは乱れ、見物客からは不安そうなざわめきが漏れた。
「キャー、なんだか揺れてますぅ! いやー!」
 ぐらぐら揺れる氷龍シューティングスターの背で、アルは叫び続けている。もう降りたいとどれほど思っても、アルはしっかりと防寒具ごと固定されているので、ただひたすら葵の操縦するシューティングスターに運ばれていくことしか出来ない。
「あはは、平気平気。遊園地の乗り物とでも思っててよ。さ、どんどん行くよっ。シューティングスターちゃん!」
 村営製材所を過ぎてからスパートをかけている為、シューティングスターはかなり消耗してきているが、葵に応えようと懸命にはばたいた。
「ノルンちゃん、ぶつかりますぅ〜」
 これまでのようにアウトインアウトでコーナーを曲がろうとしていたところを煽られて、明日香はノルンの小さな背にぎゅっと顔を伏せた。
「……っ!」
 体重が軽く腕力もそれほど強くないノルンは、そんな明日香に答える余裕もなく、必死にドラゴンを立て直そうと唇を噛みしめる。全身の力をこめてノルンは、崩れたバランスを取り戻そうとわたわたともがいた。
 恐る恐る目を開けて明日香が窺えば、ノルンの真剣な表情が目に入る。
 こんな時なのに一生懸命に取り組むノルンの可愛さに、そのふっくら柔らかそうな頬をぷにっとつつきたい衝動が襲ってきて、明日香はぐっとこらえた。明日香にとってはバランスを取るよりも、こちらの我慢の方が辛い。
 そうして皆が風に翻弄されている時。
 黒崎天音は地面に着くほどに高度を下げ、風の巻く位置を巧妙に避けて走行していた。
「もう少し左側へ……そう、その位置をキープしてくれ」
 事前に獣人の罠師から村の風向きの情報を得ていた天音は、この場所で時折巻く風のことを知っていた。条件が整わねば起きない現象だが、前方の様子に風が巻いていることを察知し、素速くその風が届かぬ位置へとブルーズを導いたのだ。
 風による混乱に巻き込まれることなくその場を過ぎると、天音はゴールに向かって加速を始めた。
 
 
「レイズ、どうしたのー?」
 気分よくレイズを飛びしていたメリッサは、不意に落ちてきたスピードに気づいてレイズを撫でた。
「どうかしましたか?」
 メリッサの声を聞いたロザリンドが、携帯ごしに聞いてくる。
「あのね、レイズが疲れてきちゃったみたいー」
 空が気持ちよくて、つい飛ばしすぎてしまったかもしれないとメリッサが言うと、ロザリンドはちょっと考えてから答えた。
「もうすぐ祭り櫓ですから、そこで少し休みましょうか」
「そうするー」
 レイズは単なる乗り物ではなく生き物だ。無茶をさせないように祭り櫓に下りると、メリッサは龍の糧食を取り出して、食べる? とレイズに食べさせた。
「休憩が終わったラストスパートいきますよ」
「うん。レイズ、あとちょっとだから頑張ろうねー」
 もちろん順位が良いのは嬉しいけれど、レースは楽しんだもの勝ち。それは乗り手のメリッサだけでなく、レイズもそしてフォローしているロザリンドも楽しくレース出来れば、それが一番。
 レイズを休ませた後、メリッサは思い切りスピードを出して、空のレースを満喫するのだった。
 
 
 パートナーのヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)が建設の際、多少なりとも手伝った縁がある、というのでリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は【みーみーみみみー】でレース観戦をしていた。
 ドラゴンたちがやってくるまでの間、みーみーみみみーの施設を見て回り、ユーミーが定着している様子を確認したヴィゼントは、口元を緩めた。
「どうかしたの?」
「いえ、ユーミーのアイデアが提示された時、自分はそれを強く支持した経緯があるもので……」
 建設に関わった施設は、いつになっても特別の存在だ。こうして見ているだけで、あの時はああだった、こうだった、と懐かしく思い出される。
「あ、来たようね」
 頭上を飛ぶドラゴンに気づき、リカインは空を見上げた。
 こうして見ているだけで目が回りそうなスピードだ。レースをしている者にとっても尚更だろう。
 本当なら、パートナーのアレックスとサンドラを応援したいのは山々だけれど、蒼空歌劇団の歌姫としてはパートナーだけを応援するのは少々気が引ける。
「みんな頑張って!」
 だから状況が許す限り、リカインは皆に激励を投げかけた。けれどやはり、パートナーの姿を見かけると思わず手を握りしめ、応援にも力が入る。サンドラがちらとこちらを振り返ったように見えたが、それもすぐに小さくなっていった。